第七話 科学の寿命を三百年縮めた男
大分投稿が遅れてしまい申し訳ありません!
今回は十話記念ということで重要回をぶちこんでみました。あ、本編とは少しずれています。
次期としては10年前の大地震がある少し前の話になります。
新キャラしか出てこないのでキャラの説明をここに
加嶽(男)
赤瀬(女)
秋穂(女)
岸峰(男)
この四人が出てきます。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、この四人は全員歴史上最高レベルの知能を持っている科学者たちです。
四人はとある事情で地上から隔離された研究施設という名の地下空間に閉じ込められています。
この四人の中でも特に優秀なのが加嶽です。
この話はそんな加嶽視点で巻き起こる本編ととてもつながりの深い事件です。
『次のニュースです。天才少年椎名雄二君が国内史上最年少の若さで数学検定一級となりました』
「へぇ。あの子がねぇ。ほら、アンタもたまには休憩しなよ。どんなに優秀な脳を持っているからって人間である限り集中力は時間と共に低下するものよ」
「やめときなさい。そいつは言葉で行動を変えるような人間じゃないのはとっくに知ってるでしょ。無理やり動かそうものならそれこそ非化学でも持ってこないと」
「科学者が簡単に非化学に頼るなんて感心しませんね」
「う、うるさいわね! それに私は今は科学者とかいうポケベル並みの古臭い肩書でいるけれど目指しているのはその先よ。中世ヨーロッパでいう錬金術師……。そう、科学の先。それを非化学というのなら私はそこを目指し、極める。名称はそうね、非科学者……というのは響きが悪いし、何といってもツキが来ないイメージ。だから……」
「さっき自分で錬金術師の例を出したんだからアルケミストとかウィザードとかでいいんじゃないの?」
「だー! アンタもうっさいわね! だから私はそんな古臭いのは嫌なの! だぁれが青色LEDの存在も知らなかったような人間が作り出した名称を私が使うもんですかって話よ! ちょっと加嶽! あんたも一緒に考えなさいよ作業しながらでもいいから」
加嶽と呼ばれた男は女の方を振りむきもしない。加嶽以外の三人は視線を加嶽の背中に集中させ、言葉を待つがそれも聞こえてこない。加嶽は三人が自分の言葉を待っていることなど知ったものかとばかりに黙々と空中に浮かぶ電子版を操作していた。
三人の内一人がため息をついた。それもすごく大きいやつ。
それを合図にするようにして各々がそれまでやっていたことを再開し始める。
一人はテレビのニュースを眺め。
一人は10年練習を続けて未だに出来ない口笛を吹こうと。
また一人は持って上げ下げすれば筋トレになるであろう重量の本を脳内で3か国語に翻訳しながら読み進めた。
「オルディア」
加嶽が呟いた。「なんだって?」と口笛を止めて聞き返す。
「科学の先のこと」
読書を続けながら口だけを動かして問う。
「どうしてそんな名前なんだ?」
加嶽は振り返った。伸びっぱなしになった前髪が空気の抵抗で横に流れる。
「さぁな。でも、前回の周期の人類はそう呼んでたらしい。理由の特定が完了するのは明日になるだろう」
「らしいって加嶽、アンタどうやってそれを知ったのよ」
「それを分かりやすく伝えることのできる言語はこの世界にはまだ存在していない。少なくとも一年前の俺では理解できない内容だ」
「一年前の加嶽って何してたっけ」
テレビの電源を落として再びこちらを向いて考える。
「去年はタイムマシンを作りましたね」
「私たちを含む多くの人間が成しえなかったことをやってのけた去年のアンタでも理解できないって何よ」
「なんならタイムパラドックスが起きない範囲で過去の俺に訊いてみようか?」
