第二話 一ノ瀬若菜は学園の有名人である
更新遅れました! 先の方のストーリーを組み立てて原文を書いてたら投稿する分書いてないじゃんってことに気づいたのが1週間前…… それから時間を見つけて少しずつ年末に書いていた分の続きを書きました。
どうでもいいですね。はい。次は気を付けます。
それと今回は少し文字量が多めです。
「はい、OKです。次の方どうぞ」
校門に近づくとそんな声が聞こえた。校門を潜ると昇降口までの道に多くの生徒による列ができている。その一番先にいるのが風紀委員の連中であることが肩から下げている緑の襷から見て取れる。その中でも特に目立った人間が一人。
「少しスカートが短いです。早めに直してください。では、年組番号をこの紙に」
「えぇぇぇ? これでも駄目なの? 少しくらいいいじゃん。ね?」
「スカートの基準は貴方のルールではなく学校のルールによって決められています。それに……」
「何? まだあるの?」
「あなたはそんなことしなくても十分魅力的ですよ」
「……え? あ、ありがと……」
スカートの注意を受けた女性はそのまま紙を受け取ると恥ずかしそうに去っていった。
何を話していたのかは分からなかったが彼女の性格からして上手く丸め込んだらしい。
俺と雄二は自転車を置き場に止めると列の一番後ろに並ぶ。そして自分の順番が来るまでに曲がった襟を直したり暑さのために曲げていたズボンの裾を直したりしておく。年に2、3度あるこの服装検査だがバッグの中身を見られることもある。普段は検査に引っかかる物どころか教科書すら学校に置いていて空のリュックで登下校してる俺だが、一応心配なので中身を見ておくことにした。まぁ、ここで不味い物がバックから見つかったとしてそれをどうするんだという話なのだが
「ん……?」
入っていたのは筆箱と一枚のプリントだった。そのプリントの内容とは——
冒頭を少し読む。
{この度は街中でセクハラにも近い言葉を連呼し——}
「ブフォッ!!」
「ど、どうしたん創」
ま、不味い。これは昨日言峰会長に絞られた時に書かされた反省文だ。こんなもの風紀委員に見つかったらただでさえ三馬鹿と間違われている俺の評判が更に下がってしまう!
ここでプリントを隠すのは簡単だ。しかしそうなれば必ずこの反省文を書いた紙は汚れてしまうだろう。そんなものを言峰会長に提出したらどうなるか、結果は見えている。あとから書き直すという選択肢もあるがこの紙、無駄に凝ったデザインであり手触りもいい。字が汚い俺が書いたのにも関わらずなぜか綺麗に見えるそんな紙である。つまり何が言いたいかというとこの紙は恐らくちょっとお高いものなのだ。
なぜ反省文をそんな紙に書かせたのかはわからない。もしかしたら会長のことだから今日服装検査があるのも分かってただろうしこのヤバい状況をわざと作ったのか? それでなんとかこの状況を切り抜けて見せろ、そう言いたいのかもしれない。それこそが今回の一番の罰なのだろう。
深読みのし過ぎとは思うが会長の目的がどうであれ俺はこの状況をどうにかしないといけないわけだ。
「面白い……なんて言えねーよな。この状況どうすんだよ……」
「ん? 何が?」
なけなしの脳でたどり着いた一つの答え。それは——
× × ×
「待ちなさい! 葛木君!」
「待ったら摑まるだろ!」
「服装検査を回避するという違反行為をしたのだから当然です」
「頼むから服装検査は今回は勘弁してくれ!」
「だめです! そんなの不平等ですし生徒を公平にするためのルールなので貴方だけ特別扱いは出来ません!」
「だぁぁぁぁ! どうしてこうなったぁぁぁぁ!」
たった今、俺こと葛木創は俺のクラスの風紀委員である柊 咲夕璃を含む複数の風紀委員と地獄の鬼ごっこをしていた。こうなったのも俺がこっそり風紀委員の目を盗んで違うルートから昇降口を目指していたところ、
一、偶然か狙ったのか一人でいた柊と出くわす。
二、約一分間の世間話の中でうっかりボロを出したことによって俺が服装検査をすり抜けたことがバレてしまう。
三、その場で服装検査をされた後リュックの中身を見られそうになる。
四、見せられるわけもないのでその場からリュックをもって逃げる。
…………なにこの不運、TRPGだったらいきなりニャル様が出てくるぐらいですよ。
判断力に長けた柊はどうやったのかいつの間にか仲間を何人も引き連れて俺を追い回している。
