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石妖契約奇譚  作者: 上月琴葉
21/45

5話 そして新たな幕開けへ

――

 春のわりに肌寒い日だった。

 今日は華茶花学園の卒業式だ。教室のホワイトボードに描かれた落書きを見て、改めて卒業するんだなと瑠花は思った。

「思ったより、早かったな……」

「そうだね、瑠花」

 瑠花の横には傷も癒え、体力を取り戻した紺が制服に身を包んで立っている。

 ふわり、と空いた窓から風が吹き込んだ。

「春とはいえ、まだ寒いな」

「すぐ暖かくなるよ。卒業式の辺りって不思議と毎年気温が下がるんだよね……」

 紺はそう言うと窓を閉める。

「まだ、誰もこないな」

「仕方ないよ、早いもの。この落書き多分、昨日のうちに描いたんだろうね」

 ホワイトボードに色とりどりのマーカーで描かれたのは、花束と「卒業おめでとうございます」の文字。

 静まり返った教室に、ふたりきり。

「……紺」

「どうしたの?瑠花。なんだか少し、涙ぐんでるような」

「……いけないか?ここに逃げるように入学してきて、たくさんの人に会って…優しい思い出をたくさんもらったから」

「……そうだね……戦いもあったし、つらいこともあったけれど、楽しかった」

 瑠花は頷いて、回想する。

 去年の7月。「桜導」としての初のマヨイゴとの戦い。金紅石との出会い。初めて行った遊園地「ことぱーく」の観覧車から見た夕焼けの街。鞍馬山ハイキング。ローズガーデンカフェの紅茶とローズシフォンケーキの味。強敵、海松や鵺との戦い。そして何より――

「……瑠花」

 瑠花は無意識に指を伸ばして、紺の服の裾を掴む。

「……今度こそ、今度こそ本当にいなくなるんじゃないかって……怖かった」

「……ごめんね……心配、かけて」

 紺は瑠花を抱き寄せる。彼女の涙を隠すように。この涙は、彼だけが知ることを許された、彼女の弱さ。

 だからこそ、誰にも見せないし、譲れない。

(ああ、こういうときに、ずっと傍にいるよって……もうどこにも行かないと言えたらいいのに)

 その言葉は口にはできない。自分が不安定な存在であることを知ってしまった。

 そして、朽葉から聞いた言葉が頭から離れない。もし瑠花に危険が迫れば、ためらいなく自分はその命を投げ出すだろう。

 そのことでどんなに彼女を、仲間を傷つけることになったとしても。

(ごめんね、瑠花。でも、せめてその時までは、もう離れないと誓うから)

 紺は瑠花の涙が乾くまで、その体を抱きしめていた――


 ――

「……この校舎に通うのも今日が最後か……」

 月輪真赭は生徒会室の扉を開けた。まっさらなホワイトボード。いつも山積みにされていたはずの書類もどこにもない。改めて自分の席がなくなったことを感じた。

「……忙しかったけど、それなりに充実していたかな」

<感傷にひたるとはお主らしくないのう>

「……今日ぐらいは許してください、辰砂。今頃多分桜導のメンバーもみんなこんな感じだと思いますよ」

 真赭はそう言うと置かれていた「生徒会長 月輪真赭」の札を手に取り、鞄にしまう。

 そのまま踵を返すと、そのまま部屋を後にした。


 ――

 一方そのころ、式が始まる前のがらんとした体育館に一羽の白い鳥が迷い込んだ。

 一見するとただの鳥だが、不自然なところがあった。この鳥の背には、歯車にはめ込まれた石がついていた。鳥は体育館の屋根の梁に止まり広い体育館を見下ろしていた。


「いよいよ、卒業式か」

「早かったですね……はあ、今日で瑠花ちゃんともお別れか……」

「うん、ちょっと、さみしいかな……」

 そう話しながら在校生たちがぞろぞろと体育館の中に入ってくる。並べられた椅子に腰かけて、青磁は壇上を見た。壇上には「第〇回 華茶花学園卒業式」という横断幕がかけられている。音楽が流れれば式が始まる。そして一時間半後には3年生とはお別れだ。

