83:勝つのは一人
はてさて! 最強形態“アユティアラ”ちゃんになったこの私を! 目に焼き付けるといい! どうせ原作でも主人公に殺されて終わるんだ! 何年も早いけど3000年も生きてたらあんまり変わらんでしょ? でも人にとっては数年でも結構な時間だ! と言うことで年貢の納め時! 全額きっちり払ってもらうからね!
(そうだそうだー!)
(……プ)
え? うるさいって? は? タイタン、お前アユティナ様のお声煩いって言ったんか? ぶっ殺すぞ。……え? 私の声が煩いって言ったの? なら許す。
……さて、戦況はアユティナ様のおかげで大きくこちらに傾いた。
私を覆う檻だったこの大きな膜はアユティナ様が手を加えたことにより、その機能の大半を失っている。残っている機能は『どちらかが死ぬまで誰も外に出さない』というものだけ。つまりさっきの様な内外から攻撃を喰らう可能性が減ったわけだ。眼前のクソ女神からすれば一枚手札が無くなったことになるだろう。
それに対し、こちら側は何枚か新しい手札を手にしている。アユティナ様が私に宿って下さっているおかげで神秘の出力及び総量は大幅アップ、燃費の心配をする必要はなくなった。それに神のメイン兵装らしき『神殺し』っていうどでかい斧までお貸しいただいている。私はあんまり斧を触ったことがなかったんだけど、細かいサポートはアユティナ様がやって下さるみたいだし……。
(これで負けたら、末代までの恥ってやつよ!)
そう思いながら、王国の女神であるミサガナの顔を見下ろす。
自分が追い込まれているのを理解しているのだろう、その顔色は酷く悪い。けれど戦うことを諦めた者の眼ではない。あははッ! そう来なくっちゃ! 明らかに戦闘慣れしてないタイプの様だけど、無抵抗な奴を殺すほど面白くないものはないからね!
さぁ来いよ! お前の全力を真っ向からぶっ壊して生まれてきたことを後悔させてやるッ!
「ッ! その嘗め腐った態度! まとめてぶち殺してやる! ここで両方殺せばアタシの勝ちである事は変わらない!」
そう言いながら思いっきり手を叩くクソ女神、それが何かのキーになっていたのだろうか。奴の体に宿っていた神秘が動き始め、分散していく。……この感じ、『権能』でも使ったのか?
お、当たりだよティアラちゃん。ミサガナが元々持っている『権能』は『吸収と分身』。最大効率で信仰や神秘を吸い上げることが出来て、虫けらのように延々と増え続けるのがコイツ。私に比べて神秘が酷く濁ってるでしょう? 精霊とか大地とかからエネルギーを吸って自分の力にしてるからそうなってるのよ。
(純粋な神秘ではなく、混ぜ物入りの粗悪品。ティアラちゃんが原作でこいつが醜いバケモノになってたって言ってたけど、これが原因だろうね。混ぜ物が多くなりすぎて、最終的に神じゃなくなっちゃったんでしょ。普通は誰かから精錬のやり方教えてもらったりするんだろうけど……。この性格じゃねぇ?)
なるほど……。確かにコイツ頭悪そうですし。人の言うこと曲解して変な方向に突っ走りそうですもんね。……なんでタイタン私のこと睨んでるの?
