2異世界
「もしもし、君、大丈夫かい?」
呼び声と水の冷たさで晴花は目を覚ます。
暗い……夜か。
目の前には雨のしたたる黒いローブを着て火の灯るランタンをもった青年が居る。
フードをかぶっていて顔はよく見えない。
「ああ、よかった!こんな雨の日にこんな道端に倒れてるからビックリしたよ」
「ここは…」
辺りを見渡すと少しゴツゴツした石畳にアンティークな雰囲気の街灯。見たことのない街並みがここが自分の知らない世界であることを物語っていた。
「…」
本当に異世界に送られた…おのれ…閻魔め…
私は思わず頭を抱える。
「頭が痛むのかい?」
「あ、いえ、ケガはないです。ただ此処がどんな世界なのか…状況が…」
「え…記憶喪失!?…いや、その不思議な服装……異世界の人かな……どうしよう…とりあえず僕の家に…でもな……うーん……仕方ないか。」
何故か私よりも彼のほうが苦悩している様子だ。
「…歩ける?」
彼は一瞬手を差し出そうとしたように見えたが何故か直ぐに引っ込め、私が自分で立ち上がるのを見届けてから
「こっちだよ、ついてきて。」
歩きはじめた。
言われた通り、晴花は青年の後を歩く。知らない人についていくのはどうかとおもったが、何の情報もつてもない今、有り難く頼らない選択肢はなかった。
ガチャ。
家につき借りた服に着替えを済ませ、晴花は暖炉の暖かな部屋に戻る
「ホットミルクを入れたよ、どうぞ、すわって」
そういって笑うさっきまで黒ローブを羽織っていた彼は、灯りの下で見ると歳は私と同じくらい、20前後といったところか。柔らかな金色の髪に緑の瞳の優し気な好青年だった。
「ありがとう。服、貸してもらって。」
「亡くなった母のものでごめんね。父も早くに亡くなって今は此処に一人で住んでいるんだ。」
町から少し離れた木々の茂る寂しい場所に家はあった。どちらかというと質素でこじんまりとした佇まいの建物だったが中は清潔に片付けられて心地いい空間だ。
「僕はシッサス。君は、異世界の人なのかな?」
「ええ、私は晴花。日本ってとこからきたの。私をこっちに来させた人が異世界に飛ばすのが珍しいような事を言ってたけれど、シッサスは直ぐに気が付いたし、そうでもないのね。」
「んー、僕が聞いたことがある異世界人は動物のような耳が生えてる種族や、小柄で身体能力がずば抜けた褐色の肌の種族がチラホラこちらの世界に来ているのは聞くけど、日本…は初めて聞くよ。」
「そうなんだ…」
あの世で閻魔に行き先を決めてもらう順番待ちの列に違う種族と思われる人はいなかった事を考えると…あの世にも管轄があるのだろうか。
「晴花はきっと、この世界で何をしていいのかも、まだわからないよね。」
「…全く。」
「異世界の人はこちらに来るときに送り主に優れた能力や魔力をもらって来る人が多くて、だいたいギルドに登録してそこの依頼をこなして生計をたててある程度稼いでから自分の好きな職業についたりしているようだよ。地図を書くから明日にでも行ってみるといい。」
「ありがとう。…魔法かぁ…私もつかえるのかな」
「調べてみる?」
そう言うと、シッサスは棚からビンに入ったキラキラひかる粉を持ってくる。
「ギルドで調べてもらったほうがスキルや能力の詳細もわかるけど、この魔法石の粉と髪の毛を一本入れて燃やすと炎の色で大まかな魔力の属性をみることができるよ。赤なら火、水なら青、風なら白、木なら緑、地なら茶、光なら黄、闇なら紫。……主にこのくらいかな」
「へー、何だかわくわくするね」
私は髪を一本引っこ抜き、粉をスプーンで一かけし、マッチでそっと火を灯した。
すると、炎は静かに煌めく黒い光になった。
「あれ?…黒…さっき黒なんて入ってたかな…ね、シッサス」
炎から顔を上げシッサスをみると…彼は真っ青な顔をしてそれを見つめていた。
「ごめん晴花。君はギルドに登録はできない。なれる職業も、1つしかない。」
「えっ…」
「黒は『死』を司り、属性のなかで最も強力で膨大な魔力をもつ。この世界ではそのごくごく僅かな死の魔法の使い手は強制的にやらされる仕事がきまる…僕も…ぼくの家系もそうなんだ。」
「何の仕事なの?」
「……死刑執行人さ。」
「死刑執行人!!!」
私は思わず叫び立ち上がる。それどころか無意識にバンザイしていた。
「は…晴花?」
「ごめんなさい、ビックリして…」
閻魔グッジョブ!!!(…何か思惑があるのかもだけど。)
「急にそんな仕事やれって言われても無理だよね。死の能力者が居ると国にばれたら仕事からは逃げられない。でも幸い知っているのは僕だけだし、ここに隠れてたらいいよ。」
「いえいえ!働きます!」
私は力強く言う。
「じ…じゃあ、国に登録した上で、汚れ仕事は僕がやるから、その簡単な準備とかを……んー、でもこの国犯罪も死罪案件も多いからな…バレたら補助係だけじゃすまないか…」
「心配無用!!私、バリバリ働いてシッサスに今日の恩返しするわ!!」
張り切る私を見てシッサスは何も解ってないと深い深いため息をついた。
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