(早かったな……)

「ただいまより、卒業式を行います。卒業生入場!」

 音楽が鳴り、式の開始を告げた――


 ――

 式は順調に進み、次々と卒業証書が手渡されていく。続いて祝辞が行われ、在校生の送辞と歌、続いて卒業生の答辞。

「それでは卒業生の歌です。門出の歌」

 指揮者が腕を振り始め、ピアノの伴奏が流れ始める。

 その時だった。

「ピチチチチ!」

 体育館の梁で白い鳥が鳴く。同時に、糸が切れたように人々が倒れた。

「何!?」

 瑠花は倒れたクラスメートの脈を確かめる。問題なく脈打っている。

「大丈夫、眠っているだけみたいだ」

 真赭は唯一今起きている桜導のメンバーを集めて告げる。

「桜導の現リーダーとして最後の指令を下す!あの鳥型のマヨイゴを鏡界へ還す」

「「はい!」」

 桜導メンバー全員の声が重なる。

 白い鳥は「ピルルルルルル!」と鳴くと同時に巨大な白い鳥へと姿を変える。

「的が大きくなったら狙いやすくていいじゃねえか!」

 臙脂が先頭に立って走りこんで、脇腹に一発。

「臙脂、あまり前に出過ぎないで!」

 続いて紺も走り込み、刀で一閃する。

「ちょっと痛いだろうが、我慢してくれ!」

 瑠花は飛び上がると右の翼を一閃。

「とりあえず、飛び上がれないようにさせてもらうよ!」

 青磁が羽扇で風を起こし、風の檻の中に白い鳥を閉じ込める。

「縛れ!」

 鴇が自作のチェーン噴出装置を起動させて鳥に巻き付ける。

「では、鏡界へお帰り願おう」

 真赭が弓を構えて、鳥の額を撃つ。これで大抵の石妖は鏡界へ帰る、はずだった。


「クエエエエエエエ!!!」

「な、何?」

 鳥が急に暴れ出し、鎖を引きちぎる。同時に音が衝撃波となり、桜導のメンバーを弾き飛ばす!

「うわあああっ!」「きゃああ!」

 体育館の壁を突き抜け、彼らの体は校庭に投げ出された。

 白い鳥は後を追って体育館の壁を突き破る。

「……鎮めの力が……効いていない?」

 真赭は困惑したように鳥を見つめた。


 ――

<疑似石妖だって?>

 数日前、リーダーからその存在を聞かされた彼は、思わず息を呑んだ。

<そう、疑似石妖。隼陽達がロストエデンの研究所で見つけてきた書類にあったのだけれど、念のため君にも情報を渡しておく>

 渡された紙に目を通す。

【疑似石妖】とは

 ロストエデンの研究記録から察するに、【鏡界】から【界渡】で迷い込んできた【マヨイゴ】に特殊な装置である

 契約歯車<エンゲージ・ギア>という歯車を埋め込むことにより、界との繋がりを絶つと同時に、埋め込まれた核石<コア>から

 膨大な魔力を常時供給し常時実体化を可能とする。契約者は小型の契約歯車<エンゲージ・ギア>を持つことにより

 これらを強制的に服従させることも可能。石妖との大きな違いはあくまで【鏡界での契約者本人】とされる石妖と違い

 契約者との直接のつながりはなく、ゆえに契約の譲渡、強制的な支配が可能。

 首都では交戦記録があり、隼陽、桜耶、鳥束、ヒメの石妖も広義ではこれに当たるらしい。

 現在、京都での出現は確認されていないが、綴の一件でわかるように京都にもロストエデンの研究所があるらしい。

 その場合、交戦経験のない【桜導】のメンバーにとっては、脅威となる可能性が高い――

<腐ってやがる……>

 そう吐き捨てる彼に、

<うん、本当に心からそう思う。そもそも鏡界に過剰干渉するもんじゃないと思うけど……あんなことを平気でやる連中だ。……倫理感が欠けているし、話し合いでどうにかできる相手でもない>

