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149.夜中の訪問5


 そのまま二人で色々なことを話した。

 学園の友人の話や本の話、帝都のお店の話、向こうでの私の話。

 以前と違ってルイス殿下は私のくだらない世間話に嫌な顔ひとつせず付き合ってくれた。

 嫌われてるのかもと思ったけど実はそうでもないのかな。彼のことがよくわからない。


 話が一段落したところで時計を確認する。もう二十三時を過ぎていた。

 殿下は戻ってこないしルカも来てくれない。


「戻ってこないわね……」

「普段と違うことをすれば怪しまれるからな。どんなに急いだとしてもあと三十分はかかるだろう」

「……ねぇ、どうしてそんなに気を使うの? 二人は皇子なんだから誰も逆らえないはずじゃない」


 もちろん派閥争いがあるのはわかっている。

 でもこんな些細なことを気にかけなければならないような立場とは思えない。

 それにルイス殿下は弟のこと好きだし、フランツ殿下も今日は割と穏やかだった。

 いっそ明日から仲良くすれば全て解決するのに。


 少し考え込んだ後ルイス殿下は口を開いた。


「以前の幽霊騒ぎの件があっただろう? あれは皇族を殺そうとしている誰かが近くにいるということだ」


 あの件については何度聞いても殿下もルカも陛下も何も教えてくれなかった。

 だから私は今どうなっているのかわからない。

 もちろんずっと気になってはいたけれど、私が首を突っ込んでいい件だとは思えないから大人しくしている。


「詳細は伏せられているが、あの場でフランツが殺されそうになったこととお前がフランツを庇ったことは広まってしまっている。……真っ先に疑われたのは俺だな」

「そんな……」


 いや、私も最初そう思ってたな。別件だけど。

 二人の仲が悪いというのに加えてルイス殿下は圧倒的多数の貴族の支持を受けていながら皇太子ではない。

 フランツ殿下がいるせいで皇太子になれないから彼を殺そうとしているのではないかと思っていた。

 今となってはそんなことは有り得ないとわかるけれど、以前はルイス殿下のこと全然知らなかったから……。

 ちょっとこの話題気まずいな。


「お前もそう思っていたのか」

「ちがっ、今はそんなこと思ってないわ!」

「以前はそう思っていたんだな」


 ルイス殿下は疑われていたというのに軽く笑った。


「まあいい。とにかく下手に動けば面倒事が増える」

「そんなの否定すればいいじゃない」

「そうもいかない事情があってな。……お前に影響が出ないように動くつもりだ。だからあまり気にするな」


 気にするなと言われても気になってしまう。

 いつだって私は蚊帳の外だ。


「そんな顔をするな。…………こんな時フランツはいつもどうしていた? 黙って抱きしめるのか?」

「どうしてそれを私に聞くの?」

「恋人としてお前の望む事をしてやる」


 それは惚れさせるつもりってことですね。

 でも同じことされても好きにはならないと思うんだけど。




 あ、望むことをしてくれるってことはお願いしたらなんでも言うこと聞いてくれるかな。


「なら軽くでいいから踏」

「踏まないぞ」


 私のお願いは全てを言い終わる前に断られてしまった。

 望むことをしてくれるって言ったのに。

 期待させておいてこれは酷い。

 顰めっ面で睨んでもルイス殿下は笑うだけでちっとも悪いと思ってないようだ。


「そんな顔しても無駄だ」

「だってずっとこの部屋で二人でお喋りしてるだけなんて飽きちゃうじゃない。ルイはお願い聞いてくれないし……もう暇で死んじゃいそう」

「なら恋人らしく甘やかしてやろう」


 そう言ってルイス殿下は私を抱き寄せた。

 ふわりと甘い香りに包まれる。

 殿下の香りとよく似ているけれど少しだけ違う香り。


「……女性が苦手だったんじゃないの?」

「お前だけは平気だと言っただろう」


 だからってそんな楽しそうに構ってくるのはやめてほしい。

 胸元を押し返すと簡単に離してくれた。まったく、誑かす気満々で困ってしまう。もっと真面目な人だと思っていたのに。


 でも顔が好きだから大抵の事は嫌ではない。嫌ではないけれど弄ばれてることをわかっていながらそれに乗るのはなんか大人としてよくない気がする。


 というか好きでもない子によくこんなことできるな。

 …………普通は無理だよね。てことは好かれてるのかな。


「ねぇ、もしかして私のこと好き?」


 もやもやし続けるのも嫌だったからストレートに聞いてみた。

 ルイス殿下は表情を変えることなく三度ほど瞬きをした後ゆっくりと口を開いた。


「…………有り得ないな」

「だよね。よかったー。……あー、なんか恥ずかしくなってきた。さっきの質問は忘れて」


 私と彼の関係において好きという感情があるわけないのにわざわざ確認するなんて自意識過剰すぎて恥ずかしい。

 いや、これはルイス殿下の演技が上手すぎるのと私を弄ぼうとしているのが悪いから。私だけが悪いわけじゃないはずだ。


「そんな簡単に忘れられるわけがないだろう。無理を言うな」

「散々私に対して無理を言ってきたんだから少しくらいいいじゃない」

「無理を言った覚えはないが……」

「異世界から来たことを証明しろとかルイを好きになれとか無理じゃん」

「どちらも無理なことではないだろう」


