表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/188

◆変化4




 翌日の夜、言葉通りその男は僕の部屋にやってきた。


「決まったか?」

「ああ。…………その前に教えてくれ。お前はマリアをどう思っているんだ?」

「……俺はマリアのことを愛してる。あいつは俺の全てだ」

「それを……マリアは知っているのか?」

「ああ」


 そのうえで受け入れたのなら、僕が間に入る余地なんてないじゃないか。


「僕はマリアに好かれていると勘違いしていただけだったんだな……」


 思い上がりも甚だしい。

 マリアのことを想うあまり何も見えていなかったのかもしれない。

 

「いや、それは勘違いではない。あいつはお前のことが好きだ」

「…………そんなわけないだろう。僕のことを本当に好きならお前と毎晩会うはずがない」

「あいつにはその自覚がないようだからな。それでもマリアが好きなのは間違いなくお前だ」

「お前にそんなことを言われても信じられないな」

「それもそうだな。次に会った時に本人に聞いてみるといい。………それで、結論は?」


 この一日僕がどれだけ悩んだかも知らずに、目の前の男は涼しい顔をしてそんなことを言う。

 彼は当たり前のように、僕が二人の関係を受け入れるのだと思っている。

 だから次に会った時、なんて言えるのだろう。








 でも悔しいけれどその通りで、結局僕はマリアから離れる決断はできなかった。


「……僕は二人の関係を受け入れる。マリアを守るために力を貸してほしい」


 裏切られたことはショックだったけど、それでも諦めきれなかった。

 ここで受け入れなければ、彼女を守る立場から離れてしまえば、彼女の隣にいることができなくなってしまう。


 僕は裏切られたことよりも、彼女から離れることの方が耐えられない。

 彼女を許すことで今まで通りの関係でいられるのならそれでいいと思った。

 これまで誰と何をしていたとしても構わない。

 この先僕の隣にいて僕を好きになってくれればいいのだ。


「ああ、わかった」


 目の前の男は当然だというように頷いた。

 

 




 それから彼の本当の名前と彼の言う契約について教えてもらった。

 彼に血を与える代わりに僕は彼の力を借りることができる。僕の命令には基本的に従ってくれるらしい。が、父上とマリアを害したり彼自身の命を脅かすような命令を与えることはできない。


 そして契約を交わすには彼の力を体内に入れる必要がある。

 その場所には手の平より一回り大きい刻印が浮かぶという。それが契約の印であり、彼が僕の居場所を知るための目印となる。

 それがあれば彼を瞬時に呼び寄せられるそうだ。

 しかし居場所が知られるということは、契約を交わした瞬間僕は目の前の男に命を預けることになる。


 不快ではあったが契約しなければ何もはじまらない。

 



 そうして僕の左腕に禍々しい印が刻まれた。

 


「…………お前が裏切って僕を殺そうとした場合、契約はどうなる?」

「そうするつもりなどないが……まあどうにもならないな。俺が契約者の意に背くことは全身を焼かれるような苦痛を伴う。が、それだけだ。本気でお前を殺そうと思えばいくらでもやりようはある」


 そうなった場合僕は彼から逃れる術はない。

 隠れることも抵抗することも出来ないのだから。

 

「まあそこは心配するな。マリアがお前を守ることを望んでいる限り、俺は何があってもお前を守る。殺すことは無い」

「マリアがそんなことを……」

「あいつはお前のことが好きだからな。だがもしマリアがお前を憎むようなことがあれば俺はお前を殺す」


 冗談で言っているようには見えない。

 マリアと彼の間で今までどのようなやり取りがあったのだろうか。どうして彼はマリアのためにそこまでするのだろう。


「他に聞きたいことは?」


 聞きたいことは山ほどあった。

 マリアの部屋で毎晩どう過ごしているのか。何を話しているのか。マリアはルカをどう思っているのか。

 でもそれは今聞くべきことではない。


「…………あの塔でマリアだけがあれを見ることができたのは何故だ?」

「あれは恐らく、マリアのような人間がいるか探していたんだ。古代魔法の力を持つものにだけ見えるように調整していたんだろう。あいつらはあの姿で皇宮中を歩き回っていただろうな」

