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 三人の前に現れた山姥は聞いていたように金色(こんじき)の髪、日に焼けた浅黒い肌に獣毛のビキニだけで他には何も着ていない。右手には刃のこぼれた古い太刀(たち)を持ち、左手にはその(さや)を握っている。

 背丈はリンより小さいが、興奮して目は血走り髪を逆立てんばかりの殺気を隠そうともしない。

 金色の髪はあまりにもボサボサで他では見ることもないビキニを身に着けている。さらには背丈ほどある太刀とあいまって、人を食らう山姥と勘違いするのも無理はない。


「ツイナ、私は大丈夫だ。もうすぐ縄も解かれる」

 センは努めて落ち着いた声で呼びかけるが、その声を聞いても山姥は構えた太刀を納めることはない。

「センから離れろ」

 金髪の山姥、ツイナはセンの言葉を遮るように三人を威嚇するかのごとく叫ぶ。しかし、叫ぶせいで三人は警戒の手を緩めることも出来ない。


「ツイナ、落ち着いてくれ。お前達もこれでいいだろ、もう縄を解いてくれ」

 「ここは私の言うことに従え」と、センは三人に目で合図をする。それを見て三人も目配せをする。結論が出た。

「それが約束でございますからね」

「ああ、いいだろう。私たちはリク以外とはやり合う気はない。リン」

 その言葉を聞いてリンは縄を切った。取り上げたビキニと着物をムイから返されるとセンはすぐにそれを着て、いつかの日のように泣きながら礼を述べた。

 その様子を見てツイナも少し落ち着いたようだが、依然として太刀を納めようとしない。


「ツイナ、聞いてくれ。お前を殺そうという鬼が今からやってくる。もうすぐだ。その前にこの山から去るんだ。どこでもいい、ここから遠ければ遠いほど。遠ければそうそう簡単に見つかることはない」

「こいつらか」

 センは山姥に向かって両手を広げどうにか落ち着かせようとするが、当のツイナは目を見開き、三人に不審な動きがあれば即斬る、そんな雰囲気を漂わせている。

「こいつらじゃない、もっともっと強い鬼だ。ツイナでも恐らく勝てない、だから逃げてくれ、お願いだ」


「ここから逃げる?髪が目立つ、驚かせる」

 依然としてセンの目を見ることもなく、ツイナは三人に意識を集中している。

「お前はこの山に住んで長いのか?」

 ナミのその質問を無視するだろうと見てセンは代わりに答えた。

「この山というよりも、この辺り一帯の山だ。生まれた時から山に住んでいるらしい。小さい頃はツイナを育てた老婆がいたらしいが、今はそれも亡くなり一人だ。お前達は鬼のことを知りたいのだろうが、ツイナ自身も鬼のことはわかっていない。ツイナを育てた老婆が鬼なのかどうかすらわからないくらいだ」

「そうでございましたか。それは少し期待はずれではあります。仙台藩とも御公儀(ごこうぎ)とも関係のない鬼であれば、知らないこともあるかと考えておりましたが」


「神社に納められた面のことは知っているか?」

 ナミの問いに答えたのはやはりセンだった。

「庄内の四鬼(しき)の面か。能で使われたものらしいが、その能は今では失われたと聞いた。だから、どういった内容なのかすらわからないらしい。これは私の予想だが、鬼には四つの力がある。リクが持つ力が四つ、鬼の面も四つ。納められた面はそれぞれが鬼の力を示しているのだろう」


「なるほど。それならば、その鬼の面、失われた能を知ることが出来ればリク殿の四つ目の力がわかるのではございませんか?」

「私の予想が当たっていれば、な。ただ私はその面を見たこともないし、鬼の中でそんな事を気にする奴もいないだろう。そもそも伝承されていない古曲、面だけ見たところでわかるまい」

「じゃあリクも知らないってこと?」

「まず四鬼の面の存在すら知らないだろう。陸奥(みちのく)の方に詳しいものでも庄内の能はほとんど知られていない。そもそも、あいつはそういう事には関心が向かないからな」

