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彼女はサイゴに言った

作者: 花道時代
掲載日:2020/08/01

僕には悩みがある。


それは、同じ僕を含め三人しかいない部活の『桜木 普』が何度も告白やら何でもない連絡をしてくる事だった。クラスも違う人からの、どうでもいい会話。

僕はひとりの時間を邪魔されているのが嫌で、連絡を頻繁にしてくる彼女の事は心底嫌いだった。


高校一年の10月から告白は続き、今は二年の夏。

「君、好きだよ!私と付き合わない?」

「答えはノーです。何度、僕にこれを言わせれば気が済むんですか?」

彼女は、君がイエスと言うまで!と意気込んでいたが内心呆れた。

同じ事を繰り返すのは無意味だし、僕の態度で結果は分かるのでないかと思っていた。

いつもなら、このまま彼女がしょげて帰るところなのだが今日は違った。

「ひとつ、お願いを聴いて欲しい」

「嫌です」

即答で僕は返した。

すると、彼女は学校のベランダの手すりに腰を掛けたのだ。

ここは3階だ、命を落としはしないが重症だ。

「何をしているんですか?」

「ん?あー、今ここから落ちようと思って」

彼女は満面の笑みで、僕に向かって言ってきた。

「いいですよ、僕には関係ないので」

どうせ本気では無いであろう彼女の言動に、僕は呆れながら帰ろうとしていた。

後ろから待って、と声がかかり僕は振り向く。

すると、彼女は僕の腕に手を伸ばしてきた。

そして自らの肩をその手に掴ませる。

彼女は妖しげな笑みを浮かべて、こちらを見つめていた。

「これで、私がここから落ちたら君の指紋が付いた服が見つかっちゃうよ?」

そう言った後、まるで舞台にでもいるかのように軽やかな歩みで手すりに腰掛け脚を組んで言った。

「ここからじゃ重症程度で済んじゃうなぁ、そうしたら私はこの件を事件にしてしまうかも」

「…つまり、僕を罠に嵌めたと言う事ですか」

「その通り!…私は本気、君が止める方法は条件を呑むしか無い」

冷静に考えた。

もし、このまま本気の彼女が落ちてしまったら犯人は僕になる可能性がある。

と、なると答えはひとつだ。

「分かりました、条件を呑みましょう」

パァと明るい顔をしながら、彼女は高らかに言った。

「お願いは、今度の日曜日に私と遊ぶ事!そこでは、私の頼みは絶対!」

「…はぁ」

面倒そうな頼みを訊くハメになり、僕はあの瞬間の自分を心底恨んだ。

「答えはイエス以外は有り得ない…よね?」

「仕方ないですからね、分かりました」


こうして、日曜日

彼女を待ちながら、ひとりこの時の事を思い出して溜息を吐いた。

夏の暑さが額に汗を滲ませ、夏休みは一歩も外に出ない事を僕に誓わせた。

「お待たせ!」

声のした方を振り向くと、夏らしいを着た彼女がいた。

「どう?」

「まぁ、可愛いですよ。馬子にも衣装、ですね」

「余計な一言を言うね、君は」

それじゃモテんぞ、と咎めてきたが正直どうでも良いので今日のプランを訊いた。

朝から晩まで付き合わされるなら、とことん乗ってやろうと内心思っていたから。

「まずは、買い物!」

と、連れて行かれたのは大型ショッピングモール。そこでは買い物、と言うよりも完全にゲームセンターでのお金の消失を目的とした遊びに付き合わされた。

「ねぇ、これ取って」

「仕方ないですね…ほら、取れました」

欲しがっていた、猫と可愛らしいぬいぐるみを僕が渡すと嬉しそうにお礼を言ってきた。

その後は、カフェで食事をした。

「ここのケーキ、美味しいんだよね〜」

「昼食をケーキで済ませるんですか…かなり偏食なのでは?」

「親からは、もう何も言われないから良いの!」

それは尚更良くない気がしたが、僕はパスタを食べながら彼女のケーキを嬉しそうに食べる姿を見て諦めた。

「そうだ、君。私、最近ゲームを始めたの」

「どんなゲームです?」

「悪魔が出てくるやつ、主人公は…ダンデって名前に似たキャラクター!」

僕は惜しいなぁ、と思いながらそのゲームの話をした。彼女は質問をしながら、目を輝かせて感動していた。

「親から、ようやくゲームをして良いって言われて」

「中々厳しい方なんですね」

「そうなんだよ、全く今更遅いんだよね〜」


カフェから出て、僕らは公園まで来ていた。

「あとは、ここで時間が来るまで話していよう」

ベンチに腰掛けルンルンの彼女の横顔を見ながら、今日の事を思い出し大した事をしていないのに気が付いた。

あんなに脅しのような…と言うか、脅しをしてきたのに。

「…私ね。なんだかんだ付き合ってくれる君が好きだよ、知ってた?」

「知ってます」

彼女はだよね、とくすくす笑った後空を見上げていた。

「正直、私の事嫌いでしょ?」

急にそんな事を言われ、流石に焦った。

その様子を見ながら、知ってたよと彼女は笑った。

「君はかなり態度に出てるから、直ぐに分かっちゃうだからね」

「そうですね、以後気をつけます」

「そうして下さい」

そう彼女が言った後、深呼吸をして僕に言った、

