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171.夕食



 結局マビノギオンに行くことはできなかった。

 クリスが猛反対した挙句、屋敷にいたエリックもヨハンお兄様もそれに賛同して勝ち目がなくなってしまったからだ。

 ちょっとお買い物に行くだけなのにどうしてこんなに反対されなきゃならないんだ。


 で、久しぶりにクリスやエリックも含めた兄妹みんなで夕食をとった。

 完全にお店に行く気満々だったからとても不満だ。

 不満だけどもちろん態度に出したりなんかしない。身体の年齢は十五歳だけど中身は二十八なのだから。


 レオナルドお兄様の顔でも見て気を紛らわせたかったけど生憎彼は私の右隣にいる。

 ムカつくクリスは左隣だから顔を見なくていいのはありがたいけど、嫌いな人が隣にいるのはなんだか落ち着かない。

 エリックとヨハンお兄様は向かい側に座っている。

 ヨハンお兄様の目の前は考えていることを見透かされそうでちょっと不安だ。

 あれからルイス殿下との関係には触れてこないけど、絶対に疑われているし余計なことを言えば墓穴を掘ることになる。細心の注意を払わなければならない。


 食後に出されたハーブティーを飲み気持ちを落ち着かせる。


 明日ルイス殿下が帰ってからマビノギオンに行けるだろうか。

 メイドのお手伝い、もといお仕事体験は午前中で終わるし、それから一緒に昼食をとって少し一緒に過ごしたとしても余裕はあるはず。


 といってもお店がどこにあるのかわからないから本当に大丈夫なのかはわからない。もし帝都の端っこにあったら厳しいかもしれない。

 後からクリスに聞いておこう。


「そこまで拗ねなくてもいいだろう。そんなにくまのぬいぐるみが欲しかったのか?」


 無言で思案する私を見かねたのかヨハンお兄様が少し呆れたように声をかけてきた。


「拗ねていません」

「だがさっきからずっと黙っているではないか。みんなで集まれる機会はそうそうないというのに……」


 ヨハンお兄様は大袈裟にため息をついた。


「それはお兄様がずっと話しているからです。私が話す機会なんてなかったじゃありませんか」

「兄妹なのに気を使う必要は無い。俺が話していても気にせず話せばいいじゃないか」

「人の話を遮るような行儀の悪いことをしてもよいと習った覚えはありませんから」

「それは……確かにそうだな。じゃあ俺は少し黙るからマリアの好きなことを話すといい」


 ヨハンお兄様は笑顔で話すよう促してくれた。


 そんな雑な振りで、じゃあ話そう、なんて気持ちになるわけがない。

 ここにいる全員の視線が集まっている。別に話したいことがあるわけじゃないのに、話さないといけない雰囲気にされて非常に迷惑だ。


 まあこんな空気読まないけどね!


「結構です。話したいことなどありませんから」

「やっぱり拗ねているじゃないか」

「拗ねていません」

「二人とも少し落ち着いてくれ。ところで明日はルイが来るだろう? 午前はメイドの仕事を見学して、午後はどうするんだ?」


 エリックはため息混じりに言った。

 話題を提供してくれるのはありがたいけどその話をここでしたくはなかったなぁ……。


「……午後は今日行けなかったマビノギオンに行きたいと思っています」

「駄目だ。街のど真ん中で皇子とデートなんて許されると思うか?」


 クリスが間髪入れずに反対してきた。

 本当にいちいちうるさい。小姑みたいだ。


「デートなんてしないわ」

「マリアにその気がなくても家族以外の男と出掛けることをデートって言うんだ」

「なんでルイス殿下がついてくるのよ。マビノギオンには私一人で行くの」

「は……? ルイス殿下が来るんだろ?」

「来るけどそれは朝よ。お昼食べて少ししたら帰るでしょ」

「でも買い物行くんだろ? なんで一緒に行かないんだ?」

「なんで一緒に買い物行かないといけないのよ」


 私はゆっくり店内を見て回りたいのに。興味ない人が居たら邪魔だし満喫できないじゃん。


「二人は恋人なんだろ……?」

「だからって一緒にいないといけない決まりはないわ。私は一人がいいの」

「いやでもさすがにそれはちょっと……」

 

 皇子とデートは駄目だと言ったくせに、デートしないと言ったら非難するような目で見てくるの、意味わからないんですけど。

 私変なこと言ってないよね?