俺とて馬鹿みたいにただ逃げ回っているわけではない。場所を悟られてその先に他の風紀委員を配置させられる、なんて事態にならないように迂回しているが、目的地である生徒会室には少しずつ近づいている。
そもそもそこにいる会長に反省文を提出さえすれば持ち物検査で俺の悪行が書かれた紙を見られないですみ、胸を張って検査を受けることができるからだ。
しかし生徒会室は二階にある。校舎内にも複数の風紀委員が柊の命令によってうろついているだろうし、その中で二階の生徒会室にたどり着くのは至難の業である。もちろん昇降口からの正面突破なんて話にならない。まず一般生徒が多すぎて走り抜けられない。つまり窓から、もしくは都合よく校舎内に簡単に入れる扉があればそこから入らなくてはいけない。しかし相手はあの柊、鎌田や巴門を悉く捕まえて会議室にぶち込んだ怪物だ。
そんな扉は罠だと思った方がいい。きっと入った瞬間に意識がなくなる。
となると前者の窓から入る線で行くことになるが——
「お! それ俺も買おうと思ってた奴じゃーん」
「これは中々にすげぇぞ。俺の所持してる物の中ではTOP3には入る。読むか?」
「いいのか!? さすがだぜ鎌田! やっぱり持つべき者は親友だよな!」
「ハハハやめいやめい!」
「「HAHAHAHAHA」」
とても頼もしい仲間がいた。
「巴門! 鎌田! 急で悪いが風紀委員に追われてるんだ。助けてくれ!」
俺は二人持っていた雑誌らしきものを取り上げ、リュックにそのまま詰め込むと二人の手を引いて駆け出した。
「おい、創どういうことだよ。お前が追われてるって何かやらかしたのか?」
心底意外そうに金髪の微問題児である巴門が問う。
「詳しくは後から説明する。今は俺に頼まれてくれ」
「頼まれてくれったって一体何をするんだよ」
「二階の生徒会室に乗り込みたい。窓からだ」
「へぇ、面白いこと言うじゃねえか。どうする? 鎌田」
巴門の真っ白な歯が光る。先ほどからずっと口を瞑っていた鎌田もまんざらでもないようだ。
「いつもは巻き込む側だからな。たまにはこういうのもいい」
「決まりだ。それじゃ創、生徒会室の下で待ってるぜ」
「え、ああ。うん? どういうことだよ——って速っ!」
一体何をするのか分からないが逃走のスペシャリスト達には何か策があるらしい。ずっと走っていて体力が減りスピードが落ちてきた俺との距離をもの凄いスピードで離していった二人の後を追いかけていく。
× × ×
生徒会室の下へ来ると巴門が立っていた。しかし鎌田の方は見当たらない。俺はとりあえず追手との距離が大分離れているのを確認すると一旦巴門の元へ行く。
「どうするんだ? 巴門」
「お前が俺を踏み台にして二階に跳ぶんだよ」
「なるほど」
本当は全然納得いってないのだが今は時間がない。出来る出来ないとかではなくとにかくやらないといけないのだ。俺は高さ確認の為に生徒会室の窓を見上げる。
「お、おい! 開いてないぞ生徒会室の窓は!」
俺が戸惑っているとその隣の多分廊下の窓から「大丈夫だ!」と聞きなれた声が聞こえる。そこにいたのはどっかに行ってしまったと思った鎌田であった。鎌田は自分の制服を脱いで片腕の方だけ持ってその窓から垂らしていた。なるほど、俺の運動神経を考慮して足りない分の高度は引き上げることで補おうってことか。
「早く準備しろ創! 追手が来るぞ!」
巴門はそう言うと腰を低くし、両腕を一点に集め、バレーボールでのパスをつなぐ際の構えのようなポーズを取リ始める。ん? あの構えは……
チアダンスだ。
チアダンスで下の人間が乗ってきた他の人間を大きく上に飛ばす際に取る構えだ。時間的にさすがに校内に入って階段を上がり、所定の位置につくなんてことは不可能なので鎌田は巴門にチアダンスの要領であそこの窓に飛び込んだのだろう。
……しかし他人の援助無しでそんなことをやってのける鎌田は本当に俺と同じ普通の人間なのか? 運動神経が異常に発達した新人類とかじゃないかと疑ってしまう。
俺は二人の意図を理解すると巴門から距離をとり、一呼吸の後に助走をつけて最後はホップステップジャンプのリズムでタイミングを合わせると巴門の手に飛び乗る。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
巴門の馬鹿力によって高く上げられる俺の体。しかしやはり俺のやりかたのどこかがおかしかったのか二階の窓に直接入れそうにはなかった。しかしその代わりに友が垂らした制服をしっかりと掴む。幾度の鎌田本人による修理という名の強化をえてより強度が増した制服は普通のロープと何ら変わりなく俺の体重を支える。制服が破れないといった安心と同時に掴んだ右腕に強い力が加わるが、この程度なんてことはない。
