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122.どうにもならない



 これはとってもまずい展開ではないだろうか。

 どう考えたって誤魔化せる気がしない。


 なのに明日もまた会えると思うと嬉しくなってしまっている。

 可愛いドレス着てこなきゃ。一昨日リリーの化粧品のついでに買った新しい口紅つけようかな。







 いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。

 ルイス殿下にどうすべきか相談しないと。

 隣にいる彼を見上げるとほんの少しだけ口角があがっていた。それに眉間の皺もないし頬もほんのり赤みがさしている。


 そういえばこの人弟のこと大好きだったな。

 私との会話は全部フランツ殿下に関することだったし、彼を褒めれば褒めるほどルイス殿下は機嫌が良くなった。


 だからつまり、明日も大好きな弟に会えることが嬉しいのだろう。


「ルイ、明日どうする……?」

「……どうするも何も、普通にするしかないだろう。俺はお前のことを好きな振りをするしお前もそうしろ」

「そうしろって言われても……ううん、頑張るつもりだけど、その、上手く出来ないと思うから先に謝っておくわ。ごめんなさい」

「…………諦めるのが早すぎないか?」

「だって無理よ。さっき顔見ただけで嬉しかったんだもの。明日会ったらもっと嬉しくて我慢できなくなっちゃう!」

「それは……どうにもならないのか?」


 若干引き気味に問い掛けられたけど、どうにかなるならとっくの昔にどうにかしている。


「どうにかできるのならこんな風に拗れたりしてないわ」

「それもそうか……。ならフランツの顔を見ないようにすればいいじゃないか」

「……努力はするわ。でも期待はしないで」


 そもそも明日会えると思うだけでもう嬉しいんだけど。

 あれ、私どんどんダメになっていってないか。

 会っても会わなくても好きになってく。


「ルイはどうやって私を好きな振りをしてるの? 何かコツとかあるの?」


 ルイス殿下の演技は陛下もお父様も疑わないくらい完璧だった。

 その半分でも、いや、10分の1でもいいから技術を身に付けたい。


「コツ……といえるかどうかはわからないが、本当に好きだと思い込むんだ」

「それだけ?」

「ああ、それだけだ」


 なんの参考にもならない。

 だけど少しでもマシになるならやってみようかな。

 妄想は得意だしやってみたら意外と上手くいくかもしれないし。


「ここ数日お前のことをずっと考えていた。お前の髪や目はどんな色だったか、どんな声だったか、どんな話をするのか……。お前のことを好きになればきっと触れて壊してしまうのが怖くなるのだろう。だからお前が傷付かないよう優しく扱って、他の何者からも傷付けられずにすむよう守るはずだ。それに……好きになればきっとお前のことをもっと見ていたくなる」


 ルイス殿下は私を見つめている。

 その表情は、馬車を降りた時のそれと同じで、私のことを本当に好きなように見える。

 思い込みだけでこんな表情ができるようになるのか。


「……俺は誰かを好きになったことがない。だからその感情がどう行動に影響をもたらすのかは想像するしかない。だがお前はフランツのことが好きなのだろう? そのときの気持ちや行動をもとに演じればいい」

