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再生神機のアンダーワールド  作者: よよっち
episode1 日常
1/14

一話 運命は最初から一本道である

初めまして。今回初投稿となりましたよよっちです。これから定期的に投稿していきたいと思いますのでどんどん感想や評価をしてくれるとありがたいです! 初めての投稿故、おかしい点が幾つもあるかと思いますがどうぞよろしくお願いします。文字量は少しずつ増やしていきたいと思います

 いつの間にか膝が震えていた。そんなはずはないのに血が鼻の中にこびりついたような嫌な感覚が俺を襲う。


 三番目は死んだ。


 しかし目の前の敵は三番目なのだ、少なくともその『力』は


 壁、というのは語弊があるのかもしれない。そもそも壁というのは高さが決まっている。


 上限がある


 この化け物にはそれがまるで見えない。それもそうだ。俺たちの中で誰一人とて前の三番目の全てを知ることはできなかったのだ。


 灼熱の太陽が地面を枯らす。こんなにも暑いのに化け物の吐息は白い。


 やはりあれは三番目だ。しかし俺たちの知っている三番目ではない。


 そして、それは彼もであろう


 刹那——俺と化け物との距離が縮まった


「あとは頼んだぞ――――じ――」





 ×                 ×                ×



 竜見ヶ原市には何があるか、と聞かれた場合多くの学生は「山」と答えるだろう。もしくは自然が豊かだのそんな感じのニュアンスの言葉かもしれない。


 ならば竜見ヶ原には有名な山があるのかと言われてもそうでなないのである。


 唯一有名と言えるのか分からない竜見ヶ原の山と言えば数年前に世界遺産に登録されそうになってなれなかった大木がある山ぐらいだ。


 それなのに多くの学生が山や自然のイメージしか持ってないのは単に他の魅力が無いからである。


 過疎というわけでもないのだが……いや、実際に市長がなぜそれでも人口があまり減らないのか不思議に思っているレベルだ。


 そんな場所にあるこの舞ノ城高校には全校生徒1065もの生徒がいる。しかもそこそこ偏差値が高く、更に制服が良いと評判なので結構人気のある高校だ。


 しかしこれまた人気があるのはその部分だけかよって感じで部活動も剣道部が去年から成績を残していること以外特に突出した点がないのだ。


 簡単に言えば良くも悪くも「普通」なのである。この高校は


「はぁっくしょん! しまったな、マスク持ってくればよかっ、」


「は、は、はぁっくしょん!!」


「ちょ、(はじめ)! 左手の隙間から少し漏れてるから! 汚いって!」


 嫌な顔をしながらそう言うのは俺の幼馴染であり、今は落ちぶれてしまった元天才のデブ、椎名(しいな)雄二(ゆうじ)である。


 俺は胸ポケットから直接鼻の中に噴射するタイプの薬を取り出して両方の穴に一度づつ噴射する。


「最近花粉酷くないか? ついしっかり雄二の弁当にくしゃみを吹っ掛けるところだったぜ」


「そこはうっかりでしょ……」


「なぁ、なんでわざわざ俺たち外に出て食ってるんだ?」


「そりゃ俺が教室で食べるのが気まずいからだお」


「友達作れよ……まぁ、俺も用事とかあるわけじゃないからいいんだけどさ。でも今日みたいにマスク忘れたらやっぱりこの季節は俺にとってはツラい」


「友達いない奴に「友達作れ」って言ったらいけないって学校で習わなかったん?」


「道徳の時間にも習わなかったわ」


 そう言って俺は冷凍ハンバーグを口に入れる。旨い。いや、ほんとに最近の冷凍食品はすごいと思う。

 技術がここ数年で一気に進歩したと感じる。


 おかげもあって今では「レストラン? 冷凍食品の方がよくね?」と言えるほどである。


 俺だけだろうけど。


 でも実際レストランは彼女や友達とかと一緒に行って食べるのならなんというか雰囲気で楽しめるのだろうが、「いや、雰囲気だけだったら映画館とか行けばええやん」と思ってしまう。