「よいしょっとぉ!!」
俺が落ちてないことを制服を通じて腕に伝わる俺の体重によって確認すると鎌田は一本釣りのようにして俺を引き上げた。
教室に投げ出された俺は転がることで受け身を取ると鎌田に短くお礼を言って生徒会室へ再び走り出す。さすがの風紀委員共もこの展開は意外だったのか追手が来てるような気配はない。そもそも俺の教室と生徒会室は同じ階ではあるものの、場所としては正反対に位置するため俺の目的地がこの生徒会室だと知らない風紀委員共がここを見張る道理はない。後ろにいた追手の一部に今頃気づいた人間ならいるかもしれないがそいつの優れた勘もこの状況では何の意味もなさない。
生徒会室前に着くと靴を脱いでドアの前に並べた後にノックをする。
ノックは3度、トイレは2度と近所に住んでる作法にうるさい婆さんが言っていたのでその通りにする。
それほど時間がかからない内に返事が返ってくる。
「どうぞ」
会長の声だ。ようやくこれで反省文を渡せることができる。俺の勝利だ。
「失礼します」
× × ×
「おお、お前か。その様子だと上手く切り抜けたみたいだな」
会長はやはり俺が来るのを予想していたのか特に驚きもせず、優雅にお茶を飲んでいた。
「やっぱりこの状況は意図的に仕組んだものだったんですね」
「まぁ、な。しかし一つ意外なのが私が予想していたよりも君に疲れが見えない事だ」
「いや十分疲れてますよ……確かに俺一人じゃどうにもなりませんでしたけどね」
「と言うと協力者が他にいたと。ああそういえば確かお前は問題児二人と仲が良かったな」
「言い方が初々しいですよ。本当は巴門と鎌田が協力するところまで予想していたんでしょう?」
「さて、どうだかな。何はともあれ君はこうやって私の元にたどり着いて反省文を提出できる。合格だよ。君が紙を忘れてきたというのなら別だがね」
「それは大丈夫です。ちゃんとここに入って」
リュックを前に持ってきて中の反省文を取り出そうと探りをいれる。その時だった
ボトン、と何かが落ちた。どうやらそれは雑誌のようでそのページの間に高級な反省文を書いた紙が見えた。挟んであったお陰で先ほど転がった時に紙がぐちゃぐちゃに折れ曲がらなくて済んだのかもしれない。だとしたら運がいい。紙の状態まで考えてなかったのだ。
「すいませ——」
俺はその雑誌を拾って挟んである紙を取り出そうとする。
手が止まった。
いや、ここでは手を止めてはいけない。俺はさっと、紙を引き抜くと雑誌をリュックに放り込む。そして何事もなかったように笑って会長に反省文を提出する。
「お願いします」
「……さっき落ちた物はなんだ」
「わかりません。では、これで」
俺は振り返って一刻も早くこの最悪な空気の生徒会室を出ようとする。
「そうだな……別に直接私が裁かなくてもいいしな。そういったことに対する処罰を与えるのは他に適任がいる」
物凄く怖いことを言っている気がするが気のせいだろう。これで俺の勝利のはずだ。
「し、失礼します」
ドアを開けて廊下に出るとそこには——
「おはようございます。葛木君」
「お、おはよう柊」
「リュックの中、見せてください」
葛 木 は あ た ま が 真 っ 白 に な っ た
見事に俺の評判は落ちて本当に三馬鹿の一員となってしまった瞬間であった。
× × ×
「冷凍最高」
「また言ってるお……」
春風を前進で感じながら箸を運ぶ。冷凍食品によってご飯が進むのはもちろんのことなのだが、最近食欲が増えてきたので米の量を増やしている。それに対して食費の節約のために冷凍食品の量は今まで通りである。
いくら旨いといっても高いからな。そして、この場合、必然的に米が最後に余ってしまうのだ。
それでは困る。そこで登場したのがのりたまふりかけである。俺の場合はふりかけの袋ごと持ってきてその時に残ったご飯の量に適切な量を使用する。
しかし迂闊! のりたまふりかけは昨日で切れてしまっている。昨夜母親に買い物の際にお願いしておいたはずなのだが俺の日本語の発音がよほど悪かったのかその後に母親から渡されたのは消しゴムであった。
おかしい。ふりかけと消しゴムでは「け」の一文字しか合ってないじゃないか。これはあれか? 親が子供に勉強道具を買い与えるってことはその分勉強を頑張りなさいよってことなのか?