 まあ証明に関しては結果として無理じゃなかったけど、ルイス殿下を好きになれってのは無理じゃん。

 でも言ってもわかってくれないんだろうな。


「…………ならルイが私のことを好きになってよ。それができたら私も頑張るわ」


 女性が苦手だと言ってる彼に対してちょっと意地悪だとは思わなくもないけど、でもこう言えば無理を言ってることがわかってもらえるだろう。


「わかった。お前の言う通りにしよう」

「えっ!? 本当に好きになるつもりなの?」

「お前が言い出した事だろう? 好きになったかどうかはどう確かめるんだ? それは俺の自己申告でいいのか?」

「う、うん……。あ、ダメ。それじゃ本当に好きなのかわからないから……えっと……」


 人を本気で好きになったらどうなるだろう。誤魔化せないことじゃないと意味が無い。

 私はいつも殿下と会うと触れたくなって声が聞きたくなって……そして近付くと鼓動が早くなる。


「私とくっついてるときにドキドキしてるかどうか……とかかな」

「そんなことでいいのか?」

「もちろん直前に運動したり魔法使ってズルするのはダメだからね」

「わかっている」


 涼しい顔して頷いてるけど、生理的反応は出そうと思って出せるものじゃないんだからね。本当にわかってるのかな。

 というかさっき他人を愛せないって自分で言ってなかった?? なのに私を好きになるつもりなの?

 売り言葉に買い言葉でやらかしてしまったかんじだろうか。皇子だからやっぱり無理ですって言えないのかな。


 まあルイス殿下の気持ちが変わらなければ私は何もしなくていいしそれはそれでいいか。


 そんな風に考えていたら優しく手首を掴まれた。


「……何?」

「お前は好きな人といると鼓動が速くなるんだろう?」

「うん……あ、脈測ってるの? 今はドキドキしてないわよ」

「ああ。だが通常時の速さを知らないと速くなったかどうかがわからないだろう」

「それはそうだけど……」


 そんな斜め上な行動されるとは思わなかった。

 変に真面目だな。

 そのまま腕を引かれて抱きしめられる。

 さっきからくっついたり離れたり忙しい。なんでこんなにくっつきたがるんだ。


「……別に何ともないな」

「そりゃ好きじゃない相手を抱きしめたところで何も感じないわよ」


 抱きしめられているためにルイス殿下のゆっくりとした鼓動が聞こえる。

 リラックスしてるのだろう。

 私は平気だと言っていたのも間違いではないようだ。そして私を好きではないというのも嘘ではない。

 やっぱり珍獣枠だな。


「お前も何も感じないのか?」

「ええ。だって好きじゃないもの」

「……少しは俺に配慮しようと思わないのか?」

「私に好きじゃないって言われても傷つかないでしょう?」

「そういう問題じゃない。……少しくらい俺の事を好きだと思えないのか?」

「うーん……あ、顔は好きよ」

「顔……だけか?」

「ええ。ルイのことは一日中見てても飽きないと思うわ。それくらい好き」

「…………」


 ルイス殿下は黙り込んだ。表情は見えないからわからないけど話の流れ的に少し照れてる……んじゃないかな。

 あ、鼓動が少し速くなった。


 顔が好きって褒められたくらいでそんな反応する?


「顔だけね。恋愛的な好きじゃないわよ」

「今はそれで充分だ」


 笑って頭を優しく撫でてくれてるけど、好きになってほしいのならまず年下扱いをやめてくれないかな。

 私貴方より歳上なんですよ? 絶対に年齢は言わないけど。


 ルイス殿下の手が髪の毛を梳くように動いている。

 マリアの髪は細くて柔らかいから触り心地いいよね。ケアもかなり頑張っている自慢の髪の毛だ。

 触りたくなるのは仕方がない。

 そのままルイス殿下の気の済むまで触らせてあげることにした。







 まだ殿下は来ない。ルイス殿下曰くあと二十分はかかるらしいからまだまだ二人で過ごさなければならない。

 別に早く来てほしいわけじゃないけど、ルイス殿下から似た香りがするからどうしても彼のことを考えてしまう。こういうのがいけないんだろうな……。

 別のことを考えよう。


「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど……」


 話を切り出したその時だった。

 部屋の扉とは反対の方からガチャッという音がした。

 そちら側には窓しかないのに。こんな時間にそんな場所から入ってくる人間なんて逆賊しか考えられない。

 身体が強ばる。

 早く逃げないと。






「マリアには何もしないでくださいとお願いしていたのに、どうして抱き合ってるんですか?」


 いつもより低い声だけれど、それは紛れもなく殿下の声だった。


気付けば二週間あいてました……!

忙しいのとは別で体調面でのトラブルが発生してしまったのですが、なるべく定期的に更新するように気を付けます。

ストックもちょっと貯まってきたので12月にまたがっつり改稿しようかと思ってます。

無駄が多いなーとは常々思っていたのでがっつり削る予定です。すっきりさせたい。


12月頭にはきっと元気になってると思うので活動報告にイラスト載せたり、今非公開にしてる番外編の内容をこっちに纏めたりできるといいなーなんて思ってます。

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