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14.予想外の出迎え


 あの後はバレッタを買ったお店の話で盛り上がって、さらに来週の土曜日にリリーと一緒に街へ行く約束をしてしまった。

 なんかもう勢いって怖い。

 リリーと話しているとつい何も考えずにほいほい約束してしまう。

 

 それでもその約束の日はとても楽しみだった。


 相手はヒロインではあるけれど、友達と一緒に出掛けるということは街の観光ができる。

 帝都に来てから街に出かけたのは殿下と出会ったあの日だけ。それ以外はただただ学園と屋敷を行き来するのみだった。

 

(先週のお休みは二日とも殿下がやってきてずっと一緒にいたからどこにも行けなかったもの。せっかく異世界に来たんだから色々見てみたい)


 元の世界に帰る目処なんてまったく立っていないどころか暗雲立ち込めまくっているけれど、それはそれ、これはこれ。

 あまり思い詰めて怖がってもいい事はない。

 むしろこの世界を楽しんだ方が得だ。

 もともと無駄にポジティブな性格だったし気持ちの切り替えは早い方だから、不安な気持ちを無視することはそんなに難しくなかった。


 楽しいことに目を向けるのだ。

 前を向いてないと大切なものを見落としてしまう。


 そうして楽しい気持ちのまま午後の授業を終えた。

 よし、帰ろう。

 今日は図書館にも行かないし東棟にも行かない。攻略キャラにも会わずに真っ直ぐ屋敷に帰るのだ。

 だって死ぬほど疲れているから。


 帰る準備をしてリリーと共に教室を出る。

 リリーは中庭に寄ってから寮に帰るんだそう。だからそこまで一緒に行くことにした。


「マリア様」


 教室から出た瞬間名前を呼ばれた。

 声がした方へ目を向けると、そこに立っていたのは超絶美人モブ、もといアデルハイトだ。

 今日は私と同じ制服を着ている。

 昨日のパンツ姿も男装の麗人というかんじでよかったが、スカート姿もかなり様になってる。美人だ。


 どうでもいいけど何故私は彼女に出待ちされているのだろう。


「アデルハイト様、昨日はありがとうございました」

「いえ、先ほどお見かけした際に辛そうにされてたので……無理させてしまったようで申し訳ございません」


 なんかその言葉、周囲の誤解を生まない?

 私たちの間にはなにもないのよ??


「少し疲れてしまっただけですわ。アデルハイト様が気にすることはありません」

「そういうわけにもいきません。せめてお屋敷までお送りいたします」


 強引だ。

 なんで彼女はモブなんだろう。

 女性だからか。男性ならぜったい攻略キャラになってる。


「あの、マリア様のお知り合いの方ですか?」


 私の隣にいたリリーが控えめに問いかけてきた。


「ええ、紹介しますわ。シュヴァルツ辺境伯家のアデルハイト様です。アデルハイト様、こちらはクラスメイトで仲良くして頂いているグレーデン男爵家のリリー様です」

「リリー様、はじめまして。マリア様とのお時間をお邪魔してしまって申し訳ありません」

「い、いえ、大丈夫です! どうせ中庭までしか一緒にいられないので……」

「私もお二人とご一緒させていただいても?」


 リリーは私にお伺いを立てるように視線をくれた。

 アデルハイトは何がなんでも私を屋敷まで送ってくれるつもりのようだ。

 断ってもよかったが、自分のことを心配している人に冷たく当たるのは決まりが悪い。

 私はその申し出を受けることにした。

 といっても馬車に乗るのでどうせ学園を出るまでだ。

 アデルハイトは当たり前のごとく私の手にしていた荷物を持った。

 その仕草は自然で、彼女の荷物を持つ彼氏のよう。イケメンだ。


 この人なんで女性なんだろう。


「昨日はお二人で何をされていたんですか?」

「私が東棟へ行った時にお会いしたのです。案内していただけることになったのですが、その途中で私が疲れてしまって……馬車乗り場まで送っていただきました」


 お姫様抱っこされたのはもちろん秘密だ。


「そうだったのですね」

「はい。ですのでまた東棟をご案内させて頂きたいのですが……いかがでしょうか?」


 その申し出はありがたい。

 一人で隠れながら東棟を見て回るのはこの身体では無理だろう。アデルハイトとの約束があれば堂々と乗合馬車を使って東棟へ向かうことができる。

 お願いしようと口を開いた瞬間、視界の端に少し寂しげなリリーの表情が見えた。


「そう言っていただけて嬉しいですわ。でも、そのときにはリリー様と一緒でもいいかしら?」


 うっかり口にしてしまったお願いに、アデルハイトは少しだけ驚いたような顔をした。


「ええ、勿論構いません」

「わ、私がご一緒してもいいのでしょうか?」

「二人より三人で見て回る方がきっと楽しめますわ。それに、リリー様も東棟へは行ったことはないのでしょう?」

「そうですけど……ううん、ありがとうございます」


 リリーは嬉しそうに笑ってくれた。



 リリーの顔を見て思わず一緒にって言ってしまったけど、これやらかしてしまった気がする……!

 三人で行ったらリリーを一人にして迷子にさせるなんてことはできないし、一度でも東棟へ行ってしまえば今後迷子になることなんてないだろう。

 そうなるとリオンとの出会いも失敗してしまう。

 というか絶対失敗だ。

 ああああ、私の馬鹿!


「あ、私は中庭に行くのでこれで失礼します。マリア様、アデルハイト様、お気をつけて!」


 リリーは笑顔で大きく手を振って走り去って行った。

 それは貴族令嬢の振る舞いとしては-20点よ!


 なんてことをアデルバイトの前で言うわけにもいかず、私はにこやかに手を振り返した。

 もちろん、お上品に。間違っても手を振りあげて振ってなどはいない。


「…………可愛らしいお嬢様ですね」

「そうね。リリー様は少し変わっているの。でも優しくて素敵な方なのよ」


 マナーは少しずつ身につけていってもらおう。私の前ではともかく、せめて攻略キャラの前で失礼な言動をしてしまわないように……。

 あれ、でもそうすると他の令嬢達と同じになってしまうのか。

 ヒロインはどう考えてもおもしれー女枠だから寧ろ矯正しない方がいいのか??


 そんなことを頭の隅で考えつつ歩いているとすぐに目的地の馬車乗り場が見えてきた。

 お礼を言うためにアデルハイトの方を向くと、彼女は困惑したような表情を浮かべていた。

 そんな顔をされるようなことはしていないはずだ。

 何かしてしまったっけ?


「ここまで送っていただきありがとうございます。あとは馬車に乗るので大丈夫ですわ」

「え、いえ、あのマリア様」


 アデルハイトが困ったような表情のまま、私の背後に視線を向けている。

 何か後ろにいるのだろうか。


 振り返るとそこには天使、もとい殿下が立っていた。


「マリア、体調がよくないと聞いたんだけど大丈夫かい?」


 驚きのあまり顔が引き攣りそうになるのをなんとか堪える。

 平常心平常心! 婚約者が突然あらわれたからってそれを顔に出してはいけない。だってマリアならきっとそんな反応しないから。


 私は本日何度も繰り返した言葉をまた口にした。


「少し疲れているだけです。問題ありませんわ」

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