加藤の強さ
全軍を進むように命令した清水。
彼の作戦はこうだ。まずは右側を徹底的に叩く。砲で攻撃して陣地を破壊、その後、戦車で攻める。戦車には死角があるのでそれを随伴歩兵でカバー。ここだけ見ると、主力を右から攻めてさせているように感じるだろう。確かに、兵の量、戦闘車両でいえば間違ってはいないのだが、敵を右に惹きつけている間に左から攻めるという作戦だ。そして、戦車を全て右から攻めさせるのはたった一門の敵の対戦車砲の狙いを戦車にするためだ。もし、それが兵士を運ぶ装甲車に向けられれば、それは敗北を意味する。
また、戦車の側面を突かせないよう、中央から常に狙撃兵が戦場を見ている。
敵の榴弾が前進する歩兵を攻撃する。
「高橋!このままでは、兵が持たない。航空機から、マシンガンで敵の迫撃砲を討とう。」
「そうだな。にしても、敵の偵察機がどうも行ったり来たりしている。そこまでする必要があるのだろうか。無線で本部に知らせればいいものを。」
敵の航空機が飛び交う。あちらのこちらも機銃は装備していない。紙飛行機ぐらい脆いあの航空機を石でも投げて撃ち落としてしまいたいものだ。
「右の様子はどうだ?」高橋が問いかける。
「狙い通り対戦車砲は戦車を攻撃しているが、榴弾が装甲車付近で破裂して少し被害が出ている。」
「まだ左側は辿り着いていないのか?!」
「ああ、これまでの砲撃で地面の凹凸が激しく、キャタピラを持っていない装甲車ではタイヤがはまってしまって思うように動けない。」
「くそっ!」
ゲームの中ではそんなことはなかった。思い通りの時間に一定のスピードで兵がたどり着く。 今、左側の部隊は塹壕と塹壕の間の地点にいる。ここで降りて進軍しようものなら間違いなく機関銃に蜂の巣にされる。といっても敵の塹壕の前には木製のバリケードや有刺鉄線が張り巡らされているので、遅かれ早かれ徒歩にはなるのだが。
「できるだけ兵は温存したい。」
清水が珍しく自分から意見を出す。
「そうだな。結局は白兵戦になるからな。その時は数が命だ。敵から射線を遮る方法か…」
「それだ!いいか高橋。今は中心よりの左にまだ兵が潜んでいる可能性がある。 左は地面をほじくり返したから敵は隠れられない。なら、左と中心に発煙弾を打ち込め。
そうすれば、敵兵は戦車についている随伴歩兵が攻めてくるかもしれないと思い、射線を分散できる。」
「それだな、もし左側にだけ発煙弾を焚いても、大体の位置で射撃してくるからな。 よし、それで行こう。」
この作戦が功を奏したのか、なんとか、左右から敵の塹壕に入れた。だが、こちらの被害もなかなかに受けた。
「高橋!ここまでの被害だが、兵の死者が15名 戦闘不能が16名。 対戦車砲が2問、戦車が3台(全滅) 装甲車が2台、移動式の方が4問稼働不能。 白兵戦でも勝算はないことはないがより慎重に… 」
「おい!狙撃兵が全滅してる…」
清水が気づく。
「どうして…」
高橋も理解が追いつかない。
前線にいた敵の歩兵が自陣の後ろにいるのだ。それも15名。そんな人数がどうしてここにいるのか理解が追いつかない。このままではどこかが挟み撃ちにされてしまい。勝機を逃す。是が非でも食い止めなければならない。ただ歩兵は全て全線にいる。清水が対策を急いで練る。
「砲撃で食い止めるしかないが、散らばって行動されればそこまでだ。」
「だけど、やらなければやられるぞ。 いいか、やれるやれないじゃない。1%でもできそうならやるしかないんだ!」
高橋が奮い立たせる。その通りだ、砲撃次第で変わるかもしれない。
「今すぐ、迫撃砲で榴弾をプレゼントしてやれ。移動式の砲でもだ。そして、敵の援軍が来る前に左右で挟み撃ちにしろ!」
だが、あれもこれも全て加藤の考えた罠だったのである。加藤はあえて左右中央と広く兵を陣取っていたのだ。
この後、敵の発煙弾が敵塹壕の中心あたりに撒かれ、同士討ちの危険性から攻めれなくなった。どういうことかというと、発煙弾によって視界が遮られると、敵と判断する要素は、狭い塹壕の中では自分と違う方向から来たということくらいしか判断材料がなくなる。(軍服が泥などで汚れていることも重なる。
そうなると、敵軍が塹壕から撤退すると左右から攻める自軍同士で攻撃し合ってしまうのだ。
さらに攻められない間に砲などが全て占拠され、援軍が来ているという状況になる。
「ここまでか…」
高橋がいう。
「兵の命を守るためにも絶望的状況であれば降伏は一つの戦略だ。たとえ、趣味レーションだったとしてもな」
清水が後押しする。
こうして、第一回のシュミレーションは高橋たちの敗北となったのだ。




