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100.追及2


 


「お兄様、それは以前お話した通りです。ヴォルフ侯爵はただの相談相手です」

「魔法の相談をしただけでお前を抱きしめるのか?」

「それもその、以前殿下が仰ってた通りで……その、………………嫉妬してほしくて……私がお願いしました」


 自然と声が小さくなってしまう。

 殿下の前でこんなことを言うのは死ぬほど恥ずかしい。

 こんなことになるならもっと早く話していればよかった。


「そんな言い訳が通じるとでも思うか?」

「……学園では色んな方から殿下の話を聞くんです。特に殿下が女生徒に話しかけた、なんて話はすぐに教えてもらえます」

「えっ、ちょっと待って。なんでそんな話がマリアに伝わってるんだい?」

「色々あって、友人に相談しているうちにいつの間にか教えてくれるようになりました」


 今では殿下がいつ誰と話したか、どんな様子だったかも知らせてくれる。

 さすがにこれは話せないけれど。


「毎日そんなことを聞かされて、私だけやきもきしてるのが悔しかったんです」

「それならフランツに直接言えばよかっただろう。わざわざあんなことをする必要は無い」


 それはそうなんだけど、乙女心ってものがあるでしょ。

 とはいえそんなふうに押し切っても納得はして貰えないだろう。


「それだけではありません。……もともと浮気の噂があったのは私じゃなくて殿下だったのです」

「…………は? なっ、僕はそんなことしていない!」

「わかっています。でもそのような噂が女生徒の間で流れていたのです」

「それは事実なのか? 俺はそんな話を一度も聞いた事がない」


 そりゃ聞かないよ。

 なんてったって浮気相手はお兄様なんだから。

 というかあの噂は女生徒の間でしかまわってないはずだ。

 最初は冗談からはじまった噂のはずだし、そんな話を男子生徒に話す人なんていないだろう。


 それがいつの間にか冗談ではなくなっていた。

 私とお兄様と殿下のせいだ。


「事実です。なのでその……わ、私がちゃんと殿下と仲良くしていればそんな噂はなくなると思って……その……」

「ああ、だから一時期フランツに付きまとっていたんだな」


 その言い方!!

 間違ってはないけれど。

 いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「そ、そうです。私なりにその噂をどうにかしたかったのです。なのに……」

「なのに?」

「お兄様がずっと殿下の隣にいるから、殆ど二人きりになれなかったんです! 殿下もお兄様から離れようとしてくれませんでしたし。それにチャンスがあっても人に見られないように隠れるからあまり意味がなくて……」

「だってそれは君が人に見られたくないって言うから……!」


 ちょっと、なんでここでそういうこと言うんですか!

 見られたくなかったのはキスしてるところだ。

 というか殿下はルカと私の関係を全部知っているのだから口を挟まないでほしい。

 焦っている顔も可愛くて好きだけど、今はそれを愛でている余裕なんてないのだから。


「イチャイチャしてるところを他人に見せたいなんて言えるわけないじゃないですか!」


 こんなことを自分で言っていることが恥ずかしい。

 穴があったら入りたい。

 今すぐにでも埋まりたい。

 恥ずかしすぎてちょっと涙が滲んできた。


「とにかく、それで周囲の誤解がとけなかったので、その、侯爵に頼んで……浮気相手のフリをしてもらいました」

「それは…………あの時は悪かった。だが、それとお前が浮気することの関係がわからない。どうしてそんなことをしようと思ったんだ?」

「それは……ある方に相談したら、他の男性と仲良くしてるところを見せたら……その、焦って私の方を見てくれるだろうって……」

「お前にそんな馬鹿なことを吹き込んだのは誰だ?」

「…………フィーネ様です。もちろん、私だってそれを頭から信じたわけではありませんし、フィーネ様も冗談で仰ってたのはわかっています。でも、もしかしたらと……その、魔が差してしまって……」