「いや、もういいわ。これ以上は深く詮索しないでおく」
加嶽はそれを聴き届けると空中に浮かぶ複数の電子版をどこかに収納する。収納という表現は間違っているのだろうがそれが一番近い表現であることは確かだ。
加嶽は自らが着用している黒色の白衣のポケットに手を突っ込み、部屋の外へと向かった。
「どこに行くのですか?」
相も変わらず本を読みながら聞いてみる。
「空。ちょっと気になることがあってな」
「空って……またえらく大雑把な。一応私もついていこうか?」
「やめときなさい秋穂。外で私たちが一緒にいるのがアイツらに見られたら街中だろうと容赦なく殺しにくるわよ」
「街中じゃない。空中だ。高度もけっこうある」
「同じよ。もし空から攻撃してきたらアンタが躱したとしても下の人たちに迷惑かかるでしょう」
「その、さっきから街の上の空という認識で進んでいますが本当にそうなのですか? 山とか海とかの上ではなく」
「ふむ。山の上でもあるし街の上とも言える。確かあそこはそんなところだ」
「うーん。その用事ってどうしてもしなきゃいけないことなの?」
「ああ」
「加嶽一人でもなんか問題起こしそうだし……かといって秋穂を行かせるのも……」
「なぜそこまで心配されなきゃいけないんだ」
「アンタの心配なんかしてないわよ! 私がしているのはアンタ以外の地上の生態系よ。だいたいどうして私たちがこんな地下500mで地上から隔離されてるかちゃんと理解してるの?」
「表向きは”地上の環境の変化に影響されず、思うように研究をさせるため”ですが……」
「本当の目的は権力者達は怖いだけなんだよね。人類最高の知能を持った私たちが」
「そう。この部屋にある物だってほとんどが地上の人間からすれば初めて見る物。アイツらからしてみれば私たちは意思と足を持った兵器。事実、何度も殺されそうになったけどこうやってしぶとく生き残っているわけよね。ったくたかが4人の為だけに戦闘用ドローンを1000機も使うなっての」
「そうだな。では気を付けて行ってくる」
「ちょっとちょっと! 話聞いてた? 簡単に外に行くなって言ってるのに! あーもう! 江畑! なんとかしないと」
「……はぁ。一応対加嶽さん用の重層防衛バリアを起動させてみますよ」
「うーん。私は外に配置しておいたJ9を起動させてみるよ。あ、でも止めるのは出来ないと思うからこちらとの通信用ね」
「服に仕込んでおいた発信機兼、対加嶽用電流装置もいつの間にか取り外されてる!? なんでよ!」
「なんかうるさいな……」
ドアの向こう側で加嶽は一人呟いた。
加嶽は自身が5年前に制作した機動性、耐久性に非常に優れたエレベーターの前に立つ。理論上、富士山内部に立地し、その富士山が噴火しても中にいる人間は無事でいられるほどの耐久性。これにより、『地震の時はエレベーターに乗ってはいけない』という考えは一変した。今や核シェルターの中と同じくらい加嶽の設計したエレベーターの内部は安全だ。
しかし、そこまでの性能をこのエレベーターが誇ることを仲間の三人は一切知らない。
エレベーターに手をかざす。すると1から9の番号が書かれたキーボードが空中に浮かび上がる。
加嶽はそれに45桁の暗証番号を入力する。機械音が鳴って今度は大きな枠だけの円盤が出現し、中に加嶽の体を入れ、光を発しながら上下する。
それは2秒もすると加嶽の体から離れていった。と同時にエレベーターが開く。
中に入って10個ほど縦に連なっているパネルのうち一番上をタップした。
エレベーターが轟音と共に上に上がる。その途中でエレベーターが何かに激突したのか、上部からそんな音が聞こえてきた。
数秒エレベーターがの上部を見つめた後、胸ポケットから小さなSDカードのような物を取り出す。
