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疑問2



 殿下と会わなくなった今、以前のようにルカは一人で私の部屋に来るようになった。

 もちろんやって来る時間帯は夜だ。

 

 以前と違うのはルカが子どもの姿で来ることだろう。

 中身がルカだとわかっていても子どもを邪険に扱うことには抵抗があった。

 だからなるべく優しく接するようにしている。


 もしかしたらそのせいで子どもの姿で来るのかもしれない。

 いやでも完全に子ども扱いしてるんだけどルカはそれで満足なんだろうか。

 不満だと言われても、こんな小さな子を男として見るのはできないけれど。中身がルカだとわかっていても無理なものは無理だ。


 そんなこんなで今ルカは私の膝の上に乗っている。

 完全にお子様だ。


「そういえばお前、なんであれが平気だったんだ?」

「あれ? あれって何?」

「あの塔にいたやつらのことだ」

「ああ……」


 ゾンビの騎士か。

 あれはかなりグロかったから、女の子が平気な顔していられるのは不思議だろう。


「理由は色々あるけれど……一番は幽霊だと思っていたからかな」

「フランツに聞かれた時にそう言ってたな。本当にそれだけか? 俺の腕を見た時も平気そうな顔してただろ」

「ええと、それは…………私ね、すごく運が悪いの」

「?」


 ルカが不思議そうに首を傾げたが気にせず話を進める。


「十四歳のときだったかな。歩いてたら上から人が落ちてきたんだよね。飛び降り自殺しようとしてたんだって。あと授業中に友達が指切断しちゃったり、通り魔に遭遇しちゃったり。事故を見かけることが多いっていうか、目の前で人が大怪我してるのを何度も見たことがあるというか……」


 私の運が悪いというか、私の周囲の人の運が悪いというか。

 でもその現場に遭遇してしまうのだからやっぱり私も運が悪い。

 極めつけにこんな異世界に来ちゃうんだから、まあ酷いものだ。

 ここに来た不運で全ての運の悪さを使い切ってしまってればいいのだけれど。


「それは……なかなか大変だったんだな」

「うん……。おかげで応急処置の腕前はばっちりよ。この世界で使うことは絶対にないだろうけど」


 ここでは応急処置なんて必要ない。魔法で治してしまえるのだから。

 だから数少ない私の役立ちそうなスキルが完全に無駄となってしまった。

 とはいっても本当に基本的なことしかできないし惜しむようなものではない。

 私が医者だったら色々違っただろうな。

 なんせこの世界、魔法があるからなのか医学はあまり発展していないようだから。


「まあ、そんなこんなで比較的ああいうのには耐性があるのよ」

「そうだったのか……」


 ルカは釈然としないのか少しだけ眉間に皺を寄せた。



 私があれを見て平然としていられたのは、ルカに説明したことに加えてスプラッター映画好きだったからだ。

 もちろんホラーも好き。

 そしてゾンビゲームも好き。


 だからこそあの時は密かにテンションが上がってしまったのだけど、これをどう説明すればいいのやら。


 …………まあ話しても通じないだろうから話さなくていいか。

 それにこの趣味はドン引きされそうな気がする。

 そういうのが好きだからといって現実で人を殺したいとか拷問したいとか解体したいとか思うことはまったくないのだけど。

 ああいうのは自分と無関係だから楽しめるのだ。


「それよりいい加減名前を教えろ」

「嫌だって言ってるじゃない」

「ならお前は何歳だったんだ?」

「それはもっと教えたくない」

「何故だ?」

「何故って………………年下の、しかも未成年の子どもを本気で好きになるなんて……おかしいじゃない」


 やばいという自覚はある。

 ここが日本なら手を出した時点で犯罪だ。

 なんせ相手は高校二年生。誕生日が来てないからまだ16歳なのだ。

 とはいってもまだ手を出してないからセーフだけどね!