 こんなにおいしい冷凍食品でも俺が弁当に多用しないのはすぐ使い切りたくないという理由の他に単純に料理が好きだというものがある。


「実は創に見てもらいたいモノがあるんだけど」


「ん? なんだ? 新しい冷凍食品か?」


「冷凍食品? 何でだお」


「あ、いやなんでもない」


 つい言葉に出てしまった。


「あ、うん。実は……」


 そう言って雄二はスマホを取り出して何やら操作をする。その操作が終わると俺に画面を見せてきた。


 メールの画面だ。


「なんだ雄二。もしかしてお前連絡先交換した人がいるのか? そりゃおめでとう」


「あんまり言いたくないんだけどそうじゃないお。この一番上のを開いてみてくれだお」


「どれどれ……?」


 一番新しいメールであろうものをタップする。


「動画か? これ」


 そのメールには本文やタイトル、更には送り主さえも分からないようになっていた。その代わりに動画が貼り付けてあった。


「見たのか? お前は」


「一応見たんだけどさ、なんか真っ黒でよくわからなかったんだよね」


「それどう見てもイタズラメールとかだろ。なんで俺が見なくちゃいけないんだよ」


「童顔おっとり系新人教師」


 ポチ、という擬音が聞こえてきたと錯覚してしまった。要するに俺は反射的にその動画を開いてしまった。


 雄二も卑怯だ。俺の好きなワードを並べやがって。


 そんなことを考えていると先ほどの雄二の言葉に反し、割とすぐに動画が再生された。


 何となく他人には見られてはいけないような気がして周りに少し目を配る。しかし、ここは外でありわざわざ人があまりこないところを食べる場所として選出しているのであって誰も居ないのは当然のことであった。


 こんな場所に昼休みという学生の一日の中でもかなり重視される時間に立ち寄る人間は不良かそれが悪さしてないか見回る風紀委員もしくは教師くらいだろう。


 それを確認し終えた俺は再び意識を動画へ向ける。


 まず最初に流れてきたのは砂嵐だった。今テレビでアナログの画面に切り替えると出てくるあの白黒の砂嵐である。


 家でやろうと思えばいつでもスイッチ一つで映し出すことが出来るのだがそんなことをしようと思うこともなく、実際に砂嵐をホラー映画や番組の演出以外で見たのは初めてである。


 だがその砂嵐も時間が経つにつれだんだんと少なくなっていき、映っているものが見えるようになってきた。


 それは人であった。顔や服装はよくわからないが確かに大人であった。ついでに言うと雰囲気が男性っぽい。


「…せい………か………おれは…」


 その男性が喋っているのか途切れ途切れの音声が聞こえてくる。もしかしたら違う人が喋っているのかもしれない。口の動きすらまともに見えないので判断のしようがない。


「ひっどいノイズだお」


「ああ」


「でも……おかしいな。俺の時はまず砂嵐すらも見えなかったお。それに音声だって……」


「静かに。何かまた聞こえる」


「あ、うん。ごめん」


「…いな……ぅじ…………おまえ…ガ…ガ…ガ……」


「ガガガガガガggggAAAAEEEEEE――――g」


 プツン


「あれ、動画終わった?」


 スマホの画面をタップすると、どうやら動画の尺はまだあるようだがシークバーを後の場所へ動かしても画面に変化が何ら起こらなかったので恐らくこれで終わりなのだろう。


「……どうやらイタズラメールみたいだな。そうじゃなかったらっていうロマンはあるが……」


「うん……でも俺が昨日見たときは何も映らなかったんだけどなぁ」


「寝ぼけてたんじゃないのか?」


「そうかもしれないけど……うーん。でもそんな露骨なメールなら直ぐ消すと思うんだけどなぁ」


「確かにな。でも何でお前はその「何も映らない動画」を俺に見せようとしたんだ?」


「え? 何となくだけど」


「なんだよ。そこに大事な情報があると思っていたんだけどな」


 その時、手に持った雄二のスマホの上画面に「ゲリライベント開催!」と書かれた通知が届いた。


 これは俺もやっているゲームの通知である。2年前にサービスが開始されて今や大人気ソシャゲとなっており、その初期勢でそこそこ課金しているちょいガチ勢の俺たちにとってはこういったゲリライベントの周回は欠かせない。


