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天才魔術師、猫を助けて最下層ランクにされるがご満悦。夢のスクールライフへ

ここは魔術社会とそうじゃない非魔術社会が入り交じった世界。とは言えど、ほとんどこの社会を支えてるのは魔術である。

魔術師育成学校MBSに入学して公認魔術師の資格を得る。これがこの世界でいうエリートコースだ。ただ入学するだけでも難しいだけでなく、その中で生き残るのは至難の技と言われるほどの難関学校。自主的にやめるだけならともかく、強制退学も日常茶飯事だ。そんな学校。入学の時点で拒否される存在がいてもおかしくはない。


鳥のさえずりが響く、朝。建物の屋根を歩く形で、一人の男は友人の部屋を目指す。


「おはよーう。ラインくーん」


「やめろよワープで入ってくんの玄関ってもんがあんだろ」


「こっちの方が楽なんだもん」


「ラクナンダモン、じゃねえよ。世の中のルールは客は玄関から丁寧に入って来ることになってんだよ」


「ここは魔法の世界さ」


「お前に常識の話は無理だな」


「ラインくんが喜ぶと思って、壁から入ってきてるんだ」


「プレゼントでもありゃあ喜ぶさ」


なんてことない、いつもの会話。ワープから出る前に、丁寧にくつを脱ぎ袋にしまいながら喋る男の名前はフリード。決まったいつもの場所に座ろうと思ったが、物がいつもよりも散乱している。


ガサガサと音を立てながら、ラインは一人呟いている。


「無えなーどこやったけなー」


「何、色々準備してるの?」


「来週MBSの入学式だろうが」


「あ、その事なんだけど…僕無理だったんだ…。ああ、スクールライフよ…。」


「はあ!?なんで?お前魔力ランクSSSだろ?学ぶこともねえってか?」


魔力ランクとは総合的な魔力の評価で

F~B A AA AAA S SS SSSがある。一般的には魔力量の指標として使われる。


「学ぶことはたくさんあるよ!人間関係の勉強もしたいんだ!でも、構成妥当に評価した結果、駄目だって。試験の出願から却下されたんだ。あぁ、僕のスクールライフ…」


「何が構成妥当だよ。魔術師協会にもSSSなんていないから、お前という存在が未知数なんだろ。だから公認魔術師の資格を与えたあと、自分達の立場が危うくなるのをおそれてんだよ。」


フリードの実力を知っているのは、ラインと協会の人間だけだ。普段は簡単な魔法しか使わないフリードは協会の行う魔力量検査で異常な数値を叩き出してから、非常に危ない存在として扱われている。


「別に権力を手に入れたいとかじゃないのにねー。ショックだよ…。ああ、学校とは青春の宝石。そこにあるのは夢と希望と甘酸っぱさと…。でもそれも儚く散っちゃったから、これからはリリィちゃんの追っかけに徹しろてことかな」


「そうじゃねえだろ…。ていうか好きだよな、リリィちゃん?だっけ。いますごい人気だし。」


「リリィちゃんがどんどん遠くなっていく気がして怖いよー…。あ、それはそうとラインくん、今日は何の日か知ってるかい?」


「何の日?海の日とかそういうやつか?」


「ちっがうよ!そのリリィちゃんの握手会なの!僕の格好見てわからない?」


サングラスに帽子 はっぴ ズボンからはうちわが数本飛び出している


「知らねえよ。そんなもん。まあ、変な格好だとは思ったけど、そういやいつもイベント事のときはそんなんだったな。」


「ただのイベントじゃないよ。なんとなんと、握手会つき!いぇーい!なんでも大事な発表もあるんだって。これから五時間並ぶんだー。」

なぜかわからないが、フリードはドヤ顔をしている。


「お前タフだな。魔術使えばまあ、五時間位誤魔化しもきくか。」


「ばかやろう!そんなんでファンはつとまらないよ!そんなずるいことしない!何より、今日の開催地は魔術禁止区域だしね。」


「そうなのか?まあ、気を付けろよ。っていうかお前さっき“リリィちゃんが遠ざかっていく”とか言ってたけど、まずその格好どうにかしろよな。お前見た目イケメンなのにそんなんじゃリリィちゃんはよってこないぞ」


「フッ、そういう問題じゃないのさ」


イベント会場は大にぎわいだった。男女共に人気のある、リリィは一般的にライトな層のファンも多い。


「はぁーい皆さんこーんにーちわーぁーリリィだよぉー。今日はここまで集まって来てくれてどうもありがとーう」


『いぇーいー!』


「うほー!リリィちゅあーん!」

フリードの声はとても響く。そして、格好も目立つ。しかし、回りの目は気にしない。

イベントは進みメインの握手会へと進行されていった。


(もうすぐかな?あんまり前が見えない…。リリィちゃんどんどん人気になっていくなー。会場もどんどん大きくなっていくし…。)


イベントは道路に面した巨大な広場にイベントホールが特設されて行われている。入り口の隣にテントはあるのだが大勢の人が並んでいるため、リリィは見えない。


「しっかし、車なんて久しぶりに見るなー。こっちではこれが普通なんだよなー」


並んでいる間の暇潰しは普段見慣れない車を見ることだ。


(あ、道路にねこちゃんいるよー。かわいいなー。こっちには結構いるのかなーん?道路にねこちゃんいるよ?道路…。やばくない!?車来たらどうしよう!って来てるよ!もう結構近いよ!どうしよう!でももうリリィちゃんも見える位置だしすぐに握手できるのに…。でも行くしかないか!)


