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170.お茶会3



 馬車に戻ると待っていてくれたクリスが呆れたような顔になった。


「まさかとは思うが……」

「もちろん言い返したわよ」


 本来のお茶会が終わる時間よりもずいぶんはやく戻ってしまったから誤魔化すことなんてできない。

 開き直って笑顔で言ってやった。


「やるなって言っただろ」

「終わったことについてとやかく言うのはやめて。もうどうにもならないことよ」

「だからってな」

「それよりエルゼ様はまだ残ってるわ。私はやりたいことがあるから先に帰るけどクリスはここで待つ?」


 お茶会での話をクリスに説明したくなくて話を逸らした。

 けれど恋人の事なのにクリスは嫌そうな顔をした。


「なんでそうなるんだよ。俺は姫様の護衛でここにいるんだぞ」

「クリスはエルゼ様の恋人なのでしょう? せっかく会えるチャンスがあるのだからデートしてくればいいじゃない」

「いい。そんな関係じゃねぇし、俺は姫様の傍にいないといけねぇし」

「無理しなくていいわよ。私のことは気にしないで。一度屋敷に戻ってちゃんと護衛を連れて出掛けるから」


 恋人のいる従兄を私の都合で連れ回す嫌な女になりたくない。

 夏休みなんだしデートして思い出を作らないと。

 クリスの代わりはいくらでもいるのだ。公爵家には沢山騎士がいるんだから。


「ん? 今日はもう予定入ってないだろ。どこに出掛けるんだよ」

「えっと、……確かマビノギオンっていうお店。今くまのぬいぐるみが流行ってるんですって」

「ああ、あれか……。姫様だって一体持ってるだろ。もう一体欲しいのか?」

「持ってるって……あ、もしかしてベッドのくまちゃん、マビノギオンのくまだったの?!」

「ああ。名前は何だったかな……。ガウェイン、だったと思う」


 まじか。めちゃくちゃ有名どころいたわ。


「一人だと寂しいと思うの。早くお友達をお迎えしてあげないと」


 騎士なんだから王がいないとね。

 早く推し(仮)に会いに行きたい。今からなら夕食の時間を遅らせてもらえば行けるはずだ。


「とにかく、クリスはここでエルゼ様を待っててあげてね」

「待たねぇっつってんだろ。あいつも暇じゃねぇんだし。早く戻るぞ」

「え、でも顔を見るだけでも……」

「必要ない。ここで俺と話すとあいつに迷惑がかかる」

「でも……」

「いいからほら、馬車乗るぞ」


 クリスに急かされて馬車に乗り込んだ。

 不満だったけど、確かにここで二人が会うのは少しややこしい事になるかもしれない。

 明日以降クリスに自由時間を作ってあげてデートに行ってもらわないと。付き合いたてのカップルが夏休みにデートしないなんて有り得ない。 


 私の向かい側に座ったクリスが小さくため息をついた。 


「で、マビノギオンに行きたいんだったか。今から行くと夕食の時間に間に合わない。行くなら明日にしろ」

「時間をずらせばいいでしょ。お兄様達とは一緒に食べられなくなるけど……少しくらい遅くなっても大丈夫よ」

「駄目だ。今日は諦めろ」

「でも明日だってメイドのお仕事をするっていう予定があるのよ。それにルイス殿下も来るっていうし……」

「はぁ?! ルイス殿下が来るなんて聞いてねぇぞ」

「あれ、言わなかったっけ。あ、エリックとヨハンお兄様にはちゃんと話してるわよ」


 昨日の昼食のときにルイス殿下本人が二人に話していた。

 だからフランツ殿下の時のように突然皇子がやってきて慌てる、なんてことにはならないはずだ。

 …………まぁ知らされてないのは私だけで、サラをはじめとした使用人のみんなは事前に教えて貰えるみたいなんだけどね。


「なんでそんな面倒なことになってんだよ……。ルイス殿下はフランツみてぇに一緒にお菓子作るとか言い出さねぇよな?」

「う、うん。そんなことするような人じゃないと思う」

「そもそも何しに来るんだ?」

「えっと、私に会いに……かな」


 そう言うしかないんだけど自意識過剰な感じがして恥ずかしい。

 クリスは私の答えに不満だったのか眉間に皺を寄せた。


「昨日会ったばかりじゃねぇか」

「それはそうだけど……。あ、明日は皇子として来るんじゃなくて私の恋人として来るから気を使う必要はないって」

「何寝ぼけた事言ってんだ。皇子は皇子だろ。気を使うに決まってんだろ」

「な、なんでそんなに怒ってるの……? 相手は皇子なんだけど……」

「皇子だろうが何だろうが姫様を都合良く利用しようとしてる男に変わりないだろ」

「べ、別に利用されてるわけじゃ」

「何にしても来るならヨハンとエリックに相手させとけばいいな」

「それはダメよ。私と話せなくなるじゃない」


 ルイス殿下は二人がいると恋人である私そっちのけで楽しそうに話す。

 偽の恋人だし気持ちはわかるけど、放置される私のことをもう少し考えてほしい。大好きな兄達を取られて、しかも会話に混ざれず笑顔で眺めていることしかできないのは凄く辛いのだ。


 それに明日ルイス殿下が来るのはエルフの事を確かめるためだし、二人がいると差し障りがあるかもしれない。


「そんなにルイス殿下の顔が好きなのか。部屋に肖像画でも飾るか?」

「だからそうじゃないって言ってるじゃない」


 クリスは本当に私の話を聞かない。

 やっぱり護衛役替えてもらおうかな。公爵家の騎士は沢山いるのだから皇子のどちらにも肩入れしていない人物なんてすぐ見付かるだろう。

 そもそも普通の騎士が皇子に肩入れも何もないけど。


 見聞きしたことを報告するだけなら誰でもいいはずだ。


「はいはい。姫様がなんと言おうと俺は絶対に離れないぞ。二人の会話は全部公爵様に報告するしルイス殿下が姫様に触れるのは許さないからな」

「……なんだか前より厳しくなってない?」

「はは、そりゃな。誠実じゃない奴にはそれ相応の対応をするべきだろ」


 ダメだ。

 もうヨハンお兄様のせいで完全にバレてしまっている。でも認めるわけにはいかないからシラを切り通さなければ。


「皇子に対して誠実じゃないなんて不敬よ。昨日から何度も言ってるけどヨハンお兄様の話は当たってないから。ぜんっぜん違うから! ちゃんとルイス殿下は、わ、私を、好きになって」

「はいはい。それより帰りついたらまた歩くからな」

「ちょっとちゃんと話…………え、なんで歩くの? お茶会の後は時間がないだろうからって昨日沢山歩いたじゃない」

「早く帰れたから時間できたろ」

「え……でも……」


 それじゃ私の昨日の頑張りは何だったのか。

 今日また歩くなら頑張らなくてよかったじゃん。それにもともと歩く予定じゃなかったんだから無理して歩かなくても……。


 困惑する私を見てクリスはわざとらしくため息をついた。


「ああ、姫様は怠けたいんだな。残念だが毎日頑張らないと痩せないぞ。お腹が気になってんだろ? コルセットで誤魔化すにも限界はあるからな」

「なっ、ちょっと! 誤魔化せないほど太ってなんてないから!!」


 真顔で諭されて、思わず声を荒らげてしまった。

 何でムカつくことしか言わないんだ。大切な人だと思ったけどやっぱり嫌いだ。

 こんな憎まれ口しか叩かない護衛なんていらない!

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