表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

【13】私の正しさ

 昨夜、私が馬車からこっそりと逃げ出した後に、ならず者が襲撃してきたらしい。

 そもそも、あの場で馬車を止めさせられたこと自体が、その襲撃者の仕業だったのだという。


「じ、侍女と御者は……!?」


 今更。今更なのだが――私は、彼らのことを軽く考えてしまっていたことにようやく気がついた。


 昨夜、護衛は諸事情で一度戻り、サマーパーティーの終わりに合わせて違う者が学園に来る予定だった。

 あの騒動によって、かなり早めに切り上げた私は、護衛の到着を待たずに移動してしまっていたのだ。


 急いでいたし、夜とはいえまだ賑やかな時間で、大きな通りであれば警邏の巡回も頻繁だったから。

 そんな状態で、私は彼らを置いて逃げたのだ。ああ、なんて愚かなのか。


 冷や汗が背中を伝い、急速に体が冷えていく。


 私は自分のことばかりだった。仕えてくれている者のことを蔑ろにしてしまっていたのだ。

 どんな言い訳があったとしても、それが正しいなんて微塵も思えない。

 

 必要があれば、私は自らが助かるために、彼らを見捨てる道を選ばねばならないこともある。それは理解している。

 けれど、少なくとも今回はそうではない。それ以前の話なのだ。


 すべてを決断して責を負うべき私が、あの場から逃げていた。


「大丈夫。すぐに警邏が襲撃者の対応をしたため、御者も侍女も軽症らしいですから。お帰りになった際、顔を見せればきっと喜びますよ」


 血の気が引いている感覚があり、私の顔色はだいぶ悪いだろう。

 それに気がついているのであろうレイヴンは、ことさらに落ち着いた声で私を宥めた。

 

 私を誘拐するために馬車を襲撃してきたならず者が、いざ中を見たらもぬけの殻。

 ターゲットが不在という予想外の事態に動揺した彼らが周辺を捜索しはじめたあたりで、警邏が到着。

 散り散りに逃げようとしたならず者たちは、そのまま現行犯で捕縛された。


 そういった状況だったため、私があのまま馬車に居たら、引きずり出されて怪我をした上にそのまま連れ去られて今も行方知れずだったかもしれない。

 

 しかし、私が精神的な疲労による衝動で逃げ出した結果、怪我なく身柄も保護されている。

 結果論でしかないが、考えうる最悪はすっかり免れたのだと、レイヴンは続けた。


「……だから、貴女が自らの意思で馬車から出たことは誰にも言わないように。襲撃してきた者たちとは別件で連れ去られたことにするのが一番きれいに収まるんです」


 私の保護時刻については、バイヤー女性の殺害事件の調査に関連しているため、実際のものが既に記録されているらしい。私の不在が発覚した時刻も同様である。

 そのため、複数の第三者による記録によって、私が行方不明になっていた時間がごく短時間であると明確になっている。

 よって、私のダメージは最小限で済むだろう……というのは、レイヴンの予想だ。

 

 考えてみると、誰にとっても傷が最小限で済むというのは、確かに正しいと言っても良いかもしれない。

 しかし、己の失態を覆い隠すその欺瞞は、果たして正しいと言えるのだろうか。


 対象をどういう面で見るかによって、正しさは変わる。

 それについて、私は昨夜からずっと考えている。


 私は、何を正しいと思うべきなのか。


「…………レイヴン様、私は悪役令嬢なんですって」

「えっ、あくやく……れいじょう………………って何?」

「今流行りの恋物語で、主人公の恋路を邪魔する役割を持った女性のことです。レグルス殿下やルフィカさんにとって私は悪だったの」

「ああ、うん。なるほど……?」


 私が唐突に出した関係のない話に困惑しながらも、レイヴンは相槌を打つ。

 考えをまとめるためつい口にしてしまったが、話しやすくて助かる。


 私はレグルス殿下のことを、もう少し気にかけるべきだった。

 傲慢な目線かもしれないが、そうすれば殿下がルフィカさんに傾倒することを防げたかもしれない。


 侍女と御者の立場も忘れてはいけなかった。

 逃げずに留まっていれば誘拐の危機だったといえど、私はそれに立ち向かわねばならなかったのだ。

 何らかの手段で時間を稼ぎ、警邏の到着を待つべきだった。

 

 思い返せば、私は自分のことばかりを考えていたと思う。

 地位ある人間のそれは悪である。


 ――確かに、私は悪だったのだ。


「しかし! それはそれ、これはこれ。たとえ相手が殿下だろうが、濡れ衣を着せられてもなお相手に粛々と従うなんて正しくない。少なくとも、私が望む正しさではないわ!」


 だから、私はレグルス殿下を拒絶する。

 

 いや、違う。


 私()、レグルス殿下を拒絶するのだ。


「私の一存では決断が難しいため、婚姻の是非は別の問題になりますが……私は己の意思で、可能な部分は貴方がたに協力したいと思います。けれど、私は誰かの正しさではなく、私の正しさを大事にしたい。――貴方がたは、私に何を望むのですか?」


 勢いづいて崩れた姿勢を正し、私はレイヴンと向き合う。

 私が空気を変えたため、彼もまた姿勢を正した。

 

「――ありがとうございます、ジャスティーナ様。まずは、皇太子殿下への薬物検査を提言してほしいのです。私達が手順を守って上申するよりも、おそらく貴女からのほうがすぐに通る」

「そんな、薬物が……!?」

「あくまで疑いの段階ですが……此度の皇太子殿下の言動には、件の麻薬が関わっているのではないかと私どもは睨んでいます」


 ――私が見て見ぬふりをしていたものの裏には、恐ろしい事態が隠れていたのかもしれない。

ストックがすっかり切れました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