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不憫すぎる多喜さんの異世界漂流記 ~呪われた最弱パーティが意外と強かった件~  作者: タキ マサト
 第2章 老婆の呪いと祠の謎

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13話 マッチョと旅立ちの予感(肉、また肉、そして肉の巻)

 次の日も雨になった。

 降り続く雨は今まで降らなかった分を取り戻すように大地に滋養を与えた。

 蔵の二階の窓辺に腰掛けた田中多喜彦は、降り続く雨を見ていた。


 今朝もトレーニングと畑の手伝いをしようと早朝に起きた。

 時折激しく降る雨は畑仕事も休みだと思われた。


 代わりに一階の武器庫で重そうな武器を探した。

 ブーメランパンツ一丁で二つの戦斧をダンベル代わりにトレーニングを行う。

 深い集中に入る。 

 トレーニングの時だけは常にもたげる不安や恐怖心を忘れられるのだ。


 トレーニング後は外に出て、雨に打たれて汗を流した。

 爽やかな朝だった。


 雨は一日中降り続きそうだった。

 大人しく二階に戻る多喜彦。


 二階に戻った時、マスターとバンダナは起きていた。


「肉、さすがに飽きたんだけど。エドさんの知識で何か食べられるもの探せない?」

 コーラ飲みてぇ、と肉を頬張るマスター。

「……芋虫だったら腐った木の中にいるんじゃないっすか?」

 雑に返すバンダナ。

「初日の芋虫スープ! あんなん食えるかッ!」

 マスターはバンダナの腕を取ると、すかさず腕ひしぎ十字固めを極めた。

「ギブギブッ」

 バンダナが床を叩く。

「呪われてない四本ツノだったら、強くないんじゃない? 狩りに行こうぜ」

 マスターは、腕を極めたまま多喜彦に話しかけた。


 その時、ドアを開けてぺぺちゃんが入ってきた。

 顔が明るくなるバンダナ。技を慌てて解くマスター。


 髪と肩が雨で濡れていた。

 ぺぺちゃんはローブの中から分厚い神官の本を出して、バンダナに見せる。


 もっと早く見せたかったのだろう。ページをめくるぺぺちゃんの手は焦っているようだった。最後の方のページを開くとそこにはこの世界の地図が描かれていた。

 神殿の絵がいくつか記されている。


 自分たちの現在地を示すようにぺぺちゃんはそのうちの一つを指差す。

 横には川が記されている。一番近い神殿は川の上流、山脈の麓にあった。


 マスターと多喜彦も地図を覗く。

 バンダナが地図に指を置き、川を山脈の反対側になぞる。


 三人が出会った場所は荒地を示していた。

 異変の前から荒地だったのだろう。

 そこからはこの村が一番近く、山脈方面を除いた他の方向は荒地と砂漠のような印が続いていた。


 もし逆方向に進んでいたら確実に餓死していたと三人は背筋が寒くなった。


 ぺぺちゃんは一番近い山の神殿に指を置くと、ページをめくり老婆が映っている鏡の絵を見せた。


「他にも呪われた鏡があると言うこと?」

 三人は顔を見合わせる。


——他にも鏡がある。


 帰還が現実味を帯びてきた。

「ほら、きっと呪われた四本ツノいますよ、マスターさん」

 バンダナが言う。

「その肉を食べたら、きっとまた力が出ますよ」

 バンダナはすぐにでも行きたそうだった。

 ぺぺちゃんと視線が交差した。目が合うと力強く頷いた。


「ちょっと待ってー」

 頭を振るマスター。

「マッチョさんはどう思います?」

 バンダナが聞く。

「村の復興の手伝いができるかと、考えてたんだよね」

 力こぶを見せる。

「勇剛だったら農業の指導ができそうなもんだったけどなあ」

 と続けた。


 多喜彦は、バンダナとぺぺちゃんを見た。


 昨日は、ぺぺちゃんと村人で井戸から汲み上げた水の濾過器を作っていたと聞いた。