 周りを見るとレオナルドお兄様とエリックは若干呆れたような表情をしていた。

 ヨハンお兄様は楽しそうに笑っている。


 なんかひっかかるけど、一々気にしてたら何も進まない。


「そういえばマビノギオンがどこにあるのかクリスは知ってる? ここからすぐに行けるかしら」


 明日の午後に行くつもりだけど今日みたいに夕食に間に合わないからと行かせてもらえない事態は避けたい。

 最低でも二時間はお店に居られるように調整しなければ。


「マビノギオンは噴水広場の北側にあるな。マリアが前に行きたいって言ってたアイスクリームの店の二軒隣だ」

「噴水広場の……」


 一週間前の出来事が脳裏を掠めた。


「ルイが行かないのであれば俺がついて行こう。エリックとクリスと俺でぬいぐるみ六個は持てるな」

「そこは屋敷に送らせればいいだろ。それにヨハンは伯爵家の夜会に参加する予定だったじゃないか。マリアの買い物に付き添っていたら間に合わなくなるぞ」

「夜会より愛する妹の付き添いの方が遥かに大事だ。そもそも夜会に参加したところで笑って適当なことを話すだけだしな。レオはどうする?」

「俺は…………予定を調整しておきます」

「兄妹みんなで出掛けるのは本当に久しぶりだな。子供の頃ピクニックに行ったっきりか」


 ヨハンお兄様はまた勝手に話を進めている。

 私は慌ててお兄様に声をかけた。


「やっぱり明日はマビノギオンには行きません」

「マリア……?」

「よくよく考えたら、ルイス殿下がせっかく来てくれるのに早々に帰して出かけるのも失礼だし……。恋人と会えるのだから二人で過ごさないといけないでしょう?」


 私達は付き合いたてのカップルなのだ。

 ずっと一緒に居たいと思うのが普通だろう。偽の恋人だけど、ちゃんと恋人らしく振る舞わなくてはいけない。

 まぁルイス殿下は忙しいだろうからすぐ帰るかもしれないけど。


「さっき一緒にいないといけない決まりはないって言ってたじゃないか」

「決まりはないけどこういう時は恋人を優先するべきでしょう。なので諦めます」

「なら明後日みんなでマビノギオンに行こう」

「いえ、行きません。ぬいぐるみは送らせればいいのです。わざわざお店に行って時間を無駄にする必要はありませんから」


 ここは譲らない。

 だって私まだ夏休みの宿題終わってないし。

 お兄様とリリーのデートプラン考えないといけないし。

 あとこの歳になっても兄妹仲良くお出かけなんて変だと思うし。


 だから絶対に行きたくない。


「それよりクリスはエルゼ様に会いに行かなくていいの?」


 恋人は大切にするものだ。

 私と違って本当の恋人なのだから。というか恋人をほっぽり出して従妹の家に入り浸るって最悪だ。


「俺のことはいい。それよりルイス殿下と過ごしたいなら尚更みんなで一緒に行けばいいじゃねぇか」

「デートするなって言ったのは貴方でしょう?」

「こんだけ大所帯でデートになるわけねぇだろ」

「……この歳になって兄妹でお買い物なんて嫌なの。とにかく明日も明後日も行かないわ」

「ならヨハンとレオナルドは置いて行けばいい」

「行かないって言ってるのにどうしてそこまで行かせようとするのよ」


 諦めないクリスにイライラしてきた。

 

 

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