 そんなこんなで俺たちはさっきまでの不思議なメールの事はすっかり忘れてひたすらに周回に励むのであった。


「あ、パーティ選択間違えた。ってここ先制攻撃があるのn――――」



 二人しかいないこの場所で他にそういった悲痛な叫びを聞いたものはいない。


「ん? 悲鳴……?」


 そんなことはなかった



×                 ×                ×






「えー、この問題は」


 キーンコーンカーンコーン


「……はぁ。それでは続きはまた明日ね。しっかりと予習をしてくるように。委員長、号令を」


「はい」


 キリツ、アリガトウゴザイマシター


 シター


「……疲れた」

 五時間目の授業というのはやる気がでないものである。それは俺の得意教科である数学の授業であってもだ。


 まぁ、数学は点数が取れるだけであって数学の授業が好きなわけではないのだが。


 それでも計算した後の疲れが普通よりも出てくると感じる。もしも俺が先生だったら五時間目の後の休み時間は15分にしてくれって言うね。


 あれ、でも俺が先生だったらそこまで俺ら生徒側みたいに疲れないんじゃね? そんなことないのか?


 あー、考えていると頭痛くなってきた。もうこんなこと考えるのは止めて残り9分程度の休み時間を睡眠に使おう。


 俺は筆箱を枕替わりにして眠りにつこうとした。


「なんだなんだ皆疲れてよぉ、宇佐美ねえちんもなんだか元気なかったしよ」


 そう言って俺の背中を叩くのはクラスの道化コンビの一人(本人はムードメーカーと言っているが)の巴門(ともえかど)浜谷(はまや)だった。


 俺の隣の席で成績はあまり良くないが保体がすごくできる。良い奴ではあるのだがしょっちゅう何かやらかしては会議室に連れ込まれている。


 既に眠りに入ろうとしていた俺は巴門によって現実に引き戻された。イラっとして奴を睨む。


「……」


「皆もっとシャキッとしろってんだ。な! 創、お前もそう思わないか?」


「……この状況の俺にそう言うのかよ」


「大体お前は授業中に寝てばっかりだから体力使ってないんだよ。こうなっている人間は授業に真面目に取り組んでいる人間だけなんだ」


「お前なぁ、人間は寝ている時にも結構エネルギー使っているってコト知らねえのか? それに机で寝るのって家のベットで寝るのとは訳が違うんだ。体が少し痛くなる」


「なるほど。んじゃこれから俺は寝ることにエネルギーを使うからお前に構う分のエネルギーはないんだ。次の授業古文だし数学よりもっとエネルギー使うだろうしな」


 遠回しに向こうに行ってくれと言ってみる。


(ゆう)! 来いよ!」


「聞けよ。そしてなんで更に人を呼ぶんだ。寝たいって言ってるのに」


 遠回しだけど。


 巴門に呼ばれた人間は鎌田(かまた)(ゆう)。このクラスになって最初の席で俺の真後ろの席だった人間で俺が最初に友達になった人間だ。


 鎌田は呼ばれるや否や文字の如く跳んでやってきた。


 その際に色々な席にぶつかりながら来たので俺のように疲れ切って休んでいる人間がものすごく嫌な顔をした後に今度は俺の方を見てきた。


 まるで「やめろ」と言っているのかと思わせる目だった。ごめん、俺が直接悪いことしてるわけじゃないけどほんとごめん。


 俺じゃコイツらを止められない。


 鎌田に関しては巴門よりも運動神経がよく、帰宅部の癖に陸上部よりも足が速く、水泳部よりも泳ぎが速いとかいう天性の才能がある。


 そのオーバースペックの運動神経を使って巴門と一緒にいつも廊下を爆走している。


 その理由の4割が悪さをするため、5割が先生から逃亡するため、そして残りの1割は気分である。


 気分で廊下を走ってぶつかったりして迷惑をかけた人間に俺が代わりに謝った回数はとうに20を超えていあれ、おかしいなまだ同じクラスになってそこまで時間経ってないはずなのに。


