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110.リリーの誕生日2


 化粧品を一通り購入して屋敷に送り届けてもらうよう手配した。

 お兄様はクリスに荷物持ちをさせろと言っていたが、そんなことさせていざ何かあったときに荷物が邪魔になったら困る。


 エリックは私達の邪魔にならないよう少し後ろを歩いてくれている。

 クリスはリリーの隣をキープしていた。

 先程からさりげなく私達の会話に入ってくるので少しだけ苛立っていた。もちろんそんなことは表に出さないけれど。

 クリスに邪魔されたくないから一件目を化粧品のお店にしたのに、どうして会話に入ってこれるのか。

 しかもめちゃくちゃ詳しくてびっくりした。

 女の私より詳しかった。ムカつく。


 理由を聞いたら義理の母である伯爵夫人が逐一教えてくれるんだとか。

 おかげで私は完全にクリスの引き立て役だ。悔しい。


「次はドレスを見に行きましょう。リリーは気になってるお店ある? 以前ドレスを仕立てたお店とか……」

「マリア、ドレスはさすがに……」

「大丈夫、ちゃんとお兄様に許可もとってるから。それに私やお兄様の隣に立つときにちゃんとしたドレスを着てないとダメでしょう?」


 もちろんお金は私が出す。

 私というかクラウス公爵家だけど。

 リリーは一時的にでも偽りだとしてもお兄様の彼女なのだから着飾ってもらわないと困る。

 最低でも二学期の間は恋人として振舞ってもらいたいから……皇宮で開催されるパーティー三回分のドレスと何度か参加するであろう夜会のためのドレス、あとお茶会にも顔を出すためのドレス、ついでに私と出かける時用のワンピース。