「ねぇ、手を繋いでくれないかな?」

「え?」

「ほーら、今日は何でも訊くって約束」

手を差し出され、僕らは恐る恐るその手に触れる。

「よし、捕まえた!恋人繋ぎ〜」

「…耐性無いんですが」

「本当だ!顔、真っ赤〜」

大爆笑の彼女の方が照れている筈なのに、何故か僕の方が恥ずかしがっている事に劣等感を感じた。

僕から握り返してみると、びっくりした様で顔を赤らめていた。

「…照れますな」

「そうですか?僕は、余裕ですけどね?」

「なんか負けてる…よし!」

彼女はバッと手を広げて、僕を抱きしめて来た。焦りまくりの僕を、また大爆笑でギュッとしてくる。

そして、満足したのか離して立ち上がった。

「急にごめんね、でも私は満足!」

「貴方は、ですよね」

まぁね、と言って彼女はクルッと一回転をして僕を見つめた。

「流石に…キスはダメだよね?」

「そういうのは、結ばれてからして下さい」

はーい、と能天気に答える。

「だけど、私は好きだから私からするんだからありだよね」

彼女は横に座り直し、僕の頬にキスをした。

顔に熱が集まるのが分かったので下を向くと、彼女は照れてると嬉しそうだった。

やっぱり、僕には耐性がないらしい。

「大好きだよ。多分、これからも」

「…嬉しいけど、答えられない」

「知ってる、こんな一方的じゃダメ…だもんね」

悲しげな顔をして、空を彼女は仰いだ。

「結局私の恋は、叶わないのかぁ」

「もしかしたら、僕の心が変わるかもしれませんよ?」

「そうだねぇ、何年後かな〜」

「さぁ?」

この会話に、僕らは一頻り笑って帰路に着くことにした。彼女の横を歩きながら、僕は思った事を述べた。

「普さん。僕、貴方の事嫌いじゃないですよ」

「そう?なら、嬉しいなぁ」

ふわふわとした言い方でそう答えてきた。

僕は、なんでこんな事を言ったのだろう。

彼女の事は、心底嫌いなのに。

そう思った時、彼女は歩みを止めた。

僕は後ろを向いて小首を傾げる。

「…ねぇ、君。聞いて欲しい事があるの」


次の日から彼女は学校に来なかった。

次の日も、その次の日も。

あんなに執拗に来ていた連絡だって全く来ないし、返信も来ない。

彼女を心配している声が日々減っていく中、急に担任から連絡があった。


彼女が死んだ。

あの最後に遊んだ日から、数週間の間に。

学年の生徒全員で、葬式に行くことになった。

葬式で、僕は彼女の両親から重い持病があった事を聞いた。

医者からの余命宣告があった事も。

知らなかった…誰も。

彼女は、誰にも言わずにいなくなった。

目が覚めない事に怯えていたかもしれなかった事も、動かなくなることが怖かったかもしれない事を。

桜木さんに彼女からの手紙を貰った後、僕は家に帰った。

ベッドに転がり、考える。

僕は、もっと彼女に気をかけるべきだっただろうか…?

いや、それでも彼女は言わなかったかもしれない。気づかせない様に、笑い続けていたかもしれない。

それにしても、何故だろう。

僕はなんでこんなにも気にしているのだろう、彼女の事は心底嫌いだった筈…なのに。


嫌いだった、そう嫌いだったんだ。


僕に好きだと言ってくるところが。


僕に何気ない会話をしてくるところが。


僕を脅してまで遊びに誘うところが。


何もかも嫌いだったんだ。

なのに…どうして…

こんなに、涙が止まらないんだ…?

理解が出来なくて、困惑している。

なのに、涙は止まらない。

喪失感だ、彼女を失った。

あの日、彼女は僕が断ったら落ちる気だったのかもしれない。それくらいの意思で、僕と最期の外に出ている休日を過ごしたかったのだ。

今更になって、僕は気付いた。

彼女の事が心底好きだったんだ。


僕に好きだって言ってくれるところが。


僕と何気ない会話で笑ってくれるところが。


僕を遊びに誘って側にいてくれるところが。


ごめん、今気付いたんだ。

今すぐ会いに言って、告白を僕からした時の君の顔を見たい。

笑ってくれる顔が…。

一頻り泣いた後、彼女の手紙を開けた。

そこには

『大好きな君が笑っていられますように、って空で祈っておくよ。だから、私の事は忘れてくれても良いからね。幸せになってね』

文字数の少ないその文には、彼女らしい想いが入っているように思えた。

「…忘れられないよ。なんで、貴方が今ここにいないんですか…なんで」

その言葉は誰にも届かない。

「僕は、貴方と幸せになりたかった」




「…ねぇ、君。聞いて欲しい事があるの」

「どうしました?」

「…うん、あ…ううん、やっぱりなんでもない!」






またね!君は幸せになってね!





お久しぶりです。

書きながら、自分の事が重なって寂しくなりました。

私はこんな恋愛はしたくないです笑

かなり、寂しいですし残していく事も悲しいですからね。

因みに、普さんがした『交渉方法』は私も使ってみたいなぁって思ったり。

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