 俺が謝りすぎて一部の人間から俺も問題児だと思われているらしい。ちなみにこの情報は巴門の口から聞いた。聞いた時は思わず殴りそうになったね。


 昼休みに教室にいたくない理由の一つがコイツらだったりもする。


 まぁ、実際に面白いし一緒にいて楽しいから良いんだけど時と場合を考えてほしい。


「なんだなんだ? もしかして創も皆と同じ「エネルギー切れ」って奴か? 体力ねえな」


「痛い痛い! お前ら人を叩きながら喋るんじゃねえ!」


「まったく、同じ三馬鹿の一人として恥ずかしい限りだぜ。なぁ! 浜谷!」


「おい、その三馬鹿の一人に俺を入れるんじゃない」


「ほんとだぜ悠。ほら、元気だせよ創」


「そんなこと言われてもな……疲れってもんはどうしようもないんだよ。まず俺はお前らみたいに体力馬鹿じゃないし」


「いつもアニメばっか見てるからそうなるんだよ」


 ぐっ! 痛いところを突かれた。突かれて、疲れた。……だめだ。調子でない。


「浜谷、こうなったら創が元気でるような話をしてやろうぜ」


「悠、もしかしてあの話か?」


「いや、俺のことはいいからとりあえず一人で休ませてくれ」


「言峰会長のバストのサイズが判明した」


「詳しく教えてくれ」


 意識するよりも先に視点が一気に変わっていた。横向きだった世界が正常な向きへ戻ったのだ。


「うぉっと、やっぱり食らいついてきたな」


「やっぱりお前も『三馬鹿』ってことだな」


「前置きはいい。さっさと話してくれ」


「お前見た目に反して意外とムッツリだよな……」


 何を言うんだ。そんなことあるわけないじゃないか。普通だよ普通。


 そう思いながらも俺の意識ははっきりと覚醒しており、特に聴覚はいつもより調子がいいかもしれないと思うほどだ。


 どれくらいすごいかって言われたら俺の斜め後ろの女子の風紀委員のため息が鮮明に聴こえたほどである。


 どのくらい待っただろうか。時間にして10数秒だろう。「いや、案外短いなおい」というツッコミは置いといて巴門がようやく例の話をし始める。


「これはSF商会からの情報なんだがな。なんと言峰ことみね会長のサイズは――」


 わぁお


 それを聞いた時ふと、小さい頃おじいちゃんと一緒に食べた夕張メロンが頭に浮かびました、まる


 ×         ×                 ×


 舞ノ城高校の近くには坂が多い。よって多くの生徒は登下校の際にいくつかの坂を上ったり下ったりしなければいけない。


 その中でも坂を上るだけだったり、逆に下るだけだったりする人間はまだ楽な方だ。それ以外の大多数の人間は「せっかく坂を上ったのに今度は下らないといけない」というなんとも面倒くさいことになっている。


 坂道に疲れてバテている女の子に声を掛けたり新品のタオル貸して数日後に綺麗に洗われたそのタオルをお礼と共に返してもらってそこから始まるラブストーリーなんか妄想していた時期も俺にはあったのだが、そんな妄想は外見からオタク臭が溢れ出ている雄二コイツといっしょに登下校してる時点で叶うわけないとすぐに気付いた。