 リーダーはいつもよりも荒い口調で言った。

<……あいつらだけは……あいつらだけは俺は許せないよ。それはそうと。君に頼んでもいいかな>

<だろうと思った。ヨウも賛成してる。引き受けるさ>

 彼は書類を戻し、首を縦に振る。

<うん、そう言ってくれると思ってた。でも、書類はいいの?還し方はもう覚えた?>

 少し心配そうなリーダーに笑って返す。

<大丈夫だって。俺の肩のあたりには今、すごく頭のいい奴がついてるんだから>


「予知夢通り……卒業式の日に出やがったか」

 呼び出した石妖―アジュールマラカイト。そのうちの【雨龍】に飛び乗って彼は華茶花学園へと急いでいた。

<久々に空を飛んだ気がします。何やら、巨大な白い鳥が暴れていますがあそこでしょうか?>

「多分な、降りてくれ」

<ええ>

 雨龍は飛行速度を落とさないまま白い鳥めがけて急降下する。

「とりあえず桜導の奴らを守ってくれ。俺はそうだな、契約歯車の石にひびでも入れとくから」

<わかりました。でもあなたも無理はしないように>

 白い鳥の上空2メートル地点で、彼は雨龍から飛び降りる。

「じゃ、悪いけど!一発喰らえっ!」

 落下しながら彼は不思議な装飾のついた剣を構え――

「クエエエエエエエエ!!!」

 背中に付けられた契約歯車の中心の石に思いっきり叩きつけた。


 ――

「な、なんだ?」

 一方かろうじて白い鳥の猛攻を浅黄の結界でしのいでいた桜導のメンバーは苦しそうにもがく白い鳥と――

<間に合いましたね。もう大丈夫です>

「……龍?」

 巨大な龍の出現に驚きを隠せなかった。

「な、何が起こってるの?」

 戸惑うように言って、浅黄は結界を解く。

「臙脂以外とは初めましてだな。俺は蒼。この石妖――アジュール・マラカイトの契約者にして――」

「……リア・クロスの関係者のひとりだ」

 白い鳥の背中から身軽に飛び降りた青年は、そう言って桜導を庇うように立ち塞がる。

「……リア・クロス……首都に本部を置くといわれる最強の能力者集団……ですか」

 真赭は信じられない、といった表情で蒼を見つめた。

「どうしてここに、って顔してるな。無理もない。けれど、リア・クロスと繋がってる桜導は結構いるんだよな実は」

「とにかく、助かりました。鎮めの力が効かない相手に初めて出会ったものですから」

 少し悔しそうな彼に、

「気にすんなよ。そもそもこのタイプは京都に出現したのは今回が初めてなんだ。戦ったことのない相手の戦闘能力や倒し方なんてわかんなくて当たり前だろ?RPGでも初見の敵に負けたりとかするし」

