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プロローグ──あの日の風
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風の音は、あの夜だけ違っていた。
静かな山間の村に突然降り注いだのは、赤く染まった空と、肉の焼ける匂い。──そして、悪魔の咆哮だった。
幼いカイは、燃え上がる村の中を走っていた。家々が焼け、村人たちの叫び声が風に溶ける。母の手を引かれていたが、突如、黒い腕が襲いかかる。
「カイを連れて逃げて!」
父が剣を構え、巨大な悪魔に向かっていく。だが、それはまるで意味をなさなかった。圧倒的な力で父が切り裂かれ、母もまた、カイをかばって斃れた。
「母さん……父さん……!」
恐怖で足がすくみ、涙で視界が揺れるカイの横に、別の影が現れた。銀髪の少女──エリシア。彼女もまた、血塗れの服で立っていた。
「一緒に逃げよう、カイ……っ!」
二人の手を取ったのは、村の長老だった。老いた手から放たれた術式が、二人をまばゆい光に包み、村の外れの洞窟へと瞬間移動させた。
こうして、二人は地獄の夜を生き延びた。
だが、村は──燃え尽きた。
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