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109.リリーの誕生日



 今日もいい天気だ。

 さすがはリリーの誕生日。これは幸先いいのでは。


 特別な日だから前から準備していた色違いのワンピースを着ることにした。

 リリーは淡い黄色の、私は薄紫の生地で、二人の身体や顔立ちに合わせて少しだけ形も変えてある。リリーは最高に可愛くて私は最高に綺麗だ。

 こういうリンクコーデなんて若いうちにしかできないんだからいいよね。

 なんたって今の私は十五歳。間違ってもアラサーの社畜ではないから。

 気軽にオーダーメイドできるのっていいな。


 髪は邪魔にならないよう編み込んでまとめてもらった。

 しっかり日焼け止めを塗って軽く化粧をして、マリアの好きな薔薇の香水をまとったら準備は完了。



 久しぶりにリリーとお買い物だ。

 夏休み初日にルカに街へ連れて行ってもらったけど、やっぱり女の子同士でのお買い物は楽しみが違う。

 あの可愛い街並みをリリーと歩くだけでもきっと楽しめるだろう。可愛い雑貨やアクセサリーを見て美味しいケーキ食べて、せっかくだから化粧品を選んだりしてもいいかも。

 リリーとマリアは似合う色が違いすぎて、リリーに足りないものを気軽に貸すことができない。

 今後もリリーとは付き合っていくだろうし彼女のための化粧品やドレス一式を屋敷に用意しておきたい。



 

 浮かれながら二人でエントランスへ向かう。

 今日は何としても最高の一日にしたい。リリーに嫌な思いはさせない。


 けれど階段を降りる前にホールの中央に銀髪の男性が二人いるのを見てテンションが一気に下がってしまった。


「あ、クリス様もいるんだね。今日はマリアの護衛として来てるの?」

「うん、そうみたい……。リリーはクリスと話したことある?」

「うん、少しだけ。一度助けてもらったの。私なんかに優しくしてくれて……すごくいい方よね」


 ちょっと否定したい気持ちもあるけど、少なくともリリーにとって親切ないい人であるなら邪魔してきたりはしないよね。

 今日の目的はリリーをもてなす事だから私の気持ちは置いておこう。


 階段を降りて二人に近付くと、クリスは恭しく礼をした。


「お嬢様、お迎えにあがりました。本日は街でお買い物をされると聞いております。身命を賭してお守りいたします」

「ありがとう。今日はリリーもいるから宜しく頼むわね。リリー、こちらはエリック。今まで出かける時にも付いてきてくれていたから何度か顔は見たことあると思うけれど……」

「護衛隊の隊長さんですよね。今日は宜しくお願いします」


 挨拶を終えて馬車に乗り込んだ。

 何故かクリスも一緒に乗るらしい。エリックは御者席の方に行ってしまった。

 同級生で楽しめという大人の配慮のようだ。そんな配慮いらない。


 でもリリーはクリスと話せることが嬉しいようで、ものすごくいい笑顔だ。

 お兄様といる時はそんな顔しないのに。


  確かにクリスも顔は整っている。

 お兄様と私はお母様に似ていてキツめの顔立ちだ。クリスは優しい顔で、私達兄妹よりお父様に似ている。

 叔父様似なんだろうな。私は叔父様に会ったことがないからわからないけれど。

 因みにヨハンお兄様はお父様に似ているのでクリスとそっくりだ。

 違うのは目の色くらい。クリスの目の色は私やお兄様と同じ赤茶色だ。ヨハンお兄様はお父様と同じ青い目をしている。

 


 ということはリリーは優しそうな顔が好きなんだろうか。

 ならどうして殿下を好きにならなかったんだ。リオンだってつり目のお兄様よりは優しそうな顔をしている。

 性格だっていいし、優しくて頼り甲斐のある二人だし…………あ、私のせいか。

 二人が私のことを好きだからだ。


「今日はリリー様のお誕生日なのだと聞きました。おめでとうございます。急だったので大したものは用意できなかったのですが……よければお受け取りください」


 クリスは懐から手のひらにのるサイズの小さな箱を取り出した。


「わぁ、ありがとうございます。えっと、開けてみてもいいですか?」

「どうぞ」


 中に入っていたのは小さなルビーのついたユリのネックレスだ。

 急だった割にはリリーのために用意していたとしか思えないプレゼントね。

 ほんの少しイラッとしてしまった。


 リリーはお兄様とお似合いなのに。というか今は偽物だけど、リリーはお兄様の彼女役なのだ。

 横槍を入れるのはやめてほしい。


「ありがとうございます! こんな素敵なプレゼントを貰ったのははじめてです。とても……嬉しいです」


 仄かに顔を赤らめて喜ぶリリーは、誰がどう見ても恋をする女の子だ。




 ショックだった。


 今までリリーは男性に対してそんな顔をしたことなかったのに。

 そういえば一度助けてもらったと言っていたな。それでクリスのことを好きになってしまったのだろうか。


 どうしてクリスなのだろう。


 クリスは確かに叔父様の子でクラウス公爵家の血が入っているけれど、継ぐ爵位もないし領地もない。もちろん権力だってない。

 今後グレーデン男爵がリリーを害そうとしたときに彼女を守ることはできないかもしれない。

 だってクリスが正式に騎士になったとしても所詮は騎士。貴族の方が強い権力を持っている。

 もちろんクラウス公爵家との繋がりがあるクリスは普通の騎士よりずっとずっとマシだろうけど。


「喜んでいただけたようでなによりです。今日はリリー様のプレゼントを探すのですよね。どのお店に行くか決めてますか? …………お嬢様?」

「……、ごめんなさい、ぼーっとしてしまって。そうね、まずは……化粧品を見るのはどうかしら? ずっとリップをプレゼントしたいと思ってたの。リリーにはきっとオレンジ系の色が似合うわ」

「そうなの? 私よくわからなくて……。マリアが私に似合う色を選んでくれる?」

「もちろん。その後にドレスを見て可愛い雑貨も見ましょう」


 落ち着かなければ。

 今日はリリーに楽しく過ごしてもらう日なのだ。

 リリーがクリスのことを本当に好きなら、きっと彼女にとって楽しい一日になる。

 だからむしろ喜ばしいことじゃないか。


 クリスだっていつもの嫌味を言ってこないからちゃんとリリーに気を使っている。

 だから大人の私が台無しにするわけにはいかない。


「……ああ、もしかしてリリー様にしかプレゼントを用意していなかったのを拗ねてらっしゃいます? お嬢様にはまた後日プレゼントをお持ちしますね」

「そんなことで拗ねるわけがないでしょう。今日はリリーの誕生日なのだからつまらない冗談はよして」


 前言撤回。

 やっぱりクリスはいけ好かないやつだ。

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