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131.借り



 その後もたわいの無い話をして、たまに死ぬほど恥ずかしい思いをしたり殿下に見惚れてしまったりしたけど一応何事もなく過ごせた。たぶん。

 美味しいはずの紅茶もケーキも恥ずかしさと気まずさでほとんど味がわからなかったけど。

 うん、美味しかったような気はしてる。


 もちろんルカの事に関しては何も誤魔化すことはできず、私が殿下のことをまだ好きなのは誰の目にも明らかだった。

 無駄にあれこれ考えるよりいっそ目の前に並んでいるイケメンを愛でることに注力していた方が精神的に疲れずにすんだかもしれない。

 もう今更だけど。次があったらそうしよう。





 そんなわけで今は屋敷に戻る馬車の中だ。

 ここでどうにかしてクリスを口止めしなければならない。

 ルカがあの場にいた事は話さないでほしいのだ。ややこしくなりそうだから。

 どうやって切り出そうかな。


「今日は楽しかったか?」

「疲れたわ。楽しむどころじゃなかったのは見ててわかったでしょ」

「そうか? まあ赤くなってたり慌ててたり忙しそうではあったな」

「うん……なんであの二人はあんな恥ずかしい事を真顔で言えるのかしら」


 皇子だからだろうか。皇子だからそういう訓練受けてるのだろうか。

 絶対に有り得ないけれど、でもそうとしか思えない。


「そりゃ二人は恥ずかしい事だと思ってないからだろ」

「そんなわけないじゃない。誰がどう見ても恥ずかしいわ。人前で好きだとか愛してるだとか……」

「好きな相手に好意を伝えることの何が恥ずかしいんだ?」

「…………だって他の人もいたのよ?」

「それが何か関係あるのか? 軍議中でも謁見中でも授業中でもないんだぞ。まあさっきのは二人で張り合って少し言い過ぎてたかもしれないが……」


 マジか。

 ここの人ってそういう感覚なのか。

 私の方がおかしかったの?

 え? 本当に??


 マリアは他人と深く関わってこなかったからよくわからない。

 家族間で大好きとか愛してるとか言われることはあっても他人に言われたことはマリアの記憶ではなかった。

 もちろん殿下やクリスやエリックは言ってくれていたけど、三人は半ば家族同然の関係だったしなんかちょっと勘定に入れるのは違う気がする。


 完全な他人で好意を言葉に出していたのは……ノアかな。

 彼はよく好きだと言ってくる。もちろん本気でないことはわかっているけれど。

 それに他人がいるときは話しかけてこないからよくわからない。


 あとはルカか。

 ルカはストレートに好きだと言ってくれる。

 そして皇子二人の目の前でも気にすることなくその言葉を発した。

 人外故に人間の目なんて気にしない、誰にどう思われても構わないっていうスタンスかと思っていたけど、この国ではあれがスタンダードなのか。


 本当に?? 嘘つかれてない?


「……みんなあんな感じなの? クリスも? エリックも?? リオンもアレクもみんなそうなの? 周りに人が居ても好きって言っちゃうの??」

「アレクはどうだろうな。アイツそういうのを言葉にするのは苦手そうだし言わないかもな。リオンとエリックは言うんじゃないか」


 マジか。

 ちょっとその感覚理解できないんですけど。


「そういうこと言わないでって言ったら……嫌がられると思う?」

「それは好意を否定するようなもんだ。言わない方がいいな」

「そうなんだ……」


 気を付けよう。うっかり言ってしまいそうだ。

 でも何も言わなかったら好意を受け入れたことにならない??


