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105.言い合い2


「マリア、待って。僕は君が太ったなんて思ってないから。怒らないで」


 殿下は追いかけてきた。

 ……のはいいんだけど、その発言はちょっとやめていただきたい。

 こんな廊下のど真ん中で私が太ったとか言うのはデリカシーがないのでは。

 いやまあ、酔ってる上に慌ててるからなんだろうけど。


「怒ってません」

「嘘だ、怒ってるよ。さっきからこっちを見てくれないじゃないか」


 そりゃ顔を見たら絆されるから。

 ドレスの件も含めて、少しは反省してほしい。

 私は確かに殿下のことが好きだけど、だからと言って殿下の意見に従うわけではない。


「歩いているときによそ見をしていたら転んでしまいますから」

「なら立ち止まればいいだろう」

「こんな廊下の、誰に聞かれるかわからない場所で何を話すおつもりですか? 私の体型の変化に関して苦言を呈するのでしょうか」

「違う、そんなことしない」


 そんなことを話しているうちに私の部屋の前までたどり着いてしまった。

 会話はこれでおしまいだ。


「ここまでお送りいただきありがとうございます。それではおやすみなさい」


 別れの言葉を口にして部屋に入り扉を閉めようとした。

 しかしそれは殿下の手によって阻まれた。


「まだだよ。話は終わってない」

「こんな場所で話すことなどありません。誰かに聞かれでもしたら……」


 殿下の強引さに戸惑ってしまったせいか、うっかり彼の顔を見てしまった。

 真剣な表情をしているけど頬がほんのり赤くて……ドキドキしてしまう。


「君の部屋で話せばいい。部屋の中なら話し声は聞こえない」


 そしてそのまま部屋に入ってきた殿下は、扉を閉めた後壁際に両手をついて中に私を閉じ込めた。

 あ、壁ドンだ。

 以前の私ならちょっとテンション上がりつつ殿下の顔を見上げてたんだろうけど今はそんな余裕がない。

 どうしていいかわからなくて、両手で顔を覆った。嬉しいのと恥ずかしいのとで、もうまともな顔を保てている気がしない。


「こ、こんな時間に女性の部屋に無理矢理入るなんて……」

「無理矢理じゃないよ。マリアは僕がここに来て嬉しいよね?」

「それはそうですけど……、あっ、じゃなくて、こんなこと誰かに知られたら……」

「大丈夫、僕は君への失言を謝りにきただけだから。レオだってそう思ったから僕をとめなかったんだ」

「でも……」

「長居しなければ大丈夫。それより顔見せて」


 顔を隠していた両手を剥がされて顔をのぞきこまれた。

 近い。ものすごく今更なんだけど、お顔が近いです。


 こうやって迫れば私が何でも言うこと聞くと思ってるんだろうな。

 実際にその通りになってしまうからどうしようもない。ドレスのことも失言のこともどうでも良いと思えてくる。


 そんな私を見て殿下は満足気に笑った。


「マリアはやっぱり僕のことが好きだね。機嫌が直るまで甘えさせてあげる」

「っ、そうやってまた有耶無耶にしようとして……」

「そんなこと思ってないよ。さあ、立ち話もなんだし座ってゆっくり話そう。ソファーとベッド、どっちがいい?」


 ここ私の部屋なんですけど。

 というか話す場所の選択肢としてベッドが出てくるのおかしくないですか?


「ソファーで……」

「はずれ。ベッドが正解だよ」


 手を引かれてベッドまで連れていかれる。


 答えが決まっていたのなら私に答えさせる必要なんてなかったのでは??

