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161.兄との再会



 エリックは絶対に断るだろうと思っていた。

 ルイス殿下とは再従兄弟だけれど、エリックは貴族ではなく平民だ。

 平民と皇子が仲良くするなんて普通は有り得ない。


「で、マリアに手紙まで出して俺を呼び出した理由はなんだ?」

「午後にヨハンが俺に会いに来る」

「それでか……。公爵様が怒るだろうな」


 エリックは小さくため息をついた。


 普通に会話してる。

 え、私のときは断ったのに。

 ルイス殿下とはそんなに仲良いんだろうか。




 家族同然に過ごしてきて、変わらずにエリックを慕い続けているマリアよりルイス殿下の方が大切なの?


 ううん、そんなことない。

 マリアは家族に愛されていた。エリックだって確かに関心は薄いけれど、それは家族と思っているからで……。

 ヨハンお兄様の溺愛っぷりが異常なだけだ。エリックだってちゃんとマリアのことを大切に思ってくれているはず。


 だから今日はお願いしたらお休みの日のように接してくれるかもしれない。

 マリアの従兄として話してくれるかも。


 けれどお願いの言葉は出てこなかった。


 もし拒絶されたら?

 そう思うと何も言えなかった。





 これはマリアの感情の影響だ。わかってはいたけど私にはどうにもできない。


「フランツ達も午後に合流する。ヨハンより先に来られるといいが……」

「ヨハンがいつ向こうを発ったのかはわからないが、かなりギリギリになるんじゃないのか」


 お兄様もクリスも皇宮につくなり殿下に呼ばれてどこかへ行ってしまった。クリスは不満そうだったけれど最終的に皇子の命令には逆らえなかった。

 口振りからして三人が今どこで何をしているのか知っているのだろうか。


 けれどそれも聞くことができなかった。

 もしいつものようにお嬢様と使用人という立場を貫かれたら、きっと平気な顔をしていられない。


「マリア、大丈夫か?」

「あ…………うん、ごめんなさい……」

「謝る必要はない。ヨハンのことなら大丈夫だ。俺がついている」


 ルイス殿下はそう言って私の手を優しく握ってくれた。


「それは公爵様に報告するぞ」

「……お前は俺の味方じゃないのか?」

「どちらかというと俺はフランツの方だな」

「お前がそうならヨハンもフランツの肩を持つんだろうな」

「ああ、ルイの味方はいないな」


 ルイス殿下はなんて事ないように笑った。


「俺にはマリアがいればそれで充分だ」


 ……なんかすごいこと言われたな。

 これは私を惚れさせるための言葉なんだろうか。それとも私のことを好きだというアピールのための言葉なのか。


 肩に手を回されルイス殿下との距離が縮まる。


「それも報告する」

「相変わらず融通が効かないな。マリアは嫌がってないぞ」

「ああ、だからそれも報告しておいてやる。早く行くぞ」


 エリックに促されて離宮への道を歩く。


 ここがヴェルサイユ宮殿と大きく違うのは敷地内に離宮が五つあることだ。

 そして皇子二人にはそれぞれ別の離宮が与えられている。ルイス殿下の離宮は初めて訪れる場所だ。

 初めてといっても彼の部屋にはもう二回お邪魔している。しかも夜に。何もなかったけれどその事実だけでお父様は卒倒してしまいそうだ。

 もちろん部屋以外の場所は本当に初めてだし、どの道を行けば目的地にたどり着けるのかも知らない。離宮の名前は確かグラナート宮殿だったはず。

 ……たぶん。ちょっと自信ないな。






 真夏の庭園は眩しく、そして暑い。

 魔法で身体を冷やしているからなんてことないけど、これがなかったら地獄だろうな。


「離宮までは歩いて十五分ほどだ。さほど遠くはないがもし疲れたら言え」

「まさか抱きかかえて歩くつもりか?」

「そんなことはしない。休憩するだけだ」


 さすがに人目につく場所でそんなことをしたら大問題だ。

 …………うん、まあ殿下はうちの屋敷でよくやってたけれど。

 でもここは皇宮で色んな人が出入りするからね。変なことしたら噂が立って皇子二人の評判が悪くなってしまう。


