【02】特待生
時は戻り、四年制の帝立魔法学園において、私が三学年になったころ。
属国の王侯貴族も含めた多数の高貴な子女が通う帝立魔法学園で勉学に励み、派閥の女生徒の取りまとめをし、派閥外でもトラブルがないようにできる限り気を配っていた。
今までは、それでなんの問題もなかったのだ――とある平民の女生徒が、特待生として入学してくるまでは。
特待生とは、高い魔力を有する平民のための制度である。
平民向けの十把一絡の教育では活かせぬ能力を、最大限で国の役に立つよう育てること。
末は国家魔法士か最高位の治療士か。
彼女は多方面への優れた魔法適正を見いだされ、学園へと招かれた……はずだった。
名をルフィカと言う彼女は入学するなり、高位貴族の男子生徒に次々と直に声をかけだした。
聞いた話では、「女生徒に虐められている」「友達ができない」「ひとりぼっちで寂しい」ということをあちこちで言い回っていたらしい。
ルフィカさんがそんな言動をはじめたのは入学翌日の昼休み。
虐めもなにも、虐めの発生するような関係性が築かれる前ではなかろうか。それが友人関係とて、そうだろう。
特待生とはいえ、ルフィカさんはたかが平民の一生徒。
この学園の大半の生徒はそんな暇ではなく、虐めだとかそんなことをするメリットはどこにもないのだ。
彼女が対貴族の作法教育を受けはじめたのは一年前からで、まだ身についていないことも多いだろう。だからせいぜいが、常識から外れた言動を少々強めにたしなめられたとかその程度だと、その時の私は思っていた。
声をかけられていた男子生徒たちもそう思っていたようで、その時のルフィカさんは軽くあしらわれていたと聞いている。
私も、彼女がそういう状況であるとだけ留意することにした。
同じ平民の世話役がついているし、しばらくすれば彼女も学園に慣れるはずだと思ったのだ。
一週間後、同派閥の伯爵家の令嬢が、男爵家の令嬢とルフィカさんとは別の平民の女生徒を伴い私を訪ねてきた。
「お、お目もじが叶いまして恐悦至極にございます。わた、わたしは学園よりルフィカさんの世話役を仰せつかった者でありまして……あ、あの、む、無理です……わたしにはあの娘を制御できません……全く話を聞いてくれなくて……!」
「まぁ……そうなの。貴女、がんばったのね。そういうことなら、私が手を回してみるわ」
疲労と緊張とその他諸々で今にも崩れ落ちそうな世話役の女生徒を、彼女の少し後ろに控えていた男爵令嬢がはらはらと見守っている。仲の良い間柄なのだろう。
日々の精神疲労が蓄積されていく世話役を見かね、男爵令嬢もルフィカさんのために気を配っていたのだが、カーテンに腕押し、ポタージュにフォーク。なんの効果も見いだせないらしい。
今にもトラブルが起きそうな気配もあるしで、教師を頼る前に私の方へ相談に来たということだった。
男爵家とはいえれっきとした貴族令嬢が窘めてもルフィカさんに効果がないのなら、より上位の家の者か教師側からの働きかけが必要という判断は妥当だ。
とはいえ、私がルフィカさんに直接声をかけるのは正しくないことである。
平民であるルフィカさんに私がいきなり注意をするのは、私にとっても彼女にとっても外聞が良くない。
ついでに、高確率で無駄に萎縮をさせてしまうだろう。
そのため、最終手段として有効だが、まだその段階ではないと思ったのだ。
あとから思い返せば、高位貴族の男子生徒に直接声をかけられる胆力がある彼女には、要らぬ心配だったのだろうが。
とはいえ、学園が決めた世話役を私が勝手に解任するわけにもいかない。
とりあえずは、女生徒と同じクラスだという男爵家の令嬢に、私公認で世話役の補佐を任せることにした。
それと並行して、私は教師にルフィカさんと世話役の現状を相談し、一応集めていた情報の精査を開始する。
ちなみに、私は普段、皇家か公爵家の専用個室で昼食をとっている。
だから気分転換を装って、同派閥の伯爵令嬢や他数人を誘い、昼休みのカフェテリアに足を向けた。