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157.二度目の訪問5


「ああ、今は飲まなくても問題ない。……飲んでほしいのか?」

「そ、そんなわけないでしょ! 私はただ我慢させてしまってたら申し訳ないと思って……」


 また変な方向へ話が転がって行きそうで慌てて否定した。


 血を飲まれること自体は今はそんなに嫌ではない。確かに痛みはあるけれどすぐに気にならなくなるし、飲み終わったら治してくれるから傷になることもない。

 何故か少しだけ痕が残るけど、半日も経てばそれも見えなくなる。

 飲まれる量によっては若干ふらつくけど事前にわかっていれば危険を回避することは難しくない。今は夏休み中だからいくらでも休むことはできるし。


 不安なのはルカが私にしてくれることと私が出す対価の釣り合いがとれていないことだ。

 以前はお願いを聞いてもらう代わりに血をあげていたのに夏休みの少し前から何も要求されなくなった。


 後からまとめて支払うなんてことは出来ないので都度支払いたいのだけど。


「我慢などしていない」

「そういえば僕も最近は血をあげてないな。血を飲まないと魔法が使えなくなるんだろう?」

「ああ。だがまだ問題ない」

「そもそもどのくらいの血が必要なの? 三人分で足りるものなの?」


 ルカは血があれば食事は必要ないと言った。

 しかし人間の血液にそれほどの栄養が含まれているとは思えない。

 肉や内蔵も食べられると聞いているけど私も殿下も身体を齧られてはいないし、陛下もきっと食べられてはないだろう。

 でもたまに噛まれるんだよな。


「魔法を使う頻度と内容による」

「そうなのね。ルカは人の肉も食べるんでしょう? 食べたくなったりしないの?」


 今ここに居るのは私と皇子二人。

 ルカの基準で言えばみんなご馳走だ。男の血は飲みたくないって言ってたけど、たぶんそれは味や質の差というよりルカが異性愛者であるためだろう。

 どうしても身体が密着するしね。

 私としては殿下の血を飲んでいるところを見せてもらいたいんだけど、近寄ることすら嫌がるくらいだから難しいだろうか。


「……食べたくなる時は、たまにある」

「あ、そうなんだ。人間は牛や豚みたいに部位によって美味しさは違う?」

「硬さが違うだけだ。肉の味は変わらない」

「内蔵もそのまま食べるの?」

「食べられるが好きではないな。俺は心臓以外の内蔵は食べない」

「そうなんだ。心臓は特別なのね」


 焼き鳥のハツ、美味しいもんな。

 でもルカの場合は生で食べるのか。うーん、血なまぐさそう。

 でも血を飲むくらいだから血が滴ってるほうが美味しいのかもしれない。


「……心臓には魂が入っている。魂は身体よりも魔力が多く、その人間の全てが詰まっている。質の高い人間の心臓を食えば俺の魔力の質もあがる」


 少しだけ気まずそうな表情のルカは視線を落とした。


「味は……肉と変わらない。それに魂を食うことはその人間を取り込むということだ。余程のことがなければやらない」

「だが父上の心臓は食べるんだろう?」


 ルイス殿下の言葉にぎょっとした。


「ああ。願いを叶える代わりにあいつの寿命が尽きる前日に心臓をもらう約束だ」

「寿命が尽きる前日って……どうして?」


 そこは死んでからではダメだったのだろうか。


「人間は死ねば魂が天に還る。生きているうちに食わなければ魂は取り込めない」


 つまり生きているうちに心臓を取り出して食べるのか。

 なんかけっこうグロい。


 それまでの話はあくまでルカの生態の確認のようなものだったから平気だったけど、具体的な知り合いの話になるとまた別だ。

 しかも可能性の話ではなく、確実に起きる未来なのだから余計にくる。





 というかそれを息子の前で言っていいんだろうか。ルイス殿下は知っていたみたいだけど、父親の最期がそんなふうになるなんて普通は怒るよね。

 血の繋がっていない私でさえちょっと苦しくなるのに。


 けれど二人は涼しい顔をして座っている。



 顔に出さないだけなのかもしれない。


