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再生神機のアンダーワールド  作者: よよっち
episode2 地下世界 一ノ瀬の章
8/14

第八話 いつだってあらゆる可能性は0を超えている

遅れてしまって申し訳ありません

 ヘイ! 全国の、いや世界中の皆! いい朝を迎えることができているかい? 俺は絶好調だぜ。

 なんでかって? それはな

「今日が一ノ瀬さんの誕生会の日だからだぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!」


 叫ぶ。母親はまだ寝てるしまぁ、いい目覚ましになるだろう。今の俺は何もかもポジティブに捉えれるぜ。

 父親は俺が1歳の頃に「仕事に行ってくる」と言ったきり姿をくらましたらしい。母親曰く、当然警察に相談して捜索届を提出したらしいのだが、結局見つからなかったらしい。

 何やっとんねん。

 

 雄二も誘えとのことなので誘ってみたのだが、ちょうど外せない用事があるらしく無理とのことだ。

 岡田さんの名前も出したところ、心底残念そうな顔をしていた。それでも外せないほどの用事らしい。

 

 パジャマを脱ぎ捨てて着替えを開始する。ファッションセンスが皆無な俺は取り敢えず制服に着替えることにした。いやマジで制服超便利。


 着替え終えた俺は早足で階段を降り、食卓で昨日の夜に作っておいた簡易的な朝ごはんを平らげる。


 時計を見ると既に午前8時を切ろうとしていた。


 集合時間は9時である。ここからチャリを飛ばして約20分ほどの場所に一ノ瀬さん宅はある。

 家を出るのはまだ早いか——?


「いいや限界だ行くね!」


 用意している一ノ瀬さんの誕生日プレゼントやノートパソコンなど必要な物が全て入っているリュックサックをからう。財布には一応何かあればいけないと思って一万円札を入れておいた。


「行ってきます」


 誰も返事はしないのは分かっているのだが言っておいた。

 

 

 ドアを開ける————






「え?」

 

 ドアの先は真っ暗闇であった。


「ちょっと待て訳がわからんぞ」


 腕時計を確認する。……お、ちょうど午前8時になった……ってええええええ!? 

 何!? どうなってんだこれ


 取り敢えず振り返る。家の中に入ろう。


 今さっきくぐったはずのドアを再度くぐる。


 ガチャリ


 無事に家の中に入ることができた。


 深呼吸をする。冷静になれ、状況が上手く呑み込めない。

 

「時計が間違っている可能性は……ないか。腕時計と部屋の掛け時計の時刻は完全に一致している。ならば、もしかして今が夜の8時なのか?」

 

 ショートスリーパーの俺が16時間もぶっ続けで寝る可能性はないと思いたいが……。というかもしもそうだったら一ノ瀬さんに自殺して詫びたい。


 食卓に戻ってテレビをつけてみる。朝なら今頃ニュースがあっているはずだ。


 しかし、テレビのディスプレイに映るのは白黒の砂嵐である。そして数秒後に映る「現在電波が届いていません」の文字。


 どういうことだ? 電波障害が今起こっているのか? ならばテレビを使った時刻確認はできない。


 スマホで時刻確認をする。電波時計なのでテレビ同様上手く作動してないかもしれないが、午前と午後の判別くらいはつくだろう。


「お、午前だ。てことは」


 外の状況はどう説明すればいいんだ?


 とりあえず一ノ瀬さんに電話するか? いやいや、電波障害が起こっているならそれは出来ないはずだ。


 外にいる人に話を聞いてみるというのはどうだろう。 明らかに異常な状況だからな。パニックになっているだろう。もしかしたら俺の質問に答える余裕もないかもしれないが————そのときはあきらめるとしてとりあえずやってみよう。


 家の外に出る。気のせいかもしれないが、先ほどより暗さが薄れている気がした。先ほどは近くのドアがかろうじて見えるレベルだったが、今は目を凝らせば道路や雲の形までわかる。


 目が慣れたおかげか? まぁ、この疑問は後で解決するとして今は目的を達成しなければ。

 とりあえず道路に出る。通行人は————?