 まあお店を決めて採寸さえしてしまえば後からいくらでも買い足せるか。


「もし拘りがないのであれば私がいつも頼んでいるところでいいかしら?」

「う、うん。その、本当にいいの……?」

「もちろんよ。私もリリーのドレスを選びたいの。リリーは可愛いからきっとどんなドレスでも似合うわ」


 大通りの一角にあるドレス店へ入った。

 いつもは屋敷に呼ぶからお店に来るのは久しぶりだ。マリアの記憶では、前に来店してから二年ほど経っている。


 店主に話をするとリリーは奥の試着室に連れて行かれた。採寸するらしい。


 時間がかかるだろうから店内に展示されているドレスを見ながら時間を潰すことにした。

 当たり前だけどどれも背中が見えるデザインだ。

 どんどん流行が進化してミニスカ履いてもよくならないかな。せっかくだからJKのうちに太もも出したい。

 まあ足首が出てるのでさえ色々言われるのだから太ももは無理だろうな。


「お姫様は随分とあの子を気に入ってるんだな」


 せっかく視界に入らないようにしていたのに、クリスはわざわざ私に話しかけてきた。

 しかもリリーが隣にいたときとは違って馴れ馴れしい口調だ。

 エリックは店内に入らず外で待機してくれているので話し相手がいないのだろう。男性がこんな煌びやかなドレスに囲まれて居心地が悪いのかもしれない。


 でも嫌っている私に話しかけてこなくていいのに。


「…………それはやめてって言ってるでしょ。どうしてそう呼ぶの?」

「それはお姫様だからだろ。クラウス公爵家のお姫様。それより俺があの子と話す度に機嫌悪くなっていったな。ヤキモチか?」

「機嫌悪くなんてなってないわ。それよりリリーのことを気に入ってるのは貴方の方でしょう? あんなプレゼントまで用意して……」

「なんだ、本当に嫉妬してるのか。心配しなくても姫様にもちゃんとプレゼントを用意してやるよ」

「要らないわ。私が言いたいのはそうじゃなくて」

「ああ、自分が一番愛されてるのが好きなんだろ? もちろん俺は姫様が一番好きだよ」


 揶揄する言葉に苛立ったが、いちいち反応していたらキリがない。

 クリスも私のことが嫌いならわざわざ話しかけてこなければいいのに。


 というかマリアの記憶ではここまで意地悪ではなかったはずだ。

 私になってマリアとは言動が変わってしまったからだろうか。私のこと、本当に嫌いなんだろうな。


「…………もういいわ。私はドレスをゆっくり見たいの」

「姫様もドレスを買うのか? いつも着てるドレス、あまり似合ってないから俺が合うのを選んでやるよ」


 事実だけどクリスに言われるのは腹が立つ。

 他の人がいるときは貴族らしく遠回しな表現ばかりするのに周囲に人がいないとどうしてこんなストレートにムカつく物言いをしてくるのか。

 猫を被るなら最後まで被れ。

 いや遠回しに言われてもムカつくけど。それでもまだマシだ。


「結構よ。私のドレスはもう既に頼んであるの」

「へぇ、どんなのにしたんだ?」

「貴方に話す必要はないでしょう?」

「それは着るのを楽しみにしてろってことか? よっぽど気に入ったドレスがあったんだな」

「…………」


 この男は私とまともに会話をする気があるのかないのかよくわからない。

 いや、からかっているから会話するつもりはないのか。


 面倒だが無視すれば雰囲気が悪くなる。キツい言葉を返すのも良くない。

 喧嘩せずにクリスの嫌味を回避する方法はないだろうか。


 そういえば先程の化粧品選びではクリスの知識は役に立った。

 流行りの色や肌質にあった化粧品の選び方、使い方、なんでも知っているようだった。なんとなくデパコスのカウンターにいるアドバイザーのお姉さんを思い出した。クリスは男だけど。


 もしかしたらドレス選びでも役に立つかもしれない。

 クリスに頼るのは癪だけど、雰囲気も悪くならずにリリーにぴったりなドレスが選べるのなら一石二鳥だ。


「クリスはドレスにも詳しいの?」

「ん? ああ、まあ煩い人が身近にいるからな。選んでほしいのか?」

「私のドレスはいらないわ。でもリリーのドレスを選ぶのを手伝ってほしいの」

「……お姫様の頼みなら仕方ないな。あの子に合うドレスを選んでやる」


 あ、少し嬉しそうにしてる。

 リリーのドレスを選べるのが嬉しいのかもしれない。

 私のドレスを選ぶと言っていたのもリリーのドレス選びに関わりたかったからか。

 化粧品のときもあんなに関わりたがってたし、やっぱりクリスはリリーのことが好きなのだろう。


 気が重い。

 もし本当にリリーとクリスが相思相愛だったとしたらどうしよう。


 というか今後のことを考えるとクリスとの関係を悪化させるのは悪手だな。

 二人の仲を邪魔するにも応援するにも良好な関係を築いていなければならない。

 ここは私が大人になって寛大な気持ちでクリスに接してやろう。


 程なくして採寸が終わったリリーが戻ってきたので三人で購入するドレスを選んだ。

 クリスはセンスが良くて彼が選んだドレスはどれもリリーに似合っていた。

 悔しいけどクリスにお願いしてよかった。

 おかげでそこまで悩むことなく五着のドレスを決めることができた。


 懐中時計で時間を確認すると、既に正午を回っていた。お昼にしなければ。


「クリス様のおかげで素敵なドレスを選ぶことができました。ありがとうございます」

「いえ、私はほんの少し意見を述べただけにすぎません。リリー様は可憐でどのようなドレスもお似合いになるので私もとても楽しかったです」


 わかる。

 リリーが可愛すぎてあれもこれも着せたくなってしまう。今回はクリスが止めてくれたけど。

 購入したのは全て夏用のドレスだからまた来月の中頃に秋用のドレスを買いに来よう。


「そろそろお昼にしましょう。……あっ、お店の予約忘れてた……どうしよう」


 さすがにクリスとエリックを連れて庶民のお店に入る訳にはいかない。

 クリスは剣を持っているとはいえ比較的ラフな格好をしているけれどエリックは誰がどう見ても騎士の格好をしている。

 騎士を引き連れてお出かけする人なんて貴族以外にいない。

 貴族が庶民の利用するような店に入るなんて場違いもいいところだ。

 ……このお店に剣と防具を預かってもらえばいけるかな。そしたらパッと見普通の人だもんね。


 いやでも護衛の武器を取り上げるってどう考えてもダメなやつ。


「それでしたら知り合いの店に席を予約しているので問題ありません。ちょうど近くですから行きましょう」

「えっ、あ、ありがとう。……ごめんなさい。私が買い物に行くと言い出したのに準備が足りなくて」

「いえ、お嬢様は帝都へ来たばかりですからまだ慣れないのでしょう。私はもう四年もこちらにいますので、わからないことがあれば何でも頼ってください」


 帝都へ来たばかりといってももう四ヶ月も経ったんだけどね。

 さすがにそれを言い訳にするには時間が経ちすぎているだろう。



 ……あ、これ皮肉か。

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