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84.これからの話と昔の話



「いやもう、夢に出てきそうで無理……なんでよりによってあんな場所にあるのよ……」


 泣きそうだ。というかもう半泣きだ。

 いや、でもあれのおかげで部屋から出られたのはよかったかもしれない。


「悪かったな……。その、俺のせいで怖い思いをさせてしまって……」

「貴方のせいじゃないわよ」


 誰のせいでもないと言いたいところだけど、あれがあることを忘れて私を呼んだ殿下が悪い。



 あの後二人だけだとどうにもならなくて、ルカを呼んで間に入ってもらって話をした。


 あの目は他にも4つあるそうで、全てルカが自分で抉り出して殿下に渡したそうだ。

 そのうちのひとつがクラウス領の屋敷にあるらしい。どうにも気持ち悪いので回収してもらうようお願いした。

 金の装飾は、単に用意させたらついていたそうで、殿下の趣味であれを用意した訳では無いとのこと。


 思い出したらまた鳥肌が立ってきた。

 ゾンビの騎士は全然平気だったけど、眼球は無理だ。

 自分でもよくわからないけれど、なんか無理。受け付けない。


「うう、気持ち悪い……。まだ内蔵がこぼれてるのを見る方がマシ……」

「そっちの方がキツくないか……?」

「その件に関してはフランツが悪いね。まあ君はそういう類のものが平気そうだから油断したのかもしれない」


 陛下は笑っている。

 私には笑い事ではないのだけど、他人からしたらくだらないことだろう。


 殿下の部屋を出たあと、私はルカに連れられて陛下の執務室に来ていた。割と距離があるのだけど、ルカがいれば一瞬で着くから本当に便利だ。


 というかいきなり来てよかったのか?

 あんまりにも当たり前のように連れてこられてちょっとビビってたけど、何事もなく受け入れられてそれはそれでビビる。


 前回来た時に、帝国民ではないから別に敬わなくていいとか言われたけどあれ本気だったのかな。

 そしてルカと同じく友人として接する、とも。15歳の小娘が皇帝と友人なんておかしくないか? 

 中身は別人だけど身体はマリアなので、私は一応陛下の従姪で陛下は私の従叔父だ。

 本当にこれでいいのだろうか。


 しかも今普通に三人でお茶飲んでる。いや、私は今は何も口にしたくないから座ってるだけだけど。

 それに、陛下のお仕事はどこに行きました? お忙しいはずですよね??