「好きになるのに年齢は関係ない。俺は600年以上生きているがお前が好きだ」

「……その、人間じゃない人の基準を持ち出すのはちょっとどうかと思う」

「それに隠したからといって事実が変わるわけでは無いだろう」

「そうだけど……」

「フランツが子どもなのが問題なのか? じきにあいつも大人になる。それともお前は相手の年齢を見て好きになるかどうかを決めるのか?」

「そうじゃないけど……。でも、相手からしたらきっと気持ち悪いじゃない」

「あいつはそんなこと言ってない。確かめたわけでもないのに相手の気持ちを決めつけるな」


 さっきから正論すぎて何も言い返せない。

 これが討論会なら完敗だ。


 でも年齢の話は理屈では無いのだ。

 生理的に受け入れられるかどうか、つまり好みの問題だ。

 そこに正解はない。

 殿下がダメだと言えば何歳でもダメなのだ。


 とはいえそれを聞く機会なんて今後ないだろうし確かめる気にもならない。


「………………絶対に笑わない?」

「年齢に笑う要素なんてないだろ」

「それに秘密にしてくれる?」

「お前が嫌がることはしない」


 そこまで約束してくれるのなら言ってもいいだろうか。


「…………………………28歳」


 意を決したものの、やっぱり恥ずかしくて、先程よりもずっと小さな声で呟くように答えた。

 もし聞き取れなかったと言われても、もう二度と教えない。


「…………そんな悩むような年齢か? 俺はてっきりルディより歳上なのかと……」

「っ、もう年齢の話は終わり! 日本では大人だったけどこっちではまだ15歳だから!! フランツ殿下より年下だから!」


 私はここでは一応15歳の少女として生きているのだ。

 間違ってもアラサーの社畜として生きているわけではない。


「まあ、今のお前はどう見てもフランツより年下にしか見えないしな」


 ルカは笑った。

 あれ、これちょっと馬鹿にされてない??

 否定はまったくできないけれど、それは私のせいではなくて殿下が大人びてるせいでは?

 いや私が子どもっぽいのは間違ってないけど。


「本来のお前は28歳で設計の仕事をしていて、仕事が好きで、虫と爬虫類が嫌い。気になることはすぐに調べるし、やりたいと思ったことはすぐにやる。運が悪くて幽霊が気になって仕方がない。……俺だけが本当のお前を知っている。何も隠さなくていい。俺はお前の全てを受け入れる。お前を愛してる」


 そんなことを言われても、今の姿は私の膝の上に乗る小さなお子様である。

 なんとも格好のつかない告白だ。

 それにしてもそんなに私のことを教えたつもりはなかったのに意外と喋ってしまってるな……。

 これもう名前を隠す意味はあまりないのかもしれない。


 いやいや、絆されて余計なことを喋るのはやめよう。


「……名前は絶対に教えないわよ」

「今はそれでもいい。本当の名前を呼ばれないことにいつか耐えられなくなったら……その時に俺を頼るといい。俺はいつでもお前の味方だ」


 いつかそんな日が来るのだろうか。


 というかこれってもしかして口説かれてる??

 さっきからむず痒いセリフのオンパレードだ。

 どうせなら大人の姿で言ってくれればいいのに。

 少し残念な気もするが、実際にそうなったら平静を保つのは難しかっただろう。



 いや、もう今でも無理。

 じわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。

 子どもの姿だったら何を言われても恥ずかしくないと思っていたのに。

 

「その、そういう台詞は恥ずかしいからほどほどにして欲しいんだけど……」

「恥ずかしいだけなら我慢しろ。どうせ嫌じゃないんだろう?」

「そういう問題じゃなくて……」


 でもここで何を言ってもきっと変わらないだろうな。


「どうせここには俺しかいないんだ。取り繕わなくていい」


 ルカの小さな手が頬に触れる。

 大人の姿だったらものすごくいい雰囲気なんだけど、子どもの姿だからなんかコレジャナイ感がすごい。


「…………キスしていいか?」

「ダメ」


 ルカは顰めっ面をしてため息をつき、私に抱きついた。

 子どもの姿だからといって行動まで幼くする必要はないのでは……?

 

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