あはは! まぁまぁティアラちゃん落ち着いて。んで話を戻すけど、ちょうど今コイツがやっているのが『分身』の権能。まぁ早い話大量に子機を作る力だね。さっきコイツが乗り移ってた人形もそうだろうし、死んだはずの使徒たちが生き返っていたのもこの力を使っていたんだろうと思う。
(ま、ただのお人形遊びだね。警戒するに値しないさ。)
そんなアユティナ様との脳内での会話。現実時間にして数秒も経たない様な時間の裏で、ようやくクソ女神の準備が終わったのだろう。この狭いフィールドの中に埋め尽くすほどに女神と同じ姿形の人形が展開される。そして全員に込められた神秘量も……。おそらくさっきの私よりも多い。
これだけの量を増やせばクソ女神本体の神秘もかなり削られているだろうが……、確かに手数は増えた。
「「「「「認めてあげる。」」」」」
「確かにお前は強い」
「私が思っていたよりも」
「けれど勘違いしている」
「お前はアタシを閉じ込めたつもりかもだけど」
「依然として」
「閉じ込められたのはあなた。」
「何事も」
「数はすべてに勝るのよッ!!!」
「「うわ、色んな方向から聞こえて気持ち悪。……っと! タイタン!」」
私たちの言葉がキーになったのだろうか。分身たちが即座に光球を生成し、レーザーを放ってくる、太さ威力速さ。そのすべてがバラバラ。数もさっきとはけた違いに多い。確かに、厄介と言えるだろう。けれど……。
「「もう今のアユティアラちゃんも、光速で動けるんだよね~!」」
(ブブブ!!!)
「「あ、ごめん。」」
空を舞い踊りながら、そのすべてを避けていく。まさに曲芸飛行と言ったところだが……、飛行担当のタイタンから苦情が入っちゃった。アユティナ様は私とタイタンの補助をしてくださっているから仕事してるけど、ティアラちゃんは何もしてない。はいはい、言われずともぶっ殺しますよ~。
「「というわけでまずはオリンディクス! いっくよー!」」
アユティナ様から絶えず注ぎ込まれている神秘を全て私の愛槍に叩き込み、その能力を爆増させる。普段は槍の穂先しか白く光っていなかったのに、神秘を込めすぎたのか一気に柄まで白く発光しちゃった。うんうん、これなら大丈夫そうだよね。というか黒鎧に黒翼、そんな女の子が持つ真っ白な槍って……。カッコいいね!
「「というわけで……、第一投! オリアナさんの技! 借りちゃうね!!!」」
「『開闢の滅神槍』ッ!!!」
全力で放たれた【神槍オリンディクス】、私の手から離れた瞬間にその神秘を解き放った滅槍は確実にクソ女神の分身を貫き、破壊する。けれどそれで止まる程、あの子はお行儀が良くないのだ。私の意思通りに動いてくれるようになったそれは即座に方向転換し、近くにいたもう一体の分身を破壊する。
この大きな球状の内縁を駆る様に飛び続けるオリンディクスは次々と分身を消し飛ばしていく、敵もそれに負けぬようにどんどんと増殖しているようだが……、こっちの方が早い。
(でも待ってるだけじゃ味気ないよねティアラちゃん!)
「「ですよね! というわけで、使わせてもらうよ【神殺し】!」」
私の声に反応してくれた巨大な斧が、強く輝きを持ち始める。アユティナ様が若いころから使っていたと仰っていた武器だ。マジで溜め込んでいる神秘量がやべぇ。今の状態ですでに、武器に“使わせてもらっている”っていう関係性だ。そんな彼に胸中で礼を言いながら……、よりこの斧を、巨大化させる。
「「こういうのは、ぶん回すだけで強いのぉ!!!」」
私たちを包む膜を両断しそうになるギリギリまで巨大化させた両刃斧をぶん回す。この子に込められている力がそうさせるのだろうが、分身に触れただけでその神秘を消し飛ばし、崩壊させていく【神殺し】。クソ強いじゃん。
うっし! 自動追尾してくれるオリンディクスと! 振り回すだけで消し飛ばしてくれる神殺し! これでもうクソ女神ちゃんは詰みだね! やーいやーい! 悔しかったら反撃して見ろー!
「「「「「ッ! 嘗めるなッ!!!」」」」」
私が煽った瞬間、敵の行動パターンが変わる。増殖スピードが更に上がり、そして敵の出現位置が膜の外縁部ではなく、私の傍にも出現するようになってしまった。ほら見てよ。大きな斧ぶん回しているから至近距離なら大丈夫だろうって、200体くらいが手元に光球生成しながら出現したよ?
