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6.幕開け



 ゲームの攻略キャラは五人。

 そのうち絶対に選ばせてはいけないのがマリアの婚約者であるフランツ殿下ルート。



 このルートはどのエンディングを迎えてもマリアは死んでしまう。

 次に危ないのはマリアの兄であるレオナルドルートとヒロインの幼馴染であるノアルート。

 この二つのルートは、ヒロインとマリアが親友となるルートでもある。

 ヒロインを誘導するために関わりを持つことを考えれば悪くないと言えるが、事故にあったり死に至る病にかかる恐れがあるからできるなら避けたい。


 残るは魔法学教授のヘンリールートか騎士のリオンルート。

 この二つのルートに入ってしまえばマリアは死ぬことはない。


 ここを目指すのが安牌だ。


 本来はもう一つ隠しキャラのルートがあるのだが、私はそこまでプレイしていない。

 隠しキャラが誰なのか、そのルートでマリアがどうなってしまうのかわからない以上それを選ぶ訳にもいかない。


(そうなるとフラグ管理が大切ね。チャンスはいくつかあるけれど、できれば早めにルートを確定させてしまいたい)


 夏休みにヒロインが誰とどう過ごすかが鍵になる。


 なんにしてもヒロインが動かないとどうにもならないのだけど。

 しばらくは推しを愛でながら調査といきますか。





*****





 目の前にそびえ立つのは王立ヴィクトリア学園。


 貴族の子息令嬢だけでなく帝国中の優秀な人材が集まる学園とあって、クラウス領の屋敷とは比べ物にならないくらい大きく、そして優美だ。

 現在の時刻は六時半。もちろん朝の、だ。

 こんな早朝に来たのは初登校が楽しみだったからでは決してない。


 毎日会いに来る殿下に邪魔されながらもやれることはやってきた。

 不安がないといえば嘘になるが、それでもどうにか出来るのではないかという自信も大きい。


 私は門をくぐり目的地へ向かった。




 十分ほど歩いたところで花が咲き乱れる中庭に着く。

 そこは春の早朝にしては暖かく、どこか懐かしさをかんじさせた。

 なんとなくクラウス領の屋敷の庭に似ている気がする。


 ゲームはこの中庭からスタートする。

 ここに一本だけある桜の木にヒロインが話しかけているところに殿下が出くわすのだ。


(プレイ中は気にならなかったけど桜の木に話しかけるっていうのもなかなかの不思議ちゃんよね……)


 ヒロインは精霊の声が聞こえるという稀有な力の持ち主、という設定だ。

 桜の木を見つけたのも桜の木の精霊に導かれたからこそなのだ。


 この世界で精霊は神と同義だ。

 木や岩などの自然物に宿る精霊は、即ちこの世界そのもの。人間よりも上位の存在として認識されている。


 その精霊を見て話すことのできる人々をこの世界では精霊師と呼び、信仰の対象として崇拝されていた。

 エルザス帝国のあるこの大陸には精霊師を敬うフィデス教を国教としている国が多い。

 そしてこの帝国もそうだ。

 そのためフィデス教の影響は大陸中に及ぶ。


 これがマリアの記憶から得ることのできた情報。

 庶民出身で権力とは縁遠いと思っていたヒロインが実は一番の権力者になりえるなんて、ちょっとゲームのコンセプトが……。


 いや、これはもう気にしてはいけない。

 そういうものだと流しておくべきものだ。


(ヒロインの最初の目的は咲かなくなった桜の木を助けること……)


 これからヒロインは頻繁にこの桜の木に通うこととなる。

 そこで攻略キャラたちとの仲を育むのだ。


 キャラを的確に誘導するためにはまずこの中庭のどこに何があるのかを確認しなければならない。


 隠れ場所、魔道具を隠しておける場所、そして誘導ルート。

 ストーリーを知っているとはいえやり直しはきかないのだから準備はやりすぎるくらいでちょうどいい。


「それにしても、桜の木はどこにあるのかしら」



 ストーリーを知っていたとしても咲いていない桜の木を見分けることは至難の技だ。

 日本にいたときだって桜が咲かなければそれが桜の木だとは判別できなかったのだから。


(スチルではすこしひらけた場所みたいだったからすぐ見つかると思っていたのだけれど……失敗したわ)


 私は近くにあるベンチに寝転がった。

 こんな姿誰にも見せられないが、こんな朝早くに中庭に来る人などいないだろう。

 私はため息をついて身体をぐっと伸ばした。


(せっかく人がいない時間に調査しようと思って早起きしてきたのにこれじゃ無駄足ね。寝不足になっただけだった……)


 こうなったらイベント当日に殿下を尾行して場所を特定するしかーー。


「あの……」


 鈴のなるようなか細い声だ。

 声のした方を見ると可憐な美少女がそこに立っていた。


「大丈夫ですか?」


 とっさに動くことも喋ることもできなかった。


 だってそこにいたのは私のよく知っている人物、このゲームのヒロインだったのだから。




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