舐めとんのか
余談ではあるが俺はそこそこ偏差値の高いこの高校でなんとかトップ10に入っているだけの実力はあるし、物理に関しては学年一位だし全国模試でも決して悪い成績を取ったことはない。
要するに俺は俺なりに勉強を結構頑張っているのだ。不真面目な点を挙げれば現国と古典の授業用ノートがまだどちらとも一年生から使っているのにも関わらず一冊目の半分も行ってないことくらいか。国語は俺には無理だ。国語は全教科の基礎とか現国の先生が言っていたがそんなことはないと思うね。
突風が吹き、もう全て散ってしまったと思っていた桜の花びらが俺の弁当箱の蓋に落ちた。その隣にある容器を見る。それは例えて言うなら少し小さめの水筒である。縦幅が短い代わりに普通の水筒よりも一回りほど円周が大きくなっている。
容器こそ水筒と似ているが中身は全く違う。共通点を挙げるならばそれらが液体であることくらいだ。
そう、そこに入っているのはJapaneseスープことお味噌汁である。ちなみにインスタントではなくしっかりとダシはとってある。
なにを隠そうこれこそがのりたまふりかけの代わりになる第二のご飯のお供である。
冷えたご飯と一緒に飲むととても美味しい。この旨さは冷凍たらこパスタに匹敵するほどだ。
専門の容器に注ぐ。ほんの少しだが湯気が空気を白く染めた。
(今が冬ならばもっと濃ゆく見えるのだがなぁ)
そう考えながら淵のギリギリまで味噌汁をついでいると————
ドサッ
髪を真っ赤に染めた大柄の漢が俺と雄二の前に振ってきた振ってきた
「うわっ何事だお!」
「衝撃で味噌汁がぁぁ……」
突然の出来事に俺は驚いて容器を持った両手を放してしまった。結果、それらは重力に抗うことなく真っすぐに地面に落下し、中の液体は全てこぼれてしまった。
しかし悲しんでなどいられない。俺の経験上こういった人間に関わるとロクなことにならない。だから早くここを立ち去らないと。
俺は顔を隠しながら急いで弁当の道具一式を片づける。そんな俺の行動を見て悟ったのか雄二も同じ行動に出ていた。
「ってぇな! ブッ潰すぞコラ!」
背後から怒りのこもった大声が聞こえた。誰に言っているのか分からないが喧嘩はせめて別の場所でやってほしい。具体的には体育館とかで
さっきチラッと見えたがこの男はここ(舞高)の生徒らしい。他校の生徒が舞高の制服を着ているだけかもしれないがやけに通学に不便なこの高校にこんな平日にやってくるような人間は普通居ない。てかいてほしくない。
巴門とかその辺の人間に訊けばこの男の名前ぐらいはわかるかもしれない。俺は基本的に他人に無関心なので友達皆が知っているような話を俺だけ知らないということが多々ある。ただ、ぶっちゃけ名前とかよりもなんでこんなTHE不良Aのような奴がこの学校に入学できたのかが知りたい。俺ピアスしてる男なんて初めて見たぜ?
「続けるのはいいが……先に倒れるのはお前の方だと思うぞ?」
そそくさと荷物を抱えて去って行く途中、なんとも凛々しい聞いていて耳が心地よい、そんな声が聞こえた。顔を上げると声の主と思われる人間がちょうど俺の横を通りすぎるところだ。
「————――」
時が止まった。意識は一つに固定され、体は動くのを拒否した。木の葉がこすれる音も聞こえなくなった。
動くのは目だけ。呼吸することさえ忘れてしまっているのに俺の視線は確実に彼女を追っていた。
俺に続いて足を止めた雄二が口を開く。
「……あれって一ノ瀬若菜さんだよね? 確か舞高かっこいい女性ランキング2年連続一位の剣道部のホープの」
「!? 雄二はあの人のこと知ってるのか?」
「知ってるも何もめっちゃ有名だお。去年剣道部が全国ベスト8入りしたのも彼女のおかげだお」
「有名なのか……知らなかった」
そう言われてみると表彰式でそんな名前を聞いたことがある気がする。基本的に集会では睡魔と戦っているのではっきりとではないんだがな。
それと雄二の言ったかっこいい女性ランキングっていうのがすごく気になるんだが。
「ん? キミ達、向こうで食べるんじゃないのか? そうでなくても」
「早くそこから離れた方がいいぞ」
「オラァァァァァ!!」
瞬間、赤髪の巨体が雄たけびをあげて突進してくる。狙いはこの……一ノ瀬さんといったか、この人だと思うのだがハズレ玉が十分に当たる距離だ。呆けていた俺も急いで意識を覚醒させ、精一杯横に跳ぶことで躱そうとする。
「創ガード!」
「は?」
しかし雄二の謎の必殺技により軌道が強制変更された!
創はどうする?
▼体を捻って雄二を不良に向ける
▼力任せに雄二を不良にぶつける
よし、
「下だな」
こいつが先に俺を売ろうとしたんだから強くやられてもしょうがないよな。
「え、うわぁぁぁぁぁ!! ごめんて! ごめんて!!」
思いのほか強く抵抗してくるので関節を曲げて力を弱めてからしっかり照準を不良に合わせて突き飛ばした。しっかし当然のように俺たちよりも先に避けている一ノ瀬さんは何なんですかね。剣道するとそんなに
反応が良くなるのか?