 いろいろ言いたいことはあったけど、それを言ってはいけない気がしたので私は空気を読んで二人に合わせることにした。


「それにしても婚約解消したのにずいぶんと仲がいいね。君はまだフランツのことが好きなんだろう? どうするつもりなんだい?」

「……どうすると言われても……。離れていればそのうち落ち着くと思うので、それまで待つだけです」

「離れられていないようだけど?」

「う、あの、それは……離れられるように努力します……」


 先程欲望に勝てずに会いたいと言ってしまったばかりだ。

 ああ、これからどうしよう。

 周囲に誰かがいればまだ冷静に振る舞えるのだけど、二人きりになって迫られたらもう無理だ。

 流されるどころではなく、私から手を出してしまいそうで怖い。

 押し倒しちゃったらどうしよう。

 殿下と二人でいると理性が仕事してくれない。


 私の災いは口だけではなかったのだ。少しも我慢ができない駄目人間だった。

 もしかしたらこれも憑依に伴う不具合のひとつなのかもしれない。

 恐怖が感じにくいのと同じだ、きっと。

 うん、絶対そう。

 だから仕方ない。


「離れて落ち着いたあとは? 君は他の人と結婚するのかい?」

「それは……やっぱり結婚しなければなりませんか?」

「そうしなければならないわけではないけれど、僕は結婚した方がいいとは思うよ。君ならそれなりの爵位を持つ貴族と結婚できるだろう」

「別に爵位は……それよりも世継ぎとか社交とか諸々考えるのが面倒なので……」


 子どもが産まれなかったらとってもめんどくさそう。あと人付き合いもめんどくさい。


「いっそ帝都から遠く離れた領地の、既に嫡男がいるところの後妻あたりが気楽でよさそうだなと思ってます。年齢は離れてれば離れてるほどいいです」

「自らそんな酷い状況を望まなくても……」


 若干引かれてる。

 でも気楽に暮らしたい。

 この世界で平民として暮らすのはきっと無理だろう。

 だから貴族として暮らしていくしかない。

 実家の力とこの顔で、悠々自適な暮らしができたらいい。


 もちろん元の世界に帰れるのが一番だから、最後までそれを諦めるつもりはない。

 それでも、戻れなかった時の保険は必要だ。


「そうだ、それならルカと結婚すればいいんじゃないかな」

「え」

「領地はあるが世継ぎは必要ないし、社交も気にする必要も無い。もちろん侯爵夫人として最低限のことはやらないといけないだろうけど、君の望みにかなり近いんじゃないかな」

「それは…………考えたこともありませんでした」


 ルカと結婚??

 いつも好きだと言ってくれているのに、私はその先を考えることなんてしなかった。

 確かにルカは私の事情を知っているし全てを受け入れてくれている。

 望み通りの住環境を得られてマリアとして生きなくてもいいのだから、どうにもならなかったときはルカと結婚するのが一番いいのかもしれない。


「ルカは君のことが好きだから、大切にしてもらえるよ。歳上だけど先立たれる心配もないし。……ルカはどう思う?」


 隣に座っているルカに目を向けると、紅茶を手にしたまま固まっていた。


「あ……俺は、……マリアがそれでいいなら……そうしたい」


 二人の視線が私に注がれる。

 え、私の一存で結婚が決まるの??


「そ、そういうことはお父様にも相談しないと……」

「ではカールにも聞いておくとしよう。……何にしても暫くは結婚のことは考えずに過ごすといい。フランツとのこともまだ解決していないだろうからね」

「はい……その、フランツ殿下とのことはなるべく早く……終わらせようと思います」


 会いたいって言ってしまったけど。

 いやでもさっき全力で拒否してしまったから暫く会いにこないかもしれない。


「お願いするよ。君のその件で僕に皺寄せが来ててね……。もうかなり限界なんだよ」

「えっ、陛下は何の関係もないじゃないですか」

「いや、それに関わっているのは全員僕に近い人間だろう。フランツにルカにカール。この三人が一度に荒れると困るんだ」

「二人はともかく、お父様まで……?」

「彼は君を溺愛しているからね。君が死にかけたり、倒れたり、今回の婚約解消のことだって散々文句と愚痴を言われて、それはもう、めんど……大変なんだよ」


 今面倒って言おうとしたな……。

 

「そ、そうだったのですね……。お父様はフランツ殿下とマリアの結婚を望んでいたのですか?」

「いや、そういうわけではない。ただ、フランツのことはかなり気に入ってたようだが……。そもそも二人の婚約は期間限定だ。マリアが16歳の誕生日を迎える日までのね」

「えっ!?」

「もちろん、二人に結婚の意思があれば別だったが……。だから今回の婚約解消はあまり意味の無いものだね」

「そうだったのですね……知りませんでした」


 なるほど。だからどのルートでも二人は婚約解消していたんだ。

 でもそれならばそのことを前回教えてくれればよかったのに。

 そう思ったけれど、あのままマリアの誕生日まで婚約者として過ごしていたら……きっと私は殿下から離れられなくなっていただろう。


「幼児の誓いなんて真に受ける方がおかしいだろう? ただ、フランツがあまりにも真剣だったからカールが絆されてね。二人が将来のことを考えられる年齢になるまで、という条件で婚約させたんだ」


 陛下は昔を懐かしむように目を細め、そしてゆっくりと息を吐き出した。


「私は色んな人の幸せを奪ってしまったんですね……」


 私は小さく呟いた。


 陛下にとってマリアは従姪だ。

 殿下とマリアの関係を微笑ましく思っていた一人だっただろう。

 こうやって私を受け入れてくれているけれど、だからといってマリアのことを大切に思っていなかったわけではない。


「……君のせいではない。気にするなとは言わないが、終わったことばかりに目を向けていても何も出来ないよ」

「はい……」

「今は目の前のことだけを考えるといい。フランツのこともそうだけど、そろそろ期末テストだろう? 勉強は捗ってる?」

「あ……」


 すっかり忘れてた。やばい。


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