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168.お茶会



 エーベルト侯爵家は力のある貴族である。

 ダイヤモンドの鉱山を保有していることと腕のいい宝石職人を何人も抱えているために国内でも五本の指に入るほどの資産家だ。

 資産の総額だけならクラウス公爵家より上だろう。


 今日のお茶会はエーベルト家の一人娘であるゲルダが主催している。彼女は私より二つ上の三年生で鮮やかな金髪のキツめの美人だ。

 私の好みのタイプだ。私が男なら絶対に彼女を好きになっていただろう。


 私がお茶会の会場である庭園に通された時、丸いテーブルの八席中七席が埋まっていた。

 つまり私が最後。来るのが遅かったのだろうか。

 いや、問題ないはずだ。だってまだお茶会の時間になってないし。


 さりげなくお茶会に集った令嬢達を見回す。

 …………やばい、ほとんどの人の顔がわからない。

 確か今日来ているのは学園の生徒だけ。親しくなくとも貴族令嬢として顔と名前は知っていなければならない人達だ。

 これはまずい。

 認識できない人とは当たり障りのない話だけをするようにしなければ。


「本日はお招きいただきありがとうございます」

「お久しぶりですね。あれからお変わりはありませんか? みなマリア様とお話できるのを楽しみにしていました」


 彼女と話したのは期末テスト直前だった。

 婚約解消のことを心配して声を掛けてくれたことがきっかけでこのお茶会に参加することを決めた。

 別に彼女の顔が好みだったからではない。

 いや、少しはあるけれど、マリアとして過ごす以上社交の場に全く関わらないということはできない。そのときに少しでも助けてくれる人を作りたかった。



 座るよう促されたのはゲルダの隣。


 わー、特等席だー。

 なんて遠い目をしている場合ではない。

 身分からすればそうなるんだろうけど、私は彼女と親しくもないし初めての参加なのだ。少し離れた場所でにこにこ相槌を打つ係がよかった……。


 私が着席するとゲルダの侍女らしき女性が彼女に耳打ちをした。


「皆様、マリア様からクラウス領の果物を使ったフルーツタルトをいただきました」


 ゲルダの言葉で周囲の令嬢が口々にお礼の言葉をくれた。

 しかし顔がわからないからまともに話せる気がしない。曖昧に微笑んでお茶を濁す。

 クリスの彼女であるバーナー子爵家のエルゼは私の向かい側に座っている。

 少し話しにくいな。



 ゲルダの目的はクラウス公爵家との繋がりを得ることで間違いないだろう。

 彼女の今の立ち位置は不安定だ。

 これまでは誰もがゲルダが婿をとって侯爵家を継ぐのだと思っていた。なのに侯爵の血を引く男子が突然あらわれた。

 女性は爵位を継ぐことができない。だから何もしなければ件の弟が次期侯爵となるのだろう。


 しかし彼は貴族としての教育を受けていない。

 一方ゲルダは侯爵家の跡継ぎとしての教育を受け、社交界での地位も確立している。母方の祖父は健在で歴史のある伯爵家。

 女性であるということ以外欠点がないのだ。


 逆に言えば、その女性であるという欠点が何よりも大きい。


 だからこそ彼女は有力貴族との繋がりを作らなくてはならない。

 仮にエーベルト侯爵がゲルダを切り捨てたとしても、彼女自身に価値があればいい嫁ぎ先を見つけることができる。


 そして私は最低限の社交をこなす為の味方が欲しい。

 気の利いた事を言えなくても、多少失敗しても上手くフォローしてくれる人が必要だ。

 そしてその相手はクラウス公爵家と関わりのない人でなければならない。でなければふとした瞬間に漏らした言葉がお父様や殿下に伝わってしまう。


「マリア様は最近人気のくまのぬいぐるみをご存知ですか?」


 右斜め前に座っている令嬢から問いかけられた。


「くまのぬいぐるみ……? 何故ぬいぐるみが人気になるのでしょう?」

「そのぬいぐるみはただのぬいぐるみではないのです。それぞれに名前と物語があります。みなお気に入りの物語のくまがいるのです」


 私の質問に答えてくれたのはその隣の令嬢だ。


 みんなお気に入りのくまがいる。

 つまり推しのキャラがいるってことか。

 誰かと仲良くなる切っ掛けに使えるかもしれない。


「ゲルダ様のお気に入りのくまにはどのような物語があるのですか?」

「私のお気に入りの子はガラハッドという名前で優れた武勇を持つ騎士です」

「ガラハッド……。他にはどのような名前の子がいるのですか?」


 名前と騎士という設定に既視感を覚えて尋ねると、ゲルダは少し困ったように笑って答えてくれた。


「ごめんなさい、全員は覚えていませんの。でも、私が知っているのはランスロット、トリスタン、パーシヴァル、ガウェイン……。確か全部で十三匹のくまがいたはずです」


 歓声を上げたくなるのをなんとか堪える。

 アーサー王物語じゃん!!!

 え、こっちにもあるの?

 じゃあアーサーもいるのかな。いるよね。

 昔ソシャゲに二十万課金してようやくお迎えした推しのアーサー。ものすごく強いというわけではなかったけどお顔も声も最強だった。

 こんなところにいるなんて。

 別のキャラとわかっていてもなんだか嬉しい。


 けれど今は貴族令嬢達のお茶会の最中。はしゃぐのはご法度だ。


「そのくま達はマビノギオンというお店で手に入れることができます」

「お店ではくまの小物やお洋服、そしてお揃いの布をつかったドレスを仕立てることができるのです」

「素敵ですね。近いうちにお店に行ってみようと思います」


 アーサーをお迎えするために!

 金髪翠眼だといいな。いやでもくまのぬいぐるみに髪はないか。

 ぬいぐるみの大きさはどのくらいだろうか。全員お迎えして毎晩一緒に寝たい。

 推し(仮)とその仲間に囲まれて眠ることができるなんて最高だ。


 お茶会が終わって買いに行く時間は……ちょっと微妙だな。

 でも推し(仮)に会うためだし多少の無理は仕方ない。よし、絶対に今日行こう!

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