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【03】油断

 ルフィカさんはすぐに見つかった。

 なにせ、その集団は非常に目立っていたのである。


 複数の男子生徒と同じテーブルについている姿に溜息を飲み込めば、私のものではない大きな溜息が背後から聞こえてきた。


「あっ……申し訳ございません……」

「…………いいのよ、状況を理解しているから。これ以上は周囲に気づかれないようにね」


 ルフィカさんと共にテーブルを囲んでいる男子生徒らの中には、伯爵令嬢の婚約者がいたのだ。

 私たちに会話は聞こえてこない距離だが、ずいぶんと和気あいあいとした雰囲気なのは伝わってくる。

 食事そっちのけでおしゃべりに没頭するという行儀の悪さが気になるが、今はそこを問題にすべきではない。

 

 ついでに言うのなら、わざわざ椅子を移動させたのか、ルフィカさんと両隣の男子生徒の着座距離があまりにも近い。

 私が自らの婚約者に同じことをすれば、「淑女のすることではない」と叱られてしまうだろう。婚約者当人がどう思うかは、わからないが。


 学園で特別な関係でない複数の男女が同じテーブルを囲むのは、帝国貴族の常識を鑑みても特におかしなことではない。

 ただ、そこで想定されているのは、男女がほぼ同数である場合だ。

 視界の端で繰り広げられているような、男子生徒がひとりの女生徒を囲む異様な光景ではない。


 これ以上の下手な様子見は風紀を乱すだけだと私は判断し、教師に追加で相談したあと、私の婚約者で皇太子のレグルス殿下にも報告することにした。

 

 私が女生徒を取りまとめるように、レグルス殿下は男子生徒を取りまとめている。

 学園の男子生徒が、不適切な接触をしかねない距離を女生徒に許しているなんておかしなことを、レグルス殿下は許さないはずだ。


 そうして、あのテーブルにいた男子生徒たちには上から注意がなされ、ルフィカさんには平民に必要とされる作法全般の再教育が施されることになった。

 食事の作法についても改めて確認が必要だと申し添えたので、彼女もきっと正しく食事ができるようになるだろう。


 それからのルフィカさんはすっかりと大人しくなり、真面目に授業を受け、丁寧に食事をし、同性の友人もできていた。

 

 念の為、私は彼女をひと月ほど注視していたのだが、正しい学生生活を満喫しているようだったので優先して気にかけることは止めた。


 これで学園は正しい状況に戻った。

 私は安堵し――不覚にも大いに油断をしてしまったのだ。


 どこかおかしい思い始めたのは、ルフィカさんが編入してから数ヶ月が経った頃。

 

 この学園は、社交シーズンに合わせた三月から八月の約半年が、主だった授業期間である。

 つまり、在校生の終業式を兼ねたサマーパーティーが、予定として間近に見えてきたあたりのことだ。

 

 ここ数週間、レグルス殿下から昼食に誘われなくなったし、私の誘いも断られるようになった。

 これは、サマーパーティーの開催が近づいていることから、それぞれの担当箇所の違いによるものだと思っていた。

 

 サマーパーティーは最初こそ学園長の訓示などがあるが、原則として生徒による生徒のための催しである。

 食べたい者は食べ、飲みたい者は飲み、踊りたい者は踊る。そんなふうに緩い、学生らしいパーティーだ。


 主に高位貴族の女生徒が中心となって差配するため、学園の女生徒で一番の高位者である私はしばらく忙しかった。

 

 会場装飾・飲食・音楽その他……各部の仕上げに向けての進捗確認やらなんやらで、昼休みや放課後が埋まりがちだったのだ。

 学内の催しであるため、神経を一番使う招待客対応や席次問題がないのは助かるが、全体のために調整が必要となる細々した案件は多い。


 その間に、一部の生徒――男子生徒が多いが、女子生徒もいた――から向けられる視線が変化したことには気がついていた。

 それでも、多少の負の感情を向けられることには慣れていたのもあって、忙しさを理由にちょっとした違和感から目を背けた。


 ――そして、私はそのままサマーパーティー当日を迎えてしまったのだ。

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