 話を変えなきゃ。陛下の話にならないよう、そして話題を変えたのがわざとらしくならないようなもの、何かあるかな。


「えっと…………あ、そうだ。心臓に魂が入ってるってことは、他の人と心臓を交換したらどうなるの? 身体と魂が別になるでしょ。やっぱり中身も入れ替わっちゃう?」


 私の状態がそれに近いと思うのだけど、心臓と魂がセットで入った場合はどうなるんだろうか。

 やっぱり不具合は起こりにくいのかな。


 単純な疑問だったのだけれど、ルカは顔を引き攣らせた。


「死ぬ。心臓をとったら人間は生きていられない」

「あ……」


 そりゃそうだ。

 この世界には外科手術なんてない。当然臓器の移植なんてできないから心臓を入れ替えるなんて発想すら生まれないだろう。


 恐る恐る皇子二人の方へ視線を向けると、二人とも目を丸くして固まっていた。



 やらかした。


 陛下の執務室で話していたときもよく二人をドン引きさせてしまっていたのに、事情を知らない殿下の前で口を滑らせてしまうなんて。

 ここではすべてを説明できない。


「こ、これは深い意味はなくて! その、えっと、ただ不可能なこともルカなら出来るかなって……」


 それなりに分別のつく年齢の令嬢が口にするようなことではないことはわかっている。

 苦しすぎる言い訳だけど他に誤魔化しようがない。


 ルカは大きなため息をついた。


「俺は万能ではない。人より少しやれることが多いだけだ。……基本的には死人を生き返らせることはできないし切れた手足もくっつけられない」

「え、じゃあ包丁で指を切り落としたらもうどうにもならない?」

「どうにか出来る場合もあるが、それを当てにして無謀なことはするな」

「気をつけるわ」


 とは言っても指を切り落とすなんてよっぽどのことがないかぎり起こらないだろうし、まず大丈夫だろう。

 …………たぶん。

 ちょっと不安だから包丁を使うような料理はしばらく習わないようにしよう。


「えっと……もともとなんの話しをしてたんだっけ」


 無理やり話を変えてきたから何でこんな話になってしまったのかよくわからなくなってしまった。

 


「先生が最近血を飲んでないという話だったな」

「必要な時は飲みに行くから気にするな」

「だがそれで魔法が使えなくなったらどうするつもりですか? 血を飲まなければ魔法は使えないのでしょう?」

「そこまで魔力が枯渇することはない。さすがにその前に飲みに行く」

「少し前までは足りないからと俺のところに飲みに来ていましたよね。血が必要なくなったということはまた夜会に行って女性を誑かしているのですか?」


 しれっと投下されたとんでもない事実に脳内がクエスチョンマークで埋め尽くされる。


 夜会で女性を誑かす?

 またってことは以前はそれをしてたってことで。

 話の流れから血を飲むためにやっていることなんだろうけど、なんというかちょっと……いや、私の心が汚れてるからかもしれないけど、なんだかいやらしいことしてたんじゃないかっていう気がする。

 だって血を飲むのっていつも首からだし。普通に親しくしてたくらいじゃ首に噛み付いたりしない。

 でもルカがそんなことするとは思えないけど。

 一応攻略対象キャラだしね。ここゲームの世界じゃないけど。


「今はしていない」

「マリアにも同じことをしたのですか?」

「…………そこまではしていない。していたとしてもお前には関係ないだろう」

「マリアは俺の恋人です。関係ないなんてことはないでしょう」


 この流れ、やっぱり私の想像通りのことしてたんじゃない?

 夜会に参加して女性を誑かして、そのままお持ち帰りしてたの?


 私の脳内が汚れすぎているせいなのか、もうそっち方面の想像しかできない。

 でもそんなことは無いはずだ。だってルカは攻略対象キャラだし。


「それにマリアは知っているのですか? 貴方が夜会に参加している殆どの女性と関係を持っていることを」


 あまりにも衝撃的すぎて言葉が出なかった。


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