 思えば俺は恋というものをしたことが一度もない。毎日を適当に過ごしていたらいつの間にかこうなってしまった。


 一度「あれ? この子もしかして俺のこと好きなんじゃね?」と思ったことはあったがそう思った途端に

 なんだか怖くなってその子と距離を置いてしまった。


 ちなみにそう思った次の日にその子は違う男の子と付き合っていたので焦って前述のことを本人に言わなくて、もしくは告白しなくて本当に正解だった。


 もしそんなこと言ってしまってたら次の日から周りに対する俺の評価がどうなってたかわかりやしない。


 ただでさえ去年まで自分で言うのもなんだが暗い性格だったのに雄二レベルまでになるところだった。


「そんな顔して俺のことをみるな! だお」


 汗で制服が若干透けた雄二がそう言う。おっと、顔に出てたか。って、俺どんな顔してたんだ?


 ただ今俺たちは下校中であり、二度目の上り坂の途中である。一度目の上り坂で元から雀の涙ほどの体力を使い切った雄二に合わせて自転車を降りて押しながら上っている。


 押しているのに若干息切れしているのはどうにかならないのかと思うが、前に雄二のバッグを持った時に一体何が中に入っているんだと思うほどに重かったのでしょうがない部分もあるのだろう。


 ちなみにその時に中身を見ようとした時にすごい剣幕で止められたのですごく気になっている。


 ……よし。そんな隣で疲れている幼馴染を巴門理論で元気づけようじゃないか。


「なぁ、雄二聞いたか? 例の噂」


「例の噂? 何の?」


「生徒会長の胸囲バストが判明したってやつよ」


「……何それ! 初耳だお!」


 やはり相当疲れているのか少し間があった。しかしいいぞ食いついた。しかしこのまま言うのもなんだな。


 ここではしゃいで最後の上り坂の前で休憩を挟まなくてはいけないことになっては少し面倒だ。


 次のゲリライベントが始まる前に帰りたいからな。……よし、興味だけ引かせて中身を言うのは次の下り坂の途中でいいか。


「次の下り坂で教えてやるよ」


「……うん」


 元気ないな


 ×         ×                 ×


 やっと第二の上り坂を上り終え、間髪入れずに二番目にして最後の下り坂の前まで来た。俺も雄二も自転車にまたがり準備は万端だ。


 信号が青になった瞬間に俺たちは下り坂へ進んだ。瞬く間にスピードが上がっていく。


 トップスピードで会話するのは危険なのでブレーキを掛けながら話すことにした。


「よし、んじゃ話すぞ。驚いてスリップするなよ? 俺も巻き込まれるだろうからな」


「大丈夫だお」


「まぁ、俺も今日聞いた話なんだけどな。SF商会からの情報らしいから信用できると思うぞ。とは言っても俺が直接SF商会から情報を買ったわけじゃないんだが」


「でも間違った情報を拡散する人も少ないと思うお。ただでさえ噂を大きくしないようにして会長本人に見つからないようにしてるからね」


「確かに本人に変な噂を流していることがバレたらキツいな……」


「『美人が怒ると怖い』を現実で再現してる人だからね……会長は」


「だからお前も他人に話すときは気をつけろよ……ってお前は他に言う人がいなかったな。スマン」


「言わなくてもいいことを言わないでほしいお!」


「悪かった。……さて、前置きはいいとしてさっさと話すか」


「ほんとに余計な前置きだったお」


「会長のバストサイズは――ぇ――ぅd――」


 俺の宣言を待ってたかのようにドクターヘリが近くの割と大型の病院の屋上で起動した。その騒音にかき消されて俺の声が上手く雄二に届かなかった。


「えー? なんだって?」


 今度は前から吹き込んでくる空気を大きく吸って腹に力を込めて言った。


「エ・フ・カ・ッ・プだぁぁぁ!」


「まじかー。あの人着やせするタイプだったンゴねぇ……」


 雄二の声は普通に俺に聞こえるのだが何で俺はここまでしなきゃいけないのだろう。雄二の透き通った声というのは時に理不尽だ。


 俗に言うイケボに分類されるであろう。彼が昔のままの体系で眼鏡を外したらただのハイスペックイケメンであっただろうに。


 いや、それじゃ俺が相対的に不細工に見えるからやめてほしいな。え? 元から不細工だって? ……泣くよ?


