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139.悪夢2


 夢の最後に聞こえたあれはマリアの声だった。

 あんなこと私は思ったことも喋ったこともない。もしかして本当にマリアの記憶の声なんだろうか。


 記憶の中のマリアは確かにダンスはダメだったけど、ピアノもヴァイオリンも弾けるし刺繍もできるし礼儀作法も完璧だし、何より努力のできるいい子だった。

 幼い頃は病気がちだったみたいだけど大きくなってからはそれなりに元気になったし、出来損ないなんて評価を下さなければならないような子ではないはずだ。


 周囲の人間が優秀すぎて卑屈になってしまったのだろうか。

 私から見ればマリアは十分優秀なんだけどな。

 比較対象がお兄様や殿下だったなら仕方ないのかもしれない。








 シャワーで汗を流して手早く髪を乾かす。

 殿下が来ているからゆっくりはできない。いつもなら全てをサラにお任せしているのだけれど今日は私もやれることをやっている。

 髪を乾かしたりスキンケアしたりは自分でも簡単にできるからね。


 今日サラが用意してくれたのは白と水色のシンプルなワンピースだった。

 殿下が来る時はいつも可愛い系のドレスだったから意外だ。

 時計を確認するともう十時を過ぎている。ドレスを着てそれに合うようセットするのは時間がかかりすぎるからだろう。

 でもせめて少しくらいお洒落したかったな。このワンピースは私にとっては可愛いけど殿下にはどう見えるだろうか。

 以前シンプルなメイド服を可愛くないと言っていたからダメかもしれない。



 いやいや、別に可愛いと思ってもらわなくていいんだった。

 昨日だって可愛いって言ってくれなかったし、あえて好みからはずれたものを選ばないといけないはずだ。

 というかあの人は私に用事があるわけじゃないし、待ってくれていると私が勝手に思ってるだけで実際はもう帰ってるかもしれないし。

 あ、もういないからサラはドレスじゃなくてワンピースを用意してくれたのかも。来客がなければ着飾る必要なんてないもんね。


「お嬢様、殿下がお待ちですから急ぎましょう」


 サラは動きを止めた私に釘を刺すように笑顔でそう言った。

 ですよねー。まだ居ますよね。

 冷静にさっきのことを思い返すと恥ずかしくていたたまれなくなるから帰ってくれてた方がよかったんですけど。


 けれどそんなことは口にできないし態度に出してサラを困らせるわけにもいかないから促されるまま急いで支度した。





◇◇◇◇◇






「今日は君との約束を果たしに来たんだ」


 準備が終わって殿下に連れていかれたのは厨房。

 そこには若干挙動不審になっているパティシエのハンスとエリックが居た。

 お兄様とクリスはお父様の言い付けがあるからと壁際で見守ってくれている。

 サラは私に白いエプロンを渡してハンスの隣へ移動した。


 状況が飲み込めなくて混乱しつつ殿下を見上げるといつもの様に優しく微笑み返してくれた。


「約束……?」

「もしかして忘れちゃった? 前一緒にお菓子を作るって約束したよね。ほら、夏休みがはじまった日に僕がここへ来た日のことだよ」


 確かあの日は午前中にルカとデートして午後はお兄様の為にお菓子を作って待っていたら殿下とリオンまでやってきて……。

 そういえば確かにそんな話もしたような気がする。あのとき何て返したんだっけ。その他のことが強烈すぎて覚えていない。


「ほ、本気だったんですね……」

「もちろん。君に関わる事は全て本気だよ」


 私が何をやっても何を言っても馬鹿にすることも否定することもなく真面目に返してくれるもんね。

 ありがたいけどもう少し緩くてもいいと思うんです。

 好きだから喜んじゃうけど、でもそうじゃなかったら重いと思う。皇子という立場だから余計に。


 …………マリアはどうだったのだろうか。

 昨日はそれどころじゃなくて確認できなかったけど、今ならマリアの気持ちを確かめられるはずだ。

 

 心を落ち着かせて殿下を見つめてみた。





 改めて見ると本当にまつ毛長いし瞳も綺麗だし肌はツルツルで毛穴なんて見えない。

 笑うと細められる目も少しだけ下がる眉尻も薄い唇も全てが可愛い。好きだから余計にそう思うのかもしれない。

 こうやって隣に立っていられるだけで嬉しくて幸せを感じる。誰かを好きになるのってこんなだったっけ。

 困らせてしまうことも多くて申し訳ないと思うけれど、そのちょっと困った顔もまた可愛くて仕方がない。



 そして今も少し困ったような顔をしている。私が見つめているからだ。

 さりげなく短時間で確認しなければいけなかったのにがっつりしっかり見つめてしまったからそりゃそうなる。

 やらかしてしまった。

 しかも私が殿下のことを好きすぎてマリアの感情がよくわからないという最悪の結果だ。


「僕の顔になにかついてる?」

「い、いえ、申し訳ございません……」


 慌てて謝って視線を逸らしたけど微妙な空気を作ってしまってどうしたらいいかわからない。


「いつまでボーッと突っ立ってるつもりなんだ? 早くやらないと昼過ぎちまうぞ」


 クリスが苛立ったように言った。

 慌てて謝って殿下から少しだけ離れ、手に持っていたエプロンを身に付ける。

 それはフリルのついた可愛らしいエプロンだった。

 水色のワンピースに白いエプロンってアリスみたい。マリアがそんな格好したら絶対可愛いに決まってる。

 ちょっと期待を込めて殿下を見るとにっこり微笑まれただけだった。

 振り返ってエリックを見ると綺麗に着れましたねって言ってくれたけどそういうのじゃないから。

 お兄様とクリスも何も言ってくれない。




 え、これ可愛いよね?

 水色のワンピースに白いフリル付きのエプロンだよ?

 しかもリボンタイと同じ素材のリボンを編み込んで可愛らしい髪型にしてる。

 可愛くないなんてないよね。


 まあ確かにかわいい系のリリーの方がこういうの似合うだろうけど、でもマリアはまだ15歳だしこういうのも悪くないじゃん。

 いつもお洒落してないときにも可愛いって言ってくれるのにこういう時は言ってくれないんだ。


 みんなして何も言ってくれないのが切ない。ちょっとくらい褒めてくれたっていいじゃん!

サブタイトル全然思いつかなかったのでとりあえずで前回のタイトルに2をつけたものにしてます。

そのうち修正します。


ルカの髪色を紅髪から赤毛に変更しました。

それに伴い描写をちょこちょこ修正しています。

現実の赤毛の色……といってもけっこう幅があるので赤橙のけっこうしっかり目の赤毛のイメージです。


また全体的な改稿もしていかないといけないのでそっちもそのうちできたらなーと思ってます。

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