「あの姿は見える人間を判別しやすくするためか」

「だろうな。あんなのが皇宮にいたら誰もが驚くからな」

「…………」


 あれを見て平然としていたマリアは、一体何者なのだろうか。

 …………それを考えるのは後回しだ。

 僕は彼女を守ると決めたのだからそのために動かなければならない。


「……学園にもあの塔にあった魔法陣と同じものがあると言ったな」

「ああ。だが同一人物が作ったものかどうかは詳しく調べてみないとわからない」

「絞り込むには情報が足りないな。一つずつ確かめていくしかない。……相手が使った方法をこちらも使おう」

「化け物の姿にでもなって学園と皇宮を歩いて回るか?」

「いや、それだとあからさま過ぎて引っかからないだろう」


 相手も警戒しているはずだ。

 それでも尚反応してしまう姿でないといけない。


「………………僕は今週は忙しくて学園に行けそうにないんだ。その間にマリアに会って来て欲しい」

「学園内で会うのか?」

「ああ、なるべく親しげに接してほしい。それも人目のある場所で」

「…………それはつまり……俺が直接探し回るのか……」


 ルカは少しだけ眉をひそめた。


「お前は珍しい紅髪で背も高い。教師達は謎の天才教授としてほぼ全員がお前を知っている。生徒からは……マリアと親しげな男が突然現れれば噂にはなるだろう」


 マリアの銀髪も珍しいのだ。二人が並んでいれば遠目でもわかるだろう。

 公爵令嬢であるマリアが婚約者が休んでいる間に他の男と親しげにしていれば浮気を疑われても不思議ではない。


 そして犯人も突然あらわれた男に警戒し注視するだろう。何せマリアの周囲に今までルカはいなかったのだから。


「たかが一度マリアに会った程度で生徒全員が注目するほどの噂になるか?」

「そこは大丈夫。そのタイミングで僕達の婚約を解消したふりをすればいい。皇子と公爵令嬢が浮気で婚約解消だなんて噂にならない方がおかしいからね」


 あの塔の犯人とマリアを狙っている犯人が同一人物とは限らない。


 別人ならマリアの周囲に古代魔法を使える人物がいると知らないはずだからルカを見て何かしら反応するはずだ。

 同一人物だったとしても周囲に合わせる都合上どうやったって反応が遅れてしまうし一瞬でも反応すれば捕捉できる。


 何にしてもルカには学園の誰もが知っているような存在になってもらわなければならない。


「そんなことをすればマリアの立場が悪くなるんじゃないか?」

「僕が庇えば問題ないだろう。それに学園内の一時的な噂であれば影響も少ない」


 ただの喧嘩として認識されればいい。

 最終的に結婚してしまえば笑い話ですむことだ。


 そうするためにどんな事でもやるつもりだった。


「それをマリアにはどう説明するつもりだ?」

「彼女には何も話さない」

「…………それは無理があるんじゃないか。婚約を解消するふりにも噂を作るにもマリアの協力は必要だろう」

「それでも駄目だ。婚約のことはある程度話さないといけないだろうけど、それ以外は話す必要はない。彼女をこれ以上関わらせないつもりだ」


 マリアが変わってしまったのは階段から落ちた日からだ。

 つまり、命を狙われたせいで彼女はかわってしまった。

 あの日何があったのか僕は知らない。だが、何かがあったからこそ変わってしまったのだ。


 そのようなことがまた起こらないとも限らない。



 だからこれ以上マリアが変わらないように、怖いものや危険なものを彼女の目の前から全て排除しなければならない。

 これまでのことは彼女は知らないはずだ。

 命を狙われているというのもただの狂言だと思っているだろう。

 この先もそう思い続けてもらわなければならない。




 そして何故彼女が変わってしまったのかを突き止めるのだ。

 単にマリアが変わってしまったのならそれでいい。僕が受け入れればいいから。

 でも本当にあの子がマリアでないのなら……。


 その時にどうすべきなのか僕はまだわからない。



「それで上手くいくか?」

「問題ない。お前が協力してくれればそれで充分だ」


 迷いはある。

 この気持ちも行動も全て間違っているのかもしれない。


 それでも諦めたくなかった。




*****





「夏休みに入ればあいつは帝都の外に出たがるだろう。そうなれば少し面倒なことになる。いい加減打ち明けて協力してもらったらどうだ?」

「またその話か。マリアに話す必要は無い。帝都から出るにしても領地の屋敷に戻るくらいだろう。その時は僕も一緒に行くし大丈夫だ」

「それはあいつが嫌がるんじゃないか?」

「そんなこと有り得ないよ。マリアは僕と一緒にいることを望んでいる」


 ちゃんとマリアから告白もされているのだ。

 学園では会わないと言われた次の日に学園内で告白されたからかなり動揺してしまったけど。


「だが婚約解消されてしまっただろう? 予定では解消するふりだったのに。あいつのことを理解出来ていると思ってやりすぎるとまた痛い目を見るぞ」

「…………わかっている。反省はしているよ」


 しかし婚約者でなくなったこと以外は僕の想定通りに進んでいる。


 マリアは僕のことを好きになってくれたし、ルカのおかげで例のエルフに繋がっているであろう生徒も数人見つかっていた。

 正直複数人いるとは思っていなかったから驚いてはいるが、こちらも契約者は三人いるし似たようなものなのかもしれない。


 だが相手の協力者は全員が女生徒で、親戚関係もなく派閥も違う。

 利害が一致して手を組んだと考えるには少し奇妙だ。

 もしかしたらまだ足りない情報があるのかもしれない。



「大丈夫。間違いは二度と犯さない」




 マリアを守って全てを手に入れる。

 そのために僕はどんなことでもやるつもりだった。



これで一章完結です。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

もし気に入っていただけましたらブクマ・評価・感想をお願いします。


新しくいいね機能が出来たみたいなのでよければいいねもぜひお願いします!!



◆https://twitter.com/Yko_Novel

近況やイラストを載せています。

よければフォローお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