128.約束の日3
好きな人に真っ直ぐに見つめられながら告白されたら、ダメだとわかってはいても嬉しくなってしまう。
顔が熱くなる。
いやいや、喜んでいる場合じゃない。
私は彼との関係を終わらせるつもりでルイス殿下の提案に乗ったのだ。好きだと言われて喜んでたらなんの意味もない。
普通の顔を保たなければ。
でもフランツ殿下には私が喜んでいるのがバレてしまったようで、先程の苦しげな表情から少し安心したような表情に変わっていた。
これはもう常に扇子で顔隠さないとダメなんじゃなかろうか。
表情筋が仕事しすぎるのをどうにかしたい。
「何故そこまでマリアの事を想えるんだ? お前はマリアのどこに惹かれたんだ?」
えっ!
その話題をまた蒸し返すの??
本人ここにいるんですけど!?
話題を逸らしたかったけど咄嗟のことで何も言葉が出てこない。
脳内であたふたしてるうちにフランツ殿下が少しだけ困ったように笑って口を開いた。
ああああ、間に合わなかった!
「僕は……マリアの全てが好きです。よく笑うところやどんな事にも興味を持つところ、意地っ張りで頑固で一度言い出したら聞かないところ、時折突飛な行動で驚かされる事もありますが隣にいて退屈しません。それに、しっかりしているようで実は何も考えてなかったり、危なっかしくフラフラしてるところも愛おしく思っています」
あれ、ちょっとディスられてない?
本当にそれ好きなところかな。フラれた腹いせに嫌なところを言ってるわけじゃないよね?
ルカもクリスもここに居るのを忘れているわけじゃないですよね?
辱められてる。これは間違いなく嫌がらせだ。
美点というよりダメなところを列挙されてるのもあってすごく恥ずかしい。
助けてほしくてクリスとルカに視線を送ったけど苦笑を返されるのみで何もしてくれなかった。
後から八つ当たりしてやる。
「好きなところを挙げ出したらキリがありませんね。マリアのことは誰よりも知っているつもりです。もちろん良いところも悪いところも。僕はその全てを受け入れて愛しています」
誰かこの皇子の口を塞いで。
恥ずかしさと嬉しさで混乱してもうどうしていいかわからない。
顔が熱い。いや、顔だけじゃなくて全身が熱い。
「お前は本当にマリアのことが好きなんだな……」
ルイス殿下は小さく呟いた。
僅かに眉間に皺を寄せたルイス殿下は、何を思っているのだろう。
想い人が居なくなった弟の不憫さを哀れんでいるのか、弟から想い人を奪ってしまうことを嘆いているのか。
それよりも私の気持ちをもう少し考えていただけませんか?
貴方の質問のせいで私は死ぬほど恥ずかしい思いをしたのですが。
横から突っ込みを入れられるような関係じゃないから黙ってるしかないけど、それは不満がないわけじゃないんですよ。
それにクリスの目の前であんなにアピールされたのは良くない気がする。ルイス殿下よりフランツ殿下の方が私を好きなのは明らかだ。
ルイス殿下の演技は完璧だけど、理由も内容も薄いし、さすがに本気の好意と比較したらボロが出てしまいそう。
それに昨日から私の視線に気付いてくれないのも減点対象だ。
私のことを好きなふりをするのならちゃんと私を見てほしい。そして私が何を望んでいるのかをそれとなく察して。
この場の空気を悪くするような言動は控えてほしいんです。
弟と仲良く会話してください。和やかに談笑しましょう。
なんとなく無理だろうなとは思っているけど念じながら視線を送り続けた。
けれどもルイス殿下は私の方を見ない。視線は目の前のフランツ殿下を向いたままだ。
「だがお前がどれだけ想っていたとしてもマリアは俺を選んだ事実は決して覆らない。潔く諦めろ」
ちょっと言い方!!
もっと柔らかく、優しく言い換えられるよね?
どうしてそう傷付けるような言葉を使っちゃうの。
ルイス殿下の横顔からは彼が何を考えているのかは読み取れない。
「それはその通りです。ですから昨日言ったでしょう。僕の気が済むまで邪魔をすると」
「二日連続で顔を合わせるのは四ヶ月ぶりだというのにやる事が恋路の邪魔とはな」
「兄上と顔を合わせる用がありませんから。今回の件がなければこの先暫く会うこともなかったでしょう」
フランツ殿下は笑顔で切り捨てた。
ルイス殿下の気持ちを知っているから何だか私までつらく感じてしまう。
もっとにこやかに優しくしてあげてください。
「そうだろうな。お互い公務で忙しい身だ。だがお前が望むのなら会うための時間を作ってやれなくもない」
そこは素直にもっと会いたいと言えばいいのに。ツンデレか。
そんな言い方してるから仲良くなれないんじゃないの?
「はは、ご冗談を。そんな関係でもないでしょう」
ほら!
めっちゃ笑顔でお断りされてるじゃん。
仲良くするのは無理にしてももう少しこう、和やかに会話できないものか。