「まあ姫様は全部顔に出るから言ったとしてもわかってもらえるだろうけどな」


 呆れたような声で言われて少し癪だけど実際に全部顔に出るから反論できない。

 いつも遠回しな嫌味ばかりで嫌だなと思っていたけどストレートに言われてもやっぱりムカつくな。

 姫様呼びと相まって馬鹿にされてる感増し増しでイラッとする。


 本当になんでお姫様なんて呼ぶんだろうか。

 以前聞いてみた時は適当にはぐらかされた。

 そのときは私もあまりクリスと関わりたくなかったからそれ以上は追求しなかったけど、しばらくは一緒にいないといけないからもう一度聞いてみようかな。


「…………なんで二人きりのときにそう呼ぶの?」

「ん? そりゃ…………マリアは俺のお姫様だから」


 満面の笑みでそう宣言されたけど、これはどういう意味なのか。

 姫様が何かの隠語だったりするんだろうか。

 マリアは皇子の婚約者だったから本当のお姫様になる可能性もあった。その名残でそう呼び続けているんだろうか。


 マリアの記憶の中ではお姫様呼びされたことはない。もちろん欠落している期間にそう呼ばれていたかもしれないけれど。

 でも私になる直前に会ったときには名前で呼んでくれていた。



 クリスは私に何か不満があって、だから私の嫌がるお姫様呼びを続けているんだろう。


 ずっとそう思っていたのだが、どうもそれも違う気がしている。 


「名前で呼んではくれないの?」

「…………考えておく」


 前もそう言っていた。

 そして結局お姫様呼びは続いている。改める気はないのかもしれない。


 ならもう気にするだけ無駄だ。


「…………今日のこと、お父様になんて報告するの?」

「見たままのことを伝えるつもりだ。姫様がまだフランツを好きなこと、皇子二人は姫様のことが好きすぎて周りが見えてないこと、あとは今日何を話してそれぞれどんな反応をしたとか……あと誰と会ったか、とかもな」


 つまりクリスはルカのことも報告するのだろう。

 どうにか誤魔化しつつ口止めしなければならないがいい口実が浮かばない。

 もうストレートにお願いしてしまおう。


「あのね、あの場所にヴォルフ侯爵が居たのは秘密にしてほしいの」

「理由は? そのお願いは公爵様に嘘をつけと言っているんだが、わかっているのか?」

「わ、わかってるわ。でも彼とは噂が……別に何も関係はないのだけど、お父様に知られたくないの」

「関係なくはないだろ。フランツの気を引くために浮気しているフリを頼んだ相手なんだろ? 隠しておいていい相手とは思えないな」

「でも彼のことを話すと余計ややこしくなるじゃない。それに彼は今回何も話してないわ」

「話してただろ。あの図書館に入った時に、皇子であるルイス殿下ではなく真っ先に姫様に話しかけた」


 そういえばそうだった。


「でも大したことは話してないじゃない」

「そうでもない。姫様のことを褒めて、姫様は俺やルイス殿下に褒められた時より嬉しそうにしていた。……これは公爵様に報告すべきことだと俺は思う」


 どうしよう。

 そんな反応をしてしまっていただなんて思わなかった。

 こんなことになるならいつも通りの格好をすればよかった。


「…………でも……」


 何も言えない。

 クリスの言葉は正しい。私はその正しさを覆すことのできる理由を持っていない。


 ルカのことを報告されたらどうなるだろうか。

 浮気の噂が事実だと思われるかもしれない。

 大事な娘が人に後ろ指を指されるような行いをしていたことを知ればお父様は悲しむだろう。

 それにルイス殿下との婚約も許して貰えなくなるかもしれない。


「…………俺は姫様の味方だって言ったよな。覚えてるか?」


 私が頷くとクリスは少しだけ嬉しそうに笑った。


「姫様が本当に望むのなら秘密にしてやる」

「本当に……? あ、ありがとう」

「これは貸しだ。忘れないでくれよ」

「ええ、いつか返すわ」


 少しだけ安心した。

 とはいってもこの借りがこの先どうなるかはわからない。

 代わりになにか要求されたりするんだろうか。


「そんな顔しなくていい。別に姫様を騙そうとか思っているわけじゃない。俺はお姫様のことが好きだから助けたいだけだ」

「そこまでしてもらう理由がないじゃない」

「好きだからって言っただろ。それに騎士は仕えるお姫様に尽くすもんだ」


 また適当なこと言ってる。

 お互いただの学生だ。お姫様でも騎士でもないのに。


 でもクリスはもうこれ以上は答えてくれないだろう。彼の真意を聞くことは諦めるしかない。

 思わずため息がこぼれた。

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