2章 プロローグ「ゆら」
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いつから、彼らがそう呼ばれるようになったのか。
いつから、彼らがこの世界にいるのかは、今となっては知る者はいない。
だが、私はいつしか気が付いていた。
おとぎ話や怪談、民話の類に異形を以て現れる者たちは、異世界の種族のことを指しているのだと。
世界が無数に存在することは、私は身をもって知っている。この目で「見た」からだ。
そして異世界の種族は決して無慈悲な存在だけでもなく、時にはこの世界で子をなすこともある。
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「ゆら」。感じにすると「揺」。
異世界の血と、この世界のふたつの血を引く「狭間に揺蕩う者」。
この世界のものであって、この世界のものでない者たち。
無限の可能性を秘める一方で、危険因子となりうる存在。
私は、あの日はっきりと告げた。
「私は、ゆらの子たちを見守る。排除しようとする貴方とは相いれない」
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「私は、ゆらの子たちを見守る。排除しようとする貴方とは相いれない、か……さすがリア充ですこと」
初詣でにぎわう神社の裏手の山の中で、冷たい笑みを浮かべる女がひとり。紫のピンヒールと、紫と黒の混ざった服装。太陽の光も強くない季節なのに顔を隠すように黒い日傘をさしている。
「まあわたくしにもあの方がいらっしゃいますから……リア充なのはどうでもいいのですけれど」
女のつけている髪飾りはヒガンバナを模したもので、とにかくこの新年のおめでたい雰囲気とは対照的だった。
女はしばらくの間、初詣でにぎわう神社を山の上から見下ろしていたが、
「……歪みは正さなければ。鎮めの子たちやゆらの子なら……あの方への最高の供物になるでしょう……」
やがて静かにその場に踵を返した。
ひどく、不吉なその言葉を残して。




