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163.兄との再会3



 結局エリックが取り成してくれて昼食は何事もなく終わった。

 三人は和やかに会話を楽しんでいたけれど、私は楽しく歓談なんてできるわけもなく、笑顔をキープしつつ聞き役に徹していた。

 おかげで何を食べたのかよくわかっていない。たぶん美味しかった……はず。



 食事が終わって応接間へ移動する。

 これから本当に尋問がはじまるのだろう。処刑台に向かう囚人の気分だ。


 私の隣にルイス殿下、正面にヨハンお兄様、左隣にエリックが座る。

 執事が紅茶をいれ、退室した後にヨハンお兄様はゆっくりと口を開いた。


「今日俺がここへ来たのは二人の話を聞きたかったからだ。ルイは本当にマリアと結婚したいのか?」

「当然だ。でなければこんなことはしない」

「結婚などしないとあんなに言っていたではないか」

「ああ。だがそれはお前も同じだろう? あんなに嫌がっていたのに結婚することを選んだ」

「俺が逃げればレオやマリアに皺寄せが行くからな」

「……お前はそれがわかっていたのにあれだったのか」


 ルイス殿下は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「当時は何も考えていなかったからな。で、卒業後に父上に脅された。だから俺が結婚するかわりに二人は好きにさせるよう条件を出したんだ」

「ならこうやって問い詰めに来る必要は無いだろう。何のために来たんだ?」


 その問いにヨハンお兄様は目を細めて綺麗に笑った。


「もちろんマリアの意思を確認するためだ。相思相愛だったフランツとの婚約を解消したということはマリアは結婚したくなかったんだろう? なのに何故お前と婚約するという話になるんだ。普通に考えておかしいじゃないか。お前はマリアが同意していると言うが本当は無理やり頷かせたんじゃないのか?」

「そんなことはしていない」

「お兄様、私は私の意思でルイス殿下と婚約することを決めました。決して無理強いされたわけではありません」


 二人の会話に入るのは少し怖かったけれど、この事は私から言わなければならない。

 けれどヨハンお兄様の視線が私に向けられて、少しだけ怯んでしまった。


 ヨハンお兄様と会えて嬉しい。話せて嬉しい。

 けれどやっぱり恐怖はなくならない。


「結局皇子と結婚するのならフランツでいいじゃないか。まだ好きなんだろう?」

「えっ、い、いえ、そうでは」

「それにフランツは何かあったときに必ずお前を助けてくれる。どんなことがあっても最後までお前の味方でい続けるだろう。信頼できて好意もあるなのなら拒む理由は無いじゃないか」


 お兄様は私の答えを聞くことなく話を進める。

 質問した形になってはいたが、私がまだ殿下を好きなことはお兄様の中で確定なんだな。

 間違ってはいないけどせめて否定させてほしかった。


「俺もどんなことがあってもマリアの味方でいるつもりだが」

「お前にはそれを信じられるだけの実績がない。それに人の気持ちは変わるものだ。お前が急に結婚すると言い出したようにな。もしそうなったときに不幸になるのはお前ではなくマリアだ」

「お兄様……」


 マリアのことを大切に思ってくれている。

 もちろんわかっていたことだ。私の意思を確認するためだけにわざわざ帝都まで来てくれたのだから。

 それでも目の前でお兄様の口から私を気遣う言葉を聞いたらまた泣きそうになってきた。


「それは俺だけの話ではないだろう。お前は将来心変わりするかもしれないという理由でマリアの結婚に反対し続けるのか?」

「もちろんだ。兄だからな」


 晴れやかな表情でお兄様は頷いた。

 堪えていた涙が一瞬でひっこんだ。重度のシスコンだとは知っていたけどやりすぎじゃない?

 ちょっと引いてしまった。



 なんというかお兄様の会話は疲れる。普通はこう反応するだろう、という予想がことごとく裏切られているからだ。

 斜め上すぎる答えに思考が追いつかないうちに会話が進んでいき、精神的な疲労感がどんどん積み上がっていく。


 マリアの記憶の中ではそんなことなかったのに。

 目の前にいる人がヨハンお兄様だとは思えない。一方で目の前の人が間違いなくヨハンお兄様だという確信もある。


 ルイス殿下は呆れたように眉間に皺を寄せてため息をついた。

 見かねたエリックが苦笑しながら口を挟む。


「ヨハン、少し落ち着いたらどうだ。二人とも呆れて何も言えなくなっているぞ」

「嘘をついても仕方ないだろう。それに二人の関係に疑問を抱いているのは俺だけではない。せっかくここまで来たんだ。聞きたいことは全て聞くつもりだ」


 どう誤魔化すのが一番いいのだろうか。

 昨晩色々と考えてみたけれど、ルイス殿下との関わりが薄いせいで何を理由にしても説得できる気がしない。

 気持ちなんて形のないものは証明しようがないから最終的にルイス殿下のことが好きになったと言い張ればいい、と前向きに考えるしかなかった。

 まあ実際に見た目はすごく好きだし。好きという感情にも色々あるから間違ってはいない。


「一応もう一度聞いておくが、本当にルイとの婚約はマリアの意思か?」

「はい。誰にも強制されていません」


 私は私の意思で彼の計画に協力することを選んだ。元の世界に帰るという私の願いを叶えるために。

 そして彼を好きになると決めた。


 ヨハンお兄様は困ったように眉尻を下げた。


「……ルイはどうしてマリアなんだ?」

「マリアは……俺を皇子扱いしないからだ。過去の功績や身分を重視せず、とってつけたような褒め言葉もない。それに考え方や価値観を好ましいとも感じる。疑う必要もなく、俺が間違ったときにも正しい方向へ導いてくれる。……これからもずっと隣に居てほしいと思っている」


 ルイス殿下の表情は真剣だ。


 私が彼にとってのおもしれー女枠なんだと言うことをますます実感した。これはどうにか修正しなければ。

 マリアは美少女なんだからおもしれー女枠は似合わない。そういうのはヒロインであるリリーで十分。

 これからは淑やかで落ち着いた女性像を目標に頑張ろう。

 そう決意を新たにしてヨハンお兄様の方を伺うと、何故か真剣な表情になっていた。


「そうか。…………本気なんだな」


 お兄様はゆっくりと息を吐き出した。


 こんな理由で本当に理解できたの??

 陛下とお父様に説明した時よりひどいのに。

 おもしれー女の説明を抽象的に、そして無理やりポジティブに解釈しただけの説明だ。具体的なことは何も無かったしそもそも本当に褒めてるのかも怪しい。

 功績や身分を気にしないって貴族としては明らかにやばい人だもんな。

 普通はそんな人とは関わり合いたくない。けど私はそんな人間に見えているらしい。最悪だ。


 でもヨハンお兄様だけでなくエリックもそれで納得したのか、ヨハンお兄様に慰めの言葉を掛けている。


 なんで???

 こんなので納得するのなら手紙でよかったじゃん。


「ルイの気持ちはわかった。だが」


 ヨハンお兄様が次の話をしようとしたその時、コンコンという扉をノックする音が応接室に響いた。

 殿下とレオナルドお兄様とクリスが来たようだ。


 

 

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