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【08】プラム

 今、私がいるのはケイロン王国の在外公館の客室。

 ここでお湯を貰って身を清め、いろいろなものを借りて身支度を進めている。


「――あの子がごめんなさいね。時折、変な方向に優しさを発揮するのよ」

「い、いいえ。私こそ急にお世話になってしまい……」

「私から叱っておいたけど……貴女もちゃんと、ひっぱたいておきなさいね」


 鏡に向かい、唇の端を歪ませてぎこちなく笑う私の視線の端で、壮年の女性がおっとりと笑いながら過激なことを言う。

 思うことはあるものの、暴力は流石に気が引けるので、私はそのまま曖昧に笑うだけにした。

 

 レイヴンが共寝をしていたのは、私が寝かされたときに彼の腕を抱え込み、そのまま離さなかったから……らしい。

 

 そういう事情なら私も申し訳ないと思うのだが、それはそれとして、無理にでも私から腕を引き剥がしてほしかった。

 確かに私を眠らせたのはレイヴンなので、無理に剥がすことによって私に傷をつける可能性に躊躇したと言われれば、理解できる。


 正直、その優しさはいらなかったが。


 ちなみに、私がいま会話している相手は、ジャネット様というお方だ。

 

 レイヴンではない別の「ジャック」という名の上級外交官を夫に持ち、本人も上級外交官の資格を有している女性。

 同僚になるレイヴンとは付き合いが長く、ジャネット様にとっての彼は、息子のような弟のような……そういう存在なのだという。


 私の身支度は、そんなジャネット様のドレスと侍女を借りている。

 メリハリを出すために体を締めつける帝国の流行デザインではなく、ケイロン王国の伝統デザインのドレスはゆったりとしているものだった。

 体格が違う私とジャネット様だが、おかげで無理なく着用できて助かった。

 

 夜会帰りのジャネット様に、就寝前の時間を使わせてしまっている状態である。

 私としては侍女だけをお借りしたかったのだが、責任感の強いジャネット様は私の話相手になってくれている。

 そのせいで睡眠時間を削らせることになり、申し訳ない限りだ。


「あの、レイヴンさんはいつもああなのですか? あ、ああやって人をつ、連れ込んで……」

 

 しかし、せっかくなのでレイヴンについて情報を集めてみようかと、私から話題を振る。

 これからまた、今後の話をするためにレイヴンと相対することが決まっているからだ。


 敵の情報は、多ければ多いほど良いはず。


「ん~、流石に女の子を連れ込んでたのは初めてだけど………………えっ、あの子、貴女にその名をもう教えたの?」

「えぇっ? はい……ケイロンに『ジャック』はたくさんいるから、『レイヴン』と呼んで欲しい、と」

「あらぁ、そうなの~……」


 弱みになるかもしれないと思って振った話題が思いがけない方向に転がれば、ジャネット様は意味深に笑うと同時に困ったように眉を下げる。


 ジャネット様の器用な反応の意味がよくわからないが、何故か理由を尋ねるのもはばかられる雰囲気になってしまった。

 私の背後で髪を整えている侍女は、こんな空気を気にすることなく手を動かしている。


 視界の端で何かを逡巡するジャネット様を気にしつつ、何も訊けない私は落ち着かなくとも身支度を続けるしかない。

 そうして少し経った頃、彼女は結論を出したようで、軽く手を叩いてから口を開いた。


「ねぇ、ジャスティーナ様。実はわたしのこともプラムって呼んで欲しいのよ。よろしくね」


 ジャネット様は、熟れたプラムのような色の瞳を輝かせて笑う。

 私はまだ状況を理解できていないのに、何かに巻き込まれることが今ここで確定した。そんな予感がしてならない。


「は、はい。わかりました……プラム様……」

 

 有無を言わせぬ笑顔の圧に押し切られ、私はジャネット様をプラム様と呼ぶことになった。

 

 ちなみに、プラム様の夫であるジャック様も持っていそうな別のお名前については、教えてもらえなかった。

 楽しそうに目を細めて笑うプラム様曰く、レイヴンが嫉妬するから彼に尋ねるのも禁止らしい。


 当人と対面した際のお楽しみでもあるらしいが、レイヴンの嫉妬とは一体何なのだろうか。

 そもそも、彼らにとって別の名前とはどういう意味を持つのだろうか。


 私には、彼らについて知らなければならないことがまだ沢山ありそうだ。

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