「な、め、るなぁぁぁぁぁ!!」
不良は飛んできた雄二を全身で受け止めると回転で勢いを受け流し、その過程で雄二を羽交い絞めにしてみせた。
「てめぇ……よくもやってくれたな……」
「す、すいません」
「まぁ、いい。おい、女! こいつがどうなってもいいのか!? 少し肉が邪魔してるが骨を折るくらい造作もないぜ?」
「や、やややや止めてくだ、くださいぃぃ」
「お、おい流石に無抵抗の人間にそれは……」
「るせぇ! おめぇがこっちにぶつけてきたんだろうが!」
全くもってその通りである。
「……随分と小物に落ちたな外道。先ほどは私に一対一の真剣勝負を挑んできたくせに少し不利になるとこれか」
「一ノ瀬さん煽っちゃだめだって!」
「しかし……はぁ、何が望みだ?」
一ノ瀬さん呆れ混じりでそう言った。赤髪の不良は一ノ瀬さんの煽りにも似たセリフに少し眉間にしわを寄せるも、やっと話の主導権を自分が握ることが出来たことがうれしいのか笑みを浮かべ
「ゆっくりとこっちに来い。手は頭の後ろで組んでおけ。少しでも不審な動きをしたら——」
「「喰らえっ!」」
「な!? ガッ————」
何か忠告をしようとしていた赤髪の不良だが、そのセリフの続きは俺と一ノ瀬さんが同時に投げた投石によって遮られた。両者の投石は俺たちの予備動作を見て、最後の力を振り絞って体を前に倒した雄二の活躍により頭に命中、さらに雄二への被弾はないといった最高の状態だ。
……驚いた。完全に不意をついて投げたと思ったが一ノ瀬さんも同じことを考えてたなんて。見たところ真正面からの真剣勝負を好みそうな彼女でさえ人質を取るという不良の態度が気に食わなかったのか。しかし俺は雄二が頑張って避けるのを分かっていたから投げれたけど一ノ瀬さんは自分の投擲技術によほど自身があるのか? それなりに速度出てたし一歩間違えれば雄二が結構なケガをしてたぞ。かく言う俺も絶対に雄二に当たらないという自信があったわけじゃないんだけどな。
しかしどうしよう。二人同時に顔面に石を当てたことで不良の状態がかなり悪そうだ。いくら不良が悪い人間だからといってもこの状況を教師や生徒会、風紀委員の連中に見つかったら悪者扱いされるのは俺たちだ。まぁ、実際に他人に石を投げるという悪いことをしたのだからしょうがない部分もあるのだが。
とりあえず赤髪の不良の束縛から逃れて腰を抜かしている雄二を回収、その後に周りを確認して先ほど述べた連中が居ないかの確認をする。
「最悪だ……」
明らかにこちらを見据えて近づいてくる人間が一人、長い黒髪を揺らしながら所々木の根が地上に出ている悪い地形なのにも関らずその姿勢は彼女の生きざまを示すようにまっすぐであった。
彼女は——
「遅いな咲夕璃」
柊 咲夕璃。俺のクラスの風紀委員である。
× × ×
「大丈夫ですか若菜ちゃん。いくら若菜ちゃんといえど相手は鍛えた男子なので少し心配でしたよ」
「確かに私一人では厳しい相手だったな。是非ともこの力を他人のために使ってほしいものだ」
「というとあなた方は若菜ちゃんを助けてくれたということですか?」
「え? 俺は助けたというか逆に助けられたというか。ああ、その点ではこの椎名雄二は大活躍してたぞ」
「囮としてね」
遠い目をしながら雄二は呟く。
「なんだよせっかくどう活躍したか隠すつもりだったのに。黙っていた方が印象良かったと思うぞ」
「いやいや、一ノ瀬ちゃ……一ノ瀬さんは見てたから直ぐにバレるお」
「ばっかお前そもそも一ノ瀬さんが俺たちを上げようとしているんだからそこは口を瞑るに決まっているだろ」
あと一ノ瀬ちゃんってなんだよ。アイドルかなんかか?