「あ、あの通してください。道路に出たいんですが。あの、すみません。すみません!猫ちゃんが!危ないんです!もうこれじゃ、間に合わないよ!…仕方ないか…」


フリードは上空に向けて手を伸ばした。そこに小さな魔方陣が浮かび上がり、フリードは声を発した。


「範囲系 時間歪曲魔術 <スローモーション>」


周囲の動きがただちに遅くなる。フリードを中心として外に広がるにつれて徐々に魔術の効きを微量に弱くしている。それによって魔術の有効範囲の境界線がなくなり、混乱を招かない。時間系魔術は高い技能が必要とされており、対個人系のものでも決して簡単ではないが、空間を対象とするものを扱えるものは少ない。


「よしよし。猫ちゃんを浮かせてっと、あそこなら安全だな。解除。」


今度は安易な風魔法で猫を安全な場所まで包み込みながら逃げさせた。そして解除と同時に大きな音がなる。


『ピーーーーピーーーー魔術禁止区域にて魔術発動検知。ただちに取り締まりを行います。繰り返します。魔術禁止区域にて…』


魔術の発生に反応する設備に反応をされた。実際フリードはその設備の機能すらも止めることが、可能だったがしなかった。変に正直なのである。


「はぁー、また魔術師協会にいかなきゃだなー。学校の一件でブルーな気持ちなのに…。」

しばらくして、警備の人と一緒に担当の人間がフリードのもとへ訪れた。

「君か!魔術を使ったのは!」


「はい…」


……

魔術師協会本部会議室。


「おぉこれはこれは、フリード君じゃないか。魔術禁止区域で使うとは学校の件で不満でもたまったかな。」

嫌みのように話す老人。魔術師協会幹部の人間である。


「いや、そんな事はないです」


「私たちとしても、君ほどの魔力を持っている人間に自由に動かれると困るんだよ。魔術禁止区域にすんでいる人間は魔術に対する体制がない。君はその、どでかい魔力にまかせて大人数の時間を止めたんだろう?まあ、対個人系とはいえ、君の魔力タイプは「時間」ではないのにそれを扱えるのは称賛に値するよ。まあ、魔力あってのものだが…。ああ、あと忘れちゃいかんが、罰則はこちらの方で用意した。」

また別の幹部が的外れなことをつらつら喋る。


「罰則…ですか?」


「ああ。魔力抑制石レベル5を君に埋め込むことになっている。」

くすくすと会議室の中に笑い声が流れる。協会の幹部たちはこのチャンスを逃すまいと、フリードの魔力を大幅に下げて、管理しようとしている。


「それだけですか?」


「それだけ?この石が埋め込まれれば、君の魔力はFランクになるんだぞ?君のそのお得意の破天荒な魔術も使えなくなるぞ?」


「そうなんですか」


「正直、このレベルの魔力抑制石は国に1つしかない。国家最重要魔法道具の1つなんだが…」


「そんな重要なものを魔術発動の罰則で使うんですか?」


「あ…ああ。それくらいの罪を犯したんだ君は!」


「そうですか。あ、それなら!」

フリードは咳払いをして続ける

「罪を犯した立場で申し訳ないのですが1つ頼みがあります」


ラインの部屋に戻ったフリードは得意気な顔で先程の話をしていた。


「魔力抑制石レベル5!?正気か?お前そんなの埋め込ませちゃいけねえよ!いつだよその罰則をうけるのは!」


「え?もう埋め込まれちゃったよ?」


「はぁぁー?!お前、おかしいだろ!魔力量がFになったんだぞ?何でそんなに平然としていられるんだよ!」


「えへへ。僕、ビジネスマンに、向いてるかも。交渉に成功したんだ。」


「なんだよ。交渉って。」


「学校に入学できるようになったんだ。Fランクとしての入学だけど。」


「……」

呆れ顔のお手本がそこにあった。どこまでこいつはここまで能天気なのかと驚いてもいる。


「これで僕のスクールライフは誰にも邪魔されないよ」


「お前はビジネスに向いてるかもな…。」


「でしょ!」


「あくまでも、『かも』だけどな。『カモ』」


「そこまで『もしかして』を強調しなくてもいいじゃない」


「もういいよ…」


(心配だ。Fランクでこいつをいかせていいのか?こいつは能天気だから、何も感じないかもしれないが、MBSにおけるFクラスってのは言い換えれば、最下層だ。そもそもFランクなんて学校にいるのか?特に最近はしょうもない魔術師が増えたせいで、評価の基準は技術よりも魔力量が重きを占めている。とっても心配だ…。)


ラインは窓の外を眺めた。

夕方を過ぎ、弱々しい光の星々が揺れる。分厚い雲が押し寄せてきているが見え、気を落とした。


(だいたい、想像つくよな…。こいつFランクとして見下されるよ。きっと。そして、誰もこいつに勝てない…。そうやってみんなプライドやられるよなー。魔術師の卵を羽化させるまえに、料理するようなもんだよ…。)


ラインは理解していた。魔術師協会は理解していなかった。フリードの力は魔力量によるものではない。むしろほとんど使っていない、宝の持ち腐れもの良いところであった。魔力量の凄さに隠れて見えていなかった魔術師としての実力。誰も彼に勝てない。




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