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117.迎え



 結局手がかりはほぼ得られず、リリーとお兄様の仲もイマイチ。

 それどころかゲーム的にはモブのはずのクリスといい感じになってしまってもうめちゃくちゃだ。

 この一週間の収穫といえば、私と彼女の宿題が八割ほど終わったことだろうか。


 それでもリリーと過ごす時間は楽しかったし色んな話ができた。


 リリーとクリスが帰ると屋敷が静かになったように感じて少し寂しかった。


 午前中はのんびり本を読んだり調べ物をして過ごした。




 午後は皇宮に行かなければならない。

 今回のことは陛下から預かっていた通信用の魔道具で適宜報告していたが、それとはまた別に皇宮に来るようにと言われていた。

 もしかしてお父様の小言に耐えられなくなったのだろうか。

 私が頻繁に皇宮に行くことについてはお父様も嫌がっていない。それどころか毎回嬉しそうにしてくれている。

 仕事中にマリアに会えることが嬉しいのかもしれない。



 昼食を終え、皇宮に向かう準備が完了したタイミングで迎えがやってきた。

 てっきり以前のようにルカが来ると思っていたのに、あらわれたのはルイス殿下だった。


「皇帝陛下の使いとしてクラウス公爵令嬢を迎えに来た。準備は……出来ているな」


 周囲にいた使用人はもちろん、私も状況が理解出来ずに固まってしまった中でルイス殿下の微笑みが眩しい。

 手の甲にキスをされてハッとした。

 皇子に対してぼーっと突っ立ってるなんて失礼すぎる。


「ありがとうございます。ルイス殿下がお迎えに来られるなんて如何なされたのでしょう?」

「事情は馬車の中で伝えよう。行くぞ、陛下がお待ちだ」


 促されて馬車に乗り込む。

 もちろんルイス殿下も一緒に乗ってきた。

 皇子が乗る馬車だからもちろん広いんだけど、よくわからないこの状況で親しくないイケメンと密室で二人きりなんて居心地が悪すぎて逃げ出したくなってくる。


「驚かせて悪かったな。お前にどうしても話さなければならないことがあったんだ」

「それは何でしょう……?」


 私相手にここまでやって話すこととはなんだろう。

 悪いことでなければいいけど。


「俺達の婚約の話だ。昨日父上とクラウス公爵に話をして許可をもらった。今日は二人からその話をされるだろう」

「婚約の……許可を……」


 あ、そういえば夏休みに入る前にそんな話をしてたような気がする。

 有り得ないと思ってすっかり頭から抜け落ちていた。



 ………………今婚約の許可をもらったって言ってたな。

 それってつまり、ルイス殿下と婚約するってことか。あれ、どうしてそうなった??


「ほ、本当に婚約するのですか!?」

「ああ、お前も公爵の決定に従うと言っていただろう」

「そうですが、その、私はフランツ殿下との婚約を解消したばかりなのですが」

「解消したなら何の問題もない。もちろんすぐに婚約の事を公にするわけにはいかないから暫くは恋人として過ごしてもらうことになる」

「恋人!?」

「ああ、二人に話をする際に俺がお前を好きになったと言った。だから人目がある場所ではそのように振る舞う。お前のことは何も言ってはいないから無理する必要はないが、最低限話は合わせてくれ」


 ど、ど、ど、どうしよう。

 私まだフランツ殿下のことが好きなんだけど。

 そしてそのことは私の周囲の人全てが知っている。お兄様はもちろん、お父様も報告を受けて知っているだろう。

 それなのによりによってフランツ殿下の兄と婚約。

 お父様はどうしてそれを許してしまったのか。

 陛下だって私が普通の貴族令嬢じゃないの知ってるのに反対しなかったの?

 なんで??


「悪いが二人の前ではマリアと呼ばせてもらう。あとは……お互いのためにもできるだけ二人きりで過ごすようにしたい」

「なぜ二人きりになる必要が……?」

「他人の目がある場所では恋人の真似事をしなければならない。面倒だろう? 誰もいなければ会話する必要もない」

「なるほど」


 そういえば婚約といっても解消することが前提の婚約だった。

 卒業してしまえばなかったことになるし、デメリットはあるかもしれないけれど、私にとっては悩み事が全て片付く話でもある。


「わかりました。でも、突然の事でうまく口裏を合わせられるか不安なのですが……」

「特別なことを言う必要は無い。お前は俺との婚約を嫌がらず、解消する予定があることを隠してくれさえすればいい。後のことは俺がなんとかする。気楽にしていろ」


 本当にそれで大丈夫なんだろうか。

 いや、まあダメならダメで私は困らないのだけど。


「ああ、着いたな。くれぐれも顔に出すなよ」


 そうして馬車から降りたルイス殿下は、まるで別人が乗り移ったかのように豹変した。



 まるで壊れ物でも扱うかのように優しく私に触れてくるし、向けられる視線も愛情に満ちた眼差しのように思える。

 私を気遣ってくれる声も優しげで、先程までのルイス殿下はどこに行ってしまったのか。いや本当に誰この人。


 あまりにも動揺してしまったせいなのかうっかり段差に躓きかけたけど、そのときも優しく支えてくれたうえに周囲にバレないようフォローもしてくれて完璧としか言いようがない。


 すごい完璧な理想の王子様だ!!

 その理想の王子様にお姫様扱いされている!


 ちょっとテンションが上がってしまった。

 フランツ殿下も見た目含めて理想の王子様だと思っていたけれど、彼の私に対する接し方は婚約者に対するそれではなかったから少しだけ不満があった。

 でもルイス殿下は完璧だ。表情も動作も言葉も全てが完璧。

 別にお姫様になりたいなんて願望はなかったけど、理想の王子様を特等席で拝めるのでこのポジションは最高だ。

 眼福。


 でも正直に言うとルイス殿下は王子様スマイルよりも人を見下すような顔の方が好みなのでそっちを拝みたい。

 絶対に言えないけれど。



 程なくして陛下の執務室の前に着いた。

 ルイス殿下がノックをするといつもより低めの声で入室を許可する言葉が返ってきた。


「失礼します。クラウス公爵令嬢をお連れしました」


 後に続いて部屋に入る。

 なんだかいつもより空気が澱んでいるような気がした。


 部屋の奥にある執務机に肘をついて両手を組んだ渋面の陛下と傍らに立つ無表情のお父様。

 え、これ気楽にしていられる空気じゃないですよね。

 ものすごい険悪な空気が流れてるんですけど。

 これ大丈夫? ねぇ、本当に大丈夫??


 心配になってルイス殿下を見上げると、その視線に気付いてくれたのかこれ以上ないくらいに綺麗な微笑みを返された。

 なんかキラキラしてる。


「心配するな。俺がついている」


 安心させるためなのか手を握ってくれたけれど、その行動で室内の体感温度が3℃程下がってしまった。

 胃が痛い。吐きそう……。

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