「「「「「死ねぇッ!!!」」」」」
「「【神殺し】! 分裂&縮小!」」
奴らがレーザーを放とうとした瞬間、持っていた【神殺し】を二本の片刃斧へと戻し、サイズも元に戻す。そしてタイタンに軌道を任せながら……、分身の首を斧で刎ねる。くぅ~! 切れ味最高! アユティナ様が補助してくれるおかげで斧の先端が指の先っぽみたいな感覚で振り回せる!
「「無駄無駄無駄ァ!」」
突出した個に! 寄せ集めの数で勝てるわけないんだよ!
と言うことで衣装チェンジ! アユティナ様から頂いた【使徒服】!
神秘最大超出力! 許容限界オーバーフロー!
「「アユティアラちゃん~、フラーッシュッ!!!!!」」
「「「「「あがッ!!!」」」」」
神の神秘、それがただ一点。光となって放出される。私の神秘量であれば腐っても神であろうミサガナの眼を焼くことはできなかっただろう。けれど今のティアラちゃんは、アユティアラちゃん。神秘量も出力も大違いだ。ちょっと力を込めすぎちゃったせいか使徒服がなんか違う服に変貌しちゃった気がするけど……、とにかくヨシ!
眼球どころか視神経を通じて脳を溶かされた分身たち。
そんな無防備な奴らに向かって両手で斧を振るい続け、消し飛ばしていく。
私の乱舞に、依然として追尾し続けるオリンディクス。自然と増殖よりも除去のスピードが上回り……。
残り、一体。本体のみだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
「「あらら、息切れしちゃって。もしかして運動不足?」」
斧を再度合体させ一本にし、対象を殺し尽くし戻って来たオリンディクスを手でつかみながら、そう言ってあげる。
ちゃんと毎日鍛えないとだめよ? 体って動かさないとすぐに鈍っちゃうんだから。アユティナ様だって『もしかしたら私が戦うことになるかも』ってことで大分前からジムとか通って戦闘勘とか色々取り戻してくださったんだよ? お前も神を名乗るならそれ位しなきゃ。……まぁお前に明日は来ないけどな!
そんな風に教えてあげる私を、息を整えながら一瞬だけ見たミサガナは、……口角を上げる。
「……あはっ! アタシがただ闇雲に数を増やしていたと思ったら大間違いよ! こいッ!!!」
奴がそう言った瞬間……、周囲に漂っていた神秘たちが、一気にミサガナに向かって集中し始める。
分身の残骸とも呼べる神秘、光の粒子となったそれが一斉に奴の体に集まって行き……、存在が一回り大きくなる。私たちが最初に見た奴よりも、より大きな神秘を持った存在。
たしかこいつの権能は『吸収と分身』、自分で生み出した分身を最大効率で吸収することで、より多くの神秘を得たってことか。大体……、5割増しくらいだろうか? 自分から切り離したものを回収したのに総量が増えている。物理の学者先生が聞けば発狂しそうなことやりやがったな。質量保存の法則どこ?
「あはッ! あはははッ! これで……、消し飛べッ!!!」
そう言いながらおそらく奴にとっての全力。すべての神秘を以て光球を生成し、手元から極光を放つ。視界が一瞬にして濁った白へと包み込まれていくが……。こんなもの、何でもない。
【神殺し】を、ただ前へと掲げる。
瞬間、彼の眼前で弾けていくその光たち。絶えずミサガナから極光は放たれているが……、私の前に届く前に、【神殺し】によって霧散されていく。
全力の攻撃、それも大幅な強化を受けた後の攻撃だというのに、無力化されたクソ女神。解り易い程に、その顔が歪む。
「な、なんで!?」
「「あのさ? もう忘れた? アユティアラちゃんは『進化と成長』の神だよ? “私”が、それを司ってるんだよ? 確かにスタンスが見守るって感じだからよく勘違いされるけどさ~。一瞬で存在を叩き上げるっていう『成長させ、進化させる』ことが出来ないわけないじゃん~。」」
そもそもの話。
「「お前の吸収、確かにすごい効率だよね。分身と合わせれば延々と強く成れる。実際、ちょこちょこ強化し続けてたんでしょう? だらしないお前だけど、近くに喧嘩相手がいるから手は抜けない。だからまぁ、慢心する程度には力を持っていたみたいだけど……。」」
格が、違うのだ。
「「お前の成長を、『成長』の神である私が追い抜けないとでも?」」
私たちが纏う神秘が、より一層大きなものに成る。
アユティナ様が、その“権能”を解放なされた。
母体が私という人の身故に限界があるが、それを神の権能によって押し上げ、より神秘耐性が上がる。故に出力も向上し、神秘量も大幅に上昇。強化率は……、三乗くらい?