「口煩くするのはヨハンにだけだと思っていた。もう少し抑えられないのか?」

「ルイが注意されるようなことをするのが悪い」

「まだ何もしていない。そんなに俺が信用できないか?」

「…………確かに何もしていないな」


 エリックは神妙な面持ちで小さく呟いた。


 こんなことになったのはきっと殿下を見てきたからだ。

 今の話の流れは殿下なら絶対に抱いて歩いてあげると提案するから。というか実際にそう言った。

 だからルイス殿下もそう言うだろうと思って注意したんだな。

 兄弟だから仕方ない。


 それにしても酷い話だな。


「ヨハンもクリスもフランツもマリア相手になると暴走しがちだからな。お前もそうだと思っていた」

「さすがにそれは酷くないか?」

「諦めろ。そういうものだ」


 二人の会話はなんだか不思議だ。

 いつもの二人とは別人のようで一人取り残されたような気持ちになる。

 表情を取り繕えなくて視線を下に向けた。



 どうしてこんな気持ちになるのだろうか。

 ルイス殿下の新たな一面を見れたことを喜ぶべきなのに。

 いつもと違って優しい表情だ。これはこれでいい感じ。いやでも不機嫌そうで近寄り難い空気を出してる方が見た目は好きだけど。

 今はいつもの雰囲気と正反対で、そのギャップにドキドキする……べきところだ。


 けれどどうしてもモヤモヤが晴れない。




 従兄が恋人と仲良くしてるのを見て嫉妬するなんてなかなかにめんどくさい女だ。

 これはヤバい。

 しかも嫉妬の対象が従兄ではなく恋人の方。従兄と仲良くしてる恋人を羨ましく思うなんてどうかしてる。

 会話に入ることもできないのでただただ無言で恨めしく二人を見てるしかないのもヤバい。



 早くヨハンお兄様来てくれないかな。

 不安はあるけれどこの居心地の悪さに比べたらきっとマシだ。


 それにヨハンお兄様と会うのは本当に楽しみなのだ。話したいことは沢山ある。

 五ヶ月会っていないうえにヨハンお兄様が結婚してからはお義姉様に遠慮してずっとまともに会話できていなかった。

 あの時の私にとっては都合がよかったのだけれどマリアはずっと寂しいと思っていて、だからこそ会えると思うと嬉しくてたまらない。



 まずはルイス殿下と話すだろう。

 二人の関係をどうにか認めてもらって、その後はお茶を飲みながらこれまであったことを話して……。刺繍が上達したことを話さないと。それにテストで二位になったこと、大好きな友達ができたこと、毎日楽しく過ごしていること……。


 そこまで考えたところでルイス殿下とエリックが足を止めたことに気付いた。

 目的地の離宮は目と鼻の先だ。

 不思議に思って顔をあげると離宮の正面にある小さな噴水の前に男性が立っていた。


 銀の髪に長身、そして青い目のクリスによく似た男性。

 顔が認識できないんじゃないかと心配していたけれど、ちゃんとそれが誰なのかはっきりとわかった。

 ヨハンお兄様だ。


「久しぶりだな、マリア。元気にしていたか?」


 笑顔で話しかけられて嬉しさが込み上げる。

 駆け寄りたい気持ちを必死に抑えて頷く。

 ゆっくりと三歩前に出てヨハンお兄様に近付いた。


「お久しぶりです。みなが良くしてくれるので楽しく過ごせています。学園でも親しい友人ができました」

「それはよかった。お前は人見知りするから心配していたんだ」


 ほっとしたような表情のヨハンお兄様に心が暖かくなる。

 早く会いたいという願いが突然叶った驚きと嬉しさで涙が滲んだ。

 なんで泣きたくなるんだろう。おかしいな。


「そこまでだ。ヨハン、お前の目にはマリアしか映らないのか?」


 少し苛立ったようなルイス殿下の声に現実に引き戻された。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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全然こっち更新してなかった…!

忙しいのが落ち着いてきたので週一くらいの頻度で更新していきます。

夏くらいには週三で更新……できるようになりたい。

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