「あのー、二人とも仲良く会話するのはいいんですけど後にしてもらえますか?」
「「え?」」
言うが早く、柊は俺たちに近づくと片手に持っていたファイルからプリントを二枚取り出すと、俺たちにそれぞれ一枚ずつ渡してくる。その内容を見てみるとどうやら簡易な被害届のような物であった。
「この不良に何をされたか、出来るだけ詳しく書いて下さい。出来れば記憶が新しいうちに書いてもらいたいのですがこれから何か用事あります?」
横目で雄二を見る。雄二は首を横に振ってNOの意思表示をした。昼休みは基本的にいつもゆっくりしたいから予定を入れないようにしているので俺も特にこれと言った用はない。
「大丈夫だ。でもペンがないから一度教室に取りに帰らないといけないな」
「あ、その必要はありませんよ」
柊は制服の内側についているポケットから二つの黒色ボールペンを取り出して俺たちに渡す。見ると売店でも売っている価格がリーズナブルの普通のペンだった。
「お、ありがとう。それじゃ俺たちはそこの俺たちがさっきまで食べてたとこで書いてくるよ。さすがに立ったままでは上手く書けないしあそこ以外に平らな場所もないからな。柊はここで待ってるか?」
「いえ、私は先に委員長に報告しなければなりませんので少し離れます。若菜ちゃんにも同じものを書いてもらうので書き終わったら若菜ちゃんにどうぞ」
「その、さっきから『若菜ちゃん』って連呼してるけどそれってその一ノ瀬さんの下の名前でいいんだよな? というか苗字自体さっき初めて知ったもので」
「ええ。むしろここまで言っといて別人のことを指しているわけないでしょう?」
「だよな。悪い。変なこと聞いた。それと一ノ瀬さん、よろしくお願いします」
「紙を回収するだけでそこまで改まられなくてもいいのだが……それと別にさん付けじゃなくていいぞ」
「あ、ごめん。それはなんか調子狂うから今は無理です。雄二が呼び捨てで言うなら俺も呼び捨てにしますけど」
「俺に振らないでほしいお。それと分かってて言ってるよね?」
「……まぁ、無理にとは言わないが」
「まぁまぁ、そういうのはある程度仲良くなってからでいいんじゃないんですか? とりあえずは……
はいっ! 若菜ちゃんにもペンです」
一ノ瀬さんはペンを受け取ると「そうだな」と納得したようでそれ以上何かを言う感じではなくなった。
元からさっぱりとした性格なのだろう。あんまりしつこく何かを言うタイプではなさそうだ。
そんなタイプの人間は自分からしつこく言うことだけじゃなく相手からしつこく言われたりされることも苦手とする人間が多い。それを踏まえた上で一ノ瀬さんと会話をしなければならないな。
「それでは私は行きますね。すぐに何人かの他の風紀委員があの伸びている不良を運びにやってくると思いますが気にしないでください」
それだけ言って柊は去ると思いきや、来た道とは逆の方へ歩き出した。進路方向にいるのは気を失っている不良だ。不良の状態を自分の目で見て確認しようという考えだろうか。
「えい」
首元に入った良いチョップだった。科学が進んだ今やただのネタと化した「壊れた機械を治すために叩く」ような感じだった。機械だったら行動不能状態が治るのかもしれないが生身の人間にはそんなことがあるわけもなかった。
むしろ数秒痙攣した後、より深く意識が亡くなった気がする。暫く起きないようにする計らいだろうが容赦ねぇなおい。風紀委員がそんな息の根を確実に刈るような物騒なことをしていいのかよ。
ちなみに俺は一ノ瀬さんにならやられてもいいなと思ってます。差別? 知るか。
柊は今度こそ満足したように来た道を帰っていった。一方俺たちは内心不良にちょびっとだけ同情をしつつ横を通りすぎた。
× × ×
唐突だが皆は放課後の時間をどのように使っているのだろうか。ここでいう放課後とは学校での終礼がを終えた学生が家に帰るまでの時間のことを指す。部活がない人間もどこかコンビニやらゲーセンやらに寄ればそれは「放課後の時間を消費した」ということになるのだ。この学校、舞ノ城高校はそこそこ偏差値が高いこともあって割と遠くから通学している生徒も多い。この学校のデータによるとそんな学区外から登校してきている生徒の半分は部活に参加していないようである。
しかし前述の通り、部活が無くても放課後の過ごし方は人それぞれ。ほとんどの生徒が放課後になんらかの楽しみを持っている。つまるところ創作物の世界でよくあるシチュエーションの一つとして
「ねえ今暇?」
「暇だよ」
「あの、もしよかったら○○に来てくれないかな?」
「もちろん。いいよ!」
「やった!」
「ところで僕に何の用があるの?」
「それはね……」
「うん」
「ひ、み、つ♡」
みたいなもの(一部誇張している)はあり得はしないことなのだ。学生にとって放課後とは学校生活の中で最も自由な休み時間である。先生の目を盗んで学友とスマホをするのも良し、部活でいい汗を流すのも良し、コンビニで今月のお小遣いを消費するのも良し。