「そうであれば、尚のこと面について調べる価値はありそうでございますね」

「リクの力を知ったところでお前達では何もかも力不足だ、諦めて逃げろ」


「またそれか。私たちには命のために死ぬ覚悟がある、日和ったお前とは違う」

「迷わぬ気持ちは確かに大切だ、迷うことで命を落とすこともあるだろう。迷わぬことが力となる時もある。それは認める。しかしリクとの実力差を覆すほどではない。それにリクもお前達と同じように自分の命を粗末に扱う。あいつはいつでも死ぬ覚悟で殺しにくる。その気迫においてもお前達を上回る。だからお前たちでは力不足だ」

「そんなの、やってみないとわからないだろ!やる前から負けること考えるバカがいるかよ」

「実力差を感じ取れないのも同じくバカだろう」

「くっ」

 口の減らないリンですら上手くいいくるめられたと感じ奥歯をかみしめた。


「ツイナ殿はそれほどにお強いのでございますか?まるで気配を隠そうともなさらないのはその強さゆえの自信でございましょうか」

「ああ、気配を隠さなくともお前達三人がかりでも敵わないだろう」

 三人がかりでセンを捕らえたことを考えれば、この山姥、ツイナはセンよりも明らかに強いということ。

「そのツイナ殿とセン殿、それに私たち三人がかかってもリク殿には敵わないのでございましょうか?もし勝機があるのであれば、ここで迎え撃つことも出来ましょう。ツイナ殿には地の利もあることでございますし、いかがでございましょうか」

「まず、お前たち三人は戦力にならない。尼はなんとかなるかもしれないが、あとの二人は邪魔にしかならない。それに、話したようにリクは硬くなる力がある。刃は通らず斬ることすら敵わない」


「お前さっきから私たちのこと弱いだとか力にならないだとか、助けてやった事忘れたのかよ。あんな弱っちい奴に捕まっていたくせに」

「あの時は腹が減って力を出せなかっただけだ。その後はお前たち二人では相手にならなかっただろう。助けてもらったことには感謝しているが、だからといってリクが弱くなるわけでも、お前たちが強くなるわけでもない」


「リク殿は逃げたツイナ殿を追いかけるのでございましょうか?」

「恐らくはそうだろう。殺すと決めたら必ず殺す、そういう性格だ」

「それでは私たちが四鬼の面について調べる時間はありそうでございますね。ここは、私たちは一度リク殿へ敵討ちを果たす準備に今一度陸奥の神社を目指すのはどうでございましょうか。四つの力、知られていないもう一つの力について調べてリク殿へ挑みましょう」

「悪いことは言わない、その方がいい。お前達の敵討ちを止める気はない。ただ、勝機のある戦いを挑むべきだ」

「どうする?ナミ」

「二人の話しはもっともだとは思う」

「……でも、リクが来るってわかってるなら」

「リクはいずれお前達も殺しにくる、必ずだ。お前達から逃げることなどない」

「リン、今はまだ準備が足りていない」

「でも……」

「準備を整えてから挑めばよろしいではございませんか。何事においても下準備をおろそかにしてはいい仕事は出来ません。逃げると準備は全くの異になるものでございます」

「その通りだ、リン。勝機を伺うことも仕事のうちだ」

「ナミがそう言うなら」

「それでは、セン殿とツイナ殿はせいぜい逃げて時間を稼いでいただきたいと存じます」

「リクを殺す事に比べたら逃げる方がよっぽど簡単だ。お前達こそ殺されるなよ」

 センは再び涙を流し礼を言うと山姥の手を引く様にして木々の中に消えていった。


「ナミ、よかったの?」

「なにあいつらを殺しにここまで来たわけじゃない」

「そうでございます。今一度、旅を再開しようではありませんか。リク殿への敵討ちは長い旅でございます。急いては事を仕損じると言うではありませんか」

「……確実にリクを殺したいもんね。そうかもしれないね」

「ああ、今日は久しぶりに宿に入って体を休めよう」

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