それを、加嶽は片手で真っ二つに割った。すると何かのまじないのようにエレベーターが徐々に上昇を再開し始める。やがてそのスピードは先ほどまでと何ら変わらないほどになった。
猛スピードで上昇するエレベーターだが内部は快適そのものである。しかし、だからといって加嶽は何かをするわけでもなく、ただただエレベーターの戸を見つめていた。
エレベーターが止まったことに気づいたのは戸が開いてからだった。目の前には広大な空間が広がっている。しかしこれが地上というわけではない。ここからさらに向こう側に見える階段を登り切った先に地上が続いている。
足を進める。加嶽はポケットからのど飴を取り出して舐めようとする。指ではじいて飛ばしてから口でキャッチ——
するはずだった。
やや前方に飛ばしたのど飴はある程度加嶽から距離ができた瞬間にベクトルが急転換し地面に落下した。
もちろんのど飴は粉々に砕け散る。
「……重力操作か」
『警告するわ。加嶽! 早く戻ってきなさいっ! 外に出るのはもっと段階踏んでからよ。じゃないとまたあの知能指数の低い馬鹿どもがごちゃごちゃうるさく言ってくるわ。一応そこの重力をものすごく強めてるけどどうせアンタの事だからぴんぴんしてるんでしょう。でもそんなのどうでもいいわ。一刻も早く戻ってきて』
それは放送だった。
音源は分からない。加嶽には全方位から言っているように聞こえた。
声の震えから読み取れる必死さ。しかし加嶽にとってはそんなものどうでもよく、
「さっさと終わらせるか」
横にいたステルス性能付きのロボットが何の前触れもなく破壊された。不可視だったその姿は破壊と共に現す。そしてその部品もこの広場の重力によって破壊されていく。
加嶽は身に着けている黒の白衣を変形させる。
エネルギーが後部に集中し、それを急噴射させ加嶽は空を舞う。
『待ちなさーい!!!』
全方位から放たれる光線銃。殺傷力はあるのか否か。それは不明だが躊躇なく弾は加嶽を狙う。
しかし当たらない。当たらないどころかぐんぐんとスピードと高度が上がっていく。このままいけば地上に出てしまうだろう。
だが、一瞬にして何重もの光の壁が空中に展開されたのが見えた。
しかし、
「坂江は作りが丁寧だな。正面突破では確かに難しい。だが、踏み込まれるのには弱いようだ」
加嶽は光の壁に手を触れ、身に着けた手袋を介して光の壁のプログラムにハッキングを開始、たちまち壁は消えてなくなる。
他の光の壁も時間経過と共に消滅する。
まるで自動ドアだ。加嶽が近づいたその瞬間に目の前の壁が消える。
合わせて95枚もの壁を消滅しつくすと、上部にしかなかった青空の景色がいっぱいに広がった。
青空だけでない。地上のあらゆる自然、文化が視界に映った。
「やはり、あまり変わってないな」
景色を楽しむことなく、上昇を続ける。
加嶽は自分が出てきた穴が髪の毛の直径サイズに見えるほどの高度まで上がると上昇をやめる。
今日は晴天だった。雲一つ見当たらない。
加嶽は横移動を始める。目的地へ上昇時のスピードを超える速さで向かう。
風が心地いい。
景色がゆっくりと動くのを見ているだけで心が満たされる。
しかし、風邪を心地いいと思えるのも、感じる空気抵抗の値を操作しているからであって、それをやめたら前方からの心地いいと思えるレベルをはるかに凌駕した力の塊が襲ってくる。
普段の研究ずくしの生活が決して悪いというわけではない。むしろ楽しいと思っているのだが、やはりこう、普段と違った刺激を感じるのも良い。
テレビでもこんな自然を見ることはあるが、それはあまり好きではない。
大体俺はテレビそのものが嫌いなのだ。マスコミは嘘の情報しか流さない。未だにテレビを持つだけで見てもない受信料を払わないといけない。