 大きな素焼きの壺に穴を開け、砂や炭で濾過をし布で蓋をしたシンプルな装置だった。


 しかし、この調子で雨が降り続けば井戸も自然浄化される。

 水があれば、農業に必要な生態系も戻る。

 水路も復旧した。あとは時間だけが解決策だと思う。

 そのようにバンダナは多喜彦に伝えていた。


 マスターはほじった耳垢を眺めていた。


「呪いを解くほうがこの世界の人たちのためになるか」

 多喜彦は答えた。たとえ村を復興したとしても、ここに住むことはない。

「今なら自分は帰れる自信があるっす」

——それはぺぺちゃんとの別れを意味する。多喜彦はそう理解しバンダナを見た。

 

「全員で一気に帰れれば良いけど、そうはならないだろうな……」

 多喜彦は言い、マスターを見る。帰還のために必要な精神状態、そのバンダナの考察を多喜彦は思い出していた。

「勇剛の時みたいに鏡が割れたら一人しか帰れない……」

 と続けた。

「そうでしょうね。あれは物理的に割れたものではないです。鏡が復旧しても鏡の住人の誰が、次に出てくるかはわからないです」

 バンダナが必ず帰れるわけではないと付け加えた。


「それはそれとして……」


 次の機会、鏡を誰が最初に見るか。

 そして、最後は誰が残るのか?


 それは考えておかなければならないシリアスな問題だった。


「俺は帰れないだろうな……」

 淋しげな顔をするマスター。

「自覚あるのはいいっすけど、ネガティブだと呪われるっすよ」

 バンダナは心配して言った。

「いいよいいよ、どうせ俺なんか……」

 マスターは、さらにうなだれた。


「マスターだってきっと帰れる! 体も引き締まってきたしさっ! 今日から一緒にトレーニングしようっ! 健全な魂は健全な肉体からっ!」

 力コブを作り明るく振る舞う多喜彦。


 事実このところの強制的な糖質制限はマスターの体に大きな変化を与えていた。しかし糖質の取れない影響は、メンタル面に多大なダメージを及ぼしていると多喜彦は心配した。


「いいよ二人は帰りなよ、俺なんか大学中退のニートだよ……」

 マスターはさらにいじけた。

「二人はいいよな……大学院に行ける頭とマッチョになれる体を持ってるんだからさ、俺から見れば充分チートだよ……」

 その言葉は、二人が抱えていた不安の種を掘り起こす。

 多喜彦とバンダナは視線を交わして、ため息をついた。


 変な雲行きになったのを心配そうに見ているぺぺちゃんは、気を取り直しページをめくる。まだ見せたいものがあったのだ。


「バンダナァ、マッチョォ、マスタァ」

 三人を呼ぶぺぺちゃん。

 山脈の麓の神殿を指差し、挟んであったページを開く。

 そこには、三人家族の絵が描かれていた。

 父と母を指差し地図の神殿を示し、娘に当たる女の子には自分に指を向けた。

 ぺぺちゃんは潤んだ目を三人に向けた。

「両親がそこにいるということ?」

 バンダナがぺぺちゃんの目を見て言った。


 ぺぺちゃんは少し困った顔をして、別のページをめくる。


 そこには翼を広げたニワトリの頭と獅子のような胴体を持つ怪物が描かれていた。


 比較対象として横に描いてある人の絵はそのライオンの足の半分に満たなかった。

 四本ツノよりかなり強そうであった。


「こんなのがいるの!?」

 驚きを隠せないバンダナ。

「マジか! もー帰りたーい」

 マスターがひっくり返る。

 情緒は不安定であった。 


 その時、若い神官が息を切らして部屋に駆け込んできた。

 ぺぺちゃんと何か深刻な会話をしているようだった。


 ぺぺちゃんの顔が曇る。


 二人は三人を見た。そしてついてくるように手招きをする。


 神官の慌てた表情に不安が募る。何か新たな脅威が迫っているのか——?


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