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134.散歩2


 薔薇園の奥には木があって、その隣に白いベンチが置かれていた。

 まったく見覚えのない場所だ。少なくともここ三年は訪れていないしそれ以前の記憶にもない。

 懐かしい感じもまったくしないから、もしかしたらマリアもここに来るのは初めてなのかも。


「疲れたわ……もう動きたくない」


 ベンチに座ったら自然とそんな言葉が口から出てしまった。

 そんな私を見てクリスは呆れたように笑った。

 エリックはクリスの半歩ほど後ろに立っている。クリスほどわかりやすくはないけど苦笑してる、ように見える。

 二人のせいで疲れてるんですけどね?


 元気だし健康だけどマリアはか弱い女の子だってこと忘れてるんじゃないだろうか。

 

「たった三十分しか歩いてないぞ」

「普段そんなに歩くことないんだもん。しかも早歩きでなんて。まあ途中からゆっくりになっちゃったけど……とにかくこれが私の限界なの。もうこれ以上は無理なの!」


 これでも努力はしているのだ。

 食事はなるべく残さないよう食べてるし学園でもできるだけ歩くようにしている。

 入学したばかりのときに比べれば体力も筋力もついているはずだ。


 まあストイックにとは口が裂けても言えないレベルの努力だけど。

 チリツモ精神でやってることだから二人から見れば努力とは言えないのかもしれない。


「開き直んなよ。この程度で音を上げてたら夜会どうすんだ」

「そんなの最低限の挨拶だけして誰にも見つからないよう隅っこに隠れてるわ。何も問題ないわよ」

「んなことできるわけねぇだろ。踊らないつもりなのか?」

「どうしても必要なら頑張るわ。でも踊りたくないからできるだけそうならないよう努力するつもりよ」

「努力の方向間違ってるだろ、それ……」


 どうしても踊らないといけない場面があるとすれば、皇宮で開催されるパーティーくらいだろう。

 皇子の婚約者になったら踊りたくないなんてわがままは言えない。

 が、今年いっぱいは確実に婚約しないからしばらくは気にしなくてもいい。たぶん。

 ルイス殿下には潔くごめんなさいしよう。きっとわかってくれる……はず。


「去年はお兄様に付き合ってもらって必死で練習したのよ。毎日毎日、それはもう疲れて動けなくなるくらいに」

「それなのにあんな酷い出来だったのか。才能ないな」

「ちょっと! もう少し言葉を選んでよ。私だって努力はしたのよ」


 クリスに憤慨している私を見てエリックは笑っている。

 今そういうのじゃないから。何微笑ましい弟妹を見守る兄みたいな顔してるの。



 確かに記憶を見る限りではマリアのダンスは上手ではなかった。

 それでも私はマリアが頑張ったのを知っている。お兄様とも練習したけど、一人でもずっと頑張っていた。

 努力は人一倍していたのだ。

 それでも最終的に一度も正しく踊ることはできなかったし本番でも何度も殿下の足を踏んでしまった。

 フォローして貰えたから最後まで転ぶことも止まることもなかったけど、あんなに努力した結果があれなのだからクリスの言う通り才能がないのだろう。

 どうしようもない。


「でもね、その努力は実らなかったの。だから今年は無駄な努力をしないことにしたのよ。頑張ったって結果は変わらないもの」

「開き直るようなことじゃない。難しいのなら今から練習すればいい。付き合うぞ」

「結構よ。夏休みにそんな無駄なことはしないわ。もっと有意義に過ごしたいの」


 やらなければならない事はたくさんある。

 宿題だってまだ全部は終わってないし、元の世界に戻る方法も探さないといけない。

 魔法や乗馬の練習もしたいし料理も習いたいしルイス殿下とリリーに手紙を書かないといけないし何よりリリーとお兄様をくっつけなければならない。

 無駄なことをしている時間は無いのだ。


「有意義ね……皇子二人と一緒にケーキを食べる事がそんなに有意義か?」

「……ケーキを食べる方をわざわざ強調しないでくれる? ルイス殿下とは恋人なんだし会うのは普通のことでしょ」

「それにフランツのこともまだ好きだもんな」


 また嫌味か。しかもなんだか口調がキツい。

 その後に続くのはどうせ皇子二人を弄んでるっていう小言だ。そんなことは私が一番よくわかっているから聞きたくない。

 話をズラそう。


「それより、どうしてフランツ殿下はルイス殿下のことをあんなに嫌っているの? 昔はそんなことなかったじゃない」


 私が見ることの出来るマリアの記憶の中で最も古い七歳の夏に、ルイス殿下はフランツ殿下と一緒にクラウス領の屋敷に訪れていた。

 そのときは二人の仲は悪くなかったはずだ。

 マリアは人見知りだったからあのときはルイス殿下とは殆ど会話をしていないけれど、私達兄妹とルイス殿下の仲を取り持とうと頑張っていたフランツ殿下の姿を覚えている。


 わざと話を逸らしたことに気付いたのかクリスは一瞬だけ顰めっ面になったが、すぐにいつもの顔に戻って知っていることを話してくれた。


「…………あの二人があんなに拗れたのは四年前からだな。ルイス殿下が北部の英雄になって帰ってきた後だ」

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