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107.聞きたいこと


 次の日からアーロンの泉、デュマの大岩、ダールベルクの大樹の三ヶ所を回ったが、結局何の手がかりも得られなかった。


 精霊たちはみな口を揃えて異世界に渡る方法などないと言う。

 そして私に対する嫌悪感を隠そうともせず睨みつけてきた。吸血鬼と懇意にしていることでここまで精霊に嫌われてしまうのかと驚いた。


 正直どうしていいのかわからない。

 何かしらの手がかりが手に入るものだと思っていたからこれは想定外だ。


 残るはエルフの首塚のみ。

 樹齢二千年の大樹の精霊でさえ知らないことをエルフは知っているだろうか。




 まあわからないことでぐだぐだ悩んでも仕方がない。

 今日は屋敷でのんびり過ごす日なので嫌なことは忘れて休みを満喫しなければ。


 精霊を訪ねた後は一日おやすみする日を設けることにしていた。

 どこに行くにしてもそれなりの遠出だし、毎日長時間馬車に揺られて過ごすのは身体に良くなさそうだから。

 お休みの日は屋敷の庭園を散歩したり、夏休みの宿題を片付けたり、お兄様がいる日は三人で一緒に過ごした。



 今日はお兄様はいないので庭園のガゼボで二人で昼食をとっている。

 リリーがいる間は周囲に人をおかないようにしている。もちろん、うっかり聞かれてしまうこともあるから話をするときはリリーにお願いして魔法で音が外にもれないようにしてもらっている。


 魔法って本当に便利。


「ねぇ、ずっと気になってたんだけど……リリーの髪の色ってこっちの世界では普通なの?」

「この髪色は精霊に祝福された証だよ。お腹の中にいるときに祝福を受けた子は変わった髪色になるんだって。二年生にも確か二人いるよ。水色の髪と薄紫の髪だったかな」

「そうなんだ。じゃあその二人もリリーと同じように精霊が見えるの?」

「ううん。それとはまた別だよ。祝福は精霊の気まぐれで贈るものなの。もちろん祝福を受けた人間は精霊に気に入られるし特別な力も授かるよ」

「特別な力?」

「うん、人より力が強くなったり魔力が多くなったり賢くなったり……普通より優秀な子になるんだって」

「へぇ、すごいのね。…………でも私の周りの優秀な人達はみんな普通の髪の色よ」


 アデルもアレクも殿下もリオンも普通の髪の色だ。

 お兄様はちょっとあれだけど、でも銀髪っていうとかっこいいけど要するに白髪だし、人間らしい髪色ではある。


 たしかお爺様、つまり先代公爵が異国の王族の末裔を娶ったからその異国の髪の色が受け継がれたとかなんとか。

 どう考えてもこじつけだ。

 確かに他に見ない色だから異国の血が入っているのかもしれないけど王族の末裔っていうふんわりとした感じからして、単に流民に惚れて娶っただけなんじゃなかろうか。


 何にしてもリリーや二年生の人のように精霊の祝福とは無関係だ。


「貴族は生まれつき魔法が使えるせいで祝福を受ける人は少ないみたい」

「へぇ、リリーは特別なのね」

「そうでもないよ。私は平民だから。まあ珍しいといえば珍しいけど普通だよ」

「え? リリーは貴族じゃない。平民として育ったけど、グレーデン男爵家の令嬢でしょ?」


 妾の子ではあるけれど、リリーはれっきとした貴族の娘だ。


 グレーデン男爵家はそれなりに歴史のある家門だ。

 ここ百年ほどは目立った功績を立てている訳では無いけれど、領地をよく治め、十年前の天災の時にも領地を荒れさせることなく乗り切っている。

 目立たないが故に調べるのに少し苦労した。リリーの父親は特筆すべきことのない、悪い噂も良い噂もないごく普通の貴族だ。


「うーん、どうだろう。私とあの人の顔、全然似てないんだよね。だから血は繋がっていないんじゃないかな」

「え……、で、でもリリーは魔法が使えるじゃない。貴族の血が入っていないと魔法は使えないでしょ?」


 確かに平民でもごく稀に魔法が使える人はいる。でもそれは先祖の誰かが貴族だからだ。

 それにそういう人たちはリリーのように音を遮断するような難しい魔法は使えない。


「それはほら、精霊の祝福を受けてるうえに精霊士だから。そういう意味では確かに私は特別なのかもね」

「でも我が子だと思ったからリリーを引き取ったのでしょう?」

「たまたま過去に関係を持った女性に都合のいい年齢の娘がいて、その娘が運良く魔法が使えたから引き取って我が子にしたってだけだよ。……二年生には私みたいな婚外子の子が多いんだって」


 殿下とお兄様がいるからだ。


「学園って一応平等ってことになってるでしょ? 実際に皇族が男爵令嬢と結婚したこともあるみたいだし、夢見ちゃうんだろうね。でも現実はそう上手くいかなくて、婚外子だとわかっている子達は貴族の子の輪に入れないんだよ」


 リリーはやになっちゃうよねー、なんて明るく言っている。


「……私が他の子と普通に話せるのはマリアが仲良くしてくれてるからなんだよ。私が精霊士ってことも秘密にしてくれてるし……。本当にマリアには感謝してもし足りないくらいなの」