 自虐はそこまでとして、会長はそんなグラマラスな体系なのにも関らず50m走のタイムが7.5秒らしいからな。下手したら男子より速いし、陸上部の女子もあの人より速いひとはいないんじゃないか? うやったらあんな錘抱えなが らそんなに速く走れるのかねえ……。


 雄二は確か前9.1秒って言ってた気がする。


 つい、「もうちょっと頑張りなさいよ男子ー」と裏声で言いたくなる。この場合は男子というか雄二なんだけど。


「ん? あれは……?」


 遠くに見覚えのある女の人の影が見えた。えっと、確かあれって――


「あの女の人って――!」


「あの女の人が――?」


 よしよし、ちゃんと聞こえているな。それに俺は続けて言う。


「言峰先輩じゃない――?」


「な――んて――言った――?」


 あれ? さっきと変わらないくらい大きな声で言ったと思うんだが……まぁいいか。


「だーかーらー、実はFカップだった言峰先輩じゃない――!!?」


 今度はもっと大声で言ってやった。流石に聞こえたよな?


「聞ーこーえーなーいー」


 は?


「もっとおーきな声でおねがいー」


 なんで俺はお前の言っていることが全部聞き取れてるのに俺の言葉は聞こえないんだよ。


 そんなに俺の声が小さいのか? 段々イラついてきた俺は大きく息を吸って腹から叫んだ。


「だーかーらー!!!!」


 通行人の何人かがこちらを振り向いてきた。よし、これなら伝わるはずだ。


「実は着やせしていただけでFカップの隠れ巨乳だった俺らのハイスペック美人生徒会長ッッ!!!!」


 例の女の人が振り返る。心なしか顔が少し赤くなっている。


 だが、それに構わず俺は言葉を続ける。


「言峰来良先輩じゃないかって聞いてるんだよッ!!!!」


「あー、確かにそうだね……」


 おお! 伝わった! やっぱり聞こえんじゃねえか。でもなんでそんなに歯切れが悪いんだ? 

 まぁ、どうでもいいか。なんかスッキリしたな――。


「止まりなさい」


 なんか聞こえる。


 なんだろうこの威圧感。誰に向けて言ってるんだろうか。これだけの威圧感をもって言葉を発せるのは言峰先輩くらいだ。やっぱあの女の人は言峰先輩だったのか――、って。


 遠くにいた女の人との距離は詰まっており、俺の15mほど先に言峰先輩が通せんぼをするように立っていた。


 ということは先ほどの「止まりなさい」は俺か雄二へ向けて放った言葉だということだ。あれ?

 でも今回は雄二は何かやらかしたわけでもないし、俺も何かやったわけでは――。


「あ」


 やっちまった――。俺は今この人にさっき俺が言った言葉を聞かれたんだ。


 まぁ、こんな道端で巨乳やら本名を言われたら誰でも怒るわな。


 俺はブレーキを強く握り、止まる。すると俺のところにゆっくりと言峰先輩が歩いてくるのが見える。


 その際に言峰先輩が放ってたオーラは今まで見てきた中で最大のものであり、顔が整っているのもあって、耐えよう難い恐怖感があった。


 集会や校内イベントで会長が喋る時に話の内容よりも容姿に注目してたのでその変化が良く分かった。

 硬直してる俺の横を雄二がすーっと通り抜ける。


 その際に「グッドラック」と言ってきた。そう言われてもなぁ……。


 ふと思った。


 てか、あいつが何度も聞き返さなければ、こんなことになってなくね?


「あ、逃げた」


「ちょっと来い。なに、今は暴力は振るわないつもりだから安心しろ」


「……はい」


 目立った外傷は残さないという意味かな?


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