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姫陰陽師、なる!  作者: 野之ひと葉
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 話終わる前から、父様は頭を抱えていた。

 土御門様は渋い顔をしていて、黒い洋装の男は無表情で何かをじっと見ている。

 朔子様は楽し気にお笑いになって、女房の方々がおろおろしている。

 そんな居心地の悪い雰囲気のなか、光誠様だけはずっと童子を見ていた。

 結局、私は思い込みでやらかしたことを出来るだけ正確に話した。自分でもわからない内に妙な思い込みでやってしまったことだったとはいえ、私がやったことなのだから相応の責任はとらないといけない。

「それで、それはかわいいの?」

 どんなお咎めが、と思っていたところへ朔子様が問いかけてきた。私は、改めて手のひら上に載せた童子を見た。

 服装は、よく見てもやっぱり胡蝶舞とか、迦陵頻の衣装に見える。頭の飾りまで小さいのに細部までしっかりできていている。ふっくらした顔には白い部分のない大きな黒い目と、先の尖った大きな耳。それが、この童子が《人》とは違うことを表している。でも、はたはたと動く羽と、童子のいとけない仕草で首を傾げられると、

「かわいいです」

 思わす、緩んだ声で答えてしまった。

「そう? わたくしには変わらず光る珠にしか見えなにのだけれど?」

 え、どういうこと?

 朔子様の言葉で、土御門様が庭に降りてきた。

「見分失礼します」

 そう言うと、手のひらを覗き込む。

 次いで、父様、洋装の男もやってきて、座り込んでじっくりと見はじめた。

「珠、に見えますね」

「はい、珠です。琳子、これがかわいいのか?」

 陰陽師たちが顔をしかめる。

「え、羽見えませんか? あー、でもこれ、私には駄目なもののようですね」

 洋装の男はちょっと離れると、変わった十字を切った。

 見えてる人がいないことにわけがわからなくなって、最後の一人、光誠様を見た。

 おそらく、全員の視線が光誠様の意見を催促しているのだろう。

 諦めたため息のあと、私がわかる範囲でですがと、光誠様が口を開いた。

「見えているのは、小さな子どもの様なものです。羽があり、飛んでいます。ただ、この国のものではありません。おそらく、琳子殿が欲しているフェアリーに近い」

『Do you know a fairy?(フェアリー、知ってるの?)』

 不意に、聞きなれない言葉が光誠様の話を遮った。

『Do you know really?(ほんとに知ってるの?)』

 声の元は、私の手のひらの上。

 童子がしゃべってる。しかも、異国の言葉を!?

『Really!?(本当なの!?)』

 身を乗り出して、光誠様に話しかけている。

「Yes. Are you fairy?(知ってる。君がフェアリーだろ?)」

 光誠様が答える。

『No. Alice is looking for it,for a long time.Long long time. Isn't a fairy here?(ちがうよ。アリスがずっと探してるんだ。長い間、ずっと。ここにフェアリーはいないの?)』

「That isn't here.Sorry.(ここにはいない。ごめん)」

 知ってる。ソーリーは英語で「ごめんなさい」。童子はうつむいてしまった。

 光誠様も、黙ってしまった。

「えーっと、Who is Alice?(アリスって、だれ?)」

 洋装の男が、ぎこちない英語で話しかけた。

『Alice is my friend! I love she very much!!(アリスはぼくの友達! 大好きなんだ!!)』

 ぱたぱたと飛んだ童子が、私が帯に挟んでいたレースのリボンを引っ張り出す。

『I'm the part of Alice. I'm here,together.(ぼくはアリスの一部なんだ。ぼくはここにいる。一緒にね)』

 優しくリボンをなでているのに、泣いているような、苦しそうな顔に見えるのはなぜだろう。

「Are you a spirit?(きみは霊なのかい?)」

 なんだかわかった様子で光誠様が問いかけると、童子はうなづいた。

『I'm the part of the soul in Alice. But,why am I here?(アリスの魂の一部だよ。ところで、なんでぼく、ここにいるの?)』

「Maybe because there was a girl who wanted to meet a fairy as much as Mrs Alice.(それはたぶん、アリスさんと同じくらいフェアリーに会いたいと思ってる子がいるからだよ)」

 誠様が私を指さす。童子が私を見上げる。そして、にこっと笑った。

『So,I know. I like this girl too.(そっか。ぼく、この子も好きだよ)』

 何かの結論が出たのか、童子は私の肩に座ってリボンを抱きしめ、私をまたにこにこと見た。

 肩に乗るわずかな重みと温もりに本能が恐怖を感じる。これは、容易なものではないと。けれど、その童子から感じるもう一つのは存在はおそらくさっきざわりと私の気を巻き込んで後押ししてくれたもの。そこには私への害意はなくて、暖かさを感じた。

「光誠、それがなんなのか、わかりましたか?」

 土御門様が様子を伺うように尋ねる。

 光誠様は、洋装の男に顔を向けた。

「有馬様は、聞きとれてらっしゃいましたか?」

「まあだいだい、ですが。私とは相容れない者のようですね。敵となりかねませんから」

 有馬様は、人の良さそうな顔で苦笑いをしながら、物騒な事を言う。

「そうなりますか」

 光誠様はため息のようにつぶやくと、

「おそらく、霊ですね。この髪飾りについている付喪神みたいなものです」

 そう、結論を出した。

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