 やはり、今度もいきなりだった。

 

 今度は暗かった世界が何の前触れもなく元に戻った。


 急な網膜に注ぎ込まれる光量の差に頭がくらつく。


 目を細めて少しずつ目を開けていく。


 

 ……撤回だ。先ほど「元に戻った」という表現には誤りがあった。言い直すならば「光量が元に戻った」である。


 何が起こったのか、それは今は見当もつかない。だが、まずはこの異常な状況を認めないと話は始まらない。


 落ち着け。こういう時は深呼吸だ。


 …………よし。少しずつだが状況を受け入れる準備が出来てきた。頭を回せ。


 1回転して周囲の状況を確認する。


「俺の家以外……いや、それどころか道路も、壁も、何もかも壊れてる……」


 状況を受け入れた瞬間立ち眩みが襲った。

 俺は、これと似た状況をよく知っている。


 10年前だ。忘れもしない。


 この状況を生み出したのは間違いなく『大地震』だ。


 なぜ俺の家だけ影響を受けていないのかは分からない。今のところの最大の疑問がそれだ。


「そうだ! 雄二や一ノ瀬さんたちはどうなってるんだ!?」


 スマホを取り出し、雄二に電話をかける。


「あ、今電波障害が起こってるんだっけ」


 かけてから気づいた。通話を切ろうとしたところで


『もしもし創!? そっちは大丈夫!? さっきから何度も電話をかけたけどどうしても繋がらなくて……』


「え?」


 雄二は電話に出た。家の中では電話はおろかテレビすら見れなかったのに外に出た途端に通信がつながった。ならば、やはり俺の家こそ異常なのか?


『え? じゃないお! 俺は今市民会館におるお。早くお母さん連れてこっちに来るお!』


「ちょっと待て。一つ確認させてくれ。これは地震による……それもめちゃくちゃ大きいヤツの影響なんだよな?」


『何言ってるんだお? そんなの当たり前だお。もしかして創この揺れで寝ていたん? ちょっと異常だお』


「……揺れが起きた時刻は今からどれくらい前だ?」


『本当に分かってないみたいだね……確か15分くらい前だお』


「15分!? てことは第二波がもうすぐ来る可能性が高いじゃないか!」


『そうだお。だから早くこっちに来るお』


「少し待ってくれ」


 俺は俺の家の外観を写真に収め、それを雄二に送って見せた。


『え……無傷? どうしたんだお?』


「わからん。俺は少なくとも1時間前から起きていたが今回の地震のような揺れや周りの家が倒れる音なんて全く感じなかった」


『それ本当なん……?』


「ああ、本当だ。だから来るのはお前らだ。葵ちゃんや親御さんたち連れて俺の家に来い。理由はまだ分からないが俺の家は市民会館よりも安全かもしれない」


『……確かにこの市民会館も避難場所ということで頑丈に作られてはいるけど今回ので相当痛んでいるみたいだし、そんな中で無傷な創の家の方が安全かもしれない。わかったお。こっちもタイミングを見計らってそっちに向かうお』


「ああ。それじゃ俺は家の前で待っているぞ」


『第二波が来た時外にいては危険だお。せっかく安全なんだから中にいるお』


「それがな。何故か家の中だと電波が一切繋がらないんだ。だから一ノ瀬さんに連絡もしなきゃいけないしもしもお前たちに何かあった時に連絡つかないと不便だろ?」


『……わかった。でも気を付けてくれだお』


「お互い様だ」


 そこで俺は通話を切った。さて、一ノ瀬さんに連絡をしなければ。


 一ノ瀬さんに電話をかける。雄二にはつながったし家の外なら繋がるはずだ。


 ……あれ? 出ない? そうか。向こうも向こうで今忙しいしパニックになっているのか?