「私は何もしてないよ。寧ろ私の方がリリーに助けて貰ってるくらいなのに……。いつもありがとう。リリーがいてくれて本当によかった」


 学園にいる間は大抵リリーの隣にいた。

 休み時間はもちろん、放課後もアデルやリオンが来るまでは一緒にいるし、なんならリリーとアデルと三人で一緒に過ごすこともよくある。


 リリーと居る時間は貴族令嬢らしく振る舞う必要がないから楽だった。

 私の事情を知っているからというのもあるけれど、派閥や家の損得を考えなくてもいいからだ。


 だからリリーと二人で過ごす時間は私にとってとても大切な時間だった。

 それに私の友人の中でリリーだけは私を公爵令嬢として扱わない。いつもただの友人の一人として接してくれる。


「マリアがいなければ私は孤独だった。母親にも捨てられて父親もいない私はどこにも居場所がなかったの。今も状況はそう変わらないけれど……でも、たった一人でも、私を見てくれる人がいてくれたってことが嬉しかった」


 リリーの声は少しだけ震えていた。


「私のこの力が特別で、私が精霊士なんだってわかった頃に……ちょうどあの人がやってきたの。それからすぐ私は母親と縁を切って貴族の娘になることが決まった。最初は嬉しかったの。お父さんが私のことを見つけてくれたんだって。本当の家族ができるんだって……。だから教会にこの力のことを知らせなかったの。家族と過ごして思い出を作った後でもいいかなって、そう思って……」


 精霊士なんて周囲に知られたらどう利用されるかわからない。

 フィデス教の重要人物だから騙して操ろうとする人はいるだろうし、人質にして教会と交渉しようとしたり危害を加えようとする人がいないとも限らないからだ。


「でも私はあの人の家族ではなかったの。私はクラウス公爵家との繋がりを作るための道具で、家族なんかじゃなかった」


 でも私はそれを知った上でリリーに近付いた。

 こんなこと絶対に言えないけれどお互い様だ。


 さっきまで和やかに会話を楽しんでいたのに不穏な雰囲気になってしまった。

 軌道修正してなんとか元の楽しい昼食会に戻したい。


「だからマリアが私に優しくしてくれたことは本当に嬉しかったけど、騙してるんだって罪悪感もあって……だから、ごめんなさい。今までずっと騙しててごめんなさい。私、本当はマリアの友達なんかじゃないの。だから」

「違うよ」


 リリーが泣きそうな顔をしていたから言葉を遮るように否定した。


「リリーは私の友達。私が一緒にいたいと思う人なの。リリーは私が友達なのは嫌?」

「ううん、そんなことない! けど……」

「じゃあ友達ね。私はグレーデン男爵家のことなんてどうでもいいの。私だってクラウス公爵家の娘じゃないんだから。……あ、そう考えたら私たち一緒ね」


 どちらも娘ではあるけれど娘ではない存在。

 違うのは、私の方は家族を裏切っているという点か。

 けれどそれはもう割り切るしかない。

 私はお父様の娘にはなれないしお兄様の妹にもなれない。

 これは仕方の無いことだ。


「そういえば私、リリーのことについて知らないことばかりだって今気付いたわ。リリーの好きな食べ物も好きな物も、それどころか誕生日も知らないの。よければ教えてくれる?」


 お互いそんな話は一切してこなかった。

 けど友達というからにはそれくらい把握してないと。

 今更だけどまだ遅くないよね。誕生パーティーの招待状なんて貰ってないからリリーの誕生日はまだ先のはず。


「うん……。好きな食べ物は……うーん、美味しいものは何でも好きかな。好きな物はお花。だから学園の中庭やこのお屋敷の庭園はすごく楽しいの。で、誕生日は明日」

「へぇ、明日なのね。……明日? あした…………明日ぁ!?」


 思わず大声を出して立ち上がってしまった。

 明日誕生日なの!?

 え、何も準備してない。プレゼントも用意してないし、貴族だったら誕生日はパーティー開いて友人を招待するべきなんじゃないの?

 今から人呼べるかな。無理だよね。今連絡してもアデルは絶対に帰って来れない。


 そういえばゲーム内での設定、確かに七月二十七日にしていた気がする。

 そんなところまで同じならやっぱりリリーは私のゲームのリリーなんだろうな。

 ああああ、でも本当に何で忘れてたんだろう。私のバカバカバカ。


「あ、びっくりした? 本当は明日の朝言ってびっくりさせようと思ったんだけどね。ちょうどエルフの首塚に行く日だし。誕生日にマリアと一緒にお出かけできるなんてすごく嬉しい」


 リリーは本当に嬉しそうに笑っている。

 いやいや、ダメに決まってるじゃない。

 誕生日なのに首塚に行くなんて。首塚にはケーキもプレゼントもないのよ。


「行かないわ……首塚に行くのは延期よ!」

「えっ、なんで!?」

「明日はリリーの誕生パーティーをするの!」


 正式なパーティーは後日開くとして、明日は美味しいケーキを食べて着飾って楽しく過ごさないと。

ガゼボとそのまま書くのか東屋とかいて読み仮名ふるのか四阿と書いて読み仮名ふるのかいつも悩んでます。

ガゼボってなんか字面がちょっとマヌケな気がして。


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