「それは、そうですが。とりあえず、蒼さん、あなたはこの白い鳥の倒し方をご存知なのですね」

 鴇の言葉に頷くと、蒼は剣を構え直す。白い鳥も痛みに耐えて再び起き上がった。

「ああ。こいつの弱点は背中の歯車――契約歯車だ。あの核石を壊せば、鏡界へ還せるはずだ」

「じゃあ、背中に回り込むのはオレに任せて」

 青磁の背に羽が現れる。

「そうね。卒業生の手は煩わせない。とどめは私たちが刺す」

 銀朱が投げナイフを構える。

「……サポートは私が。青磁くん、銀朱ちゃんお願いします!」

 浅黄が祝詞を唱えると、澄んだ光が青磁と銀朱の体を包み込む。

「ありがと。いつもより上手く動けそう」

「これで本気が出せる。行くよ!」

 トン、と地面を蹴り、銀朱が飛び上がる。同時に青磁も黒い翼を羽ばたかせて舞い上がった。

「風檻!」

 羽扇で風の檻に閉じ込めた白い鳥の背に、ふわりと銀朱が着地する。

「……ごめんね、痛かった?でも、もう大丈夫……あなたの世界へ、おかえり」

 そして手にした小刀を契約歯車の宝石に突き刺した。

「クエエエエ!」

 一声鳥が鳴き、その背にあった歯車がボロボロと砂になって崩れていく。小さな鳥に戻ったその体を、銀朱は優しく受け止めた。


 ――

「バタバタしたけれどこれで間違いなく卒業、だね」

 式が終わり、桜導の作戦会議室に全員が集まっていた。

 あの後、白い鳥は浅黄に癒してもらった上で鏡界へと還した。

 蒼はいつの間にか姿を消していて、戦いが終わったあとにはもうどこにもいなかった。

「さて、今日で3年生メンバーは卒業となります。そこで、この桜導の高等部支部の会長を決めないといけないのだけど……」

 真赭は迷いなくひとりを指さし、そして告げた。

「烏丸青磁。君を高等部支部の会長に任命する」

「へ?」

 青磁はきょとんとした表情で真赭を見た。

「オ、オレでいいんですか?本当に?」

「ああ。君の戦闘力、何より情報収集能力が適任だと判断したよ。そして補佐はふたり。副会長に下鴨浅黄、書記、会計に五辻銀朱。よろしく頼むよ」

「わ、私が副会長ですか?」

「書記……会計。うん、がんばるね」

 面食らう浅黄に、臙脂がそっと近づいていきくしゃっと頭を撫でた。

「浅黄はもっと自信をもっていいって。それにな?」

 耳元で囁かれた言葉に浅黄は顔を真っ赤にして固まる。

<浅黄サンは副会長に向いていると思うよ。丁寧だし、細かいところに気がきく。おすすめしておくね?>って

 夏向が言ってた。あいつの人を見る目は確かだぜ?

 そんな浅黄を横目に見ながら、

「……正直オレが会長の器かは微妙だけど、やるからには手は抜かないよ。よろしくお願いします」

 いつもよりも低い声で青磁は言った。

「……青磁、少し声低くなったね。声変わり?」

 紺の言葉に改めて青磁は思う。

「もしかしたら、というか多分そうなんだろうね。少しはオレもしっかりしないとダメだね」

 その後少し会話を交わして、桜導は校舎を後にする。

 空気はまだ肌寒いが、春の気配は少しずつ、確実に近づいてきていた。

 やがて、雪が融け、桜の花が咲く。そしてその頃にはそれぞれが、新しい道を歩き始めているのだろう。


 ――

 異世界カフェ「星渡」。VIPルーム。

 蒼はある人物と会っていた。目の前に置かれているのは喫茶店には似つかわしくないが、たこ焼きである。

「はあーやっぱたこ焼きはええわー」

「お前本当にたこ焼き好きなんだな。話には聞いてたけど」

 茶色のしっぽ髪の青年は嬉しそうにぱくぱくとたこ焼きを口に運ぶ。

「たこ焼きはええで!で、こうやって呼び出したのには理由は何や?」

「……京都で【疑似石妖】が出た。ついさっき」

「なんやて!?」

 彼は思わずたこ焼きを落とした……が運よく皿の上だった。

「……和希。智やひなと一緒に京都のロストエデンの研究所で墨染 綴を助けたお前に聞く。ここの研究所に【疑似石妖】はいたか?」

 和希は少し考えて、

「いや、いなかった。そういう書類もなかった。綴を見つけたのは偶然で、基本的にもうあそこは廃棄されてたから」

「廃棄か」

「……首都の研究所襲撃に関連して施設のガードが甘くなったっておそらくみんな思ってるだろうけど多分そうじゃない。あの研究所に残されてたホムンクルスは綴以外にはいなかった。ただ……」