そしてそんな大事な他人の放課後の時間を奪い取るような行為は極力してはならないし、絶対にされたくないものである————
「そういえば葛木君。放課後生徒会室に来てくれって会長が言ってましたよ」
「……もう一度言ってくれ。最近耳掃除してないんで良く聞こえなかった」
「? ですから言峰会長がこれから生徒会室に来いって」
「……あー、なるほど。なるほどね。んで、本当は?」
きっとこれはジョーク、笑顔を絶やしてはいけない
「冗談なんかじゃありませんよ。ほら、早く行ってください。あんまり人を待たせるものじゃありませんよ」
「……ち、」
「ち?」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおお!!!」
持っていた鞄をその場に降ろして全力疾走をする。
「えぇ!? 何でそんなに悲しんでるんですか!?」
時期風紀委員長第一候補の柊咲夕璃は知る由もない。彼(葛木)は今日、
「映画の公開日だったのにぃぃぃぃぃ!!」
創の今日のスケジュールは珍しく詰まっていた。明日が祝日だということで、今日の午後8時に母親と一緒に実家に帰ることになっているのだ。しかし、創は「映画は公開日に、ゲームは発売日に」のタイプの人間だ。本当は7時に家を出るはずだったが、どうしても学校帰りにすぐに見に行きたかったので母親に無理を言って1時間引き延ばしてもらったぐらいである。
計算上、急いで学校から直接映画館に向かえば始まる前に着くことができるハズだった。いつも一緒に帰っている雄二にも「今日は」と断ってある。一緒に見に行くのも考えたが雄二じゃまず公開時刻に間に合わないので却下だ。何度も真っ白なスケジュール帳と睨めっこして、今日の放課後に予定がないことは確認済みだった。当日に誰かに何百分の一の確率で放課後の時間を取られそうになっても断るつもりでいた。
しかし、今回の相手は言峰会長である。弱みを握られた今、俺の時間を奪う唯一の可能性の保持者だ。昨日今日で、まだ短時間しか会話はしてないけどあれは約束を破ったら絶対に不味い人間の類、いやそういうタイプの筆頭と言っていいだろう。今ここで会長の元へ行かなければ明日から俺のあだ名が今朝見せた少し大人な内容の雑誌のタイトルである「束縛! 狐耳の監禁娘!」の文字を取って葛木エロ助になってしまうかもしれない。いや、それ一文字もあってないけど。
だからこそ創が「映画を公開日に見に行く」という拘りを捨てるのは早かった。昨日のように長々と説教をされるわけでないのなら1ミリほど、会長の話を聞いて→映画に間に合う。という最高のムーブが出来る可能性があるからだ。
目的に必死になった動物は本来出せないはずの元々持ち合わせている力の3割を超えた力を発揮することができるという。
俺は廊下を田舎のトラクターのようにゆっくりと歩いている生徒たちの間を光の如きスピードで駆け抜け、階段を4段跳びで上って行った。
気が付いたらもう生徒会室はすぐそばだ。生徒会室の数メートル前でブレーキをかけて落ちていく加速度の中、中でされるであろう質問の回答を模索していく。しかし、僅かな時間の中、得られた回答は一つ。今の自分には糖分がたりない。ので、即座に摂取が必要だ。
しかし不運なことに毎日持ってきているパインアメは今手元にはない。あるのはバッグの中だ。クソッ! これまでか————
いや、一つだけ方法がある! 俺は制服に無理やり詰め込んでいたスポーツ用ゼリーを取り出した。昼休みに「お礼に」と一ノ瀬さんに貰ったものだ。あの時は一度は断ったのだが雄二が迷いなく渡してきた二つの内の一つを受けとったのと一ノ瀬さんのような性格の人に何度も言わせるのも駄目だと感じた、という二つの理由があって俺はこのゼリーを受け取った。基本的にはタダでもらえるのは怖い物ばっかだから普通だったら貰わないんだけどな。
ともあれ、これがあればいける! 一瞬で飲み干さんとするほどの勢いで中身を吸い出す。ベコベコとパックが潰れる音がした。その音が聞こえる度に俺の頭はスッキリしていくのが分かった。
具体的には寝起きにミント味の飴を食べた時と同じくらい。分かりにくいな。やっぱり頭回ってないわ
ノックは三回、トイレは二回。よし。
コンコンコン
「ん……葛木か。入れ」
当然のように自分の名前が呼ばれる。もしもこれで俺じゃなくて先生とかだったらどうするつもりだったんだろう。というか終礼後全力ダッシュで来た俺よりも早く生徒会室にいるってなんなんだ。
「失礼します」と言って中に入る。生徒会室に今いるのは会長だけのようだ。それに雰囲気も朝と何も変わっていない。変わっているとしたら会長の位置か。朝は会長席に座っていたがさっきまで何か探していたのか本棚と向かい合うようにして立っている。
背伸びをして会長席に乗っている物を見る。……お、本が一冊。えっと本の名前は
『初心者のためのパソコン入門編2055』
「ああ、そこに座って少し待っていてくれ」
「はぁ」
言われた通り恐らく客人用のソファーに腰掛ける。ソファーの前にある机にはクッキーや湯気の量的に