 これはほぼ事実だ。

 彼女はマリアの母方の従姉妹で面倒見がいいが、たまにとんでもない冗談を言う人だ。

 婚約解消の噂が広がった後に浮気を唆してしまって申し訳ないと何度も謝られた。

 彼女は何も悪くないからできることなら名前は出したくなかったけれど、隠せば余計にややこしい事になる。


 それに彼女の性格も本来のマリアの性格もお兄様はよく知っている。

 この件で彼女を責めることはないだろう。


「…………」


 これで納得してくれただろうか。

 お兄様の眉間には深く皺が刻まれている。


 かなり無理筋ではあるけれど、噂の件も私の行動も全て事実だ。

 帝都に来てから突飛な行動を沢山やってきたから、これもその類の行動だと思ってもらえたらいい。


「浮気の件に関しては……納得は出来ないが理解はした。今後は何か行動を起こす前にまず俺に相談するように」

「はい、以後気をつけます」


 よし、乗り切れた。

 これで今後お兄様から追求されることはないだろう。

 ルカとの関係は絶対に明かすことの出来ない秘密だ。お兄様が殿下のように受け入れてくれるとは到底思えない。

 というか殿下はどうして私とルカの関係を受け入れられたのだろう。


 横目で殿下を見るとなんだかすごく深刻な表情をしている。

 あれ、なんとか誤魔化せたのになんでそんな眉間にしわがよってるの?


「マリア、その噂になっていたという相手は誰なんだい?」

「…………その方の名誉のために名前は伏せさせていただきます」


 本人に言えるわけがない。

 というかここでそんなこと暴露したらお通夜状態になってしまう。

 それに二人の関係が悪くなってしまうかもしれないし。

 

「マリア、僕は君以外の女性に触れたり学園で女性と二人きりになったことなんてない。特定の誰かと噂になるようなことは一切やっていないんだよ。だからどうしてそんな噂が流れたのかを知りたい。いや、知らなければならないんだ」

「そ、そのように深刻にならなくても……」

「軽く考えるわけにはいかないよ。たかが噂だけれど、それは皇子(ぼく)を貶める噂を故意に流した誰かが学園内にいるということだ。もちろん誤解されるような行動をしていれば別だが……僕は誓ってそんなことはしていない。だからその噂の件このままにしておくわけにはいかない」


 確かに言われてみればそうだ。

 でもあの噂は女の子たちが見ている幻想のようなもので、事実ではないと知った上で好き勝手言って楽しむためのものだ。

 みんな殿下の評判を落としたいわけではない。


「君もあんな行動をしたということは、その噂を放っておけないと判断したからだろう?」


 その通りなんだけど、それは私が噂を裏付けるような発言を軽率にしてしまったからだ。

 私の失敗をフォローしようとしただけであって、それ以上でもそれ以下でもない。

 というか実際に私がどうにかしたかったのは殿下の方ではなくてお兄様の方だ。

 浮いた話のひとつも出てこない堅物のお兄様がこれ以上女性から距離を置かれないためにどうにかしたかったのだ。


「違います! あの噂はそのような悪意のあるものではなくて、殿下が気にかけるような噂ではありません」

「ならどうしてお前はフランツに付きまとったり浮気をしてるフリなんてしたんだ?」


 ああああ、誤魔化す前より状況が悪化した!

 噂のこと出したのが間違いだったのかもしれない。


 そうだよね、相手は皇子と公爵令息だもんね。一般人が噂を流されるのとはわけが違うよね。

 考えが甘かった。

 この噂に関しては殿下は私の味方になってくれない。それどころか無理にでも聞き出そうとしてくるだろう。


「……言えないのか。まあいい。少なくともフィーネはその件について知っているのだからそちらから聞くことにしよう」

「待ってください! それは……」


 ここで私が発した言葉が全て裏目に出ている。


 私が二人に問い詰められても抵抗できるのは、私がお兄様の妹で殿下の元婚約者という立場故だ。

 殿下も私に対して皇子という身分を盾に強要することはないだろう。


 でもフィーネや他の令嬢では話が変わる。

 この二人に逆らうのは立場的に難しいだろう。

 そうなったらあの噂が二人の耳に入ってしまう。


 私がここで話しても話さなくても結果は変わらない。

 けれど一次ソースを持っている私が話した方が余計な情報が入らなくて傷が浅くなるのではないだろうか。

 

「わ、私から全てお話します」


 とは言ったもののどう話せばいいんだ。

 殿下と噂になっていた人はお兄様ですって言えばいいのか?


 いやもうストレートに言うしかないんだけども。

 もうどうにでもなってしまえ。


「……………………お兄様なんです」

「は?」

「噂の相手はお兄様だったんです」

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