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6ティータイム

トントン


「晴花様を連れてまいりました。」

「入るがよい。」

侍女の呼び掛けに品のある声が返ってくる。


晴花は選ぶように言われた大量のドレスの中の一番飾りの少ないシンプルな白のドレスを選んだが、着なれないものなので何だか落ち着かない。転ばないように気を付けないと。


ギィと音を立て、花や鳥の装飾が散りばめられた扉が開くと、そこはまるで広い温室の中。美しい草花が飾られて、丸い大きなテーブルがありそこに王妃であろうゴージャスで美しい女性と、何故かシッサスが一緒にティータイムを楽しんでいた。

…楽しんでいたといってもシッサスが緊張でガチガチなのは遠目でも丸わかりだったけれど。


「晴花!」

3日ぶりのシッサスが安堵の表情を向けてくる。話したいことは山ほどあるが、ここは先に王妃に挨拶するべきだろう。と思い、シッサスには腰元で小さく手を振るに留め、王妃にお辞儀をする。


…コーデリアや侍女にこの世界の作法を聞いておくべきだった…と後悔するがもはや遅い。


「王妃様、この度は私が釈放してもらえるようにご尽力いただけたと聞きました、ありがとうございます。」

「そのように硬くならなくていいのですよ。ようこそ、晴花。どうぞ、座って。」


侍女が椅子を引いてくれ晴花が席に着くと元の世界ではハーブの良い香りをした紅茶とお菓子が出された。

これは何の会なのか。やんわりとやり過ぎを注意されるのだろうか。

などと考えていると…


「私ね、出会った時から今まで主人…いえ、王のことが好きじゃないのよ」


突然の予想外の言葉に、晴花とシッサスはおもわず紅茶を吹く。

「…はあ。」


「私は田舎町の生まれでね、小さなハーブ農園をしてる家だったの。そこに、他国に国務で遠征帰りの王子が通って、見初められた。」


「素敵な話に聞こえますけど…」

シンデレラストーリーと言う奴では。


「相手がタイプなら素敵な話ね。」

王妃はニッコリと言う。

…王様は違ったんだ。


「私の場合、相手が王族で拒否できなかったのもあるけれど、そうじゃなくてもこの国は女の立場がまだまだ弱くてね。

昔は、男性からの求婚を女性側から断ることも許されていなかった。不貞も男は罪にならないが女は罰せられる。そんな法があったほど。」


「最悪じゃないですか。」

私はドン引きする


「今はそんな法律はなくなったけれど、それは表向きで染み込んだ風習はぬけきるのに時間がかかるものだから頭の硬い年配の人にはまだ偏見はのこってるんだ。」

異世界の人に知られるには恥ずかしい歴史だよとシッサスが言う


「…グレンデルの件もそう。奴は見つかりにくいように天涯孤独な女性ばかりを狙い、多数の犯行を行いながら巧みに逃げていた。けれど、奴が捕まれば死刑だと言われはじめたのは被害者が十人を越えてから…もし殺されたのが貴族の男なら一人であっても、その時点で重い求刑がなされるだろうに。地位のない女達の命は虫けら扱い。…そんな差別も権力も全てが嫌になって…

…私は自分の殻にこもるようになった。

…王妃になってからずっと、里帰りも土いじりも許されないこの城の中でハーブの香りに故郷を思い出す、それだけの暮らし…。」


王妃は紅茶の上に浮かぶのミントの葉を見つめている。その様子を見ていたら

王妃は故郷に好きな人がいたのかもしれないなと思った。


「私は今まで公開処刑も見た事はなかったの。形式化された処刑に意味があるとは思えなくて。

…でも今回はあのグレンデルの最後を被害者の為にも見届けて彼女達に花を手向けたいと思い、見る事にしたら……

あの衝撃的な光景……………。

思わず私、嘔吐したわ。吐いて吐いて…吐きながら、徐々に切り刻まれてながら、『助けてください』と懇願する滑稽なグレンデルの姿に、込み上げてくる笑いを止められなくなって。思い切り笑ったの。涙がでるくらい。…そのせいで私の気がふれたと思った王や側近が貴方を閉じ込めることになってしまった……本当にご免なさい…。」

王妃が深々と頭を下げる


「あ、頭を上げてください、王妃様はこうして私を出して下さったんですから全然、問題なしです!」


「そうですよ、10歳からかれこれ11年この仕事をしてる僕でもあの処刑から肉が食べれなくなったくらいです。王妃様が体調を崩されてしまっても当然です。晴花は血の気が多すぎるようなので牢でクールダウンできてよかったくらいですよ。」


「…なんだね、シッサス君。君は三日間会わなかった間に反抗期でもきたかね。」

私は言いながら横目でチロリとシッサスを睨む。


「晴花が来てから心が休まる時がないからね。君と同じで頭のネジが外れたのかもしれないね。」

向こうもキッと睨み返してくる。ムムム…こいつ心配かけすぎてちょっと怒ってるな。



「フフフ。貴方達はいいコンビね。

シッサス。処刑のときに晴花を庇う姿はとても勇敢で素敵だったわ。私も胸を打たれました。晴花も、やりすぎととる人も多かったでしょうが、私のように貴方の仕事をみて心を動かされた者もすくなからずいるようです。被害者の遺族、あと匿名ではあるけれど女性達からも何通か囚われた執行人の娘を助けてあげて、執行人達への差別をなんとかして上げてと嘆願書も届いているわ。」

王妃は手紙の束をシッサスに差し出す。12.3通はあるだろうか…


「けれど逆に今回の件ではいいイメージをもった人ばかりではない筈だわ。きっと心ない事を言う人も相変わらず多いと思うけれど、私は貴方達の味方よ。困ったときはなんでも言ってらっしゃい。…私もこれからは逃げずに国の中から働きかけて見るわ。」


その言葉に込み上げるものがあったのか、シッサスの目から静かに大粒の涙がこぼれ落ちた。


「!!!」

王妃はシッサスに歩みより…

おもむろに座っているシッサスを後ろから強く抱きしめた。

突然のことにシッサスの顔は無になっている


「困ったわ…ハンサムで男気もあって、おまけに可愛いだなんて…超タイプだわ…シッサス、もう一緒に城から逃げましょうよ。いいえ、私を王の元からさらってよ!」


「お…王妃様…!!コラコラコラ」

侍女達が慌てて王妃に駆け寄り引き剥がしている


王妃なかなかぶっ飛んだ人だな。この感じ、嫌いじゃない。と晴花は思う。


「王妃様。嬉しい申し出ですが、王様への裏切りは大罪。捕まったときは2人して晴花から刑をうけることになりますよ?」

シッサスが言うと

王妃はハッと真顔になりスッと離れる。

「それは嫌ね。絶対嫌。」

「僕もです。」

二人は顔を見合わせてわらっている


…何と失礼な。

でも、この国に味方なんて居ないと思っていた中、王妃の存在は何て頼もしくて嬉しいことか。


私は2人の失礼な発言は広い心で水に流し、そして美味しいハーブティーを胃に流すのであった。


読んでくれてありがとうございます。(^^)


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