 とにかく繋がらないものはしょうがない。一ノ瀬さんの無事を祈ることしかできない。


 ええと、次にやることは……


「…………電波が遮られるのは本当に家の中だけか?」


 冷静になったところで思い出した。俺が家を出た後、暗闇に囲まれたこと。そして、視界が元に戻ったのは「道路に出てから」ということ。

 さっきは焦って急に視界が戻ったと思ったがもしかしたら————


 一歩、家の敷地内に足を踏み入れてみる。

 異常なし。ならば今度は体全てを


「なっ!?」


 まただ。また暗闇に呑まれた。


 急いで身を引く。

 視界が元に戻る。


「一体何が起こっているんだよコレ」


 さっぱりわからない。電波も届かない、揺れも感じない。光もほとんど遮断されている。明らかに第三者の工作を受けているとしか思えない。


 しかしこんなことを可能にする人間がいることを俺は聞いたこともない。

 

 わからない。でも、限りなく怪しくはあるが、現時点でそこまで危険性は感じない。


 危険性を感じることができないほどの脅威を持った現象なのか、それとも怪しいほど安全なのか。


 どっちかはわからないが、俺は後者を信じたい。


 もしも前者のようにこの現象がさらなる脅威の前章であるならば、真っ先に被害を受けるのは俺たちだろう。しかしだ。こんな未知の現象があり、それが人為的に、もしくは自然に行われてるならばどこにいたって防げやしない。


 この状況だ。道路もまともに使えないから車で遠くまで逃げるのも間に合わないだろう。


 それにこの状況で精神が不安定になっている今、なんでも前向きに考えなければどこまでも落ちていく。


 俺は一度経験しているのだ。こんな地獄を。


 一度下向きの考えが生まれたら立ち直ることは難しい。立ち直ることに一々エネルギーを注いでは”生き残れない”。科学が進み、自然災害による死者が少なくなった今でさえ死ぬ奴は死ぬ。


 10年前もそうだった。死んではいけない奴が死んだ。


 俺はあんな最後は嫌だ。


 そして、もう二度と俺の周りの人間があんな死に方をするのも嫌だ。


 だから俺はこの不思議な状況を信じることにした。この家は俺や雄二たちを守ってくれると。







 大災害が起こった日の夜、俺と母さん、それと椎名家の皆は俺の家に集まっていた。


 家の中は電波は繋がらないものの、電気は繋がる。それに何よりも朝から計500回超に及ぶ余震の影響を一切受けていない。


 時々俺と雄二の親父が外に出て状況をスマホで確認したのだが、どうやらこの大震災の震源はほぼ俺たちの通う舞ノ城高校の真下だということがわかった。


 ここからは確認できないが、舞ノ城高校は今悲惨な状況になっているのだろう。


 ここよりも舞高に近い一ノ瀬さんの家が心配だ。何回電話やメールをしても反応がなかった。


 

 今、この家の俺以外の皆はもう疲れて眠っていた。母さんが念のためにとたくさん買っておいた客人用の毛布と布団が初めて役に立った。

 時刻はもう日付を変えようとしているころだ。


 そんな中俺だけは眠れずに窓を開けて外を眺めていた。


 といっても夜なので完全に光は遮断され、何も見えないし何も聞こえない。


 ただ、頬に当たる風だけが俺に外の世界を実感させる原因となっていた。



「そろそろ寝るか」


 そんなことを呟いた。


 窓を閉めようとしたその時


 キン! と金属同士がぶつかりあうような音がした。


 驚いたから————というのもあながち間違いではないのだが、その時の俺は何かに強く引っ張られるようにして体の上半身を窓の外に晒した。


 耳を澄ます。


「……はは。気のせいか」


 直後、ソレは飛んできた。


「いいや、ビンゴだ」


 この時、俺は生まれて初めて月光が眩しいと感じた。

 

 それは白衣を身にまとった人間だった。月光がなければ白衣も認識出来なかったかもしれない。


 人間といっても明らかに変人だった。まずこの時期に長袖の白衣を着ている人間なんていないし————


 壁に足をつけて張り付く人間だっていない。


 そんな状況に戸惑っている俺をソイツは誘拐した。



「言葉が後になって悪ぃな。葛木創、お前を護衛させろ」


 足場のない場所で俺を左に抱えながらソイツはそう言った。

 



ようやく本編の始まりです

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