表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/188

167.散歩



 エリックもいないしお兄様もいないから今日はクリスと二人で散歩をすることになった。

 ルートは今回もクリスが勝手に決めた。今日は敷地内をぐるっと一周するんだそう。




 公爵邸の敷地はどこも緑が豊かで爽やかだ。

 つまりどこにいっても虫や爬虫類に出くわす可能性が高い。


 今日は守ってくれる人がクリスしかいない。

 仕方ないからクリスに半ばくっつくようにして歩いている。どこから虫が飛んできてもクリスを盾に出来るように、だ。


 これまで三回のお散歩のうち二回も蛇に遭遇しているためにこの体勢で歩くことに文句は言われなかった。

 仮に何か言われても離れることなんてしないしできないんだけど。

 彼女がいる従兄にこんなことするのは良くないってわかってる。わかっているけど離れて歩く勇気は無い。


「お姫様はルイス殿下とヴォルフ侯爵の顔が好きなんだろ? 他には誰の顔が好きなんだ? リオンの顔は何番目だ?」

「…………私の事、男性を顔でしか判断しないダメな女だと思ってる?」

「まさか。でも顔を重要視してんだろ?」

「してないわよ。一緒にいたいかどうかが一番重要だと思っているわ」

「へぇ、案外普通なんだな」


 本当に失礼だな。

 顔だけで判断するなら真っ先にルカを選んでたし、殿下よりお兄様にくっついて回っていただろう。

 二人ともそうしたくない理由があったからそうならなかった。顔だけ見ているわけではない。


 ……そりゃ見とれることはあるよ。

 ルカは私の事好きって言ってくれるしくっついてくるし、どこから見ても顔はいいし。

 ルイス殿下もやたら迫ってくるし。


 でもだからって好きになるわけではない。


「で、俺やレオナルドは何番なんだ?」

「……お兄様は三番、クリスは…………選外よ」


 クリスの顔は好みではないけど整っているとは思う。

 顔を認識できない人の中に私の好みど真ん中の人が大量にいない限り普通に上位に入るだろう。


 でも本人の前でそれを言うのは恥ずかしいので選外にした。


 それはかなり失礼な評価だと思うけれど、クリスはあまり気にしてないのか軽く笑った。


「うわ、ひでぇな。てかレオナルドの顔そんなに好きなのか。ブラコンだと思ってはいたが重症だな」

「ブラコンじゃなくて客観的な評価よ。お兄様はかっこいいもの」

「はいはい。じゃあフランツは何番なんだ?」

「殿下は…………」


 一番はルカとルイス殿下、三番がお兄様。

 次はリオン、アレク、エリック。だから……。


「七番……かしら」

「意外と低いな。あんなになるほど好きだからもっと上だと思ってた」

「だから顔で選んでるわけじゃ…………べ、別にもう好きじゃないんだから!」

「はいはい。そうだな」


 クリスは私の抗議を軽く流した。


「もう、ちゃんと私の話聞いてよ。クリスはいつもそうよね。私の事そんなに嫌い?」

「はは、俺の一番はお姫様だよ。それよりエーベルト家の事情はサラから聞いたか?」

「えっ、…………えっと、昨年の夏に前侯爵夫人が亡くなって……春に再婚してゲルダ様に四つ下の弟ができたって……」


 お茶会に参加する以上は主催者のことをある程度知っていなければならない。

 以前聞いたサラの言葉を思い出しながら答えた。

 一応他の参加者についても少し聞いているはずだけどあまり覚えてない。夜にもう一度確認しておこう。


「ああ。再婚相手は娼婦で弟は侯爵の血をひいてるらしい。……だからエーベルト家のゲルダ嬢は婚外子に対して冷たいんだそうだ」


 再婚相手が現れなければ婿をとって侯爵家の跡継ぎになるはずだったのに、突然あらわれた弟に全てを奪われた。

 気持ちはわからなくもない。


「俺やエリックの事で何か言われても絶対に言い返すなよ」


 そんなこと言われなくてもわかっている。

 ただでさえ面倒な状況にいるのだからこれ以上厄介なことを抱えたくない。


「言い返すに決まってるじゃない。どうしてそんなこと言うのよ」


 なのに口から出たのは正反対の言葉だった。


「同年代の令嬢と仲良くなるのはこれからの姫様のためにも大切な事だ。俺達の事で余計な対立を作ることはない」

「嫌よ。私の大切な人を悪く言う人と仲良くする必要はないわ。それにクラウス公爵家の人間がどうして他家の令嬢の顔色を窺わなければならないの?」

「身分の高さと社交界での評判や立ち位置は別だ。姫様が皇子の婚約者になることを本当に望んでいるのなら、最低でも社交界の中心人物と親しくなる必要がある」

「少し前まで『皇子の婚約者』だったけれどそんなこと言われなかったわ」

「フランツも公爵様も過保護だからな。姫様は人見知りだし社交が得意だとは思えない。けれど皇族の伴侶になりたいなら最低限の立ち回りはできなければならない」


 別に私は皇子と結婚したいわけではないのだけれど、その忠告は全て私のための言葉だ。

 無下にするのは良心にもとる。


「…………わかったわ。クリスの言う通りにする」

「ああ。明日は楽しんでくるといい。俺は屋敷内に入ることはできない。それでも何かあればすぐに駆け付ける」

「何もないわよ。そういえば体調はどう? そろそろ熱が下がる頃でしょ」

「問題はない。まだ熱はあるが……少なくとも少し歩いた程度で疲れ果てる姫様より元気なのは確かだな。俺の事心配するふりして部屋に戻ろうとしても無駄だぞ」

「あ、酷い。そんなこと思ってないのに。私はただクリスのことを心配してるだけなのよ」

「はいはい。ほら、もう少しで北の薔薇園に着くぞ。少し休憩しような」


 雑に流されてムッとする。

 私はクリスの忠告を受け入れたのに、どうしてクリスは私の言葉を流すのか。


「そんな顔するほど疲れたのか? 俺はフランツみたいに過保護じゃないから抱いて歩いてはやらないぞ」

「そんなことしてほしくないわよ!」


 本当にクリスと話すとイライラする!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