137.エルフの探し人2
彼が探しているのは金髪碧眼のエルフの女性で、名前をステラというらしい。
私と同じくらいの身長で髪は腰までのストレート、目は丸くて色白で可愛らしい印象の女性なんだそう。
サファイアのネックレスを大事にしてて常に身につけている、可愛いものと甘いものが好きでよく笑う……そこまで聞いて、その探している女性は彼の想い人なのだと思い至った。
「……お会いすることができればもちろん気付くとは思いますが、隠れられたら私がステラ様を認識することはできません。なにか方法はありませんか?」
「ないことはない、が……」
露骨に嫌な顔をされた。
協力するって言ってるのになんでそんな顔されなきゃならないんだ。
「私の力をお前に貸せば彼女を見ることはできるだろう。遺憾ではあるが」
「いえ、結構です。他の方法を考えてみます」
言葉を遮って断ると彼の眉間の皺がより深くなった。
「…………何故お前が私の提案を却下するのだ」
「お互い不満のある方法をとったところでいい事なんてひとつもありませんから」
陛下の口振りからしてルカはエルフと折り合いが悪い。会話だけならまだしも力を借りたりしたら確実にバレてしまう。
できればこの事は秘密にしたい。そして可能な限り早く情報を得て必要以上にエルフと関わりを持たないようにしなければ。
「しかし他に方法はない」
「結論付けるのはまだ早いでしょう。……貴方がここへ来たのは私の周囲にステラ様がいると確信しているからですよね? どうしてそう思われたのですか?」
「……お前からステラの力を微かに感じる。そしてお前がいるこの建物の周囲にもステラの力が残っている場所がいくつかある」
「つまりステラ様はここに訪れたことがあるということですか」
「しかも頻繁にな。だからこうやってわざわざお前に会いに来てやったのだ」
ナチュラルに上から目線でものを言うんだな。
これはこの人の性格なのか、それともエルフはみんなこうなのだろうか。
いやいや、エルフなんだからもっとお淑やかで美人で色白で清楚なのが標準仕様でしょ。
「でしたら次にステラ様が来るまでここで待てば直ぐに会えるのでは……?」
「私はそこまで暇ではない。いつ来るかわからないうえに来るという確信もないのに待てるわけがないだろう」
私だって暇じゃないんだけど。
いちいちイラッとする事ばかり言うな。
というか何時間もここで突っ立って待ってた癖に暇じゃないとか意味がわからない。
「それにお前は会えるかどうかもわからない私を頼るほど困っていることがあるのだろう?」
反発したい気持ちを無理やり押し込める。
こんなふうに言うからには私の望みを叶える手段を持っているのだろう。
「……わかりました。ステラ様に繋がる手掛かりを手に入れましたらすぐお知らせいたします」
「お前は……確かお前をそんな状態にした誰かを探すのが望みだったな」
「はい。……あ、いえ、私の望みは……元の世界に戻ることと、この身体を元の持ち主に返してあげることです。どのような方法でも構いません」
確かにその誰かを探すつもりだったけど、それは手段であって目的ではない。
私が元の世界に帰ることができてマリアをみんなのもとに返してあげられるのなら、誰がやったかなんてどうでもいいのだ。
やり返したいわけではないから。
「…………さすがに異世界へ渡る方法に心当たりはないな。だが探してみよう」
学生のリリーと違ってエルフなら自由に動けるし人外だから人間の常識からかけ離れた秘術みたいなのでさくっと解決してくれたりしないかな。してくれるといいな。
「何かあれば私を呼べ。手が空いてたら来てやろう」
そう言ってエルフは以前と同じように一瞬で消えた。
いなくなる前に一言くらいかけてほしいんだけどな。一方的なのは私が人間だからなのか、こちらの世界の魂じゃないからなのか。
「あ、名前聞いてなかった……」
呼べって言ってたけど名前を知らなければ呼ぶことはできない。
さすがに『ねえ』とか『おーい』とかじゃ無理よね。困った。
…………まあいいや。
聞かなかった私も悪いけど名乗らない向こうにも落ち度はある。
ステラという女性についてもう少し聞きたいことはあったけど、できる範囲で頑張るしかないか。