淹れたばっかりの紅茶が入ったTカップがある。俺に淹れてくれたのだろうか。だとしたらそれは「私と交渉しませんか」という意思表示ともとれる。咲にOKの返事だけしといて帰ろうか。
「それで今日はどんな用で呼び出したんですか? 朝の件でしたらまた明日——は祝日だから明後日にでも反省文でもなんでも持ってきますんで今日のところは帰っていいですか? 急ぎの用事があるんです」
「それは出来ない。これは私としても急ぎの用事なんだ。本当だったら泣く泣く諦めていたところだが君の噂を耳にしてね、お願いすることにしたんだ」
会長はそう言いながら探していた本を引き抜くとそれを持って会長席へ向かった。そして会長席から新たに一冊の本を取って俺の元に向かってくる。思わず身構える。会長はそんな俺の前に二冊の本を並べて置くと、俺の向かい側のもう一つのソファーに座った。……これは前置きだけでも長くなりそうな予感だ。それに俺の噂ってなんだよ。どうせ三馬鹿関連なんだろうけどさ。ひとまず現在時刻を確認する。
4時50分か。映画が始まるのは5時30分だ。今ならまだ間に合う。
「すみません。本当に急いでるんで用件を先に言ってもらえます?」
「ふむ。その態度からして口先だけの言葉じゃないみたいだな。わかった。先に用件を伝えるとするよ」
「お願いします」
何を言い出すのか待っていると会長は俺が予想もしなかった行為に出た。むしろそれは俺が今この状況でどうしようもなかった時に使おうと思っていた必殺技である。
生徒会長、言峰来良は深々と俺に頭を下げた。それも俺の見ているこの角度からではテーブルに頭をつけているのではないかと思うほどに。
正直物凄く驚いている。昨日までは雲の上の存在だった人間。それが少しの会話とトラブルを通して彼女は確かに「すごい人間ではあるが確かに只の人間」であるという認識に変わった。さっきなんか近づいてくるだけで身構えてしまった、そんなすごい人間が俺に頭を下げている。それが俺には
たまらなく不快だった。
「顔を上げてください会長。僕は急いでいるんです。そんな姿見ても驚くだけで心が揺れたりしない」
「……すまない。今すぐ説明するから——」
「いえ、もう大体わかりましたから良いです。この二つの本『初心者のためのパソコン入門編2055』と『パソコントラブル解決法』を見るにパソコン関係のトラブルが起こった、もしくはパソコンに詳しい知識が必要な仕事が入ってきた、みたいなものでしょう? 俺は一年生の頃に作ったプレゼンで表彰されてる。それを知って俺に目を付けたんでしょう? 違いますか?」
「!! いや、違わない。全くもってその通りだ。葛木、君にも用事があるのかもしれない。しかしこの仕事は今日、今からやらないといけないんだ。生徒会のメンバーや各委員長も全員学校に残ってやる作業なんだ。そんな大人数でも終わらないのが昼に分かった。無理を承知で頼む。それと私は決して朝のことを引き出して君を脅迫のような形で頼もうとは思っていない。それでもどうか頼みたいんだ」
4時52分、そろそろ自転車に乗らないと危うい。俺はいつの間にかもう一度頭を下げていた会長に気づく。俺はLINEを開いていじった後に立ち上がった。それに気づいた会長は必死に俺を止めようとする。
「ま、待ってくれ!」
「……パソコンに詳しい人材が一人必用なんですね。それもとびきり詳しいのが。それなら問題ありません」
「どういうことだ?」
「冗談じゃなく俺よりも出来る奴がいるんですよ。コミニュケーションにやや問題ありといった感じですがそこは妥協してください。というかアイツだったら全部の仕事一人でやってのけるかもしれませんよ」
「聞いたことがないなそんな人物……一体誰なんだ?」
「椎名雄二、元天才の現デブのオタクですよ。俺のクラスへ行ってください。きっとまだいますから」
「では、失礼しました」
俺は会長に一礼して生徒会室を後にする。一瞬だけスマホを取り出して時刻を確認する。
4時54分、まだ間に合う。
俺はここに来た時と逆再生するようにして学校を出た。
× × ×
× × ×
× × ×
「雄二今どこにいる?」
「……なんだ創か。一ノ瀬氏かと思って期待したのに」
「トイレだお」
「悪かったな。それとスマンが俺の机にある数学の問題集取ってきてくれないか?」
「課題あるのに持って帰ってなかったんだよ」
「別にいいお」
「頼む」
× × ×
× × ×
× × ×
「頑張れよ雄二」
こんな最低なことをしてひどい気分なのも映画を見ればスッキリするのだろうか。いや、きっとなってはいけないのだろう。
他人を犠牲にして自分の都合を通したこと、その罪を忘れてしまうかもしれないからな。
夕暮れ前の空は若干赤みを帯びていて、その色と対照的にコンクリートの割れ目に咲いていた瑠璃色の花が印象的だった。
そうだ。これをトリガーにして思い出すようにしよう。ここは毎日通る道だ。
信号が青になるまでの間、俺はただずっと、瑠璃色の花を見つめていた。