あはは! 桁違いすぎー! 5割増しVS3乗! 私お化けに成っちゃったじゃんかー!
「な、なんで、そんな力……!」
「「ま、早い話……。お前は喧嘩を売る相手を間違えた。」」
「あぁ、あぁ! あああああぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!」
神と合体しているとは言え人の身である私との間に出来た、圧倒的な差。
そのことを理解できなくなってしまったのか、それとももう叫ぶことしか出来なくなったのか、ただ声を上げながら、放っていた極光の出力をより上げるミサガナ。眼前の存在を消し飛ばすために、自分の前から脅威を排除するために、足掻く。
無駄な足掻きほど……、滑稽なものはない。
「「さ、フィナーレといこうか。」」
一旦後退し、瞬時に斧を巨大化させる。狙うは、依然として私たちを包み込もうとする極光。私の体よりも何倍も大きなソレを……、根元から叩き割ってやろう。神秘を込めれば斧がそれに反応し、応えてくれる。
徐々に強い光を放ち始めたソレを……、全力で振り落とそう。
アユティナ様に、【神殺し】! お願いしますね!
「『天砕き』ッ!!!」
世界そのものを破壊する斬撃は光速を優に超えた速度で振り落とされ……、極光を根元から断ち切る。その生成元であったであろう光球も両断され、もうミサガナには何も残っていない。
あるのは、無防備に残されたその肉体と、死の恐怖に染まった醜い顔だけ。
さ、タイタンにオリンディクス。譲ってもらったからには……、全力で行くよ!!!
アユティナ様から受け取った神秘を全てオリンディクスに叩き込みながら、タイタンと共にミサガナへと突貫する。距離が縮まるごとにオリンディクスが白く発光し始め、より強固な槍となっていく。
最大出力で、ぶち抜こう。
「開闢のぉォォォ!!!」
「やめ、やめッ! やめろぉぉぉ!!!!!!」
「神撃ィィィイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
奴の心臓に突き刺さり、そのまま肉体ごと、神秘の膜に叩きつける。
けれどそれでもまだ足りなかったのだろう。そのまま神秘の膜を突き破り……、地面へ。
大地に接触するが、まだ足りず、そのまま地面へと叩き込んでいく。
地面が割れ、地殻が崩れ、よりその先に。
奴の心臓を完全に破壊し、貫通しきったと理解した瞬間。
少しだけ体に浮遊感を得る。
「「ここは……。」」
よくよく周囲を見てみれば、真っ赤な熱の世界。どうやら貫き過ぎて星の内部まで入り込んでしまったようだ。うへぇ、やり過ぎちゃったかも。というかどんだけ掘り進めちゃったんだ、私? まぁいいいや。後で直せば大丈夫なはず。
「「ま、お前の墓場にしては贅沢な場所かもね。んじゃ、大地や精霊から力を吸い取り滅ぼしてきた愚神さんや。最後はお前が星の養分になるんだよ。」」
そう言いながらすでに物言わぬ塊となった神の肉体を蹴り飛ばし、星の中枢へと投げ込む。
ゆっくりと溶岩のようなものに飲み込まれていく、ミサガナ。
