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112.リリーの誕生日4



 真っ先に動いたのはクリスだった。


 剣でオルトロスに斬りかかる。

 初撃を横に飛び退いて避けたオルトロスは身を低くしてクリスに飛びかかろうとした。

 その瞬間エリックが風の刃を発生させオルトロスの身体を切り裂く。

 が、毛皮が頑丈なのか、オルトロスには傷一つついていない。


 オルトロスは標的をエリックに切り替え、咆哮とともに炎の玉を吐き出した。

 エリックが再び風を発生させて炎の玉を相殺すると追い打ちをかけるようにクリスがオルトロスに斬り掛かる。



 それらは目で追うことがやっとの、本当に短い時間の出来事だった。

 私とリリーはエリックの背後に立ち尽くしていた。


 オルトロスの唸り声とクリスの斬撃の音、そしてエリックの魔法によって起こる風切り音が絶え間なく聞こえる。

 二対一で状況はクリスの方が優勢に思えた。

 しかしクリスがいくら剣で切り付け、エリックが風の魔法で切り裂いてもオルトロスには傷一つつかない。


 このままではジリ貧だ。


「っ、……警備の騎士達は何をしているの……!?」


 周囲を見回しても民衆の背が見えるだけで騎士らしき人の姿は見当たらない。


「大通りを巡回している騎士は魔獣と戦えません。今は民衆の避難に徹しているのでしょう。暫くすれば皇宮の騎士が来てくれるはずです。それまでは私とクリスの二人であれを抑えます」


 オルトロスの牙をクリスが躱し、その追撃を阻止するようにエリックが魔法でオルトロスを攻撃する。

 苛立ったオルトロスがクリスから離れようとすればエリックが魔法で進路を邪魔し、その隙にクリスがオルトロスに斬り掛かる。


 両者の攻防は拮抗しているかのように見える。

 しかしそれも長くは続かなかった。


「っ……!!」


 オルトロスの爪がクリスの肩を掠めた。

 服が裂け鮮血が飛ぶ。幸い傷は深くはないが、オルトロスの爪には毒がある。


「クリス!! エリック、クリスを助けないと!」

「お嬢様、動かないでください。私から離れると庇いきれなくなります」

「でも……!」


 私はまともに魔法を使うことが出来ない。

 だからこんな状況でただ守られていることしかできない。



 そうだ、ルカを呼んで助けてもらおう。

 ルカならオルトロス相手でも負けることはないだろう。もしかしたらクリスの受けた毒もどうにかできるかもしれない。


 いつものように心の中でルカを呼んだ。


 ルカはあらわれない。

 もう一度呼ぶ。しかし状況は変わらない。


 どうして!?

 いつも呼んだらすぐ来てくれるのに。なんでこういうときに限って来てくれないの?

 私がリリーがいる間は絶対に来ないでと言ったからだろうか。何かあっても自分たちで何とかするからと言ってしまったからだろうか。


 過去の自分を呪いたくなった。




 クリスは目に見えて動きが鈍くなった。

 毒が身体に回っているのかもしれない。

 もう攻撃することは出来ず、エリックの援護を受けながらオルトロスの攻撃を受け流すことしかできていない。


 エリックはそれでもクリスの元へ向かうことはない。

 私たちがいるからだ。

 あのオルトロスの動きは俊敏で、人間の足では追いつくことなどできないだろう。もしエリックが離れた隙にオルトロスがこちらへ向かってきたら、私達は為す術なくあの爪に引き裂かれることとなる。

 だからエリックはクリスを助けに行くことはできない。



 何か私にできることは……。


 そうだ、私は普通の魔法は使えないけれど地面を伝ってなら魔法を使うことができる。

 オルトロスの足元を凍らせて動きを止めればクリスの助けになるかもしれない。


 しゃがんで地面に両手をつき魔力を二人の近くに送る。


 だめだ、動きが早すぎて魔力を送るのが間に合わない。これでは氷を作る所ではない。

 どうにか足止めしなければ。


 いや、魔力を送るのが間に合わないのなら、オルトロスとクリスの周辺全てに魔力を注げばいい。

 そうすればオルトロスが何処に動いても間に合わせることができる。

 魔力の消費が大きくなってしまうけれど、いずれにしてもこの状態で長期戦は無理だ。



 クリスのいる位置を中心に半径10mあたりまで魔力を巡らせた。

 これなら……!


 オルトロスが着地したタイミングで足元を捉えるための氷を生成する。

 しかし思った以上にオルトロスの動きは早く、氷ができる前に移動されてしまう。

 これでは意味が無い。


 それなら氷の柱を生成して誘導しよう。いくら動きが早くても来る場所がわかれば捉えられるはずだ。

 クリスの前方に魔力を集中させた。そこへ誘導するように細い氷の柱を何本も生成する。

 オルトロスはそれを避けるように動きながら氷の柱を壊して回る。


 だめだ、想定通りになかなか動いてくれない。

 エリックが私の意図を察知してくれたのか、風の魔法でオルトロスの動きを牽制してくれた。


 氷の柱が二十本を超えた頃、ようやくオルトロスが目的の場所に着地した。

 集中させた魔力を操作し氷を生成する。しかし捉えることが出来たのはオルトロスの脚一本だった。

 動きを止めるには足りない。


 しかしオルトロスが体勢を僅かに崩した瞬間、クリスがオルトロスの首元を目掛けて剣を振った。

 それに身構えるような体勢をとったことでオルトロスの身体が完全に静止する。

 今だ!


 全ての魔力を集中させてオルトロスの身体に魔力を流し込む。先程までとは違って脚が完全に接地しているため直接魔力を流すことができた。

 周囲の水分と共にオルトロスの身体に存在する全ての水分を凍らせていく。

 クリスの剣がオルトロスの首元に刺さった。凍ってしまった皮膚では先程までの頑丈さは発揮できなかったらしい。


 断末魔の叫びをあげ、オルトロスは大きな氷像となった。






 噴水広場は静まりかえっていた。


 避難したため周囲に人はいない。怪我人もいない。オルトロスを食い止めるために立ち向かったクリス以外は。


「クリス!」


 早く手当てしなければ手遅れになってしまう。

 立ち上がってクリスに駆け寄ろうとした。






 しかし私の視界はぐるりと回って暗転し、そこでプツリと意識が途切れてしまった。



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