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再生神機のアンダーワールド  作者: よよっち
episode2 地下世界 一ノ瀬の章
9/14

第九話 三番目と呼ばれた男

やっと本編です。

「悪かったな」

 彼は冷ややかな目でそう言った。歳は……少なくとも俺よりかは年上であることはわかる。

『聞きたいことが山ほどあるっ! 答える気はあるか?』

 そう、俺は問おうとした。問おうとした、というのも理由がちゃんとある。


 ——足場がない


 俺は空中で静止していた。


 足場がない、というか”今立っているはずの足場が見えない”。垂直抗力はしっかりと感じる。断言しよう。俺は立っている。


 心臓の鼓動がうるさい。取り敢えず落ち着かないと。


 緊張をほぐすのに深呼吸は有効だ。


 …………


 うん。これでいいか。効果があったのかはあまり分からないがこれきりにしておく。


 俺は目の前で胡坐をかいている彼を見た。


「だから悪かったって。そんなに睨むなよ。ちゃんと説明するからさ。それとも先にお前の話を聞いた方がいいか? ま、とにかく座れよ」


 俺は返事をすることなく、言われた通りに座ろうとして。……座ろうとして。


(足場が見えないから座りにくい……!)


 ストン


 座れた。


「何も言わないってことは俺が説明する番ってことだな」


 彼は首を左右に傾けて音を鳴らした後に言った。


「俺は三番目だ。10年前より前の記憶を無くしている。特技は色々あるが趣味は特にない。訳あってお前を護衛という名の誘拐をさせてもらう男だ。よろしく」


 何を言ってるんじゃい。


「まぁ、そうだな。取り敢えずその床から説明しようか」


 三番目と名乗った男は人差し指を顔の前に立てると、指先から青白い炎を発生させた。突然の強い光に驚く。


 いやいや、驚くべきとこはそこじゃないだろ。なんで炎が出たかってことを考えるべきだろ。


「言わなくてもわかるだろうが、この炎は俺が作った。んでこの見えない足場も俺が作ってるわけだが……。ああ、そうだ。まずは俺の能力について説明しなきゃな」


「能力?」


「お、ようやく反応した。その様子だと割とすぐに受け入れてくれそうで少し安心だ。『原子崩し(オルディア)』、それがこの能力。原子操作をすることでさっきの炎だったり、この透明な床も作っている。因みにこの床の強度は核シェルターの材料に使えるレベルだ。ちなみに強化エレベーターの材料にも一部使われてたりする」


「それで、なんで浮いてるんだ?」


「ベクトル操作、とは厳密には違うが大体そんなもんだ。この床を形成している原子全てを力が加わっている方向と逆向きに動かしてる」


「それってめちゃくちゃすごいことなんじゃ……?」


「能力者は自分の能力を最大限に扱えないと死ぬからな」


「え、死ぬ!? あと能力者が複数いるような言い方だけどどうなんだ?」


「それについてはまた別の説明が必要になるな」


「あ、その説明の前に一つ聞いておきたいことが」


「ん? なんだ?」


「今日大地震があったことは知ってるよな?」


「もちろん」


「それなのに俺の家は無害だった。他の家は少なからず影響があった。道路もひびが入ってたしブロック塀は倒壊した。それだけじゃない。妙に俺の家の周りだけ暗かった。もしかしてこれはお前がやったのか?」


「何かと思えば、ああ、そうだよ。お前のことは知っていたからな。俺なりの気遣いだ。あ、ちなみにそれは原子崩し(オルディア)の能力じゃなくて他の能力の力な」


「そうか。ありがとな」


「意外だ。あっさり信じるのか? 根拠もないのに?」


「こっちこそ意外だよ。俺があんたを疑っていないとでも? 俺をいきなり誘拐したやつだぞあんたは」


「そりゃそうだ」


 三番目は笑った。


「それじゃあ、所謂(いわゆる)コミュ障の部類に入っていたお前が初手から俺に対してため口なのはそれが理由か?」


タメ口(こっち)の方が仲良さげに見えていいだろ?」


「だな」


 彼は豪快に笑った。


「んじゃお近づきの印に『殺し合い』の説明をしようか」


「居酒屋での他社の社長との会話みたいな言い方だな」


「的確なツッコミをどうも」


 どうやらこの男、三番目は無理やり力で従わせるタイプの人間ではないらしい。しかし、この状況。その気になればいつだって俺を空中から落下させることができる。それに雀の涙の確率で幸運を拾って無事着地できたとしても、三番目の身体能力なら俺をすぐに殺すことができる。

 だが実際はそんなことはしないだろう。三番目は理由があって、俺をさらった。つまり「俺が必要なのだ」。逆にここから俺が飛び降りても天空の城を舞台にした名作映画の主人公みたく俺にダメージを与えることなくキャッチするだろう。


 試すのもいいが、この状態でこれ以上精神的負荷をかけるのはやめておきたい。


「それで? その『殺し合い』ってのは何なんだ?」

「そうだな……取り敢えず完結にまとめると、俺のような能力者達が残り1人になるまで殺し合う、ことだな。あのクソッたれはこの殺し合いのことを”地下世界(アンダーワールド)”とか呼んでたが俺は絶対にそんな風に言わねぇ。すでにさんざん掌の上で弄ばれたんだ。しかもその度にクソッたれ(ミトルネ)は『アンダーワールドを楽しんでるようだね!』なんて言ってくるんだ」

「怒ってるところすまんが、新情報が濃ゆすぎて消化不全なんだ。質問いいか?」

「ん? あぁ、大丈夫だ。こっちこそ取り乱した。すまん」

 