原作じゃ大地から力を吸い上げすぎて、大陸全土を死の大地にしちゃった奴が星のエネルギーになるなんて……、いい話だねぇ。なんで神を星の核に投げ込めばエネルギーになるかっていう原理は全く解らないですけど、アユティナ様がそう言ってるってことは大丈夫なんでしょ。
「さ! これにて王国の女神『ミサガナ』の討伐は完了だ! まだちょっと“残してる”ことはあるけど……。完全勝利! 頑張ったねティアラちゃん!」
「はい! ありがとうございます!!!」
「んじゃ、貫いちゃった岩盤とかその辺り直しながら~、凱旋と行きましょうか!」
◇◆◇◆◇
さて、その後の話をしよう。
くり抜いちゃった大地をアユティナ様と一緒に修復しながら地上へ、そしてそこに待っていたのはめっちゃ心配そうな顔をしていたオリアナさんだった。そしてその他にもみんなが、私のことを待っていてくれた。まぁ確かに急に出現した膜の中に閉じ込められたと思ったら、神をぶっ刺して地面に潜って行ったわけだからね……。
地面を元通りにした後、ちょっとためらいながら大地に降り立った私に待っていたのは、若くなってパワーが各段に上がったオリアナさんのハグだった。それはもう、強烈な。
『い、いつも心配かけてごめんね? 謝るから、は、離して……、ち、ちぎれる……!』
『ばか! こっちの気も考えろ!!!』
い、いや、すみませんって。でも今回は特に外傷もなく戦い抜けたわけだから許してもろて。
まぁそんな感じにお互いの無事に安堵し、全員が生きたまま戦い抜けたと安堵していたのだが……、そこに現れたのが半身ボロボロに焼け焦げたエレナ。全力で止めようとしてる姉妹を引っ張ってこっちに来たもんだからティアラちゃんびっくりしちゃったし、エレナママ気絶しそうになってたんだよ? まぁ何とか耐えて、一番に娘の元に駆け寄ってたけどさ。
んで聞いてみたら使徒と戦ってひどい傷を負ったのに、なんか気力だけで回復して戻って来たって話だったから……、もうほんとに同じ人間なのか怖くなっちゃったじゃんか。いや確かに戦場で何回かサポートしたけど、距離離れてたから、どれだけダメージ受けたのか解ってなかったこっちも悪いけどさ……。
『あぁ、もう。とりあえずそれ全部治すからね? じっとしてて。』
『いーえ! これは私の勲章よ! 残すわ! 私が未熟だったという証ね!』
『……いや嫁入り前の女の子が半分焼け焦げてるとか色々ダメでしょ。問答無用ッ!』
『あーッ! ティアラー!!!』
とまぁそんな感じで無理矢理治療したりとか、色々ありました。エレナは元通りになったし、犠牲者もなし。教会勢力との戦いは最上の結果で終わった、と言えるだろうね。
んで、次が宗教がらみのこと。
私たちは王国教会が信仰していた神をぶっ殺したわけだ。すでに王国教会軍は虫の息というか、全員投降させていたため反発こそなかったが……。戦争には負けるし、神は殺されるしで、色々とヤバい状態だったのだ。まぁ別にこいつらをその場で消し飛ばしてしまえば証拠隠滅出来るのでそうしてしまっても良かったんだけど……。
(アユティナ様が気を利かせてくれてね?)