 というかベッドで何を話すというのか。

 こんな時間にベッドの上で二人きりで過ごすなんて、ちょっと期待してしまうけれど、私は殿下が絶対に手を出してこないことを知っている。

 どうせ今回もそうだ。

 ベッドの上で普通に話して終わるだけだろう。

 期待するだけ無駄だ。

 そもそも何の関係もない人に何を期待するというのか。




 でも今彼はお酒を飲んで酔っている。

 いつもの彼ならやらないこと、言わないことばかりでさっきから翻弄されているではないか。

 だからこれもきっと。

 いやいや、そんなことは有り得ない。

 酔っているけれどもしっかり歩いているし会話もスムーズだし。


「ほら、おいで」


 座らされたのは膝の上で、促されるまま身体をくっつけた後になって後悔した。

 これじゃ強引に迫られるのが好きだと思われても仕方ない。




 いっそ諦めて開き直った方がいいのでは。

 いくら言葉で取り繕っても行動が伴っていないのだから意味が無いだろう。


 それにほら、やっぱりこんな二人きりになる機会なんてもう訪れないかもしれないし。

 それなら思い残すことのないようにしっかりイチャイチャしてしまえばいい。

 昼間もかなりイチャイチャしたけど、それはそれ。これはこれ。



 思い切って殿下の首に腕をまわして抱きついてみた。


 お互い薄着だからなのか、殿下の体温がいつもより感じられる。

 いつもの匂い。うちに泊まりにきても変わらないから、普段使う石鹸と同じものをここにも置いているのかな。

 夜だから香水なんて使ってないよね。

 朝も昼も夕方もいつもこのいい匂いがするのがなんとも不思議だ。甘くて大好きな匂い。

 本当に男子高校生なのかな。中身はお砂糖とかスパイスとかの美味しいもので出来てるのかもしれない。


「…………もう機嫌は直ったかな?」

「最初から怒ってません」

「うん、そうだね。そういうことにしておこう」


 よしよしと背中を撫でられた。

 撫でられたというかトントンするようなかんじで、幼い子供をあやすような抱き方に少しだけ不満を抱く。

 でもそれを指摘して無駄に時間を浪費したくなかったから気にしないことにした。


「さっきのドレスのことだけど」

「嫌です」


 殿下の言葉を遮るように言った。

 せっかくこうやって二人きりになれたのに、どうしてその話を蒸し返すのか。


「……まだ何も言ってないよ」

「言いたいことはだいたいわかります。ですのでお断りします」


 少しだけ身体を離して殿下の表情を見る。

 ものすごく真剣だ。

 ああもう、めんどくさいな。


「……皇宮でのパーティーやクラウス公爵家の令嬢として出なければならない場ではそれに相応しいドレスを着ます」

「でもそれ以外の場所で着るんだろう? あのドレスで誰かと踊るなんて絶対に駄目だ」

「踊りません。私がダンスが苦手なのはご存知でしょう?」


 私になってからそんな機会はなかったから実際にどうかはわからない。

 思考や癖は私の影響が大きいけれど身体能力はマリアの身体に依存するから、まあ、難しいだろうなとは思っている。


「信じられない。それに踊らなかったとしても、君に男が近付くのが許せない」

「そんなことを言ったら学園に通えません」


 それにリオンやアレクを私の護衛にしたのは殿下だ。彼らは私のすぐ隣にいるし、必要があれば身体に触るし抱きかかえられる。

 今更そんなことを気にするのはおかしい。


「……あのドレスは背中が露出する。周囲にいる男は君と踊る時、エスコートするとき、隣に立つ時、いつだって君の肌に触れることができるんだよ」

「そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんかじゃない。それにコルセットしないままドレスを着るなんて有り得ないよ。胸が……」


 そこまで言って殿下は顔を逸らした。

 最後まで言わなかったけれど、彼の言いたかったことがわかってしまった。


 確かにマリアは胸が大きいからちょっと腕を絡めただけで腕に当たるよね。

 控えめだった元の身体とは大違いだ。

 そして殿下とリオンは少し胸が当たっただけで大袈裟に反応した。

 コルセットをして服を着ていたら胸の柔らかさなんてそんなに感じないだろうに、胸という脂肪の塊はそれを持たない人にとってはとんでもなく魅力的なんだろう。

 まあ私も最初は触ったもんな。

 柔らかさに感動してその重たさに絶望したもん。


 殿下に対しては割と頻繁に腕を絡めておねだりしてたので……まあ反対されるのはやむ無しかもしれない。

 他の男性にも腕を絡めておねだりしそうだと思われてるんだろうな。

 そんなに軽い女じゃないと言えれば良かったけれど、実際ものすごく軽いからあまり強く言い返せない。


 けど、コルセットはつけられないけどドレスと共布の下着はちゃんと用意されているのだ。

 内側は伸縮する生地が使われていて、ちゃんと胸を支えつつドレスのデザインを邪魔することもない専用の下着が。

 その伸縮する生地は当然化繊ではない。

 ファンタジーなこの世界における便利素材は大抵魔獣から採取するのだが、この伸縮性があって強い生地の元が何の魔獣から取れるものなのかは……まあ蜘蛛や蚕みたいな虫っぽい魔獣なんだろうな。


 ドレスとセットでその専用の下着も仕立てるから本当に贅沢だ。

 デザイナーは女性の自然な美がどうのこうの言っていたけど、ドレスの単価を釣り上げるための戦略なのではという気がしなくもない。

 

 それはさておき、そんな下着事情を殿下に説明するのは……ダメな気がするな。

 当たり障りのない話にしておこう。


「殿下以外の方に身体を触らせるつもりはありません」

「ルカに触らせてるじゃないか」

「あ、あの人は人間じゃないので……」

「それに僕だって君の背中に直接触れたことないのに……他の男に先に触られるなんて我慢できない」

「……順番の問題ですか?」

「そうじゃない。けど、全てにおいて君の一番でなければ駄目なんだ」


 幼児かな。

 何でも一番じゃないと気が済まない時期ってあるよね。

 それで駄々こねてるのちょっとうざ可愛いな。


「わかりました。では背中のあいたドレスを着るときにはお兄様としか踊りませんし、できるだけお兄様の隣にいるようにします」


 どうせ一人で行くことはないのだし、実の兄なら心配するようなこともない。

 殿下も嫉妬しないだろう。


「嫌だ。レオも駄目だ」

「血の繋がった実の兄ですよ?」

「それでも駄目だ」


 完全に駄々をこねる子どもだ。

 可愛いけれど困ってしまった。

 思った以上に酒癖が悪いんだな。覚えておこう。


「だから僕が一番に触る」


 ……いやいや、どうしてそんな発想になるんだ。





*****




 あの後殿下は私の背中を見て触った。

 けれど本当にそれだけだった。


 ガウンを脱がされ、キャミワンピの肩紐をずらされて上半身裸になったというのに、何もされなかった。

 後ろを向かされたから胸を見られてもいない。




 手を出されなかったのはいいことだ。うん。

 いやでも私何も抵抗しなかったのになんで何もしなかったの?

 してほしいわけではないけれど、でも、そこまでやっておいて終わりってのはどうなの。

 触ったりとか抱きしめたりとかしたくならなかったのか。


 酔った勢いとかなかった? いや、酔ってたからこそあんな変な行動したんだろうけど、だからってそんなことある?

 ほんの少し背中を撫でて満足して、私の衣服を整えてさっさと帰るとか、そんなことある??


 いやいや、これでいいんだよ。

 何かあったら大問題だし。


 でもなんかものすごく虚しい……!!

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