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不憫すぎる多喜さんの異世界漂流記 ~呪われた最弱パーティが意外と強かった件~  作者: タキ マサト
第1章 出会いと絶望

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4話 多喜さんと勇者(本物に出会う)

 村人が連れてきた男は、逆光で輪郭しか見えなかった。

 神殿に入ってくる。

 日本人だ——山田多喜は直感した。

 その鋭い視線に射抜かれ、多喜は思わず息を呑んだ。

 男が着ているのは質素な黒のシャツとパンツだったが、鍛え抜かれた体のせいかオシャレにシックに着こなしていた。

——あのシャツとパンツ、「しまむら」で見たことがある。


 背後には薄汚れた村人が集まり、一縷の望みを託すような瞳で見つめていた。

——この人は……俺たちとは違う。


 男は中渕勇剛と名乗った。

「勇剛と呼んでくれ」

 それぞれ簡単に自己紹介をした後、そう言って手を挙げた。

 勇剛はコップの液体を見て一瞬固まったが躊躇なく飲み干した。

「助かった」

 勇剛はコップを置き神官に静かに頭を下げた。

 多喜もゆっくりと口をつけた。プロテインがこびりついた舌に土の味が広がる。思わず口を押さえた。バンダナはコップに吐き出していた。

 木椀のスープには、芋虫のかけらのようなものが浮かんでいた。

 勇剛は躊躇なく飲み干した。

 完璧なふるまいだった。

 マッチョも負けじと一気に飲み込む。多喜も続いて口をつけた。漢方のような苦味が口中に広がる。

——これが、村人たちの日常なのか。


 周りに集まった村人たちは、固唾を飲んで勇剛を見守っていた。

 救世主のような目で勇剛を見て、手を組み合わせている。


——この村人たちは、俺たちに何をさせたいんだ。


 村人たちも同じものを食べている。それぞれ木椀を持って、足取り重くぞろぞろと祭壇裏の扉の中に入っていく。

 若い神官は懸命に窮状を訴えるかのように、祭壇の上の四本ツノの頭骨を差し示した。 

 さらに祭壇の裏の壁にかけられているタペストリーを指差した。


 物語が織り込まれていた。四本のツノを持つ巨獣。黒いマントの老婆が何かを唱えている。足元には無残に倒れた人々。


 神官の指が震えている。その視線はタペストリーから勇剛へと、祈るように向けられた。松明の揺らめく灯りが、壁一面を覆うタペストリーに不気味な影を落とす。


 ごくりと喉が鳴る。

 昨日、荒野で見た白骨の四本ツノを思い出す。

——やはり、生きている奴がいる。

 多喜はバンダナを見た。

「……この老婆って、どっかで見たことがあるような……」

 バンダナが考え込みながらボソッと言った。


 その言葉で多喜の脳裏に夢で見た老婆が浮かんだ。

「ひーひっひっ……」

 両脇の痣が疼く。

「お前の負のチカラ……わしの糧じゃ」

 幻聴が脳内に響く。

 首を振りその老婆を思考から振り払おうとする。

 生きている四本ツノの方が脅威だった。


 続いて神官は神殿の裏手に一行を案内した。石でできた蔵のような建物だった。

 神官が木の扉を開けて、四人に入ってくるように促す。


 神官の持つ松明の灯りの中、剣や斧や槍など武器が石壁に立てかけられているのが見えた。手入れはされているようで錆びや汚れはない。


 バンダナはヒソヒソと多喜に言った。

「ここにいても、何もなさそうだし、逆にヤバそうな雰囲気もあるし、そろそろ出ませんか?」

 最後は小声だった。

——うん、それがいい。

 多喜が同意しかけた時、遮るように勇剛が言った。


「見たところ戦える人間は俺たちしかいないようだ」

 恐ろしいことをさらりと言う。

——戦うって誰が何に?


「武器はあった方が良い」

 勇剛は長剣を手に取る。構えがさまになっていた。


 マッチョにはごつい両刃の戦斧を、バンダナには鋭利な刃をもつ槍を渡す。

 多喜には少し考えた後、トゲトゲのついたメイスを手渡した。

「え?いや、俺こういうの使ったことないんですけど……」

 多喜が断ろうと口を開きかけたが、勇剛は「持て」と静かな声で言った。

 その視線に多喜は反論できなかった。

 多喜は唾を飲み込み、ずっしりとした重さのメイスを受け取った。

——これで何をしろと?