「ただ……?」

 和希は言い淀み、たこ焼きを追加で二個口に放り込んでからようやく口を開いた。

「鎖でぐるぐる巻きにされた黒く変色した結晶のようなものが置かれている部屋があって……そこに歯車らしきものはあった。その時は禍々しいとしか思わなかったし、急いでいたから気にも留めんかったけど…… 」

「……」

「綴から聞いた記憶の言葉の中に気になるもんがあった。誰が言ったかまではわからへんけど……

【この子は――のスペア。たとえるならいわば、本。貴方はんがあのあやかしから折り取った知識の保存場所やね】

【これはちょっと特別な水晶やさかい。記憶を保持する記録者なんよ。レコードキーパー、とかいう名前の。

 水晶が角から知恵を吸い取って、その知恵を鎖を通じてこの本の中に保存する。そしてこの子の中に埋め込まれたトライゴニック水晶が対になっていて、この子の中に記憶を定着させる」

【あのあやかし女一体からふたりも【儀式】の器が生まれ、さらにはお前も私も知恵を得た。ああ、本当に素晴らしい女だったよ。美しく、しかし扱いやすく、最高の【道具】だった!】 」

「……まさかその結晶の中身は、その角か……?」

 和希は小さく頷く。

「確信はないけど……見に行ってみるか?廃棄されてるから多分危険はないと思うんやけど」

 和希の言葉に蒼は頷く。

「今日の夜、連れて行ってくれ。こっちもひとり連れていく。見えないものが視える臙脂なら、何かがわかるかもしれない」

「了解や。じゃ、時間まで京都観光でもしとくわ。水族館で待ち合わせでええ?蒼さんはオオサンショウウオ好きなんやろ?ヨウさんも魚好きなんだって虹石さんがゆーてたさかい」

「ああ、待ち合わせ場所としては最高だ。バスもわりと早い時間でなくなるし、龍で乗り付けても騒ぎにならなそうだ」

「ほな、また後で。渡里さんによくお礼しとってや。わざわざオーダーメイドでたこ焼き作ってくれておおきになーって」

 和希はそう言うと異世界カフェを出た。

 残された蒼は冷めたコーヒーを啜る。

「……なんだかとんでもなくやっかいなことが動こうとしてる気がするな、陽」

<ああ、間違いなくな。角で知識が関係するあやかしは……一番すぐ思いつくのは白澤だ。だが問題はそこじゃない。【儀式の器】はふたりだと言ったな。ひとりはおそらく墨染 綴。問題はもうひとりが誰かだ……>

「だよな。生まれたってことは……まあ仮に白澤としようか。その彼女が……ろくでもない発言しやがるクソ下衆野郎と結ばれた末の子どもって可能性もある。そういや桜導に、真っ白い髪の持ち主がいたよな」

<さすがに髪の色だけで決めるのは早計だろうが……白い髪はふたりいたな。女性と男性。男性の方は真赭って呼ばれてた。女性の方は名前を呼ばれてなかったからよくわからない。だが可能性はあるだろう。ただ俺も雫もマナに敏感な方じゃないからな。それこそ友希や梨華なら何かを感じ取るかもしれないが。ただ、桜導は……全体的に異質だ。俺と似た匂いがする>

 蒼は少し考えこんで、残ったコーヒーを飲み干した。

「異質、ね。まあそこは否定しないけど……それを言うと俺らも究極の【異分子】<イレギュラー>だ。とにかく、俺たちとのパイプ役がいる……臙脂に連絡を取ってみるか」

 蒼は臙脂と水族館での待ち合わせの約束を取り付けてから、異世界カフェを後にする。


 ――

 路地から出ればいつものようにたくさんの人が行きかう河原町通り。

 世界は何もいつもと変わらないように見える。だが見えないところで蠢きだす影の気配を、彼は確かに感じ取っていた。

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