 取り敢えず聞いたら面倒くさそうな「ミトルネ」とやらについては避けよう。


「他の能力者って例えばどんなことができるんだ? それとやっぱりお前みたいに身体能力も高いのか?」

「そうだな。今回の『殺し合い』ではまだ一人しか見てないが、分かっている範疇で説明するとそいつの能力は『弾丸生成』だ。そいつは銃や弓をたくさん生成して遠距離攻撃を仕掛けてきた。それが厄介でな、着弾後に凍り付く弾とか時間差でテレポートする矢とかとにかく色んな効果を持った遠距離攻撃をしてきた。だがまだ上手く能力は使いこなしていないみたいだった。終始優勢だったよ」

「倒したのか? その能力者」

「倒そうとしたところでお前を見つけた。そいつはお前の家の周りの結界も無効化できるみたいだから大事を取ってお前をさらって安全地帯に移したってわけだ」

「ここ本当に安全なのか? 銃とか使うなら下から攻撃してきそうだけど」

「俺が引いたタイミングであいつも引いたから大丈夫だろう。今回は圧倒的な実力差を見せれたからな。しばらくは俺と敵対しないはずだ」

「そうか。じゃあ次。何で俺をさらった?」


 一番の疑問だった。正直こんな殺し合いに俺が一緒にいても邪魔なだけだと思う。

 殺し合い……嘘は言ってないと思うが実際に見てみないと実感がわかない。三番目の身体能力に驚いてた俺が能力者達の戦いを見たら腰を抜かしてしまうのではないかしら。というか腰を抜かすだけで済んだらいいんだけど。普通に死ねるよなこれ。拒否権があったら右手でフェイントして左手で拒否するところだった。


 何言ってんだ俺。


「あーそれなんだが……」


 さっきまでベラベラ喋っていた三番目にしては珍しく言葉を詰まらせる。言いにくいことでもあるのだろうか。


「うーん、上手く伝わらないと思うんだけどな、お前に感じたんだよ、希望を。この地獄を終わらせる可能性を」

「は?」

「いやまぁ、不思議に思うのも無理ないけどこればっかしは俺にもよくわからない。多分俺が知らないだけで俺の持っている能力にそういうのを感知することができるのがあるのかもしれない」

「言葉が抽象的すぎて分からん。つまりなんとなくって理由でさらったのか?」

「お前の言う「なんとなく」が理由もなくって意味ならその通りだ。しかし理由はないが確証はある。お前はあのクソッたれのミトルネと同じような力を持っている。俺たち能力者とは格が違う何事にも影響を受けないような圧倒的な力だ。今はまだ小さいがな」

「ちょっと待て、これは俺の早とちりかもしれないがもしかしてもしかするとお前は俺にその、お前に「格が違う」と言わせるほどの敵、そのミトルネだっけ? そいつを俺に、ついさっきまで、いや今朝まで普通の時間を過ごしてきた俺に倒せって言うのか?」

「ああ。その通りだ。俺では倒せない。お前なら出来る、俺はそう踏んでいる」

確証もなく(なんとなく)?」

「ああ、そうだ」

「拒否したら?」

「ここら一帯を更地にするくらいのことならやってみせよう。そうしたら俺は世界中から命を狙われるかもしれないな」

「俺がそれで死んだらその俺がミトルネとかいうやつを倒すっていうお前の目的は達成できないぞ?」

「大丈夫だ。俺はお前が断らないのを分かっていてオーバーに言っているだけだからな」

 

 言わなくていい。


「他に何か聞きたいことは?」

「そうだな……。具体的に俺はどんなことをすればいいんだ? いくら俺にすごい潜在能力があったとしても今の俺じゃ使えない。それともその力を解放する儀式でもするのか?」

「まさか。そんな都合よくはいかないしもしもそんな儀式が存在するのなら無理やりにでもやらせているところだ。今のところは俺たちの環境に適応してもらおうと思っている。つまり『殺し合い』に参加しろってことだな。もしかしたらお前のその力、俺たちの能力と触れ合うことで発揮されるかもしれない。取り敢えずは色々試しだ」

 

 そんな環境に適応したくなんか一切ないのだが、するという選択肢以外が存在しないのでしかたない。ここは腹をくくるしかない。これから何日『殺し合い』が続くのか分からないが、とりあえずは生き延びねば。

 俺にとってはミトルネとかいうよくわからないのを殺すのは第二優先だ。まずは生き延びる。じゃないと死んでいったアイツに申し訳がたたない。死ぬときはそれこそ世界を救うくらいの大きな偉業を成し遂げてからだ。

 俺の命は俺が測ることのできないくらい重い。

 だから、生き延びるために最大限コイツを活用しなければ。俺とコイツの成すべきことは一部一致している。

 『三番目は俺を死なせない。俺は自分を死なせない』

 どうしようもないことは絶対に存在するものだ。例えば今回の大地震のように。運命とは底なし沼に例えられる。あがけばあがくほど状況は悪く、沈みゆく。それはとても辛く、苦しいことだ。


 だから、しょうがないことはそういうものだと割り切ってその範疇でできる最善の行動をするべきなのだ。そして最も優先すべきことはいつだって命を守ること。


 三番目を見つめる。コイツはコイツで多くの修羅場を潜り抜けているのだろう。そんな凄味が三番目にはあった。


「他に質問は————と、その様子ではないみたいだな」


 三番目は右手を差し出した。俺もそれにこたえる。


「暫くの間護衛よろしく」

「ああ、こちらこそ」


 月の光がこの街を照らす。

 この街には俺たちの敵がたくさんいる。その全てを倒し、最後に現れる黒幕を俺が討つ。

 大雑把だが第一の目標だ。


 ずっとぽっかりと空いていた胸の穴が少し埋まった気がした。




 


 

さっそく次回から戦闘に入る……と思います……

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