「うん、頑張ってみる」


 フランツ殿下を目の前にした時の気持ち。

 ドキドキして彼以外の全てが目に入らなくなって、大好きなあの笑顔が見たくて声が聞きたくて触れたくて、ただただ彼がそこにいるだけで幸せになる。


 私より背の高いルイス殿下を見上げた。


 目がフランツ殿下と同じ色だ。

 兄弟だからかな。青みがかった緑の瞳はどうしても彼のことを思い出させる。

 けれど二人はまったく似ていない。

 フランツ殿下は皇帝陛下によく似ているけどルイス殿下は母親である前皇后陛下に生き写しなのだそう。

 ルイス殿下を見てフランツ殿下を見た時のような気持ちにはなれない。


 しかし顔自体は好みだ。

 切れ長の目に薄い唇、その冷たい態度も含めてかなり好き。ルカとどちらが好みかと聞かれたら本気で悩んでしまうかもしれない。

 もしルイス殿下の髪がフランツ殿下と同じく金髪だったなら最高だった。



 だけど今の慈愛に満ちた表情はなんか違う。

 もっとこう、見下してほしい。私に興味がないままがいい。できるならそこら辺の石ころを見るような目で見て欲しい。


 いっそお願いしてみるか。


「あのね、お願いがあるんだけど……もっと冷たい顔で、蔑むように私を見てほしいの」

「…………は? 蔑まれたいのか……? 何故そんな……」

「それが一番好きになれそうなんだけど……ダメかな?」


 ルイス殿下は困惑しつつも私のお願いを受け入れてくれた。


 一度目を瞑りゆっくりと呼吸を三度ほどして目をあける。そのときには私への愛情なんて欠片も感じさせない冷たい表情になっていた。

 まるで虫けらを見るような目で私を見てくれている。



 想像以上にいい。

 鳩尾のあたりがきゅーっとする感じ。

 ドキドキはしてるけど、これ好きのドキドキじゃなくて恐怖のドキドキだ。


 …………もう少し下から見上げたい。

 這いつくばるのはさすがにドン引きされる気がするな。

 その場でしゃがんで上を向く。うん、いい感じ。


「何故しゃがむんだ……?」

「その方がもっと見下されてる感じがしていいかなって……。あ、表情は変えないで。…………そのまま軽く踏んで欲しいかも」

「は? ……お前は何を言ってるんだ」


 どちらかというとMだけど真性のドMではないから痛すぎるのは苦手だ。

 あくまで軽く踏んで欲しいだけ。

 でもドレスや髪が汚れたらさすがに怪しまれるかな。それにルイス殿下を年下の女の子を足蹴にするような人にしたいわけではない。

 手を踏まれるくらいならいけるかな。


「待て、これは本当に俺を好きな振りをするための行為なのか? お前は俺に踏まれて好きになれるのか? フランツともこんなことをしたのか?」

「ううん、フランツ殿下にはそういう表情や行為は似合わないと思うからお願いしてないわ。ルイはそういうのが似合うと思うから…………あ、あの……その、ごめんなさい」


 やばい、ものすごいドン引きされている。

 調子に乗って言わなくていい事まで言ってしまった。

 これ私興味無い人ポジションから関わりたくない人ポジションに格下げされたりしちゃったかも。

 

「お前には俺が女性を踏み付けるような男に見えるのか……?」

「ごめんなさい、そんなこと思ってないの。ルイがそう見えるわけじゃなくて、それは私の個人的な願望で……さっきの言葉は全部忘れてください」


 ルイス殿下は大きくため息をついて、しゃがみこんでいる私の手を取って立たせてくれた。


「お前は虐げられたい願望があるのか?」

「そういうわけじゃなくて……。痛いのも苦しいのも嫌いなんだけど、その状況はちょっと憧れがあるというか……」


 説明するのがとても難しい。

 虐げられたいわけではなく、その虐げる側のキャラが単に好きなだけだ。

 普通のいい人より頭おかしいキャラが好きだし倫理観のないキャラに惹かれる。ルイス殿下は見た目が好みだからちょっとそんな顔をしてほしいなって思っただけだ。

 そしたら思った以上に良くてテンションが上がりすぎた。


「……魂は違うかもしれないがお前は公爵令嬢なんだ。先程のようなことは二度と口にするな」

「はい、わかりました」

「しかしどうしてもというのなら……たまにはお前の望むようにしてやる。ただし踏むのはなしだ」

「ホントに!? ありがとう!」


 定期的にあの顔を拝むことができるのか。

 思い切って頼んでみてよかった。


「…………それで俺を好きな振りはできそうか?」

「えっと…………さっきの顔を思い出して頑張るわ」

「やめろ。怯えた顔をされたら逆効果だ」


 ルイス殿下は再びため息をついた。

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