特に前者は凶悪だ。マスコミのせいで俺や仲間達がどれだけ悪人にされたことか。というか俺死んだことになってた気がする。この前俺がひょっこり地上に出てきた時は上の連中は焦ったのか、急いで
『加嶽復活』
やら
『クローン加嶽出現』
やら色んな情報を流してたな。せめて統一しろよ。
目的地に着くのに時間はほとんどかからなかった。座標を確認、確かにあっている。
さて、実験を始めようかな。
俺は二つの機材を取り出す。どちらも使い切りのタイプだ。実験は一回で成功させる必要がある。
周囲の確認。
………………………………
機材を仕舞う。緊急事態だ。
そいつは突然と姿を現した。そう、俺が気づかないほどに。
それは哺乳類に見えた。しかし、それには羽がついていた。否、ついているわけではない。
胴体と羽は結合していない。だが、どうやってか宙を舞っている。
俺の記憶の中の存在で最も似ているのは——ケンタウロス。かはんしんが四足型の動物のようになっていて、上半身が人間の伝説上の存在。
だが、似ているだけでケンタウロスとは言えない。下半身はともかく上半身がとても人間には見えなかった。それにもっと、こう——俺のような人間が言うのもなんだが、愛らしい姿をしていた。
ぱっと見、何の害も与えないような生物なのだと思ってしまう。しかし、俺は科学者だ。
先入観だけで決めつけるようなことは絶対にしない。
かといってもそれを確かめる気にもなれなかった。
本能——とでもいうのか。それとも伝説上の存在であるケンタウロスに似ているからなのか。
俺はこの生物を自分より上位の存在と認識していた。
センサーはこの生物を示していない。つまり、少なくともこれは有機物ではない。
無機物。しかしこうやって空中を浮遊し、俺を二つの眼で見つめている。ならば残される可能性は——ロボット? それならば俺でもなんとかできそうだが
近づいてきた。ゆっくりと高度を上げ下げしながら俺の方へ。
身構える。いつでも排撃できる。万が一の為に仲間達にも連絡しておこう。
そうやって視線を逸らした後、再び前を向いた瞬間
目の前にそれはいた。目視3mの距離にいる。
恐怖心と共にそれ以上の好奇心が俺の心をくすぶる。もしかしたら人なつっこい生物なのではないか。それだったら殺したり逃げたりするのはかわいそうなのではないか。
目の前の生物が有機物に分類されるものではないことなどとうに忘れていた。20年前の記憶でも自由に引き出せる加嶽にとっては異例の事態。だが、それに気づくことは不可能。
「そうだ。君に決めたよ。うんうん。やっぱり君が一番よさそうだ」
「しゃべっ——」
予想外の行動に驚愕していると、自動防衛システムが作動する。不味い——このままではこの生物は死んでしまう——
4発の光の球が目の前の生物を襲う。それと同時に触れれば有機物、無機物関係なく消し炭と化するバリアが俺の周りに展開される。
光の球は全弾命中した。
ああ、だめだ。しくじった。この世界の生物でこれに耐えることのできるものはいない。
そのはずだった。
球は命中したはずなのにこれは何の影響も受けていない。前進を続けている。
誤作動? いや、それはない。ならば何故?
取り敢えずここは危険だ。もしもこのあり得ないはずの結果をもたらしたのがこの生物によるものであれば——それはこの生物が地球上でもっとも優れた耐久力を示すことになる。
そんなのとまともに敵対してみろ。勝利は出来るかもしれない。だが、仲間がいたらどうする? 一体でも倒すのに莫大なエネルギーが必要だ。
少なくとも今の実験用の装備しかしていない俺では無理がある。
ようやく、この生物が有機物で構成されていないことを思い出した。
あまりにも危険すぎる。こいつは人類の為に殺さなければならない。
それが人類最高の知能、そして戦闘力をかなえ備えた加嶽の判断だった。
そのためにも一旦引く——!
