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風を喰らう者  作者: 770
1/56

プロローグ──あの日の風

(^^)/

風の音は、あの夜だけ違っていた。


 静かな山間の村に突然降り注いだのは、赤く染まった空と、肉の焼ける匂い。──そして、悪魔の咆哮だった。


 幼いカイは、燃え上がる村の中を走っていた。家々が焼け、村人たちの叫び声が風に溶ける。母の手を引かれていたが、突如、黒い腕が襲いかかる。


「カイを連れて逃げて!」


 父が剣を構え、巨大な悪魔に向かっていく。だが、それはまるで意味をなさなかった。圧倒的な力で父が切り裂かれ、母もまた、カイをかばって斃れた。


「母さん……父さん……!」


 恐怖で足がすくみ、涙で視界が揺れるカイの横に、別の影が現れた。銀髪の少女──エリシア。彼女もまた、血塗れの服で立っていた。


「一緒に逃げよう、カイ……っ!」


 二人の手を取ったのは、村の長老だった。老いた手から放たれた術式が、二人をまばゆい光に包み、村の外れの洞窟へと瞬間移動させた。


 こうして、二人は地獄の夜を生き延びた。


 だが、村は──燃え尽きた。

(^^)/

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