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162.兄との再会2


「今日は臣下としてではなく、マリアの兄として会いに来たんだ。どうしてお前に気を使わなければならない」

「お兄様!?」


 面倒くさそうに言い返すヨハンお兄様にぎょっとした。

 相手は皇子なんですけど!?

 そりゃ私も結構言いたい放題言ったことあるけれど、それは二人きりのときの話で、人の目があるときにはそんなことしない。

 ルイス殿下は皇子で公爵家である私たちは皇家に仕える立場なのだ。再従兄弟とはいえ外でそんな態度はよろしくない。

 慌てて辺りを見回すと私たち以外に人はいないようだった。

 よかった。誰にも聞かれてない。


 ヨハンお兄様ってこんなこと言う人だったっけ??


 いや、そんなこと考えてる場合じゃない。ルイス殿下に謝らないと。


「ごめんなさい! 私のせいだから、その……怒らないで……」

「……別に怒ってなどいない。ヨハンは友人だ。そんなに怯えるな」


 ルイス殿下は私の手を引いて抱き寄せ、慰めるように背中を優しく撫でてくれた。


「随分早い到着だな。午後に到着するのではなかったか?」

「ああ、その予定だったが昨日の夜ここに来ることを説明した際にディアナと喧嘩してしまったんだ。気まずいから予定より早く出発した」


 ヨハンお兄様はけろっとした顔で言った。


 夫婦喧嘩したの??

 その喧嘩の原因って間違いなく私の事だよね!?

 私とお義姉様の仲がますます悪くなるじゃん!

 お兄様がシスコンなせいでお義姉様に恨まれてるのに。

 私になる前、マリアはどうにかお義姉様と仲良くなろうと努力していた。その努力は実を結ばなかったけれど、でもそれを知っている私はヨハンお兄様の行動が許せない。


 けれどマリアはどうだろう。

 大好きなお兄様がわざわざお義姉様と喧嘩してまでマリアのためにやってきてくれた。

 喜ぶだろうか。それとも私と同じように怒るだろうか。


 その疑問に答えてくれる人はいない。


「結婚してもお前のそういうところは変わらないんだな。昼食はまだか?」

「ああ。だが気にしなくていい。お前とマリアの話を聞いたらすぐに帰るつもりだ」

「そういうわけにはいかないだろう。昼時に来ておいて食事をとらないなどと言うのは俺の面子を潰したいのか?」

「そのような意図はないのだが……ルイがそこまで言うのなら仕方ない。それよりさっさとマリアから離れてくれないか。くっつき過ぎだ」


 笑顔で近寄ってきたヨハンお兄様は私からルイス殿下を引き剥がした。

 そのやり方がとても雑で、友人といえどもさすがに酷いのではと思わなくもない。

 そのまま私を片手で抱きしめつつルイス殿下を牽制するように睨みつけた。


 ふわりとあの甘い香りがする。

 やっぱりこの香水、流行ってるのかもしれない。


「……過保護すぎないか?」

「兄だからな」

「エリック……」


 困惑した顔でルイス殿下はエリックの方へ顔を向けると、エリックはいつもの笑顔で当然のように答えた。


「諦めろ。マリアと結婚するのならヨハンが義兄になるんだぞ。そうなったらこの程度じゃ済まない」


 ルイス殿下はショックを受けたような表情になった。

 いやいや、結婚しないじゃん。そんな顔しないでよ。


「お前が本当にマリアと結婚したら毎週マリアが幸せかどうかを見に行くからな」


 ヨハンお兄様は笑顔でとんでもない事を言い出した。

 そんなの誰が相手でも嫌がられるやつだ。

 さすがに酷すぎる。


 ルイス殿下はため息をついた。


「……冗談を言っていないで中に入るぞ」

「冗談のつもりは毛頭ないんだが」

「そこまでにしておけ。そんな先のことをここで話しても仕方ないだろう」


 言葉を続けようとしたヨハンお兄様をエリックが制止し、そのまま離宮の中へと歩を進めた。



 ルイス殿下はヨハンお兄様に振り回され、いつもの落ち着いた彼とは雰囲気が違っている。

 もちろん私もお兄様の発言にビックリしてどう反応すればいいのかわからなくてちょっと混乱していた。

 ヨハンお兄様ってこんな人だったっけ?