方向転換する。最大限にスピードを出してあの地下に向かう。
「報告。直ちに全員戦闘準備を。災害の出現により、始末する」
『もしもし! 何よいきなり災害の出現って……こっちはアンタが監視機壊したせいで状況が上手く分からない。詳しく説明して』
「すでに映像データは送ってある。三人で早送りで見ろ。解釈はお前らに任せる。とにかく急いでくれ」
『アンタがそこまで……分かったわ。一応聞くけど上に報告している暇はないのよね?』
「不明。だが、俺は推奨しない。ヤツと交渉しようにも圧倒的な武力が必要だと考えている」
『ヤツってまさか相手は人間なの?』
「違う。それどころか有機物ですらない。全てが不明の存在だ」
『何よそれ——でも了解。あとはこちらで色々やっておくからアンタは早く戻ってきなさい』
「ああ」
後ろを振り返ってみる。
ヤツはそれほどスピードは出ていないが、確実に俺を追いかけていた。
それが敵意によるものかどうかはまだ分からない。だが、相手が相手だ。向こうからしたら初対面の生物にいきなり攻撃されて目の前から逃走された、という不快極まりないだろうがだからといって安全の確保も出来ないうちに再び相対することはできない。
自分で言うのもなんだが、俺は今や世界で最も貴重な人材となっている。俺の命は俺の物だけでない。それは重々承知している。だったら何故急に外に出たりして周りを困らせるのか、といわれたら弱いがまぁ、俺が歴史に残るほどの発明をした時はいつだって俺が自由に行動した時だからってことで許してほしいね。
今回はそうやって俺が自由に行動したせいでこんな風に危険に陥っているのだけれど——そもそも俺があそこに向かわなければ何も原因が分からず、被害が大きく及んでいたかもしれない。結果的にはもしかしたら間接的に世界救っているのかもしれないのだ。文句は言わせん。
そんなことなかったら謝罪品としてなんかすごいもん作ってあげるさ。
俺が地上と地下とのつなぎ目——俺が地下から出てきた場所——に着いた時、俺とケンタウロス似の生物との距離は3kmにもなっていた。
俺は地下に到着し、エレベーターで更に下に降りる。エレベーターが一番下に着いたあと、エレベーターから出て突き当りに位置するドアを開けると、内部にはバタバタと忙しく動いている三人の姿が見られた。
「加嶽さん。僕はほとんど準備できてます。それであの生物と交渉兼戦闘をする場所ですが」
「3AF室だ。あそこには俺の私物が詰まってるがそれら全てを取り出せばこの地下最大の部屋となる。それに壁も俺が改造しまくったから硬度も高い」
「3AF室だね。分かったよ。じゃあ私は先にそこへ向かって4AC-8たちと一緒に中の物を取り出してくるよ。壁を改造したって言っても変形機能は残しているんだよね?」
「ああ、だがそれを起動させるには俺の指紋と暗証番号が必要だ。暗証番号はともかく指紋認証はお前じゃ無理だ。これを持っていけ」
「何これUSB?」
「ああ、それを思いっきりパネルに刺せ。いいか? 思いっきりだぞ」
「う、うん。分かったよ」
秋穂は俺の渡したUSBを収納し、3AF室へ駆けだした。
「赤瀬! 現在のヤツの状況は」
「ここから約2kmといったところね。徐々に高度を落としているわ最高機種の3体を既に送っているわ」
「各国の首脳、権力者達に報告完了しました。曰く『周辺2,3つの町を犠牲にしてでも対象を何とかしろ』とのことです」
「電力パスは?」
「勝手に私がやっておいた。日本は勿論ロシア、中国、アメリカ、カナダのネットワークを40%遮断、特に悪さしてるところから電力を優先的に持ってこれるようにしているわよ。必要だったらヨーロッパともつなげる状況」
「いや、十分だ。岸峰は周辺の町の放送をハッキングして近くの建物に隠れるようにと伝えてくれ」
「言葉を挟むようですが建物に隠れたところで崩壊から防げないのでは?」
「どこまで通用するか分からないが……俺の送ったSL種達が建物一つ一つにビーコンを設置している。それによってバリアが展開して強度が高まるはずだ」
「……わかりました。ただちに」
「頼む」
3AF室へ移動する。秋穂があそこのほとんどを片づけているはずだが、一つだけ絶対に俺でないと動かない物がある。
ハーレSS
それが俺の切り札の名前だ。
たとえ太陽が空から降ってきても対処できる代物である。