「バーベルに比べたらまだ軽い方だな」

 マッチョは肩にダブルアックスを担いでポージングしている。

「槍なんて初めて持ちます」

 バンダナも槍を構え振り下ろし突きを入れては首を振っていた。

 勇剛は長剣を構え素振りをした。首を傾げ剣先に神経を集中させて刃の角度を確かめる。 


 自分の重いメイスを見る。

 グリップの感触が中学時代の野球部を思い出させた。

 素振りをしてみる。

ブンッ! これでも中学時代はキャッチャーで五番を張っていた。

ビュン! あの頃の感触が徐々に蘇る。

 空気を切り裂く音が石壁に反響した。

 しかし同時にメイスを振るう感触が中学時代の嫌な思い出も蘇らせた。


 あれは、最後の大会の初戦だった。試合前日、母親がパチスロで取ってきた景品のお菓子と家から持ってきたお菓子。消費期限が切れていることに気づかず部員みんなで食べてしまった。試合当日、全員が腹を下した。

 ろくにバットは振れずボールもキャッチできず大会史に残る大敗を喫した。部員はみんな泣いていた。

 それ以来バットは握っていなかった。 


 多喜は過去を断ち切るようにメイスを振った。

「すげえ、様になってますよ!」

 目を丸くするバンダナ。

「ほう」

 勇剛は目を細めた。

 バンダナはふと気づき勇剛に尋ねる。

「警察の方ですか?」

「昔の話だ。今は農業をしている。居合道と剣道も教えているが」

「居合道に剣道も! しかも農業もやってるって、最強じゃないっすか!」

 勇剛はわずかに笑った。

「作物を育てるのも剣を振るのも、根気と集中力だ」

 勇剛は静かに言い、三人を見回した。


「自分の身を守れ。戦いは俺に任せろ」

 三人に緊張が走る。

「気がづいたか? この周辺での戦いの跡。巨大な肉食獣の爪痕、足跡、血痕……間違いない。あの四本ツノだ」

 三人は全く気づいていなかった。


 四本ツノの白骨を荒野で見たことをバンダナが勇剛に伝える。

「おそらく全ての生き物がここでは飢えている」

 村の惨状から予測する勇剛。

「その白骨も餓死したのかもしれない。つまり四本ツノも必死だ。ここから逃げても追われるだけだ」

 バンダナと多喜の目を見てそう付け加えた。

 それを聞き下を向くバンダナ。

「でも、俺たち役に立てるんですか?」

 多喜が声を上げた。

 勇剛は少し考えた。


「分からない」

 正直な答えに多喜は逆に安心した。

「だが俺一人ではたぶん限界がある。指示に従ってほしい」

 勇剛は剣を構えた。

「お前たちの力が必要になると思う」

 安心させるように勇剛は話す。

「まあ、この剣で何とかするさ」

 その時バンダナが口を開いた。

「四本ツノって夜に襲ってくるってことは夜行性ですよね。だったら松明が有効かも」

 壁にかかる神官が火を移した松明に目をやる勇剛。

「火を怖がるか……?」

 考える勇剛。

「槍と二つ、持てるか?」

「俺が持つ!」

 バンダナが答えるより先に多喜が口を開いた。

 メイスは片手でも振れる。自分にできることをやりたかった。

「よし。まかせた」

 勇剛が小さく頷いた。


「誰かを助けようなんて思わなくていい。絶対に生き残れ」

 そう言った時、神殿の方から獣の咆哮とそれに続いて悲鳴が上がった。

「おそらく毎晩襲ってくる。戦える者はもう誰も残っていない。四本ツノも必死だ」

 そう言う勇剛の顔に汗が浮かんだ。

 若い神官が勇剛たちのところに来た。顔には恐怖の色が濃い。震える手で両指を組み合わせ勇剛に救いの目を向ける。


「来たな」

 勇剛は言う。


「ここにいても奴は必ずくる、生きたければ、ついて来い!」

 獣の咆哮が夜の神殿を震わせた。

 松明の灯りに勇剛の長剣が光った。


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