 マリアのことを溺愛してはいたけれど、こんなふうになるような人ではなかったはずだ。


「マリア、今日のドレスは今までのものより大人びているな。とてもよく似合っている」

「ありがとうございます。帝都に来たのでこれまでとは違うドレスを着たくて……。このドレスは生地の色も形も私が指定しました」

「そうか。マリアにはドレスをデザインする才能があるのだな」


 ちょっと大袈裟すぎるけれど、でも褒められて悪い気はしない。

 実際に今着ているドレスは私がマリアに一番似合うようにとかなり口を出して作ってもらったお気に入りのドレスだ。

 今日これを選んだのはヨハンお兄様と会うからで、お兄様に褒めてもらうために選んだ。

 もちろん年上のルイス殿下に合わせるためでもある。私たちはこれから周囲の人全員に婚約を認めてもらわなければならないのだから。


 ルイス殿下はエントランスに居た使用人に声をかけている。

 突然人数が増えてしまって使用人は困るだろうな。

 少し申し訳ない。私のせいではないけれど……いや、お兄様がここにいるのは私とルイス殿下に会うためだから半分は私のせいか。


「マリアはルイのことをどう思ってる?」

「…………優しくて頼りになる方だと思っております」


 ヨハンお兄様からの突然の問いに驚いたが、落ち着いて正しく答えられた……と思う。

 まだ好きではないけれど、信頼出来る人だと思うしできることなら力になりたい。

 私のことを受け入れてくれているし、顔も声も好きだし一緒に居て安心出来る。

 うん、好きになれる要素しかない。皇子だし私の願いを尊重してくれてるし超優良物件ってやつだ。


「なるほど。あいつはお前によく見られようとカッコつけてるんだな」

「お兄様!?」


 何を言い出すんだ、この人は。

 どうしてそんな結論が出るのか。優しくて頼りになるという答えがそんなに気にくわなかったのか。

 というか本当にこの人はヨハンお兄様なんだろうか。優しくて穏やかで私たちのお手本になれるようにと努力していた兄の姿とはまったく重ならない。

 見た目はヨハンお兄様そのものだ。

 でも中身が全然違う。


「好きなの女性の前でカッコつけて何が悪い」


 使用人に指示を出し終わったルイス殿下が不機嫌そうな表情で会話に割り込んできた。

 お兄様の言葉を聞かれていた……!


「だが一生を共にする相手に嘘をつくのはよくないな。マリアのことを本当に想っているのなら隠し事をするべきではない」

「その話は後にしろ。こんな場所で立って話すことではないだろう」


 ルイス殿下とヨハンお兄様の話はエリックのおかげで中断した。

 そのままダイニングルームへと案内される。

 



 気まずい。どうしていいのかわからない。


 そういえば私になってからヨハンお兄様と一緒に食事をとるのは初めてだ。

 向こうにいた頃は仮病だったり怪我だったりでほぼ自室で食べていたし、殿下が来てからは二人で食事をとっていた。

 ヨハンお兄様がお義姉様との関係を見て気を使ってくれていたのだと思う。

 それに殿下との婚約のリミットも迫っていたから二人の仲が良くなるように、というのもあったのかも。




 ヨハンお兄様はいつもマリアを気遣ってくれていた。


 だからきっとルイス殿下との婚約の話を聞いて暴走してしまっているだけで、落ち着けばいつもの優しくて思慮深いお兄様に戻るはずだ。



 広いダイニングテーブルには四人分のカトラリーとグラスがセットされていた。

 早い。いつ準備したのだろう。

 やっぱりここで働くのだからみんな仕事できる人なんだろうな。


 


「食事のときくらい楽しい話をしよう。マリアはルイのどこが気に入ってるんだ?」


 ヨハンお兄様はとびきり綺麗な笑顔でそう言った。

 それは本当に楽しい話だと思ってるのかしら。

 ルイス殿下の部分を本当に好きなフランツ殿下に変えたとしても楽しくないし尋問を受けているとしか思えない。

 しかもここには三人だけでなくエリックもいるし給仕のための使用人も沢山いる。

 全て聞かれてしまうのだけど。さすがに恥ずかしすぎる。


 思慮深いお兄様はどこに行ったの……?

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