私との合体を解き、その御身を下界に現した神は、神秘を解放された。……まぁ早い話、勝手に絶望されて死なれたら寝覚めが悪いから、一回強烈な神秘当てて洗脳しちゃえ作戦である(もちろん後ほど解除されていた)。んでそんな風に落ち着かせた後は、私たち人の出番だ。
アユティナ様は基本的に見守る側のお方、人の動きに強く干渉なされることはあまりない。ミサガナの本拠地を押さえたみたいだし、やろうと思えば『各地の教会にアユティナ様の神秘ブッパ! 全教会乗っ取り完了! 神秘ドバドバ!』ってのも出来たらしいんだけど、人の信仰の自由を取り上げるようなことになってしまうため、されていないのだ。
(そして使徒である私も、自分から手出しすることはない。求められたら改宗のお手伝いしてあげるくらいかな? つまり、“アユティナ教”からアクションを起こすことはなかった。)
というわけで動いたのが、あのロリコンである。
なんか戦場で戦ってる所見ないな~、と思ったら裏で色々暗躍してたみたいで、今回戦争に乗じて消去すべきであった教会内の政敵? みたいなの処理した後、我が物顔でしゃしゃり出て後始末をしていきやがった。
『これまでの王国の女神ミサガナは実は悪魔であり、この度無事討伐され真の神であるアユティナ神が降臨為された!』というカバーストーリーを流布。実質的にミサガナの立ち位置に、アユティナ様が収まることでなんか上手く処理しやがったんだよね。
(もちろんそんなこと言われても反発する人ばっかりだけど……、教会勢力が戦力を失ったのは確かだし、その戦争から帰って来た奴はアユティナ様の存在を理解している。)
私はロリコンを通じて話しか聞いていないけど、まぁ色々大変なことになっているそうだ。すでに戦力が欠片も残っていないみたいだから、また戦争になることはないだろうけど……。教会内部で分裂が起きているのは確からしい。
そのままミサガナを信仰し続けようとしている奴、アユティナ様に鞍替えしようとする奴、無関心な奴、そもそもアユティナ教に改宗しようとする奴。まぁ色々な奴がいるようで、それをいい感じに伯爵が煽ったりしているらしい。最終的にどうなるかは解らないが、この混乱が続くのなら確実に王国教会はその影響力を失うだろう。
(ま、こっちの面でも問題なし、って感じだろうね。)
王国教会はこれまで信じていた神を失い、混乱期に入った。伯爵が処理したおかげで王国に巣食う害虫である五大臣への資金援助ルートは消えるだろうし、そもそも女神のおもちゃになっていた国王も正気に戻るだろう。まだ完全にこの国の内憂を取り除けたわけではないが、そも外憂である帝国は私がコテンパンに叩いている。そもそも王国にももう真面な戦力は残っていないし、私たちに歯向かえるものは誰もいないわけだ。
ここから王都に移ってちょっとしなくちゃいけないこともあるけど……、全て問題なく終わるだろう。
「それが終われば……、どうしよっか? すぐに動くべきことはもう無いよね。んじゃ原作始まるまでレベリングかなぁ。……原作が残っていれば、の話だけど。」
色々と動き過ぎた故にぶっ壊れてしまったのであろう原作のことを考えながら、思考を回していく。
まだ私が殺すべき神、帝国の女神が残っているけれど……。奴に挑むのはまだ先の話だ。
アユティナ様と分離した際、私の体に宿っていた神秘たちのほとんどをアユティナ様にお返ししている。早い話、私の力は王国教会の今代使徒、アイツを倒した時のモノに戻っているのだ。そう何度もアユティナ様のお力に頼るべきではない。次は一人でも神殺しが出来るようになってから、挑むことにしよう。
そもそも、帝国との戦争から忙し過ぎたからね~。ちょっとお休みさせてもらいたいってのもあるのだ。
「ティアラー、そろそろ出発するぞー。」
「あ、はーい! 今行くー!」
若い姿から、元のお婆ちゃんに戻ってしまったオリアナさんにそう答えながら、荷物を丸ごと空間にぶち込む。んじゃ、次の場所に向かうことにしましょうかね!
(……あ、そう言えば結局“墳墓”の存在ってなんだたんだろ? アユティナ様が気にしなくていいって言ってたけど……。ま、気にしないでいいならいっか。忘れちゃおー。)
次回の幕間を持ちまして、『原作開始前:聖戦編』を終了とさせていただきます。なお次回の幕間は、複数の視点で行われる予定になりますので、ご容赦ください。
次々回からは新章、『原作開始前:崩壊編』を進めていきますので、よろしくお願いいたします。
……何が完全崩壊するって? 原作だよ。
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