妖精のドレス
妖精
「エメラルドの魔女、仕事の時間よ」
魔女
「今日はもう店終いだよ。青の君」
妖精
「……ちょっと寝坊しちゃったのよ。ワタシ貴女の素敵なお得意様なんでしょ、ちょっと優遇なさいよ」
魔女
「ふふ。いいよ。ドレスの新調かな。そろそろ百合の月だもんね」
妖精
「そう!そーなのよ!百合はブルーフェアリーの象徴、1番大きな夜会があるの。魔女、ワタシにみんなが驚くドレスを作りなさい!」
魔女
「妖精達の流行りは朝露のドレスじゃなかった? 私花を弄るのは得意だけど、あぁいうのはあまり得意じゃないよ」
妖精
「あら、ニンゲンの癖に耳がいいのね。でも、流行りということはみんな朝露のドレスを着るのよ。ワタシは同じはイヤなの、特別なのがいいわ! あと花のドレスはワタシのこだわりなの」
魔女
「そうは言っても、花のドレスってわりとありきたりなんじゃ……」
妖精
「そこを何とかしなさいな! エメラルドの魔女の名が廃るわよ。そうねぇ。例えば、パーティの最高潮で花開く月下美人のドレスとか素敵じゃない?」
魔女
「開いた花を保存することならできるけど、生きたまま使うなら無理があるよ……。作れないとは言わないけど、沢山魔法を縫い込まないといけないから、一年は欲しいなぁ」
妖精
「えっ、うそ! 作れるのね! じゃあ来年はそれを依頼するわ」
魔女
「あ。……ウソウソ!やっぱりできないかなぁ!ちょーっと厳しいものがあるよ!」
妖精
「アンタ……童話に名高いブルーフェアリーの前で良くもまぁ……。友達だろうと、嘘つきの鼻は伸ばすわよ」
魔女
「あはは……降参。嘘ついて悪かったよ。でも本当に大変なんだってぇ」
妖精
「ワタシいつも代金以上の希少素材を渡してると思うけど。いいのかしら、断っても。貴女、ユニコーンの角やら、薔薇水晶やら、虹の蝶やらの魔術素材……あぁ、どれも妖精の森にあるわね……? それを欲しがってなかった? 私の鱗粉も必要なのよね?」
魔女
「くっ……わかったよ。やるよぉ。でも、初めての試みだし、本業もあるし。長めに見積もって再来年にしよ」
妖精
「仕方ないわね。いいわよ、で、今年はどうするのよ」
魔女
「みんなが驚く花のドレスでしょう? そんなのあるかぁ?」
妖精
「被るのは絶対嫌よ! あっ。ねぇ魔女、開いた花は保存できるって言ってなかった?」
魔女
「うん? できるよ。ほら、キミに作ったドレスが萎れたことないでしょ? 妖精の仕立屋さんと違って、私はそういう魔法でも使わなきゃ作れないから……。? どうしたの、黙って」
妖精
「……す、捨てちゃったわ。その、知らなくて……ごめんなさい」
魔女
「えぇぇぇぇ!? あっ、いやっ、私も説明してなかった気がする。花のドレスは1日2日で枯れ萎むものだもんね」
妖精
「や、やけにお家に帰っても綺麗なままだとは思っていたのよ! でもそんな、考えないわよ! 花が萎れないなんて、可笑しいじゃない! できるとして、普通花にそんな事しないわよ」
魔女
「だって私魔女だもん! 魔法縫い付けるくらいするよ! 趣味で作ってたのを、たまたま君が気に入ってくれただけで、妖精の服の作り方なんか知らないもん! あ……やっぱり冒涜的だったかな!? ダメだった!? 怒られる??」
妖精
「……ワタシは大地のエレメントとは縁遠いから平気よ、気にしないわ。でも緑の妖精達は嫌な顔するでしょうから、あまり窓辺に飾るのは勧めないわ。それと、知らなかったとはいえ、今まで捨ててしまって悪かったわね」
魔女
「こちらこそ、教えてくれてありがとう。気をつけるよ。えっと、花を保存できることに何か気になったのかな」
妖精
「そう、えっと、夜に咲かない花があるのは知ってる?」
魔女
「あー、たんぽぽとか?」
妖精
「そう! だからワタシ、夏だしアサガオがいいわ。夜も花開いたままのアサガオのドレスなんて、誰も着たことないわよ! 驚くに決まってる! 空色のアサガオが良いわ。サファイアで飾ったらきっと素敵ね」
魔女
「アサガオかぁ、庭にあるけどまだ蕾だからな。間に合うかな」
妖精
「あら、ひと月もあるのよ。できるでしょ?」
魔女
「できないと言えない口が惜しい……! 承りました!」
妖精
「ふふふ。楽しみにしているわよ」
魔女流、花のドレス
道具:魔法刺繍針0.3mm
魔法刺繍用糸……銀雲蜘蛛の銀糸
コットンニードル(花弁用)
保護魔法を刺繍して補強した花に施してから縫い合わせる。
ドール用に作っていたものを気に入られてしまう。