俺は仲間達が発動しきれなかったシステムを全て発動してから3A室へと向かった。
その途中、秋穂による放送が聞こえてくる。
『加嶽くん! 不具合発生だよ。不具合といっても何とかできるのがほとんどだけど……それでも一つだけどうにもできないものが——』
「解答する。お前の言っている物が何なのかは把握している。そしてそれは俺にしか作動させることができない。それ以外を3AF室から外に出してくれ」
『……了解。何とかやってみるよ。これでも外に出歩けば災害扱いされるぐらいには力を持ってるからね』
「それは勝手に出歩いた俺に対する嫌味か?」
『しーらない』
……よくわからないやつだ。
しかし意外だ。秋穂ならばハーレSS以外はすぐに動かせると思ったのだが苦戦しているとはな。
いやまぁ、そこまで難易度を上げたのは俺自身なんだけどな。どうやら赤瀬が常々言っていた「加嶽は周りを見れてないのよ! アンタの比較基準は自分自身しかないの!?」という言葉も馬鹿には出来ないらしい。
入り組んだ通路を進んでいく。そして目的地の3AF室まであと少しといったところで
「やぁ」
背後の天井の方から話しかけられた。
放送でも通信でもない。生の声だ。
防衛システムが発動する。無数のビットが出現して声の主を襲う。
ようやく振り返った。目に映る光景は決まっている。自動防衛システムによって無残な姿になった声の主。
訂正、決まっていた、が正しかった。いや、更に訂正しよう。この世に”決まっている”ことなんて存在しない。そんなもの数えるのが嫌になるほど壊してきたではないか。
この世界に存在するあらゆる可能性は0(ゼロ)ではない。0(零)だ。
つまり、全ての事象はあり得るものであるのだ。
なんてことだ。科学者でありながら俺は「あり得ない」という先入観を持ってしまった。
そうして、こんな時俺は大体失敗する。
「いいね。好戦的だ。それに君はとてもキレ者らしい」
四足歩行型の生物は笑ったのだろう。だろうというのも実際にその生物の取った行動が笑う、という行動なのか知らない。でも、俺はその行動——顔のパーツを全体的に上にあげて口を喋るの先のような形にするという行動は笑っているようにしか見えなかった。
近づいてくる。一歩踏み出す度に俺は半歩下がった。
目の前にアレがいなければ、あるいは厳しかったおじいちゃんの前でなければ吐いてしまいたいほどの緊張感。
左右の壁の形状が変形する。俺が3度後ろに下がるころには壁だった場所から砲撃が放たれる。
だが、そのどれもがダメージを与えるには不十分であった。
弾は当たっていた。だがまるで効いていない。
そもそも攻撃は奴に届いているのか? いや、届いていない。それも全くだ。
当たっているのに届いていない?
ここのシステムに使われた弾丸は今どこにある?
電子版を背後に展開。右腕のわずかな動きのみでプログラムを形成する。例えばこの方式では小指の第一関節を曲げることがコードの改行のキーだ。
はたから見たら高速で右手を痙攣させているようにしか見えない。
——検索完了。個体名LZAASCC49J~LZAASYI9ZGは現在消息不明。少なくともこの地下施設には存在していない。
ああ、そっか。そういうことか。やっと仕組みを理解した。
俺は後ずさりするのをやめた。奴との距離がどんどん縮まっていく。
「いつかこれを——」
四足歩行型の生物との距離は0となり、直後にまた広がっていった。
通り過ぎて行ったのだ。俺のいた場所を
「君は三番目だよ。これから君がどんなことを成し遂げるのか楽しみでしょうがない」
体が倒れる。それもそうだ。俺の下半身には体重を支えるだけの力はもう残っていないのだ。下半身の大半が奴に触れる寸前で消えていった。
……消えていく意識の中で秋穂の放送がかろうじて聞こえた。全ては聞こえなかったが『まだ?』という言葉だけは——
次に俺が目を覚ましたのは草原だった。
何かがおかしい。何か、何か、何か。
うまく感情がまとめられない。爆発する。
「あああああああああああああ!!!」
草原であった場所は一瞬にして
凍り、
燃えて墨となり、
鉄となり、
空気となり、
水となった。
「目が覚めたかい? これが君の能力」
原子崩しだよ。
次は本編をそのまま書きたいと思います。あと数話で本章に突入します。
あ、恐らくしばらくは過去編はないと思います。